ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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大変、お待たせしました。

断章之拾をお送りします。

今回の話はいろいろ問題があるかもしれません……

時間軸は、前話より近未来となります。


 断章之拾 CELL THE TIME DIVER 前編

 

 

「やはり、どうにもお手上げか」

 

 トリステイン王国が誇る最高学府の一つであるトリステイン魔法学院において教鞭を執る「炎蛇」のコルベールは、鈍い光沢を放つ卵状の物体を見上げながら呟いた。場所は、彼にとっての安住の地、学院を構成する建築物の一つ、火の塔の横に建てられた彼の研究所の前である。

 

 「セルくんは、これを個人用の飛行機械だと言った。確かに透明なドームの中に座席のようなものがあるにはあるが、乗り込む方法がないとは……」

 

 コルベールは、セルやルイズたちとともにシエスタの故郷タルブ村を訪れた際に発見した「光の竜篭」ことタイムマシンの解析に執心していた。だが、数週間に及ぶ作業の結果は、芳しいものではなかった。

 

 

 コンコン

 

 

 タイムマシンの本体を拳で軽くノックするコルベール。

 

 「この機械は、今のハルケギニアでは精錬不可能な金属で出来ている。それは、間違いない。金属の加工技術も、我々の「錬金」とは比較にすらならない」

 

 研究者として、それなりの自負を持っていたコルベールだが、その彼をしても、「光の竜篭」はハルケギニアの常識からかけ離れたものだった。材質は金属ではあるが、詳細は不明。コルベール渾身のブレイドの魔法を受けても傷一つ付かないほどの耐久力を持っている。それでいて美しい流線型のデザイン。強固極まりない素材の加工方法については見当すらつかない。また、学院に収蔵されていた「破壊の篭手」と同じくディテクトマジックにも、一切反応しなかった。シエスタに許可を取った上で、一部を分解することも試したが、いかなる方法を用いても、装甲板一枚剥ぎ取ることも叶わなかった。

 

 「セルくんに聞けば、一発かもしれないが、わたしにもなけなしのプライドがある」

 

 独力によるタイムマシンの解析に全力を尽くすコルベールだったが、彼は知らなかった。タイムマシンには、長身異形の亜人の手によって、あらゆる外部干渉を遮断するバリヤーが展開されていたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その日の深夜。

 

 コルベール研究所の横に鎮座するタイムマシンの前に異形の影が立った。「蒼光」のルイズの使い魔たる長身異形の亜人、セルだった。この数週間、セルとその主であるルイズは、それまで以上の激動の日々を過ごしていた。

 

 

 ガリアに囚われたタバサ救出から始まり、もう一体のセルとの邂逅とアーハンブラ城消滅、ヴァリエール公爵家令嬢にして、ルイズの姉カトレアの治癒、ガリア王ジョゼフ一世の暴走とその顛末、浮遊大陸の「担い手」の発見と新生アルビオン王国における新王の即位宣言、ロマリア宗教庁による「始祖の大降誕祭」の開催告知。

 

 様々な事象を経て、そして新たな事象が起きつつある今、セルはタイムマシンの前に立った。その手には、「土くれ」のフーケが、ロマリアで盗み出した二つの「場違いな工芸品」が握られていた。一つは、十字架の上部が削ぎ落とされた棒状の物体、いまひとつは、細長い金属の棒に複数の色分け塗装を施した物体。

 

 それぞれの正式名称は、「メインスロットルレバー」と「ディメンション・コンデンサー」といった。

 

 「さて、何が起きる?」

 

 何が起きるかは、わからない。しかし、何かが起きるだろうことをセルは予感していた。それは、究極の人造人間としての推測と、「始祖の使い魔」としての本能から導き出されたものだった。

 

 「ぶるあぁ!」

 

 セルが気合を発すると、彼の左手に刻まれた「ガンダールヴ」のルーンが輝きを放つ。それは、二つの「場違いな工芸品」に伝播し、さらに輝きを増す。

 

 

 キュイイイィィィィン!!

 

 

 発光は留まる所を知らず、セルとともにタイムマシンをも飲み込んだ。重要部品を複数失い、稼動不可能な状態だったタイムマシンに変化が起こった。キャノピー内の液晶パネルが次々に点灯していく。

 

 (やはり、再起動したか。だが、この先は……)

 

 光に包まれたセルは、かつてトランクスから奪ったタイムマシンに搭乗した際の独特の浮遊感を感じ取っていた。それは、時間跳躍の前兆であった。

 

 

 ビシュン!!

