うちのポケモンがなんかおかしいんだが   作:右肘に違和感

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幕間2 ふえるワカメの地獄黙示録

気絶させてしまった2名をフーちゃんのこおりのつぶてで叩き起こし

しっかり戸締りをして、トキワシティへ飛ぶ準備を完了させる。

 

よし、今日は洗濯物もまだ洗ってない。生乾きの嫌な匂いはしないわっ!!

 

「あたた……レンカさんもーちょっとやさしく起こしてくれんかのう……」

「やさしくってどうですか? まさかキスで起こせとか……キャッ」

「怖い事言わんでおくれ。ってあー違う違う!!

 レンカさんがどーとかそういう話ではないからの!!

 だからそんな怖いオーラ出して近寄ってこんでおくれっ!!」

 

あらあら♪ オーラって何の事かしら? ウフフフ。

ん、なんかタクト君がすっかり縮こまっちゃってるわね。

怖がらせてしまったかしら……? どうしてかしらねぇ。

 

「あれじゃよあれ。レンカさんにキスなんぞされた日にゃ

 リーグで快挙成し遂げてしまいおったレン君に

 一度やると決めたらやり方を選ばないタツヤ君を敵に回すのが怖いだけじゃっ」

 

あー、レンに関してはいまいち快挙って気がしないけど

タツヤに関しては本気で同意しちゃうわねぇ。

あの子本当、出来る事ならなんでもするし、やらせるから……。

 

 

 

 

ま、そんなわけでっと。

トキワに向かうために私は家から持ち出したロープでオーキドさんをフーちゃんに括り付け

私もフーちゃんの背中に乗り込む。ん……? なんか視線を感じるわね……。

 

「どしたのー? タクト君」

「あ、いや、その……オーキド博士は、その……

 何故、フリーザーに括り付けられているのでしょう……」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

 

あら……? 私、他の人をフーちゃんに乗せる時にいつもこうしてるんだけど。

 

「オーキドさん、これ何がおかしいのかしら?」

「いや、わしにも───あー、そうかなるほど。

 多分普通に空飛ぶポケモンに乗るのと同じような想像しているのではないかね」

「え、えーと、多分そうです」

「このフーちゃんはのう、凄まじく早いんじゃよ。下手に素人が乗ったら風圧に耐えられないんじゃ」

「…………。」

 

んもぅ、タクト君なんなのよぅっ、その目は!

速いのは良い事なのよっ!! スーパーの特売にだってすぐに辿り付けるんだから!!

 

「よ、よしッ!! もうボクは惑わされないぞ!!

 この地方にいる間、細かい事は気にしない事にしよう!! そうしよう!!」

「そーじゃのー、なんせ人のポケモンとはいえ伝説ポケモンが

 キャベツ入った袋をクチバシに挟んで空を飛んでる地方じゃからのー」

「ええ、もうそれがこちらでは当然なんですよねッ!!

 ボクはまたひとつ強くなれた気がします!!」

「あらぁ、それはよかったわ♪ 強い事は良い事だからね、うんうん」

「ええ、何にも動じない心を鍛えるつもりでここに来たと思うことにします」

 

先程互いに譲れなかったモノがあり、言い争いこそしたものの

認めるべきところはしっかりと認めてあげないとね。

 

「よし、それじゃ移動程度で呼び出すのは悪いが、頼むぞレックウザ!!」

「グギャァォォォォォォウ!!!」

 

あらーでっかい龍だわねぇ。

ホウエン地方の特番であの龍の壁画見たことがある気がするけど……

多分本物なのでしょうねぇ、どうやって捕まえたのかしら? ま、どうでもいいか~。

 

「さーてそれじゃみんな、トキワへレッツゴ~~★」

 

いっくわよーフーちゃんー!!最・大☆加・速ッ!!

 

 

 

 

ドッシュゥンッッッ!!

 

 

 

イヤッホーォォォォォォウッッ!! やっぱ空は気持ちいいわねぇー!!

オーキドさんもそう思うでしょ、って……あら?

 

寝てるわ。よくこんな高さで眠れるわねぇ……。

日頃のお仕事で疲れが溜まっているのかしら……?

