ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

43 / 91
お久しぶりです。第三十三話をお送りします。

学院に戻ったルイズたちは……


 第三十三話

 

「学院も久しぶりだわ。何だか毎回、同じこと言ってる気がするけど」

 

 ルイズとセルは、虚無の曜日の朝、魔法学院に帰還した。現在、学院は二月遅れの夏季休暇に入っている。そのため学院内の人影は、まばらだった。

 

 「ミス・ヴァリエール! セルさん!」

 

 本棟の廊下を歩く主従に、明るい声がかけられる。黒髪を揺らしながら、走り寄って来たのは、シエスタだった。

 

 「あら、久しぶりね、シエスタ」

 

 「はい!お久しぶりです、お二人とも。ご無事で何よりです」

 

 「わたしとセルよ? どうにかなるわけないじゃない」

 

 「ふふ、そうですね……セルさんもお元気そうでよかった」

 

 「シエスタも変わりはない様だな」

 

 「はい! わたしは、いつも元気です!」

 

 ルイズが、周囲を見渡しながら、シエスタに聞いた。

 

 「戦争が終わってから、学院で何か変わったことってあった?」

 

 「そうですね。戦に勝ったって話が、学院に伝えられてから、すぐに出征された皆さんが戻られて、ミス・ヴァリエールとセルさんの大活躍を教えて頂きました。それから、すぐ学院の特別休暇が決まったんですけど……あっ、そういえば、ロマリアから来た若い神官さんが、今学院に滞在されていますよ。男性の方なんですけど、すっごくおきれいで」

 

 「ロマリアの神官? そういえば、王宮で「始祖の降誕祭」に合わせて、戦勝を祝うミサをやるって聞いたけど、それの関係かしら?」

 

 「さあ、私もそこまでは……あっ、噂をすれば。ミス、あちらから歩いて来られる方が、そうです。ジュリオ枢機卿です」

 

 シエスタが、示した方に視線を移すルイズ。廊下の先から現れたのは、純白の僧衣に身を包んだ金髪の少年だった。シエスタが、綺麗というのも無理もない。年の頃は、ルイズと大差ないようだが、その端正な顔立ちは女性と見紛うばかり。正に美少年と言って差し支えないだろう。少年は、ルイズとセルに気付くと、満面の笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。

 

 「類まれな美貌を備えた少女と長身異形の亜人の取り合わせ……あなたたちこそが、トリステインに空前絶後の大勝利をもたらした英雄、「蒼光のルイズ」とその使い魔ですね。お初にお目にかかります。ぼくの名は、ジュリオ・チェザーレ。ロマリア宗教庁枢機卿末席に就いている者です」

 

 涼やかな声で自己紹介をするジュリオ。ルイズも答えようとするが、ジェリオの特異な双眸に目を奪われる。

 

 「ああ、これですか? ぼくの両目は「月目」といって、虹彩の異常で左右の色が違うんですよ。昔は凶兆をもたらすと言って酷い目にもあったのですけどね」

 

 「失礼いたしましたわ、ジュリオ枢機卿猊下。わたくし、ヴァリエール公爵家三女ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します」

 

 外国の要人に対する正式な礼をするルイズ。すると、ジュリオは首を振ると優雅な所作でルイズの手を、白の手袋をした右手で取って言った。

 

 「どうか、お気になさらず、ミス・ルイズ。この「月目」も僕にとっては、吉兆をもたらすもの。なぜなら、期せずしてあなたのような美の化身に遭遇することを許されたのですから」

 

 そういって、ジュリオはルイズの手の甲に接吻した。見目麗しい美少年からの接吻。恋に恋する少女であれば、一発で腰砕けになりそうなものだが、ルイズは特段、妙な気分になることはなかった。横で見ていたシエスタの方が頬を染めているぐらいだった。その刹那、ジュリオは意味有り気な視線をルイズの使い魔たるセルに送った。

 

 (この男、よもや……)

 

 セルは、ジュリオの手袋をした右手に違和感を覚える。いや、既視感といった方が近い。

 

 「お上手ですわね、猊下」

 

 「どうか、ジュリオとお呼び下さい。枢機卿とはいえ、僕は末席の助祭枢機卿に過ぎません。」

 

 「承知いたしましたわ。ミスタ・ジュリオ」

 

 「本来なら、救国の英雄と存分に語らいたいのですが、これから王宮に参内しなければなりません。後ほど機会がありますれば、ぜひ茶会にお招きしたいのですが、いかがでしょう?」

 

 「ええ、もちろんです」

 