 

 

 一際強烈な閃光の後、タイムマシンと長身異形の亜人は、トリステイン魔法学院から、いや。

 

 「現在のハルケギニア」から、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――???地方???の森。

 

 

 セルは、森の中にいた。さほど、樹木が密生しておらず、背の高い木も少ないため、降り注ぐ陽光を遮るものはない。麗らかな陽気だった。

 

 「……」

 

 無言のまま、自身の両手を確認するセル。確かに握っていたはずの二つの「場違いな工芸品」は空気に溶けたかのように消え去っていた。目の前にあったはずのタイムマシンも存在しない。続いてセルは、視線を上空へ向けた。究極の人造人間であるセルの視力は、生命体の常識を超越している。学院の図書室で確認した天文図、実験前に観測した魔法学院上空の天体群、それを上空の星々と比較する。実際に存在する天体であるかは、また別の問題だが。

 

 「天体の運行が、物理法則に従っているならば、最後に観測した時より、57,526,272時間前の座標ということになるな」

 

 それは、六千年以上前の過去にタイムスリップしたことを意味していた。

 

 「当然ルイズたちの「気」も感じられない、か……ふん、ここまでは、予想通りではある」

 

 セルにとっては、タイムマシンの再起動、それに伴う六千年前への時間移動も、想定の範囲内であった。

 

 「何者かの意志が介在しているのならば、さらなる展開があるはずだが」

 

 トリステイン魔法学院の敷地内からタイムスリップしたセルは、現在のハルケギニアでいうところの東方「サハラ」に転移していた。六千年後には、不毛な砂漠が広がるはずのその場所は、しかし遥か過去では緑溢れる豊かな土地であったのだ。

 

 「……エルフの「気」と人間の「気」か。さて、何が出る?」

 

 森の奥から、感じられた「気」の位置に向かって歩き出すセル。

 

 意図せずして六十世紀もの、時を超えてしまっても、長身異形の亜人は、いつも通りの坦々とした様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森の奥に位置する、小さな湖。静謐な水を湛えた、そのほとりで一人の少女が水浴びをしていた。一糸纏わぬその裸体は、輝かんばかりの美しさと生命力に満ち溢れていた。桃色の艶やかな髪は腰まで伸び、天意によって計算尽くされたプロポーションは、極一部に神の怠慢が見え隠れしていた。その容貌は、美の顕現ともいうべき神々しさを放っていた。

 

 「ふう、さっぱりしたわ。生き返ったって感じかしら」

 

 髪を大きく掻き揚げる少女。その際、尖った耳が露になる。彼女はエルフであった。

 

 「まったく、あの犬は! 自分から偵察に出るとか、かっこいいこと言って、あっさり迷子になっちゃうんだから!」

 

 水浴びを終えた少女は、憤懣やるかたなし、といった様子で湖から出て、自身の着替えと荷物の場所に素足のまま進んだ。

 

 「いっくら「ゲート」が使えるからって、無限じゃないでしょうに!」

 

 湖から少し離れた大木に縛り付けている相手に、文句を並べ立てていた少女は、何かに気付いたかのように周囲を見渡した。

 

 「なんか、やな感じね……」

 

 少女が急ぎ、着替えようとした次の瞬間。

 

 

 ギュオオオオン!

 

 

 湖の奥の森の中から、巨大な何かが飛び出してきた。それは、巨体とは思えぬ速度で少女に迫る。

 

 「くっ!!」

 

 容姿からは、想像できない俊敏な身のこなしで、巨体の突撃をかわす少女。

 

 「こんなところに「ヴァリヤーグ」の機兵が!!」

 

 

 ズズンッ!!

 

 

 ほんの一瞬前まで少女がいた場所に、三メイルを優に超える巨体を持った存在が降り立った。一見すると、ハルケギニアでもよく見かけるゴーレムのようだが、鈍い光沢を放つ金属の装甲と巨体に似合わぬ軽快な動きが、鈍重なゴーレムとは一線を画していた。

 

 「おいで、デルフ!!」

 

 

 ビュンッ!

 

 

 少女が、荷物があった場所に向かって手を伸ばし、声をかけると、一振りの剣が独りでに宙を飛んで少女の手に収まる。華奢な少女には不釣合いな無骨な長剣だった。ほぼ同時に巨兵士が重厚な右腕を振り上げ、少女に襲い掛かった。

 

 

 ガギィィィィィンッ!!

 

 

 鼓膜を破るような金属音を発し、少女は巨兵士の一撃を長剣を横に構え、受けた。

 

 

 

 

 (デルフ、とはな。では、あの少女が「初代」、ということか……)

 

 湖の反対側から、気配を殺しながら状況を観察していたセルは、自身の左手に刻まれた「ガンダールヴ」のルーンに視線を落とした。

 

 森の中から、感じられたエルフの「気」の持ち主を見たとき、セルは珍しく目を見張った。エルフの少女は、彼の主たるルイズと瓜二つであった。尖った耳と感じられる「気」を除けば、セルの記憶にある主と声色や身長体重はおろか、スリーサイズまで完全に一致していた。さらに、もう一つの差異が少女の左手の甲にあった。セルの超視力は、少女に「ガンダールヴ」のルーンが刻まれているのを確認したのだった。

 

 (六千年前のハルキゲニア、「ガンダールヴ」のルーンを持つエルフの少女、そして、その愛剣は「デルフリンガー」。であるならば、もうひとつの「気」とは……)

 

 

 

 

 

 

 「くうっ!」

 

 巨大な兵士の一撃を受けたエルフの少女が膝をつく。とどめとばかりに最大動力にて押し潰そうとする兵士の聴力器官にかすかな風の音が届く。

 

 

 ヒュン

 

 

 次の瞬間。

 

 

 ドグシャンッ!