 

 

 

 

んさってーと。

空を飛び始めて10分、無事トキワに到着した。博士もさっきやさしく起こしておくれと言っていたから

肩を揺らして起こしてみたのだけど、今度は泡吹き出しちゃった。 どうしたのかしら?

 

「んーそれにしてもフーちゃん、タクト君全然見えないわねぇ」

「フリィ~」

 

そんなにスピード出した覚えもないんだけど、どうにも速すぎたらしい。

ちょっと街道場にでも寄って、オーキドさんの気付けをお願いしようかしら。

泡まで吹かれちゃうと私もちょっと対処がしにくい───

 

「ぉ、おぉぉぉ……、め、めそ……」

 

……って起きてくれたわ。よかった~♪

 

「オーキドさん、大丈夫ー? いきなり泡吹いたから心配したのよー?」

「ッハッ?! モンテスキュー!?

 ……っととと、レンカさんじゃったか。えーと……あぁ、トキワについたんじゃな」

 

なんかよくわからない言葉を言ってるわねぇ。本当に、お仕事が忙しすぎるのかしら?

 

「んもーオーキドさん、心配かけさせないでよぅ。

 泡まで吹いちゃったからちょっとびっくりしちゃったじゃないの」

「あはは、すまんすまん。最近慣れてきたと思っておったんじゃがなぁ。

 まさかいつも乗せてもらってる3倍速まで出されると思っておらんでのー

 ちょっと肝が抜けてしまったわい」

 

あれぇ? そんなにスピード出してたかしら?

いつも私がフーちゃんと一緒にスーパー行く時は5分位なんだけど。

 

そんなやり取りをしているうちに漸くタクト君がトキワシティに到着した。

あれから20分も経ってるけど……寄り道でもしてたのかしらね? って……

 

「ぜぇぇ…ぜぇぇぇ……、お、お待たせ、して……すみま、せん……」

「ちょ、ちょっと大丈夫貴方!? なんか顔が青くなってるわよ!?」

「酸欠症状じゃないかの? 大方フーちゃんの速度に少しでも付いていこうと

 限界スピードまで飛ばして息が吸いづらかったんじゃないかね。空は空気が薄いからのぅ」

「え……ええ、そう、です……

 スー、ハァ~、スー、……ふぅー」

 

何とか落ち着いてきているみたいだけど、これはちょっとまだ心配だわねぇ。

 

「オーキドさん、ちょっとタクト君見ててもらえるかしら?

 私は彼が落ち着く間にジムに行って許可取ってくるわ」

「おう、そーかぁ。わかったぞぃ。

 わしらも動けるようになったらなるべくすぐ向かうからのう」

「お、お手数、かけます……」

 

頑張り所があるのは可愛いと思う。でももーちょっと体鍛えないと駄目よ? タクト君。

オーキドさんは年もいってるし仕方ないとしても、ね。

 

 

 

 

そうして私はジムまで辿り着いた。

来るまでの間に街を見渡してみたけれどトキワシティの町並みも

なかなか変わらないものなのねぇ。昔を思い出すわぁ~♪

 

さってとぉ。久しぶりのトキワジムだし、恥ずかしい真似は出来ないわねっ!

 

そして私はウィーンと開く自動扉をくぐって、トキワジムの中へと入る。

 

「ハ~イみんな~♪ 元気してるぅー?」

「ん?」

「あれ、どこかで……」

「……あっ!? レンカさんっ! レンカさんじゃないっすかっ!!

 ご無沙汰してますっ!! お元気でしたか!?」

「あら、貴方の顔覚えてるわ! 久しぶりねぇ~♪

 こっちはのんびり暮らさせてもらってるわよー。そっちはあまり変わらないのかしら?」

「はいっ!! このジムも期間限定でしか開けてないので

 皆が集まり切る事は稀ですが、皆元気でやってるそうっす!!」

 

 

そっかそっか。みんな頑張っているのねぇ。

やっぱ若いって良いわねぇー、なんかこうがむしゃらで、ね♪

 

 

ざわ、ざわ、ざわ。ざわ、ざわ、ざわ。

 

おい、教官が……  ああ、あんなに下手に出て……

        あのお姉さん何者だ……?