 にこやかに言葉を交わすルイズとジュリオ。やがてジュリオは名残惜しそうに、その場を後にした。

 

 「ミス・ヴァリエールは、すごいですね! あんな美人の方と普通に話せるなんて!」

 

 ジュリオの姿が見えなくなると、シエスタが興奮気味に言った。ルイズは、何気なく答える。

 

 「美人って、男でしょ? たしかに美形だけど、わたしの趣味じゃ……」

 

 「ルイズ」

 

 主の言葉を遮るようにセルが、言った。

 

 「あの男には、注意しろ。気を許すな」

 

 「め、珍しいわね、あんたがそういうこと言うのって」

 

 ルイズは、セルが他人に対して度々、手厳しい言葉を叩きつける場面を見てきたが、初対面の人間をして「気を許すな」などと言うのは、聞いたことが無かった。

 

 「気を許すなって、今会ったばかりだし、そんな……っ!!」

 

 何かが、ルイズの脳内に閃いた。

 

 (可愛く美しいご主人さまに近付く美形の少年神官、その接吻の光景を見てしまった朴念仁の亜人の使い魔に沸き上がる感情、それはっ!!)

 

 ルイズの名誉のために言及するが、彼女は今や「救国の英雄」と呼ばれる名門貴族の令嬢ではあるが、十六歳の少女でもある。また、ご主人さまとはいえ、かつて究極の人造人間として、一つの星系を滅ぼしかけたセルのすべてを知っているわけではない。多感なお年頃であってみれば、そういった類の思い込みというか勘違いというか自爆というか、をしてしまう愚行を、一体誰が責められるだろうか。

 

 (セルは、あの神官に嫉妬してる!!)

 

 目に見えてルイズの機嫌がよくなった。すごぶる、ご機嫌である。今にも鼻唄を歌いながら、スキップでもしそうであった。いや、すでにしていた。もはや、彼女から英雄としてのストレスや不満など微塵も感じることはできなかった。

 

 「ははーん、ふふーん、もう、しょうがないわね! この三歳児の使い魔は! そんなにご主人様を取られたくないのかしら!?」

 

 頬を染めながら、有頂天のルイズは、そうのたまった。当然、セルにはルイズが、いきなりご機嫌モードになった理由など解かるはずもない。

 

 (ふむ、やはりルイズには、やや躁鬱の傾向があるか。治療が必要なレベルではないがな)

 

 むしろ、年頃も近いシエスタの方が、正確にルイズの心情を察していた。そして、シエスタの心中にも何やら黒々しいモノが蠢く。

 

 (ミス・ヴァリエールは、やっぱりセルさんを……でも、セルさんの反応を視る限りは、まだ大丈夫よね、シエスタ!)

 

 一部始終をルイズの腰元で聞いていたデルフリンガーが、小声で呟いた。

 

 「旦那に限って、天地がひっくり返ったとしてもありえねえだろうが。これだから、娘っこは……」

 

 当然、その呟きはルイズやシエスタの耳に届くはずはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ご機嫌ルイズと悶々シエスタといつものセルは、学院のアルヴィーズの食堂に移動し、朝食を摂っていた。特別休暇中のため、食堂内は閑散としていたが、その中でルイズは、鼻唄交じりにバケットを口に運ぶ。昨晩のセルの助言を気にしてか、いつもよりクックベリーパイの数は少なく、サラダの量が増えていた。

 

 「ん~王宮の食事もいいけど、やっぱりアルヴィーズの食堂の味も、馬鹿に出来ないわね!」

 

 「……料理長のマルトーさんが、聞いたら喜ぶかもしれませんよ」

 

 「なんか、テンション低いわね。なんならシエスタも朝食、一緒にどう?」

 

 「えっ、そんな、ミス・ヴァリエールと一緒のテーブルでなんて恐れ多いですよ」

 

 「わたしがいいって言ってるんだから。セル、シエスタの分の朝食も用意してあげて」

 

 「承知した」

 

 ルイズの命令を受けたセルが、厨房に向かう。それを見たシエスタが、恐る恐るルイズの隣に座る。サラダをパクつきながら、ルイズがシエスタに問いかける。

 

 「シエスタたちにも、休暇が出るんでしょう? 予定とかあるの?」

 

 「あ、はい、久しぶりに故郷のタルブに戻ろうかと……」

 

 実は、シエスタはタルブへの帰郷にセルを誘おうと考えていたのだが、邪魔者、もといご主人さまであるルイズの事はどうしようかと思案していたのだ。

 

