ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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第四話をお送りします。

セルとルイズの学院生活が本格スタートします。




 第四話

 

 

 「……あまりにも時間がかかり過ぎてしまうか。このプロジェクトは一時凍結せざるを得んな。やはり、10号以降の擬似永久エネルギー炉の改良を優先しなければな」

 

 

 ガシャン

 

 

 多くの皺が刻まれた褐色の肌、秀でた頭頂部に長い白髪、鋭い眼光を持つ老人は、壁面のレバーを操作し室内の電灯を落とした。そのまま、上部の主研究室へと去って行く。

 世界征服を目論んだ軍事結社レッドリボン軍に所属する科学者の中でも、最も優秀で、最も危険と評された天才科学者ドクター・ゲロ。

 すべての人造人間の創造主ともいうべき彼だが、後に究極の人造人間となるセルをこの瞬間に見限ったのだった。この後、ドクター・ゲロは永久エネルギー炉の実用化とゼロベース及び半有機ベースの人造人間の研究開発を成功させ、未来の世界を地獄に変貌させる人造人間17号・18号を完成させる。

 皮肉にも、それが彼の命運を絶つとも知らずに。

 

 

 ピッピッピ   

 

 

 だが、放棄されたはずのプロジェクトは、それを統括するコンピューターの運営によって継続されていた。様々な武道の達人たちの細胞、あるいは地球に飛来した異星人の細胞さえも取り込みながら、培養カプセルの中でそれは、成長していった。

 

 

 (……でも、わたしは……うみだしてくれたひとに……いらないっていわれた)

 

 

 ウィィィン

 

 

 (……それでも……わたしが……おおきくなっているのは……なんのため?)

 

 

 カタカタカタカタ

 

 

 (……だれにも……のぞまれていないのに……)

  

 

 ゴボボボボ

 

 

 ルイズは、カプセルの中でずっと自問自答していた。

 

 

 (……ズ……イズ……ルイズ……)

 

 

 (だれ?……わたしをよぶのは……だれなの?)

 

 

 ルイズの意識は、暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ルイズ、そろそろ起きた方がいい。七時を過ぎてしまうぞ」

 

 

 セルはベッドの中でまどろんでいるルイズに声をかけたが、なかなか起きようとしない。仕方なく、毛布を剥ぎ取り肩を軽く揺さぶる。無論、最小限に力を加減しながら。

 

 

 「う~ん。今、おきるわよ~……ぎゃあああああ!!」

 

 

 うっすらと瞼を開けたルイズは、目の前にセルの顔面があることに気づいて絶叫をあげながら、部屋の壁面に後ずさった。

 

 

 「ば、化け物!! い、いつのまに部屋に入り込んだの!?」

 

 

 「おはよう、ルイズ。起床の時間だ。そして、私だ。君の使い魔、セルだ」

 

 

 「へ? つかいま? そっか、昨日召喚したんだっけ……」

 

 

 壁面に後ずさりながら、枕を投げつけようとしていたルイズは、次第に頭がはっきりしてきたのか、大きく深呼吸してから枕を下ろしてセルに命じた。

 

 

 「ちゃんと時間通りに起こしたのは、褒めてあげるわ。使い魔としては当然だけど。それじゃあ、次は服よ」

 

 

 「……承知した」

 

 

 昨晩と同じように、セルは念動力でルイズのネグリジェを脱がし、クローゼットから昨日と同じ制服を取り出し、ルイズに着せて行く。

 

 

 「うん、ありがと。じゃあ、私は朝食に行くから」

 

 

 「承知した。その間に私は洗濯を行うとしよう」

 

 

 「そうね、その辺りにいるメイドに聞けば、洗濯場を教えてくれるはずよ。洗濯が終わったら、食堂に来てちょうだい。その場所もメイドに聞けばわかるわ」

 

 

