うちのポケモンがなんかおかしいんだが   作:右肘に違和感

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2話 やめて

 

 

さすがにこんな子が待っているとは思わず、結構動揺してしまった。

しかしこの場で俺が固まっていても、話が一向に進まないため

とりあえず意を決して、話しかけてみる事にした。

 

 

 

 

 

 

「博士」

 

 

 

 

 

 

博士に。

 

 

 

 

「(バタン)どうかしたかのぅ?」

 

おい。

ドア閉めんな。おい。

 

「いやぁ、この子がこの研究所に来て3週間ぐらいなんじゃがの。

 既に6,7発ぶん殴られとってのう。痛いのは出来れば避けたいんじゃよ」

「この子殴んの?!」

 

あんた何気に俺を生贄か厄介払いに使おうとしてないか!?

 

「苦労を知らんなら苦労ではない、じゃろ~?ハッハッハッハ……」

「いや確かにそうですけど。

 殴られて痛いのは苦労とかそういう問題じゃないと思います。

 訴えますよ?訴えて勝ちますよ?」

「本当どっから覚えて来てるんじゃその知識は」

 

しかし使えない博士は置いておくにしても、今の問題は

とにかくこのヤンキーなドレディア……ドレディアさんだ。

もしかしたら博士の事が生理的に嫌いなだけかもだし、まずは話してみて─────

 

「ッ!?」

「ァア゛?」

 

なんとドレディアさんは最初に居た位置、部屋のちょっと入った位置から

いつの間にか入り口に近い場所に居る俺の目の前に来ていた。

そして相変わらずのしかめっ面である。

これ完全にメンチ切ってるよね?色んな意味で心臓に悪い。

 

「え、えーと……」

「…………。」

 

やっべーこのドレディアさんめっちゃ怖い。

殴る気配こそまだ無いけどヘタに動いたら速攻で手が飛んできそうな雰囲気が……

しかし怖がっているだけでは彼女に対して失礼だろう。

今こそ30歳児の実力を発揮する時だ。多分。きっと。そうだといいな。

 

「こ、こんにちわ~……?」

「…………ディ。」

 

……おお!?これはコミュニケーション成功か!?

ちゃんと一言だけだけど挨拶返したぞ!!

この調子でなんとかコミュを繋げて、理解を─────

 

カチャ

 

「タ、タツヤ君、まだ殴られ─────」

 

ゴッシャァッ!!!

 

「へぶおぉおっっ!?」

 

凄い勢いでドレディアさんからパンチが繰り出され、顔に吸い込まれた。

 

 

 

 

 

もちろん博士に。

 

 

 

 

……ってかちょっと待って!!なんなのこの子怖い!!

博士がこっちに開けたドア、人の手が通るか通らないか位しかないぞ!?

なんで全速力で振り抜いてバッチリ博士の顔捉えてんの!?

 

ドレディアさんはさらに博士に殴りかかろうと

俺を追い越し扉に強引に押し迫った。

 

「ちょっ……ちょっ!!駄目だよッ!!ドレディア……さんッ!!

 確かに気に食わないんだろうけどそれは駄目ッ!!

 博士一応責任者なんだから、ドレディアさん下手したら処分されちゃうよ!?」

 

 

「……ッ!」

 

 

あわてて抱きとめ、説得を試みたところ何とか踏み留まってくれた。

 

「いや、前から殴られてるっつってたし

 これ位じゃ処分とまではいかないかもだけど……!

 そんな簡単に殴り飛ばしちゃ駄目だよ!

 他の人は殴られて見逃すほど優しくないかもしれないんだから!」

 

 

「ディ……。」

 

彼女さえ納得したら、俺と一緒に研究所の外に出る事は間違いない。

気に入らないという理由だけで誰彼構わず殴り飛ばしていたらさすがに連れ歩けない。

 

 

 

「ぐ、ぶ……、タ……タちゅヤ君……

 大丈夫、きゃね……?」

「いやもう博士が大丈夫じゃないでしょ。

 一体どれだけ嫌われてたんですか……。」

 

声からして明らかに鼻を押さえているのがわかる。

下手したら鼻血も駄々漏れ状態なのだろう。

それほどにドレディアさんの渾身の一撃は、綺麗に博士の顔に入っていた。

 

だが、とりあえず俺だけでも少し冷静になってみよう。

部屋に入ってから今までを考える限り、ドレディアさんは

博士に関してだけは間違いなく敵視している。理由こそわからんが。

 

しかし俺に対してはどうだろう?

