うちのポケモンがなんかおかしいんだが   作:右肘に違和感

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21話 野戦3

 

 

「─────いっ! おーい、起きろぉっ! 賞金よこせ賞金ー!!」

「ぉーぃ、タツヤ君ー。ここ草ッ原なんだよー。襲われるよー」

 

……。

るっせぇな……。

寝かせろ……気持ちいいんだよ……。

 

「おい、起きろって言ってんだろッッ!! いい加減に起き────」

「───ッせぇーーやんならぁあぁぁああああッッ!!!!」

 

俺はもう勘で、音がする方に全力で右足を振りかぶった。

 

ボギャゥ

 

「ひぎょぇぁーっ?!」

「トゥルトゥル!?」

 

悲鳴の後に、なんか「かひゅー、かひゅー……」と声が聞こえるが

さっきより静かになったので俺の意識は再び闇の世界に

 

「まーたどこ蹴ってるのよ。前のディグダみたいに痛がってんじゃないのよ、彼」

 

そして頭に冷たい何かが、ずぢょぢょぢょぢょと降りかかる。

 

「ァァァァァァ!! なん、なんぞっ?! ここはどこ? 俺は俺?

 ッは?! しもんきん!! しもんきんじゃないかっ!!」

「やっと起きたわねぇ。彼あんなんになっちゃったわよ?」

「しもんきんじゃねぇのッ!? って、へ?」

 

どうやら俺は頭に水(in水筒)をジョボジョボぶっ掛けられたらしい。

寝耳に水とはまさにこのこと、やばいわこれは……誰でも意識が覚醒する。

濡れた頭をもッさんが指差した方へ向けると……それこそまさにさっきまでのディグダ状態としか言えない

スリープにずつきを使わせてた短パン小僧が居たのだ。居たのだが……誰だこれ。

 

「あー、大丈夫? あと君、誰?」

「ぉ───ーーー──ァ……!」

 

ぅぉぅ、すっごい涙目。横に居るスリープはこの子の手持ちだろうか。

すっごい心配そうに彼の股間をトントンしている。

 

「さっきまでバトルしてたじゃないの……」

「バトル? 俺の記憶が正しければ全力で飯を和気藹々としてたはずだが」

「そこのドレディアちゃん見てもそう言える?」

 

再び指を差すもっさんの先には

ぼろぼろになって倒れ伏したドレディアさんが───

 

 

「ッ!?ドレディアさん!?」

 

 

思わず俺はドレディアさんのところに駆け出す。

もっさんが何か言い掛けてたが知ったことではない。あの状態は、やばい……! 間違いなく瀕死だ。

 

「ドレディアさんッ!! 大丈夫か!? しっかりしてくれ! しっかり───」

 

そうして横倒しになっていたドレディアさんを抱え上げ

こちらに顔を向けて見て見ると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はなちょうちん出して寝てやがった。

 

 

 

 

「っそぉい!!」

 

ぶぅゎぁん、と。

俺のどこからこんな力が湧いたかわからないが、

なんかイラッとしたので16㌔は間違いなくあるドレディアさんを明後日の方向へ放り投げた。

ちょっとした高さからバウンドして、そこらに再び転がるドレディアさん。

 

「ちょ、何してんのタツヤ君ーーー!」

「うっせぇ!! 心配した俺の心の焦りを返せぇーーーー!!

 瀕死かと思って超心配したのにあいつぐっすり寝てんじゃねえかっ!!」

「間違ってないから! 瀕死なのは間違いないんだよ!?

 そんな乱暴に扱ったら彼女の状態が───」

 

もっさんはドレディアさんが投げた方向を見て固まる。

俺もどうしたんだと言わんばかりに顔を向けた。

 

 

 

ゆらぁり、と、ドレディアさんが起き上がりこちらを見据えた

三面六腑の緑色な阿修羅が、そこには居た。

お馴染みのダークオーラを携えて、ゆっくり、ゆっくりとこちらへ来る。

何故黒いオーラを出しているかはわからないが、全然無事らしい。

 

 

「なんだよやっぱり普通に動けてんじゃないか。もっさんもあまり心配させ───」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の記憶はそこで途切れている。

今日何回途切れたんだろう。

 

 

 

 