 言いながら、ルイズはセルとともに部屋を出る。ちょうどその時、隣の部屋からも住人である学生が使い魔を伴って出てきた。人目を引く赤髪とこれまた人目を引く抜群のプロポーションを持つ女性が、虎ほどはありそうな赤い体色の大トカゲを従えていた。それを見たルイズは露骨に顔をしかめた。

 

 

 「あら、おはよう、ヴァリエール。ほんとに珍しい亜人を召喚したわね。本の虫のタバサも知らないって言うし」

 

 

 「タバサ? あんたといつも一緒にいる青髪の無口な子よね。ふーん、本の虫ねぇ。それより、それがあんたが召喚した使い魔ね」

 

 

 「そうよ! 名前はフレイム! サラマンダーの産地として名高い火竜山脈の出身で、かなり高位の竜種なんだから……って、どうしたのフレイム?」

 

 

 フレイムは、その場に佇むセルを恐れるかのように、キュルケの背後に隠れてしまう。当然、ルイズはそれを見過ごさない。

 

 

 「あらあら、どうしたのよ、ツェルプストー。ご自慢のサラマンダーは見かけによらず臆病みたいじゃない!」

 

 

 「なっ、なんですって!? ヴァリエール!」

 

 二人の舌戦が繰り広げられようとしたその時、セルが件のとてもいい声で二人をさえぎった。

 

 

 「ルイズ。朝食に遅れてしまうのではないか? 急いだ方がいい」

 

 

 「あら! ほんとにしゃべれるのね。しかもほんとにいい声だし。はじめまして、亜人さん。わたしは、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。よろしくね」

 

 

 「私の名はセル。ルイズの使い魔をしている。よろしく、ミス・ツェルプストー」

 

 

 「主人より、よっぽど礼儀正しいじゃない。ヴァリエールにはもったいない使い魔ね」

 

 

 「ちょっと! 何してくれてんのよ! ツェルプストー!! 人の使い魔にコナかけんじゃないわよ!!」

 

 

 「ふふっ、朝食に行かなきゃ。じゃあね、ヴァリエール、亜人の使い魔さん」

 

 

 そう言ってキュルケは、手をふりながら、その場を離れていった。後を若干警戒気味のフレイムが続く。

 

 

 「セル! いいこと!? 今後はあのツェルプストーのアバズレとは一切関わらないこと! ご主人様の厳命だからね!!」

 

 

 「……承知した。善処しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、ルイズと別れたセルは洗濯カゴを抱えたまま、学院内を歩いていた。しばらく進んだ後、角を曲がったところで、自分と同じカゴを持っている黒髪のメイドを発見した。セルはメイドの背後から声をかけた。

 

 

 「失礼。洗濯場の場所を教えてもらいたいのだが……」

 

 

 「あ、はい……きゃあ!」

 

 

 振り返ったメイドは、目の前に見たこともない長身の亜人がいたことに驚き、カゴを放り投げて尻餅をついてしまう。カゴの中の洗濯物も空中に散らばってしまう。

 

 

 シュン!!

 

 

 セルは凄まじいスピードで、空中に散った洗濯物とカゴを片腕で拾い集めると、自分のカゴを地面に置き、メイドに三本指の手の平を差し出した。

 

 

 「すまない、お嬢さん。驚かせてしまったようだ。私の名はセル。ルイズの使い魔をしている」 

 

 

 「え、つかいま? ルイズ? あっ、ミス・ヴァリエールの?」 

 

 

 その時、黒髪のメイドは、他のメイドたちが『ゼロ』の二つ名で知られたミス・ヴァリエールが誰も見たことがない亜人の使い魔を召喚したという噂話をしていたのを思い出した。

 

 

 「あ、ありがとうございます。え~と、わたしはこの学院のメイドでシエスタと申します。よろしくお願いします、ミスタ・セル」

 

 

 シエスタは、セルの差し出したに手につかまりながら立ちあがり、セルが拾った自分の洗濯カゴを受け取った。

 

 

 「シエスタといったね。私のことはセルでいい。ミスタとは貴族の男性につける敬称ではないかな? 私はただの使い魔にすぎないのだから」

 