部屋に入ってきた時には値踏みはされていたと思う。

実際すぐに全体をジロジロ見られていたみたいだし。

だけども俺は、まだこの子には殴られていない。

会話もちゃんと耳に届いていた、ような気がする。踏み留まってたし。

 

 

「……博士、ちょっとしばらく別の部屋に居てもらえませんか?」

「しょ、しょれで平気なのきゃね……」

「彼女と少し話してみます。

 幸い俺は博士よりは嫌われてないみたいなので」

「……わきゃった、わしゃラボに引っ込むかりゃの。

 話がちゅいたらそちらに来てくりぇ……」

 

そういって気配が遠ざかっていくのがわかった。

ドレディアさんに視線を移すと、彼女の横顔から

「ッチ……次は殺ス。」という感じの目線をドア越しに送っているのが見て取れた。

 

うん、怖い。

怖いけど、何とかしないと。

前世で、凶暴なペットの行く末を知っているだけあって

絶対に彼女をこのままにするわけにはいかない。

ロケット団なんて犯罪組織が普通に居る位なのだ、どれだけ世界が違っても

人間の汚さなんて根本的には同じだろう、使えないと思われたら見捨てられるのだ。

 

だから、彼女はこのままには出来ない。

 

「ねぇ、ドレディアさん」

「…………」

 

なんだ、と言いたげな感じで。目線をドアから俺の顔に目線を移してくる。

 

「君に、さ。何があったか俺にはわからないよ。

 同情はしないし勘ぐりも出来ればやりたくない」

「…………」

「だから俺の質問にひとつひとつ、答えてくれないかな?

 嫌な事は答えなくていいし、俺もそういう質問の聴き方はしないから」

「………ディ。」

 

トン。

俺は彼女に軽く押された。

そしてドレディアさんとほんの少しだけ距離が離れ、

離れた後に彼女はどっかりと座った(ように見えた。足が見えないからよくわからん)。

多分聴いてやる、と言っているのだろう。拒否なら全力で殴られてんだろうしな。

 

「じゃぁ……えーと。博士の事は嫌いなんだね?」

「(コクン)」

「今あったばっかだけど、俺の事は嫌い?」

「(フルフル)」

「ふむふむ、じゃあ……君はここに居続けるつもりなのか?」

「(フルフル)」

「そっか、まあそうだよね。

 じゃあ、ならさ─────

 

 

─────俺と一緒に、ここから出るのは嫌かい?」

 

 

ドレディアさんは、俺の顔を見上げる。

多分この子は人ではないながらも人の機微に関して聡いのだろう。

俺が怖がっているのもしっかりわかっているのだ。

それに今なら良く見ずともわかる。

彼女の顔には、怒りの象徴とも取れる険が現れていない。

 

────だからこそ。

彼女の顔から言いたい事が見て取れる。

 

 

 

わたしがこわくないのか?と。

 

 

 

だからこそ、俺も本音でぶつかろう。

 

「……言わなくても、わかってるんだよね?

 怖いさ、あんな動きされちゃ……怖いに決まってる」

「……ッ」

「でも、逆もなんだと思うんだよ、俺は」

「……?……?」

 

つまりは、だ……

 

 

 

「───君も『人間が怖い』んだろ、きっと」

 

 

「───────。」

 

 

 

多分そのはずなのだ。

彼女の行動は正直な話、俺から見たらであるが。

前世に居た猫の、威嚇行動と大差ないのだ。

 

「詭弁なんだろうけど、どっちも怖いってんならさ。

 怖いってお互いに思ってるなら、立場だって同じなんだ。

 だったらここで互いに警戒しあってるより────

 一緒に行動したら、また互いの気持ちも変わるかもしれない。

 どうかな?

 

 

 ─── 一緒にさ、外に出てみない?」

 

 

 

我ながら非常に恥ずかしい発言である。なんだこれ。

今この場でなかったら布団に包まってバタバタしてしまいそうだ。

現にドレディアさんは俯いてしまって────────んむ?

 

 

顔こそ伏せてしまったが……

────────彼女は、自分の手をおずおずと自分に差し出してきた。

 

 

俺に、手を、差し出した。

 

それが、きっと彼女の答えなのだろう。

 

 

 

 

「これ、お姫様願望?私をここから連れ出して的な?」

「────────────!!レーディーーアァァァアッッ!!」

「え、ちょ待べふっ!?」

 

最後に冗談を述べて見たら見事に平手で顎を打ち抜かれた。

人体の構成上仕方なく、立つバランスを崩しながら倒れてしまう。

ォゥドレディアさん、アナタ世界狙えるヨ……

 

 

────────最後に見れたドレディアさんの横顔は、心持ち笑顔だった気がした。

 

 




こんなドレディアが居てもいいじゃない。

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