「やっぱりポケモンって親に似るのね……

 睡眠妨害されて仕返しした所なんてそっくりだわぁ」

 

 

そんな呟きがどこからか聞こえた気がした。

 

 

 

 

ってわけで再びポケセンだが。

 

「俺はなんでここに居るの? さっきまで楽しく飯を食ってた記憶があるんだけど」

「タツヤ君の記憶力がカスなのはわかったわ。

 三行で説明するわね。

 

・ドレディアちゃんが怒り狂って全力疾走がんめんパンチ。

 

 OKかしら?」

「あーい、了解ー。さっぱりわかんねえよ」

 

ごちん、と拳骨をもっさんにもらってしまった。

あんまりである。

 

「うぅー……玉が潰れた気がするよぅ……痛いヨゥ……」

「トゥルトゥル……」

 

横にはなんかどっかで見たような短パン小僧。

ああ、お前なんか倒れてたよね、俺の横で。

 

「おう、大丈夫かー? なんかさっき倒れてたけど」

「犯人はお前だァーーーー!! なんで他人視点なんだよっ!!」

「ええっ?! そんな、濡れ衣だ! みずのはごろもだ!」

「何よそれ。その子の言ってる事は正しいわよ。間違いなく犯人はタツヤ君、私が保証するわ」

 

ええ、全然記憶にないんだけどっ。

そうか、これが現代社会で問題化している冤罪ってやつか。

 

「なんか君、寝てる最中に無意識にジャストミートしてたからねー。

 覚えてないのも無理は無いと思うわよ?」

「そっか、寝てる間にやったなら俺が自分からやったわけじゃないよね!!

 おいお前何勝手に俺に冤罪吹っかけてやがんだ。潰すぞ」

「ッヒィ?!」

 

股間を押さえながら隅っこへ逃げていく短パン小僧。

おのれディ、短パン小僧、貴様の仕業か。

 

「もう話が進まないから取り仕切るわねー。

 そろそろドレディアちゃんと君のスリープも戻ってくるだろうし」

 

そうだ、そこだ。

なんでそもそもドレディアさんが預けられるほど磨耗してんだよ。

 

「タツヤ君ごとまとめてさいみんじゅつ喰らって、ずっと攻撃されてたからよ」

「ずっと俺のターン!!」

「いや、君じゃなくてあそこのタカシ君ね?」

 

ようやっと股間が落ち着いたのか、こちらへ来る他称タカシ君。

スリープもようやく一息、といった感じに後ろでほっとしている。

 

「そうだよ、そういうわけなんだからさ。お前負けたんだから賞金よこせよな!」

「はぃ? 負けた? 『俺』が?」

「ええ、ドレディアちゃんは確実に瀕死のダメージをもらってたわよ?」

「オゥシット、状況把握」

 

まったく、やはり小僧は小僧だったらしい。つまりは……

 

「『俺』は負けてないって事だな」

「はぁー? 何言ってんだよお前。俺ドレディア倒したじゃん。俺の勝ちじゃん」

「阿呆。なんで俺の手持ちがドレディアさん1体って事になってんだよ」

「え……あッ!?」

「そういうことだよ。

 どうやられたかとかに関してはさっぱり覚えてないけど、そこまで言うなら再戦するしかないな。

 俺らが飯食ってる時に突撃してきたんだろうけど他にもポケモン居ただろ?

 ドレディアさんだけなわけねぇだろうが」

 

 

多分俺が負けたって話になってんのは、その場で俺も寝ちゃったから

勝負を中断せざるを得ない形になったからだろう。

別に負けたことにしてもいいけど、なんかこいつ調子乗っててムカつくわ。

金よこせ金よこせって、マジなんかこう、へし折りたい。だからボコる。

 

「つーかこの短パン小僧コノヤロウッッ!

 今考えたらお前なんで俺にさいみんじゅつ使ってんだコラァッ!

 訴えんぞッ!訴えて実しやかに勝つぞッ!」

「し、知るかよそんなもんッ! お前が勝手に寝たんじゃないかー!」

「挙句の果てに寝てる間に勝利確定とか……新手の詐欺かよッ!

