うちのポケモンがなんかおかしいんだが   作:右肘に違和感

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52話 その罪

 

 

「……こちらA隊。入り口周辺異常なし、オーバー」

 

朝日も顔を出したばかりのそんな時刻、  の入り口周辺に怪しい奴が一人。

その怪しい奴の名前はタツヤというらしい。誰でしょうね。

 

現在時刻、04:00位、(すーぱー)朝っぱらです。オコサマはまだ寝てろという時間。

お子様なはずの俺は今起きて  の外で御座います。

そして受付の人に借りたタッパに飯を入れて、一人修行場に向かいます。

 

 

もちろん内容はドレディアさんの餌付け……いや。

殴られるの怖いから飯で懐柔……本音過ぎるな……。

忘れていたお詫び……元から食えたもんだよなぁ。

愛してる……だめだ、俺の嫁はサーナイトだ。

 

 

まあ、どうでもいいや。とりあえず飯食わせに行く。

なんでこんな朝っぱらに一人かってか?

 

 

 

忘れてたなんて言うの恥ずかしいやん///

そういうわけで全員おねんねしているこの時間にこっそりと、と言う事だ。

では参ろうか諸君。極秘ミッションの開始だ。

 

 

 

「……っは、……はぁッ、う、ぐ……」

 

そんなこんなでドレディアさんを吊るした修行場へ向かっているのだが

子供の足では郊外の森の踏破はきつかった。早くも挫折しそうである。

 

こういう時はチャリ欲しくなるよなー。でもこの世界100万とかふざけた値段だから買えない。

いつかあの店は燃やしてやるかフーちゃんに永久凍土化させようと思っている。

ダナゲキの最終テストにあの店の破壊を任すのも良いかな。

そんで、1個チャリ持ってこさせて免許皆伝、みたいな。

やべえこれロケット団も真っ青な犯罪組織じゃんか。

 

あーダグONEだけでも起こしてくればよかった。

あいつ基本鳴かないしとても便利なヤツなのだ。キモいけど。

 

 

「やーれやれ……ったく、楽を覚えっと碌な事ねえなぁ」

 

 

これから少しずつでも歩いてリハビリしようかなぁ。

こんなんじゃダメだよな、人間常に進化していかねば。

 

「っとー。そろそろ修行場か……」

 

ドレディアさんはどーなってっかねぇ、っと。

目ぇ血走らせて俺に恨みしてこなきゃいいけど。

やめて!! プレッシャーで俺のPPはもうゼロよ!!

 

 

そして到着……開けた場所へと辿り付く。

ドレディアさんが作った木の無残な残骸と、ダゲキが頭から犬神家した跡が生々しい。

薄暗くて見えづらいが、確かもうちょっと先の……森に近い部分に───

 

 

「あ」

 

 

ドレディアさんが居た。

俺が吊るしたのと同じような状況であり、誰かに手を付けられた様子も無い。

そしてドレディアさんは眠っているのか眠っていないのかすらわからない。

 

 

何故なら。

 

 

なんか燃え尽きてたからだ。超真っ白だわ、あしたのジョーのホセ戦後だろこれ。

顔にも何やら影が出来ている。劇画タッチwwww

 

って、笑ってる場合じゃない。

ちょっとやりすぎたかもしれない。主に忘れて帰った辺りが。

 

 

「おーい、ドレディアさん生きてっかー」

「─────。」

 

へんじが ない。

ただの ドレディア のようだ……

 

どうやら寝ているか気を失っているかのどちらからしい。

まあしばらく放置しちまったし腹も減ってるだろうから

それらを紛らわせるために明らかに寝ているんだろうけど。

 

ま、しゃあないな……大人しいうちに降ろしておいてあげよう。

この様子なら反省もしただろうし。

 

 ・

  ・

   ・

    ・

   ・∀・

    ・

   ・

  ・

 ・

 

ってわけで……ロープを固定していた杭を抜き、そーっと縄を伸ばしてドレディアさんを着陸させた。

ついでに下ろしたドレディアさんの傍に行って縄を解いておく。

どうやらまだ燃え尽きているようなので、一旦置いていたタッパを持って再度近づいていく。

 

「ほーら、ドレディアさんの好きなご飯だよー★」

 

そうして、来る前に温めておいたタッパの蓋を外し、ドレディアさんの前に差し出す。

 

 

んでいつも通り彼女はそれで起き上がって

 

 

 

 

 

 

 

 

こない。

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

おかしいな……飯大好きなドレディアさんがこれで反応しないわけも無いと思うのだが。

 

これ、白いけど……まさか……

 

 

枯れてる……?!