    そういえば前にジムリーダーと話してなかったっけ……

 

ざわ、ざわ、ざわ。ざわ、ざわ、ざわ。

 

あら、気付いたらなんか後ろで皆集まって話しちゃってるわね。

見ない子達だから、私もよくわかんないや。

 

「じゃあ、ちょっと悪いんだけどサカキ君呼んできてもらえるかしら?

 今日はちょっとバトルの関係で施設を借りたくてね」

「なっ、レンカさんがバトルするんすかっ!?

 無謀なバカも居たもんだなぁ……よし、わかりましたっ!

 おい、悪い。ちょっとジムリーダー呼んできてもらえるかー?

 レンカさんが来てくれたって言えばすぐわかると思うからよー」

「あ、はい……わかりました」

 

そんなやり取りの後、一人の子が奥のほうへ走っていった。

そして私は古株の子と話し込んでいたんだけど、後ろから一人出てきて質問してきた。

 

「あ、あの……教官。こちらの女性は一体どなたなのでしょう」

「ばっかお前、カントーの最終兵器(リーサルウェポン)の事聞いた事ねえのか?!

 この人がその最終兵器であり、ジムリーダーの師匠であるレンカさんだっ!!」

 

どよっ。

どよどよどよ。

ざわざわざわ。

 

一気に後ろが騒がしくなっちゃった。

私その渾名好きじゃないんだけどねぇ……なんかごっついじゃない。

もうちょっとこう、カントーの愛天使、とか。聖なる守護者、とか。なんかないのかしら?

 

っと、少し考えてる間にサカキ君がこっちに来てくれた。

 

「おぉ、こんにちわ。

 レンカ師匠、お久しぶりでございます。ご健勝のようで何よりです」

「ぉー、サカキ君お久しぶりー♪ 見ない間にかっこよくなっちゃってまぁ……。

 その黒スーツなんかも、どこかのマフィアっぽくて素敵よ~♪」

「ッ……!! そ、そうですか、お褒め頂き嬉しい限りです、ハハハ」

 

うんうん、顔も正直昔から悪役っぽいと思ってたし、ばっちりだわこれー。

もうどこかのマフィアのボスにしか見えないわ♪ 確実に幹部の威厳は超えてるわね!

 

「それで、連絡も無かったですし急遽来たのですよね?

 前々から、一度顔を見せてくれと連絡はしていましたが……どうなさったので?」

「あーうん。ちょっと私の家のほうで色々あってバトルすることになってねー。

 施設借りたいなーって思って、フーちゃんに乗ってこっちに来たのよ」

 

こちらの事情を伝えると、サカキ君は顔を真っ青にして慌て始めた。

 

「色々……だとっ!? レンカ師匠、貴方の手を煩わせる事はありません。

 何かあるならすぐに私達トキワジムの面子が───」

「あー大丈夫大丈夫、そんなややこしい事じゃないからね☆

 ちょっとあれよ。世の中の厳しさを子供に教えるだけだから、ね?」

「そ、そうです、か……? なら良いのですが……」

 

相変わらずのあわてんぼうさんねぇ、サカキ君は。

でも結構貫禄もついてきてるし、ジムリーダーより上は狙えそうねぇ。

頑張るんだぞっ、若者よっ!!

 

「ま、そういうわけなんだけど、借りちゃってもいいかしら?」

「ええ、どうぞどうぞ。

 今日は大規模なバトルの予定もありませんし構いませんよ。

 ところで対戦相手はどちらに? 姿が見えないようですが……」

「あーなんかちょっと空で酸欠起こしたらしくてねー。一緒に来たオーキドさんに任せたのよ」

「なるほど、まあそれなら仕方が無いですな。誰もが通る道です。

 ところでひとつお願いがあるのですが……」

 

ん? お願い、とな。何かしら?