 お前そんなモンチャンピオン本人眠らせたら勝利確定とかどんな暴論だッ!」

「だ、だからあれはお前が勝手に……───」

 

ギャースカギャースカ

 

「……こういうところは、子供っぽいのねぇ」

「─────;」

 

「はーいお待たせー♪ タツヤ君、今日よく来るわねぇ。

 はい♪ 貴方のドレディアちゃんよ? それとタカシ君、貴方のスリープももう全快よー」

『あ、どうもッス』

 

どうやら俺がクソガキと口論をしている間にポケモンの回復が終わったようである。

思わずタイミング的にハモってしまった。

 

「んじゃここの用事も済んだだろうし、適当な野原で再戦な

 お前マジで後悔させてやっから覚えとけよ」

「ッチ、わかったよ」

「じゃ、私はここまで付き合ったし、見届けさせてもらうかな。

 さっき倒れた2匹は使っちゃ駄目よ?」

「わーってらぃ、まだ元気のかけらなんて買う金ないしね」

「っちぇ、しょうがないや。それで勘弁してやるよ」

 

なんか個人的に言動が精神年齢30年の人間じゃなくなってきている。

体に引っ張られているのか、単に短パン小僧がクソガキすぎるのか。

どっちかはわからんがとにかくイラついてきた。全てをぶち抜いてすっきりさせてもらうッ!

 

 

 

 

んで、野原に移動中ー。

俺はなんかもう歩くのまた面倒になったから、ディグダの頭の上に咲いている。

ここ結構居心地良いんだわ~。ドレディアさんは横でもっさんと楽しくおしゃべりしてる。

こいつら完全に意思通ってるわ。凄い人もいたもんだ。

 

タカシの野郎は賞金をもらえると思ってたものがまだお預けだからなのかぶすっくれて後ろを歩いている。

 

 

なお、ドレディアさんなんだが

彼女も飯をみんなで楽しく食ってた時から記憶が途切れているらしい。

【山芋のステーキうまかった!!また食いてぇ!】つってたわ。

横でもっさんが「似すぎでしょ……」って呟いてたけど、どうでもいいから華麗にスルー!

 

 

 

「さて、と。それじゃあ再開すっか」

「ふん、あとで吠え面かくなよっ。行けぇスリープ!!」

 

パシュゥゥン

 

「トゥルトゥルトゥル!!」

 

別にここで改めて出さなくてもポケセンから連れ歩けばよかったじゃんよお前。

 

「んじゃ俺も───行けぇっ!!サンドッ!!」

 

パシュゥゥゥン

もっさんのボールがひとりでに動き出し、戦うためにサンドが出てきた。

 

「くっ、サンドかっ!」

「ってちょっと待てぇぇぇぇい!! サンドは私のポケモンでしょうがぁ!!」

『えぇっ!?』

「なんで二人して驚いてんのよぉーーー!!」

「え、いや、だって……俺が見た飯の時に確かにサンド居たし……」

「私の腰のボールから出てきてるあたりで疑問を抱きなさいー!」

「あ、そういえばッ?!」

 

この人達ノリいいなぁ。話してて楽しいわー。

サンドもサンドで、【え、私どうしたらいいの……?】と

首を交互に俺ともっさんに動かして、困った表情を見せている。

ホント小動物系は和むなぁ。うんうん。

 

「うん、そうだな。呼び出しておいてごめんな?

 忘れてたけどお前ってもっさんのポケモンだったよな」

「キュー。」

 

俺にそう返して、トテトテともっさんの足元に戻った。

 

「あー本当疲れるわー……なんなのよもう。あそこでお別れしておけばよかった」

「そうなると俺の山菜メニューも中途に終わっていたわけだが」

「ック……弱みに付け込まれたわっ……」

 

何で一人でシリアスしてんすか、もっさん。

 

「もういいからお前真剣にやれよー! とっとと出せぇー!!」

「あーはいはい、ったく空気読めよなー、つまんねえ。

 ドレディアさんは駄目だし……ヒンバス、頼むわー」

「ッ!? ちょ、タツヤ君ッ!?」

 

パシュゥゥゥンと音がして出てくるヒンバスお前いつの間にボールに帰ってたの?