 「ふーん、タルブね、たしかアルビオンに近いんだっけ」

 

 ルイズが答えると同時に、食堂の入り口から声がかけられる。

 

 「ルイズじゃない! ようやく学院に戻ってきたのね!」

 

 入り口から姿を見せたのは、キュルケ、タバサ、ギーシュ、モンモランシーの四人だった。

 

 「あら、だれかと思えば、「ロサイス防衛戦の英雄」たちじゃない。久しぶりね」

 

 「救国の英雄にそう言われるとなぁ……」

 

 ルイズの言葉に苦笑いを浮かべるギーシュ。すかさず、モンモランシーが突っ込む。

 

 「あなたは、英雄と呼ばれるだけの活躍をしたのかしら? あなたから聞かされた武勇伝とキュルケたちから聞いた話には、大きな乖離があるみたいだけど」

 

 「い、いやあ、モンモランシー、それは、主観の相違というか、なんというか……」

 

 思わず、しどろもどろになるギーシュ。自分の手柄をいの一番に愛する恋人に報告した彼だが、そこには相当な誇張が含まれていたことは想像に難くない。じゃれあう恋人たちを尻目にルイズたちと同じテーブルにつくキュルケとタバサ。ちょうどその時、セルが厨房からシエスタの朝食を手に姿を見せた。

 

 「今日は、彼に給仕させてるのね。じゃあ、わたしも。亜人のウェイターさん、A朝食をお願いできる?」

 

 「……特B朝食、三人前」

 

 「あ、朝からそれで、どうして太らないのよ。あ、わたしは、B朝食で」

 

 「えーと、ぼくは、C朝食にしようかな」

 

 シエスタの前に朝食を置いたセルが、ご主人さまを伺う。肩をすくめながらも、頷くルイズ。

 

 「……承知した」

 

 「あ、あのセルさん、わたし手伝います!」

 

 「いや、せっかくの朝食が冷めてしまう。マルトーもいい気分はしないだろう」

 

 シエスタの申し出を断ったセルが、再度厨房に向かう。半ば以上、自身の朝食を平らげていたルイズが、ロサイス組に尋ねる。

 

 「そういえば、あんたたちは、わたしより二週間は早く休暇に入ったのに、学院にいるってことは、もう休暇から戻ってきたの?」

 

 ルイズの疑問に、沈んだ表情を見せるロサイス組。キュルケが、代表して言った。

 

 「もうじゃなくて、まだよ……わたしたちも今日から休暇なのよ」

 

 「は?どういうことよ、成績足らずで追試でも受けてたの?」

 

 「そんなわけないでしょっ!」

 

 キュルケに続いて、タバサがぽつりと言った。

 

 「……軍部の嫌がらせ」

 

 「ぼくたち、ロサイス組は、きみも知っているように都市防衛の功績を認められ、従軍した全員に白毛精霊勲章が授与されることになったんだけど……」

 

 後を引き継いだギーシュが説明するには。

 

 勲章授与の手続きが、一向に進まなかったのだという。さらに、一度は、学院への帰還を許された学徒小隊は、共に死線を潜り抜け、全員昇進が決定したはずのロサイス守備隊の面々と合わせて、王宮近くの中央練兵場に呼び出され、缶詰にされてしまった。軍上層部の一部にとって、アルビオン遠征において唯一といってもいい戦果を挙げたのが、お飾りの素人部隊とお荷物の守備隊だという事実が、腹に据えかねたのだろう。

 最終的には、政務引継のために一時帰国していたマザリーニ枢機卿兼サウスゴータ総督代行閣下の一喝によって、学徒・教職小隊への勲章授与とロサイス守備隊の昇進は、通常通りの手続きを経て、承認されることとなった。ちなみに、一喝の場面にたまたま遭遇した練兵場書記官は、その時のマザリーニを見て、「あれは、鬼だ」と同僚に語ったという。

 

 「そんなことがあったのね……」

 

 王宮での二週間は、祝宴と縁談話に忙殺されていたルイズには、初耳の事だった。

 

 「あれ? でも、モンモランシーは、従軍してなかったんじゃないの?」

 

 ルイズの言葉に、顔をそむけるモンモランシー。キュルケが、からかうように説明する。

 

 「いとしのギーシュをずっと待ってたのよね、モンモランシー?」

 

 「そ、そんなわけないでしょうっ!!」

 

 「ああ、愛するモンモランシー……なんて、きみはいじらしいのだろう、ぐへっ!!」

 

 頬を染めたモンモランシーの肘鉄が、ギーシュの脇腹に突き刺さる。

 