 

「よければレンカさんのお手前を、うちのジムのやつらにも見せたく思いまして。

 試合の見学の許可を頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「えーそんな恥ずかしいわよぅ♪ まあ見て減るものでもないし、いいわよー」

「ハッ! ありがとうございます。これでうちのやつらも一皮剥けると思います」

 

んー私なんかの試合見ただけで何か参考になるものなんてあるかしらねぇ……?

まあいっかぁ。見たいって言ってる物を止めることもないしー。

 

「あ、あの。ジムリーダー少しよろしいですか?玄関に、来客がいらっしゃるのですが……」

「ん……もしかして。今レンカ師匠が話していた対戦相手でしょうか?」

「あ、多分そうだわ。片方、わかめみたいな赤マントの子だった?」

「あ、はいそうです。ではこちらに案内しますね」

 

そういって、ジムの子は玄関に向かっていった。

 

「さーてとぉ!! 大体2年ぶり位のポケモンバトルかしらねっ!! 張り切って行きますかぁ!!」

「ハハハ、やはりレンカ師匠はいつまでもお若いですなぁ。うらやましい限りです」

「んもー、何うまい事言っちゃってんのよぅ☆」

 

バシィッ

 

「うぐぅふっ!!」

 

ってあー、やっちゃった。

 

って、あら?

 

おー! うまく回転して5m位先で着地したわ! 凄い凄い!!

 

「っふぅ……相変わらずの見事なお力です。

 意識を持っていかれそうでしたよ、ハハハハハ」

「んーサカキ君本当に成長したわねぇ。

 まともな事なんも教えてないけど、師匠としては本当に嬉しいわ!」

「いやいや、これも全て師匠のおかげですよ」

 

そんな会話をしているうちに、オーキドさんとタクト君がこちらに来た。

 

「すみません、落ち着くまで時間が掛かってしまいました。

 お待たせしてしまい申し訳ない。」

「いいのよいいのよ、人間誰しも急に慣れる事なんて出来ないんだし、ね?」

「うむ、そうだぞ若いの。人間何事も経験から来るものだ」

「あ、はい。ありがとうございます」

「いようサカキ君。久しぶりじゃのぉ。レンカさん、サカキ君と話は既についてるのかね?」

「オーキド博士もお久しぶりです。施設の件は問題ありませんよ。すぐに準備しますので」

「ッ!? こ、こちらの方が最強のジムリーダーと言われているサカキさん、ですか!?」

 

目の前にいるのがサカキ君と知り、目を見開くタクト君。

そういえば家に居る時もなんか尊敬っぽい印象は感じたわねぇ。

 

「最強かどうかは自分ではわからないが……

 私はこのジムのジムリーダーを勤めさせてもらっているサカキだ。

 今日は頑張って善戦するように心掛けるんだぞ。若いの」

「ハ……ハイッ!! 光栄ですッ!! 頑張らせて頂きますッ!!」

 

おーおー、直立で姿勢正しちゃって。やっぱ可愛いところあるわねーこの子♪

 

「ではみなさん、ご案内しましょう。

 レンカ師匠は勝手知ったる庭かと思いますが……。こちらです、どうぞ」

「はいはーい♪」

「おう、すまんのーサカキ君」

「え、あれ? 今、師匠って……あれ?」

 

どしたのー? とっとと行くわよー。

 

 

そんなこんなでバトル会場へ私達は足を運んだ。

オーキドさんは観客席から私達を見ている。まあ試合する本人でもないしねー。

観客席はジムの子達に加えて、今日来てない子にまで連絡をしたのか

さっきジムに居た3倍以上の人数が席を占めている。

 

いやーもうおばさん恥ずかしいわっ、キャッ♪

 

「それではルールは使用アイテム禁止の勝ち抜き制。

 レンカ師匠が手持ちを1匹しか所持していないので1:3となりますが

 これで問題ないでしょうか?」

 

「ええ、問題ないわ~」

「……クッ、まさか1匹で対峙されるとは。絶対に貴方の鼻を明かして見せますよ……!」

 

うふふ、今のうちに憤っておくといいわぁ~。楽しい楽しいお仕置きの時間、開幕よ♪

 