 

 

「ちょ、一大事かもしかして?! おいドレディアさん、大丈夫か? 起きろッ!」

 

『寝ている』と『気絶』によるorでの、まさかの後者だった。

吊るされてて気絶とかどういうことなの……

 

俺はやさしくドレディアさんをゆすった。

それでも起きないようなので頬をぺちぺちと叩き、ようやく反応をもらえる。

 

「…レ……ァ……。」

「よ、よかった、ちゃんと起きてくれたか……。」

 

起きてくれたはいいのだが……なにか様子がおかしい。

白い時点ですでに何かがおかしいのは間違いないのだが……それに加えて物凄く目が虚ろだ。

これは一体……どうしたのだろうか?

 

「ほらドレディアさん、ご飯持って来たよ。

 まだおいしいはずだから、食べていいよ?」

「…………ァ。」

 

んんん……?! ご飯に全く反応を示さない……だと!?

 

「どうしたんだドレディアさん……なんでそんなに虚ろな目してるんだ……!?」

「ディ……ァ……。」

 

日頃と全く違う彼女の様子に、俺は流石に不安になって顔を覗き込む。

 

彼女の目から意思を汲み取り

 

 

 

俺は思わず固まってしまった。

 

 

 

彼女の瞳は確かに、俺に伝えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【捨てないで】 と。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ……」

 

───まずい、やってしまった。

俺は、『絶対にやってはいけない事』のひとつを……やってしまっていた。

 

日頃からお互いにチャラけてコミュニケーションを取っていたが故に

普段の様子からあまりにも想像が付かない大チョンボをやらかしていたのだ。

 

 

 

たとえ怒る理由があったにしても、体の自由を奪い……あまつさえそこに放置して立ち去り

忘れていたという理由で長時間人の通るような場所でもないココに置き去りにしたまま

全員を引き連れて、帰って行く。

 

誰がどう考えても、ドレディアさんのトレーナーを辞したとしか見えない。

 

 

「ド、ドレディアさん……違うよ、違うんだ。

 捨てたわけじゃないんだよ? 大丈夫だから、ね?」

「…………ィ……ァ……」

 

 

【一人にしないで】

 

俺の目を見て意思を伝えた後、ドレディアさんは未だ白いまま涙を流し始める。 

そして俺は今回自分がやった行動を(かんが)みて、何も言えなくなってしまう。

 

駄目だ……これは、これだけは。

 

気楽にやっていいことじゃない。

 

「…………」

「ディ……。」

 

【私は───要らない子なの?】

 

その目から流れ続けてくる懇願の感情に、自分が激しく動揺してしまっているのがわかる。

こんな風に見つめられて、俺はどう言えばいいのか……ただ否定するだけではこの問題は終わらない。

 

これは……そんな気軽に、気楽に片付けて良い問題じゃない。

 

どうすれば……どうすればいい、どうすれば良かったんだ。

 

 

ああ……、やばい、頭がとてもぐるぐるしてきた。

何をどうすればいいのだろう、どこから訂正すればいいのだろう。

 

「ぁ……、あ……」

 

何か言おうとしても、言葉が口から出てきてくれない。

頭に浮かぶ言葉は言い訳にしかならないようなチンケな言葉ばかりしか出てこない。

その程度の言葉で許されて良い問題じゃないんだ。

 

何から言えばいいのか、口にしなければならないのに口に出来ないもどかしさが続く。

 

 

「───……ドレディアさん」

「─────」

 

真っ直ぐに、白いドレディアさんに見抜かれる。

 

そして俺は───

 

 

ドレディアさんをそっと抱きしめた。

 

 

これが正しいかどうかはわからないが、口に出来ない言葉を考え

その空気を持続させてしまうよりは、絶対に間違っていないはず。

 

 

今は、こんな事しか出来ないが───これが……俺の精いっぱいの、謝罪だ。

 

 

「すまない……」

「…………。」

 

静かに静かに、俺は喋る。

 

「本当に、すまなかった……」

「…………。」

 

何に対して悪かったと、そんな簡単な事すら言えない……。

だが……今回俺がやった対応は、あまりにも稚拙で粗雑で。

 

そんな一言しか発する事が出来なかった。

 

「本当に、俺が悪かった……許して欲しい。

 ドレディアさんは要らない子なんかじゃない……とっても大切な───俺の『仲間』だ……」

「…………。」

「殴ったって良い、投げ飛ばしたって構わない。

 ドレディアさん……本当に、ごめん」

 

不細工にしかまとまってくれない謝罪を、俺は繰り返してしまう。

 

 

今思い返してみれば、あいつの背負っていた境遇に同情し

ヒンバスでありミロカロスであるあいつを、特別視していた事も否定出来ない。

 

あいつだから、あんな身だから必要とされてない───と。

 

だから俺はあいつの前では声高らかに

「仲間」だの「大切なパーティーの一員だ」と繰り返し述べていた。

それは唯の、安い同情でしかなかったのかもしれない。

 