 

 ドゴッ! バギッ! ズガガガガガガッ!!

 

 

 三メイル以上の巨体を持った兵士が、轟音とともに吹き飛ばされ、多量の土砂や植物を根こそぎ巻き上げながら、数十メイル先に叩きつけられた。

 

 「……え? な、なにが起きたの?」

 

 自分の身体よりも巨大な剣を長剣で受け止めていたエルフの少女は、すぐには状況を把握できなかった。彼女にとって故郷の仇である巨兵士が、数十メイル先に吹き飛ばれている。当然、自分の力ではない。

 

 (あいつは、水浴び覗かないように木に縛り付けてあるはずだし……)

 

 ようやく、少女は自身の背後から、先端が尖った長大な尾のようなものがくねっていることに気付き、振り返った。

 そこにいたのは、未だかつて彼女が見たこともない、長身異形の亜人だった。

 

 「あ、あなたは、誰?」

 

 少女にとって、唐突に現れた亜人は、警戒して当然の相手だったが、どういうわけか少女は、長身異形の亜人に対して警戒心を持たなかった。見たこともない亜人であるはずが、何処かで逢った様な既視感を感じたのだ。

 

 「わたしの名は、セル……「ガンダールヴ」のセルだ」

 

 そう言って、長身異形の亜人は自身の左手の甲をエルフの少女に示す。

 

 「えっ! あなたも!?」

 

 

 ギギギッ! バヂッ! バヂバヂッ!!

 

 

 セルの尾の一撃を受けた巨兵士は、なんとか起き上がろうとその巨躯を揺らした。しかし、いかなる名剣の一撃にも、強大な魔法の直撃にもビクともしないはずの堅牢な装甲は、大きく歪み、露出した機械部分からは激しい火花が散っていた。機械仕掛けの巨兵士が致命的なダメージを負っていたのは明らかだった。

 

 「う、うそ、「ヴァリヤーグ」の大型機兵があんな風になるなんて」

 

 驚愕する少女とは、違う理由でセルもまた驚きを禁じえなかった。

 

 (ほう、「気」を抑えている状態とはいえ、わたしの打撃に耐えるか)

 

 

 ヒュン  ドガシャンッ!!!

 

 

 しかし、さしもの巨兵士も、セルの尾によるさらなる一撃を受けては、ひとたまりも無かった。爆散した機械兵士を尻目に、少女に向き直るセル。驚嘆の声を漏らす少女。

 

 「すごい。あいつの魔法でも、大型機兵の相手は、もう難しいのに」

 

 「あいつとは、誰だ?」

 

 「うん、あいつってのは……あ、その前にわたしも自己紹介しないと」

 

 少女が、名乗ろうと口を開いた時、亜人と少女のそばに鏡のようなゲートが現れた。その中から現れたのは、一人の若い人間の男だった。

 

 年の頃は、十代半ば。中肉中背の体格と黒髪黒瞳の幼さを残す風貌だった。長身異形の亜人と全裸に剣という少女を見た少年は、力の限りに叫んだ。

 

 「サーシャっ! この化け物!! 俺のサーシャに何しやがった!!」

 

 「はあ、誰が「俺の」よ! この犬!!」

 

 

 パコンッ

 

 

 「ぐはっ!?」

 

 大きく溜め息をついた少女、サーシャは長剣の柄で少年の頭を小突いた。涙目で撃沈される少年。だが、少年が裂帛の気合を放った瞬間、セルはよく知る「力」の波動を感知していた。

 

 (間違いない。この少年が発した力は、「虚無」……すべてがつながったか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いやあ、俺てっきり、サーシャが襲われて、けしからんことをされてるのかと思って。」

 

 「なによ、けしからんことって。まったく、この蛮犬は、そういうことにしか興味ないのかしら?」

 

 少年の誤解はすぐに解けた。少女も衣服を身に付けている。

 

 「それじゃあ、改めて。助けてくれてありがとう。わたしは、サーシャ」

 

 サーシャの自己紹介を受けて、少年もセルに向き直り、右手を差し出しながら言った。

 

 「えっと、その、勘違いして悪かった……」

 

 六千年前のハルケギニア、「ガンダールヴ」のルーンを刻まれたルイズと瓜二つのエルフの少女、ルイズと同じ「虚無」の魔法の使い手と思われる少年。それらの事実から導かれる結論。

 

 (この少年こそが、伝説の存在として六千年後まで語り継がれる「始祖」……)

 

 

 

 「俺、才人っていうんだ。平賀才人。よろしくな、セル!」

 

 「なん……だと?」

 

 黒髪黒瞳の少年の名乗りは、セルの予想を根底から覆すものだった。

 

 




断章之拾前編をお送りしました。

今後、セルの笑い声はすべて「フフフ……」になります(嘘)

今後、セルの決め台詞はすべて「デッドエンド〇〇〇!!」になr(大嘘)

ゴーバイザーを知ってる人っているのかな……

後編はかなり後に投稿する予定です。

ご感想、ご批評のほど、よろしくお願いします。


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