「了解しました、では試合を始める前に……若いの、少し良いか?」

「あ、はい……なんでしょうか」

「……ここで負けても諦めるんじゃないぞ。世の中には、理不尽という言葉は確かに存在するんだ」

「え、ボクが負ける事前提なんですかこの試合っ?! サカキさんから見てもそうなんですかっ!?」

 

なんか楽しいやり取りしてるわねぇー。

大丈夫よーサカキ君。そんなトラウマになるような事しないから♪

 

 

 

多分。

 

 

 

「では、審判はジムリーダーの私、サカキが務めさせて頂く。両者……バトル開始ッッ!!」

 

そして試合は始まった。

 

私の出す子はもちろんフーちゃん。頼りにしてるわよっ☆

 

「さ、いってらっしゃいフーちゃん。頑張ってね~」

「さぁ、行くんだダークライッ!! ボク達を雑魚と言った事を後悔させてやれ!!」

 

バシュゥゥゥン!!

 

お互いの子たちが場に出てきた。

タクト君の出した子は、なんか真っ黒い子が出てきた。

ちょっと怖い感じがするわねぇ~。でも白髪だし見た目の割りに苦労してるのかしら。

 

「ほぉう……そいつは、地方の伝承で見たことがあるな。

 伝承だと……確か悪夢を司っていたと思ったが?」

「ええ、さすがサカキさんですね、よくお調べになられている。

 その通りです。このダークライは───」

 

と、軽く説明を通していた。まー私はどうでもいいんだけどもね。

伝承で悪く言われていようと、実際逢ってみるとそんな事もないって子は多いし。

案外あの黒い子だって、人間と友達だった過去があったりするかもね~。

 

「では……ボクから行かせて頂きましょう。ダークライ、ダークホールだ」

「ォォォオオオ……」

 

あら、なんか怖い技ねぇ。どんな攻撃かしら。

 

って、フーちゃん?

 

「フ、リー……ザァ……」

「ふふふ、このダークライのダークホールには、さすがに貴方のフリーザーでも耐えられませんか。

 このまま眠らせて、じっくり料理させて頂きます」

 

へぇ、眠らせる技なんだ。

ふーん。

 

「リー……ザ───」

 

 

 

 

 

「───フーちゃん?」

 

 

ビックゥゥゥゥンッッ!!!!

 

「えっ!?」

 

私の声を聴いてシャキンと跳ね伸び、姿勢を正すフーちゃん。

それに対して何か驚いているタクト君。どうしたのかしらね。

まあいいわ、こっちの用事が先だし。

 

「もう、駄目じゃないのフーちゃん。眠いのならちゃんと家に帰ってから寝ないとね☆」

 

 

「リッ、リィッ!! リーザァッ!!」

「うん、よしよし♪ いい子いい子~」

 

やっぱりこの子は可愛いわねぇ~。

帰ったらおいしいもの食べさせてあげないと♪

 

「う、く─────例え眠らなかろうとまだまだ手はあるっ!!

 ダークライっ!! きあいだ───」

 

「フーちゃん。メガホーン」

「え、なっ、メ、メガホーンっ!?あのフリーザーのどこに角が───」

「フリィィィィィィィザァァアアァァーーーーー!!!」

 

キィィィィィン、と。

フーちゃんの頭の頭頂部が輝き出す。

そして急速に冷気が渦巻き、その頭頂部に1本の分厚いツノが完成した。

 

完成した後、フーちゃんはいつもどおりの速度で

相手のダークライという子に突進した。

 

 

あとはまあ、言うまでも無い。予想通りあの子、悪タイプだったみたいだし。

一応氷で出来てる模擬技に近いとはいえ、あれ概念が虫の技だしねー。

耐えられたらその場で負けを認めても良かったかな?

 

「あ……あ……」

「若いの、どうする……? まだやるか?」

「ッ!! 当たり前だァッ!! こんなところで引き下がれるかぁー!!」

「まぁ、うん。挫折だけはするなよ」

 

タクト君は倒れたダークライをしまい、次のポケモンを出そうとする。

 

「くっそ……こんな場で出したくはなかったが……!!