 

でも……                                   (ダグトリオはともかくとして)

一番付き合いが長いドレディアさんに対して、そう言う事は一切言っていなかった。

 

少し考えれば気付ける事だったはずなのだ。

彼女は───研究所に『預けられた』。研究所で『生まれた』わけではないのだ。

 

ドレディアさんが生まれた場所から引き離され、研究所で過ごしていた中でも

異常で手に負えないという理由から隔離され、周りは見知らぬ研究者が歩くばかり。

 

そんな事すら、少し考えればいくらでも予想出来る状況に居た俺が

あろう事か全てをスルーして、考えに行き着く事すら拒絶していた。

 

その彼女にとって、今回受けた仕打ちはどれだけの苦行だったのか。

人に絶望して、俺がそこから引っ張り出して───さらに絶望を加え。

無意識といえど、これは殺されても文句が言えない鬼の所業だ。

 

 

前の世界の人生で、俺自身良くわかっていた言葉なはずなのに。

言われなきゃ、わからない事なのに。

 

 

 

 

─────想いは、正しく伝わらない。

 

 

 

 

同じ人間同士ですら、分かり合える事など無かったのに。

言葉にしなければ、全てを伝える事など出来るわけが無いのに。

俺はずっと彼女に対して───『それ』を怠っていたのだ。

 

「ドレディアさん、君は一人じゃない……

 俺が俺である限り、ずっと大切な相棒であり───『友達』だ」

「……ァ……ァァ……」

 

謝りながら、伝える。とても不恰好に映る事だろう。

今更伝えるものでもない、もっと普段から伝えていなければならなかった事だ。

 

だから、ドレディアさんを傷つけてしまった。

既に遅いかもしれないが、俺は謝る以外に何も出来る事が無い。

 

 

そして

 

 

ドレディアさんは

 

 

 

 

 

 

「ァァ……ァ……ァァー……!!

 ァァァァァーーーーーーー…………!」

 

 

 

 

───声を上げて、泣き出してしまった。

 

 

 

 

そんなドレディアさんを、俺はそっと抱き締め続ける。

俺が知らない彼女が抱えていた孤独な部分を、少しでも一緒に背負えるように。

 

 

 

ドレディアさんは───ずっと、泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

「でもこれは酷いと思うんだ」

「……#」

 

ドレディアさんが泣き止んで、持ってきたご飯を食べさせたら色が戻ってくれた。

いつも通りの緑の姫君な色合いである……本当に、良かった。

 

 

ンで戻った、よかったねと声を掛けたと同時にがんめんパンチを食らった。

威力が普段の二倍は出ていた気がする。顔面が陥没して前が見えねぇ。

 

 

「ま……すまなかった。本当に、悪かった」  ポンッ

「……ッ?!」

 

俺が謝罪を述べると、ドレディアさんがドン引きして後ずさりをする。

ちくしょー俺が誠心誠意を持って謝るのがそんなに───って、ん?

 

目を見る限り、なんかドン引きしてる内容がちょっと違うっぽいぞ?

なになに……ふむふむ。

【お、お前バケモノだったのかっ?! 顔が一瞬で戻るとかありえねぇッ!】

とな?

 

失礼な。ただの転生者だ。

 

 

「うん、とりあえずな」

「ディァ」

「人、いなくてよかったね」

「ッ…………!? ~~~///」

 

せっかくなのでちょっとした意趣返しをしてみたところ

ドレディアさんはその白い顔を即座に真っ赤にさせて、顔に手を当て屈み込んでしまった。

 

まぁ、あんな泣き姿を見られるのは彼女の本意でもなかろう。

PT内じゃ姐御な立ち位置だし、事実言われて白い顔どころか緑の部分まで真っ赤である。

 

確か、前世でやってたネトゲのROから派生してた『印象に残ったスレ』でも

ギルド内部の姐御肌なローグが、狩り中にペットのスポアに話しかけながら狩ってて

隠れて会話を記録してたヤツPvに強制召還して、ボコったって話もあったぐらいだしな。

 

アレは見られてはいけないシーンだろう。

そしてそんなシーンを作り出してしまった俺は、酷い奴であり──果報者なんだろう。

 

「さ、朝飯もこれから作らなきゃならない。  に戻ろっか!」

「ディッ!!」

 

そして俺らは立ち上がり歩き出す。輝く朝日の中、本拠地に戻っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

お互いに、一人じゃないと主張し合う様に、手を繋ぎながら。

 

 

 

 






にじファン掲載時より改稿しまくってます。
かなり気合入れたが、逆に滑ってるかもわからんが……

この話はにじファン掲載時においてもミロカロスに匹敵する良さだったようです。
感想数もいきなりズドンと来てたし。あれは帰ってきてびっくりしたわ。

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