 

 「は、はい……では、セルさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セルとシエスタは連れ立って、学院内にある洗濯場にやってきた。円柱の壁面に獅子の頭の彫刻が複数設えてあり、その口から水が流れ落ちている。

 シエスタは一つの口の前で、カゴから出した洗濯物を水に浸しながら洗い始めた。いかに膨大な知識を持つセルといえど、洗濯における手洗いの極意などはインプットされていない。シエスタの作業の見よう見真似で、ルイズの洗濯物を洗って行く。ある程度、洗った所でシエスタと同じように脱水のため洗濯物を絞り上げる。だが、シエスタが絞っていたのは厚手のバスタオルだったが、セルが手にしていたのはルイズお気に入りの総シルク仕立てのネグリジェだった。

 

 

 「ぶるあぁぁ!」

 

 

 「あっ! だ、だめです!! セルさん。それはそんなに力んで絞っちゃ、千切れちゃいます!!」

 

 

 何気なく隣を見たシエスタは、セルがネグリジェを雑巾のように絞ろうとしているのを見て思わず、二メイルを超える長身のセルに飛びついていた。

 

 

 「どういうことかな、シエスタ?」

 

 

 「女性ものの肌着は、特に貴族の方の物はとても繊細なんですよ……きゃああ!!」

 

 

 セルの体をよじ登るようにして、その両手からネグリジェを救出したシエスタは、勢いの余り自分の胸をセルの顔面に押し付けていたことに気づき、あわててセルから離れた。

 

 

 「なるほど。あのまま、絞っていたら私はルイズからキツイ仕置きを受けていた、ということか。礼をいう、シエスタ」

 

 

 もちろん、セルは、シエスタが赤くなっていることなど全く意に介さずにただ礼を述べた。

 

 

 「あ、あの、ミス・ヴァリエールのお洗濯物はわたしがお部屋までお届けしますので……」

 

 

 「む、そこまでしてもらうわけには……」

 

 

 「い、いいえ! 元々、わたしどもの仕事ですから、気にしないで下さい!」

 

 

 「そうか。では、頼むとしよう。この借りはいずれ、返させてもらおう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 シエスタと別れたセルは、アルヴィーズの食堂で朝食中のルイズと合流した。

 

 

 「……というわけで、洗濯物は後ほど、メイドが届けてくれるそうだ」

 

 

 「ふ~ん。そういえば、セル。あんた、食事はどんなものを食べるの? まさか、睡眠だけじゃなくて食事もいらないっていうの?」

 

 

 「そのまさかだ、ルイズ。私は君たちのような栄養の摂取方法は必要ない。食事ができないというわけではないがね」

 

 

 「やっぱり、変わってるわね」

 

 

 ルイズは、デザートのクックベリーパイを口に運びながら、答えた。ルイズたちは食堂のほぼ真ん中で食事をしていたが、めちゃくちゃ目立っていた。元々、ルイズは、名門貴族ヴァリエール家の三女という血統の良さとその類まれな美貌(身体の一部除く)、さらに『ゼロ』の二つ名で呼ばれる魔法未熟者として、良い意味でも悪い意味でも目立つ生徒だった。その彼女が長身の見たこともない亜人を使い魔として連れていれば、目立たないわけがなかった。いつもであれば、悪い意味の『ゼロ』の二つ名にかこつけた学友の野次が聞こえそうなものだが、得体の知れない亜人がルイズの席のそばにまるで守護者のように控えていては、様子を窺うことしかできない。そうこうしている内に食事を終えたルイズはセルを従え、最初の授業の教室に移動した。

 

 

 召喚の儀式が終わってから、最初の使い魔を伴っての授業。

 

 

 この授業でセルは、知ることになる。自身を召喚した少女が抱える闇と可能性を。

 

  

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 




第四話をお送りしました。

日常描写が思いのほか、くどくなってしまいました。
次でなんとか、ギーシュ君を出してあげたいと思います。

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