 行けっ!! ギラティナァッ!!!!」

 

バシュゥゥゥン

 

「ギラァァァァアアアアッッ!!!」

 

次はなんか、白黒っぽい

なんか丸っこいフォルムの虫みたいな子が出てきた。

 

「ッフ、リィ……!」

 

あら、なんかフーちゃんが気圧されてるわねぇ。なんか出ているのかしら?

 

「フッフッフ……ギラティナの威圧感は半端では済みませんよ……!

 行動する際にしっかりと───」

 

 

 

 

 

 

「ふーん、威圧感ねぇ、こんなのの事かしら?」

 

 

 

 

◇◇◇

 

審判としてこの場にいる私でも、あのギラティナというポケモンの威圧感が

凄まじいものがあるのは、よくわかった。

 

 

 

しかし、世の中とは広いものよ。

私はあれ以上のプレッシャーに何度も耐えてきた。

この程度では、あれに慣れているやつらは屁でもない。

 

 

 

そう───あのレンカ師匠のプレッシャーに勝てるものなど存在しない。

彼女が、本当に相手を脅す場合に発する威圧感は既にプレッシャーというジャンルを超越している。

その超越した威圧感は、私達に常に守護神のようなオーラを見せてくれる。

今も、レンカ師匠の後ろには

 

 

 

 

ジョウト地方の寺などでよく見られる、仁王という存在に良く似た何かが

このバトルフィールドの場を、完全に飲み込んでいた。

 

 

 

 

あ、師匠のフリーザーもとても汗だくになっている。

大丈夫か、あれ。

 

◇◇◇

 

 

「なっ……なぁっ……!?」

 

んふふふふ♪ 驚いてる驚いてる♪

こんな位のものが威圧感っていうなら私もいくらでも出せるし~。

 

 

『ギラティナの 全ステータス および やる気 調子 その他もろもろが がくっと下がった!』

 

 

ん、あら? なんか今変な情報が表示された様な気がしたわね……? ま、いいや~。

 

「ギ、ラ……ッ」

「ど、どうしたんだギラティナっ!!

 行ってくれ! 頼む、勝って見せてくれっ!!」

 

必死にギラティナって子をタクト君は説得している。

でもま~無理無理♪ 今まで自分以上のプレッシャーに出会った事が無い子が

自分を上回るプレッシャーが出た時に急に対処出来るなんて思えないもの。

 

「ラ……ギッ……ラァァァァァァァァ!!(;д;)」

 

ダダダァッ!!

 

あら、試合会場の隅っこに行っちゃった。

なんかあの子も結構可愛いわねぇ~。

 

 

「───えー、審判として判定をさせて頂く。ギラティナ、戦意喪失により勝者フリーザー」

「あら!! フーちゃんよかったわねー!! 勝てたわよー!あと一人よー!」

「フ、フリ、フリィ……」

 

あれ? フーちゃんも若干怖がってるわね。

あの子の威圧感にちょっと怯えちゃったのかしら?

 

「どうする、若いの。いつギブアップしても大丈夫だぞ。

 人間、妥協というのも大事────」

「ま、まだだァッ!!! まだボクには、ボクにはまだ1体いるんだっ!!

 こんな、こんな事があってたまるかっ!!」

 

うんうん、諦めないのはとっても偉いわー。

でももう次何を出すかわかっちゃってるから試合自体は終わってるんだけども。

 

「くそっ……こんなっ、こんなぁッ!!

 これが、これが貴方の言っていた使い手の良し悪しですかっ!!!

 ボクのポケモンの敗因の殆どが、完全に試合の外の話じゃないですかっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうよ?」

 

 

 

 

 

 

「なっ……」

 

 

即答されると思っていなかったのか、タクト君は絶句する。

 

「私は、ね。試合に関わらない部分でも、出来るだけ自分に有利に動くように心掛けてるの。

 出来る事は全てしたほうがいいって、息子に学んだのよ」

 

横で審判をしているサカキ君が「ほう……?」と興味深く呟いているが

とりあえずは私の話である。

 

 

「家でも言ったわよね? 私は貴方のスタイルに大いに賛同する。

 その上で私は貴方のとっているスタイルそのままに、バトルをしていた。

 でも、ある時に息子との簡易バトルに負け掛けた時に、気付いたのよ。

 単純一直でやる事は、相手をナメる事にも等しい、ってね」

 

 

「───。」

「ちょ、ちょっと待ってくださいレンカ師匠っ!!