 いつもの学院の光景に、戦争が終わったことを実感するルイズ。その時、空中から複数のおぼんが、テーブルに降ってくる。

 

 「待たせたな」

 

 念動力で、複数のおぼんを運んできたセルだった。しばらくは、朝食を摂りながら、近況を報告しあうルイズたち。一区切りついたところで、キュルケが切り出した。

 

 「ルイズ、あなたたちも、休暇は自由に過ごせるんでしょう? 予定は決まってるの?」

 

 「一応、休暇中に実家に戻るくらいだけど……それがどうしたのよ?」

 

 キュルケは、答えずに自身の豊満な胸元から、いくつもの紙片を取り出し、テーブルに並べた。

 

 「なにこれ、地図?」

 

 一枚の紙を取り上げたルイズが尋ねる。古ぼけた紙には、トリステインの地形と地名、そして赤丸の印が書かれていた。

 

 「ふふ、地図は地図でも、ただの地図じゃないわ。わたしが、苦心して集めた財宝の在り処を示す地図なんだから!」

 

 自信満々のキュルケの言葉に、胡散臭そうな顔をするルイズ。

 

 「宝地図なんて、そんな簡単に手に入るモノなの?」

 

 「まあ、全部がホンモノとは言わないけどね。どれか一つでもホンモノなら、学院より大きな城が領地付きで買えるわよ!」

 

 「ますます、怪しいわね」

 

 「まあ、普通はそういう反応だよね」

 

 ギーシュがモンモランシーと顔を見合わせて言った。

 

 「あれ、これってタルブの地図ですよ」

 

 それまで黙って貴族の子弟の会話を聞いていたシエスタが、近くの地図を見て言った。

 

 「シエスタの実家よね。宝の噂とかってあるの?」

 

 ルイズの質問に首をひねるシエスタ。

 

 「財宝があるなんて話、聞いたことありませんね」

 

 「ま、まあ、休暇を楽しむアウトドア旅行としても、楽しめるわよ、多分。ルイズも参加するわよね?」

 

 旗色が悪くなりそうなキュルケが、あわててルイズに聞いた。

 

 「うーん、気分転換にはなるかしらね……タバサやモンモランシーも参加するの?」

 

 「……」

 

 ルイズの問いに無言で頷くタバサ。モンモランシーもため息をつきながらも同意を示す。

 

 「魔法薬の調合に必要な薬草採取も兼ねて、だけどね」

 

 「もちろん、モンモランシーの騎士たる僕も参加するつもりさ!」

 

 学友たちとの旅行経験など皆無のルイズは、内心かなり乗り気だった。だが、がっつくように見られるのも嫌なので、すぐには承諾せず、シエスタに話を振った。

 

 「シエスタもどう? タルブにも行くなら道案内をお願いできそうだし、それに野営する時、料理ができる人間が居てくれると助かると思うし」

 

 「よ、よろしいんですか? ぜひ、ご一緒させてください!」

 

 大喜びで承諾するシエスタ。おまけはついてくるが、セルとともに故郷に帰ることができるなら、と考えていたのだ。

 

 「じゃあ、ルイズも決まりね! これでメンバーは、揃ったわね!」

 

 「えーと、メンバーっていうと……セルも含めて全部で、七人ね」

 

 「いいえ、もう一人居るわ。わたしのジャンも参加するのよ」

 

 キュルケの言葉に、顔をしかめるルイズ。

 

 「キュルケ、あんた……最近はおとなしくなったと思ったら、まだ男漁りを続けていたの?」

 

 「わたしは、常に愛を探し求める「微熱」のキュルケだもの……でも」

 

 突然、身体をくねらせたキュルケが、熱病に浮かされたような瞳でつぶやいた。

 

 「わたし、とうとう真実の愛を見つけたかもしれない……」

 

 「うぁ……」

 

 学友の惨状に、絶句するルイズ。それを見ていたモンモランシーが、今気付いた様に言った。

 

 「ああ、そういえばルイズは、まだ知らなかったのよね、キュルケの真実の人。会ったら、もっと驚くと思うわよ」

 

 「……同感」

 

 「ぼくもそう思うよ」

 

 

 その後、細かい準備について詰められ、キュルケ主催による宝探し旅行は、翌々日の朝に出発という段取りとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第三十三話をお送りしました。

原作とは、順番が違いますが、次話から宝探しとタルブ訪問となります。

さて、タルブに祀られているモノとは……

ご感想、ご批評のほど、よろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。