 

なにやらもっさんが横で五月蝿いが、こいつ本当にイラつくんだ。グリーンさんよりきついわ。

せいぜい「な、何をするだァー!!」って叫んでろ。

 

 

「……っへ、ヒンバスか。俺そのポケモン知ってるもんね~。

 コイキングと同じような、進化前は超弱いやつだろ? 前にホウエンの友達に教えてもらったんだ!」

「あ、そう」

「……はぁ、じゃぁバトル開始しなさいー」

 

そうしてバトルは始まる。

 

「やれっ、スリープ!!さいみ───」

「ヒンバス、すてみタックル。」

 

 

俺の合図と共にヒンバスはとんでもない勢いで彼のスリープにぶち当たって

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スリープが50~60m先に、べちょって落ちた。

 

「…………」

 

あまりにも予想外な展開に、タケシ? はスリープの落ちた先を見て唖然としている。

何気に横で見ていたドレディアさんもあまりの威力に呆然としている。

 

「ま、戦闘不能だろ? ほれ次出せよ次」

「え、あ、え」

 

こっちに顔を向け、わたわたと慌てだすタクヤ?。ん、もしかして……。

 

「お前の手持ち、あのスリープ2匹だけ?」

「う、うん……」

「そっか、なら俺の勝ちだな?」

「まあ、こうなるわよねーあのヒンバスなら……」

 

まあ外野視点だからわからんでもないが、のんびりとしたもっさん。

 

「ヒンバス、反動大丈夫か?」

「ッグ!」

「おう、そっか。ありがとうな」

 

よく頑張ってくれたので、俺は頭を撫でておいた。ヒンバスも嬉しそうにしている。

うんうん、こういう嬉しい感じの笑顔をしてもらえると、俺もなんとも言えない感覚があって嬉しい。

 

「───じゃあ、タなんとか。賞金くれや。お前の負けだろ?」

「く、くっそっ……こんなふざけたやつに……!」

 

そうしてごそごそとポケットを探る、タ。

なお、ぶっ飛んだスリープはディグダに回収を任せた。そのままポケセンに運んでもらっている。

アイツの知能指数本当にポケモンか? 最近疑わしくなってきたぞ。

 

「……ほら、150円」

「…………お前ちょっとピョンピョンしてみろや」

「え、なんで───」

「ヒンバ~ス♪ すてみタックル準備~♪」

「グ;」

 

【流石にこの子にやるのは気が引けます】と否定意思のヒンバス。

オンドゥルルラギッタンディスカー!! ウソダ……ウゾダドンドコドーン!!

しかしそんな会話も タ にはわからないため

 

「ヒィッ!? しますっ、やりますっ!!」

 

慌てて小気味よく、ぴょんぴょんとやりだす。

 

じゃらじゃらじゃらじゃら

そしてやはりというかなんというか、明らかに150円じゃない音がする。

 

「おうなんだよお前、まだ金持ってんじゃねーかよ。

 おらとっとと見せれや。タックル入っちゃうよー?」

「グー;」

 

そこで声を上げるのは不正解っすよヒンバス。超怯えてんじゃねえか、タが。

 

「は、はい……」

「……やけに100円とか10円が多いな。合計5,000円位あるじゃん。

 お前もしかしてここら辺じゃ結構強かったのか」

「え、えっと……今日20回位戦ったけど、ポケモン倒れたのが今回が初めてで……」

 

うそっ?! コイツ何気に才能か運の塊なんじゃねえの?

スリープ2匹で無双とかどんだけだよ。きょうびTAS動画でもそんなん流行らんぞ。

 

「ふーん、まぁ。半分没収」

「ええー!?」

「タツヤ君、それはさすがに……」

「飯を邪魔された。あいつが突っかかってきた。その上で負けた。

 俺の怒りは有頂天。何調子こいちゃってるわけ?」

「す、すんません……」

「はぁー。君も運が悪かったわね……」

 

もはや説得までぶん投げたもっさん。うんうん、平和が一番ですよ。

平和を乱すヤツは全殺しと言わずとも9.8殺しぐらいはしないと、世の中平和にならんのだよ。

 

 

 

そんなこんなで タ はポケセンにスリープを引き取りに戻った。

俺ともっさんは、飯こそ中断したが野営に関する知識を話し合いながら、前居た原っぱに戻っていった。

 

 

全く意味の無い余談だが、ドレディアさんの頭の上に

サンドが乗っかって、とてもほのぼのした光景が一部で見られた。

サンドがとってもうれしそうだ。この子俺にください。

 


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