 負け掛けたって、シン君、にですか!?有り得ないっ!!

 貴方はたかが地方リーグチャンピオンに敗れかける程安易な人では───」

 

タクト君に諭す会話中に、思うところがあったのかサカキ君が詰問してくる。

一応は、ジムリーダーやってるもんね。そりゃ私が言ってる事の異常性もわかるか。

 

「いいえ、具体的に言うなら負け掛けたのは下の息子、タツヤ。

 元々、シンは私とポケモンバトルで手合わせするのが好きで

 何度勝負をやっても常に私は勝っていた、そしてあの時も勝つには勝ったわ」

 

「で、では……?」

 

「でも、その時の試合だけは全てが違ったのよ。セコンドとして、シンの横にはタツヤが居た。

 そしてタツヤから来るアドバイスをシンは忠実に従った結果……

 私は手持ちの6体を常に残した状態でいつも勝っていたのに

 あの試合で、私は手持ち1体を残して……しかも瀕死に限りなく近い状態で勝ったのよ」

 

「な、なんと─────」

 

サカキ君はどうやら私が言わんとした事に気付いたらしい。

 

 

 

 

 

 

そう、常に6体を残して勝てるほどの実力差があったのに。

 

タツヤが、あの子が横で指示の補助をしただけで。

 

実力差を、タツヤが言うには「策略」で全て補ったのだ。

 

 

「そして……一体どうやって、そこまでのアドバイスを導き出したか?

 あの子に尋ねて、答えを聞いた時───私の世界は、ひっくり返った」

「い、一体どういう手で……」

「あの子、タツヤはね。私の性格や行動を自分の頭の中で想像して

 常に私の行動を先読みしていたのよ。それをシンに伝えていたって形ね。

 

 ───加えて、取った手段はほぼ全て、試合の外の形での介入だった。

 

 例えば、ポケモンの脚先を若干土につけさせておいて

 タイミング良く蹴り上げて、ポケモンの顔に土をぶちまけて煙幕にして。

 例えば、そのポケモンが戦ってる最中に急に横を見る指示をしていて

 私達も一緒に横を見ちゃってる間に必殺の一撃を入れたり、とね」

 

本当に、一体あの小さい頭にどれだけの考えが埋もれているのか。

 

「……その話はやはり事実なのでしょうね。

 だとしたら、貴方の息子は野戦の天才だ。間違いない」

「ええ、確信したわ。同時にあの子は公式の試合では勝ち上がれない。

 でも、それを鑑みても補い切る魅力があの子にはあるわ。

 だからこそ、私はあの子を尊敬する。あの子の言う事が正しいと思う。

 

 ───だから、下の立場相手でも絶対に手を抜かないわ」

 

「う───っ!」

 

話を終え、タクト君に話を戻す。あまりにもあまりな言い分と感じられたかもしれない。

だけども、私は私の尊敬するあの子のためにも。

 

「───貴方を、叩き潰します」

「うぅぅぅぅぅ……くそッ……! もうお前だけが頼りだ……

 頼む、レックウザ───」

 

 

 

 

 

「フーちゃん、こおりのつぶて」

 

 

 

 

ズドドドドドドドドドドッ!!!

 

 

さっき見た龍の子が出てきた『瞬間を狙って』私は指示を飛ばした。

見ただけでドラゴンタイプなのはわかっていた。氷の技は良く通る。

そして他の属性らしき属性も見当たらず、なおかつ空を飛んでいた。

 

 

ならば、あの子はひこうとドラゴンタイプ。

こおりタイプの攻撃は、致命的なダメージが通るはず。

 

 

結果、フーちゃんのレベルが高いのもあり

こおりのつぶての一撃だけで、彼のレックウザという子は沈んだ。

 

 

「あ……、あぁ……」

「───勝者、レンカ師匠。

 これにて試合の終了を宣言する」

 

 

タクト君は、試合の結果に膝から崩れ落ちた。

 

私は、私の出来る事をした。あとは、彼がさらに強くなる事を祈るだけだ。

 

 

「レンカ師匠、お疲れ様でした。相変わらずのお手前、見事です」

「やーんもう、相変わらずなんてうまいこといっちゃってー。

 それにサカキ君位なら途中から私が若干変わった事ぐらい気付いてたんでしょ?」

「ええ、そうですね。前までの師匠ならタイプの技への一致になど拘らず

 常にふぶきか絶対零度で決着をつけていたでしょうし」

 

そうなのである。

前までの私は属性があっていようといなかろうと

倒せばどちらにしろ同じと思っており、それをとことんまで突き詰めていた。

結果的に私の子供達のコンビを打ち破ったのもその力押しが

最後の決め手になってたんだけども、ね?

 

タツヤ曰く

「強行突破は立派な策。対立相手が立てた策を無理やり潰す強攻策」

ってことらしいんだけど。これ褒められてるのかなぁ。

 

「うんうん、私もあの頃は浅はかだったなぁ……」

「あの頃といっても3年前程度でしょうに……」

「余計な突っ込みしてんじゃないのっ!! 可愛くないなぁ、もう」

「ハハハハ、いつまでも師匠の掌で踊り続けはしませんよ」

「んもぅ~!」

 

頬を膨らませて反論する。

しかし見ない間にいい男になってしまったサカキ君にはそれは通じないようだ。

昔はあんなに真っ赤にしてワタワタしてたのに、チクショウ。

 

「───手合わせ、ありがとうございました」

「あ、タクト君……そっちの子達は大丈夫だった?」

「ええ、幸いにもギリギリ瀕死になるレベルでダメージは留まっていたようで」

「そう、それならよかったわ。……大人気ないことしちゃってごめんね?」

「いえ……大丈夫です。ボクは目が覚めました。

 まだ、貴方の言う事全てを実践したり理解したり出来るわけじゃないですけど

 納得出来ることのほうが多かったのは事実ですし」

「そっか、そう言ってくれると私も嬉しいわ♪」

 

この子はやはり、見所があった。

少し道を間違えれば、ずっとあのまま傲慢だったのだろうけど

手遅れになる前に、私たちは引き合えてよかったと思っている。

 

「若いの、世界は───広いだろう?」

「あ、ははは、はは……あの、サカキさん、後ろ」

「ん? って、あ」

 

なんやら失礼な事を抜かしよったサカキ君の頭を、私は後ろからわしづかみにしてやる。

何よ世界が広いって。私が世界に1人しかいないバケモノとでも言いたいのかしら?

 

「んー♪ 相変わらず良い具合の形してるわねぇ~♪」

「そ、そうで、すか。ありが───」

「ね、サカキ君、久しぶりにさ?グシャっといっちゃう? いっちゃう?」

「あ、あの、出来ればご勘弁を」

「あらー遠慮しなくていいのよ~♪ えいっ♪」

 

ぎゅっ

 

「み゜きゃっ」

 

カクン

 

瞬時にサカキ君から力が抜けた。

 

こういうところの根性はまだまだねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、サカキさぁーーーーん!? しっかり、しっかりしてくださいっ!!

 だ、誰かー!! 誰かハピナスを呼んできてくださいー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ま、そんなこんなで私のちょっと日常から外れたお話はこれでおしまい。

あの後タクト君が私に土下座して弟子入りを志願した話は

また別の機会があればお話しようと思います。

 

 

それじゃ、アデュ~☆

 

 

 




なお、前回レンカさんが「ヤマブキぐらいまで行けてるに違いない」と断定した理由は
「多分あの子なら公式戦で勝てなくても脅しとかなんかでバッヂを獲得してるはず」と
自分の息子に絶対の信頼を置いていたからです。

お前等自重しろ。


ちなみにどうでも良い事ですが、当小説では

少しの間→◇の前後1行
舞台暗転→◇の前後2行
時系列含め、しばらくの時が過ぎる→◇3行

となっております。

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