ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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お久しぶりです。前回の投稿から、時間が空いてしまいました。

いや、まさか久しぶりにPS2を引っ張り出してゼロの使い魔のゲーム第3作をフルコンプするなんて!

よもや、ツンデレイベントを制覇するなんて!

有るわけないじゃないですか!!


…………えーと、その、さ、最新話、断章之伍をど、どぞう!!


 断章之伍 イザベラ様漫遊記

 

 

 止め処なく、風は吹き、雲は流れ行く、誰の許しが無くとも……

 

 「大アンリのガリア周遊記」の各章冒頭に綴られている文句である。無限に広がるかのような平原を前に、イザベラは、その文句を思い出していた。今の彼女の装いは、いつもと違う。使い古された青い乗馬服と年季を感じさせる膝丈のブーツ。王家の証である青髪を隠す、つば広の騎士帽子。巷で流行っている男装の麗人姿だった。イザベラは、背後に控える自身の使い魔に嬉々として問いかけた。

 

 「どうだい、セル?これなら、いくらなんでもわたしが、高貴なるガリア王国の王女だなんて、わからないだろう?」

 

 実際のところ、美少女と呼んで差し支えないイザベラではあったが、王族としての品位や威厳、にじみ出る気品などとは、まあ、無縁だった。王冠をはずし、豪奢なドレスさえ脱いでしまえば、それだけで、まず王族には見えない。だが、自身の変装術に自信満々な主に対して、我らが人造人間セルは、お行儀良く、そうだな、とだけ答えた。使い魔の気の乗らない返事にも、特に気を悪くすることなく、イザベラは懐から、いくつかの書簡を取り出した。

 

 「さて、初っ端は、どの依頼からいこうかねぇ……」

 

 イザベラが持っている書簡は、ガリア王宮騎士団連合本営から送られてきた北花壇騎士団への依頼書であった。大っぴらに、軍や花壇騎士団が動けない様々な案件が寄せられていた。その中から、イザベラは一件の依頼を選び出した。

 そして、使い魔たるセルに命じる。

 

 「決めたわ、セル。ゲルマニアとの国境沿いアルデラ地方よ!!」

 

 「承知した。」

 

 セルとイザベラは、高速飛行によって「黒い森」と呼ばれる広大な森が広がるアルデラ地方に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「黒い森」のガリア側にひっそりとたたずむ小さな村、エギンハイム村。国境沿いの村であるため、大きな戦争の度に、ガリア領とゲルマニア領を行き来していた。人口は数百人、主な産業は林業である。特にライカ欅と呼ばれる広葉樹は、建築資材や高級家具の材料として高値で取引される。ところが、春先からライカ欅の群生地を「翼人」が占拠してしまったので、排除してもらいたいという。「翼人」とは、その名の通り、背に翼を持つ亜人の一種である。翼を持つ以外は、外見的に人間とは差異は無く、交配も可能。さらに先住魔法の使い手でもあった。

 本来であれば、花壇騎士、ましてや裏仕事専門の北花壇騎士にお鉢が回ってくるような案件ではないが、エギンハイム村を含む周辺地域の領主は、王家に対して批判的であり、税の徴収についても、中央と一悶着起こしていた。業を煮やした中央府は、北花壇騎士の派遣を口実に、領土治まらずを以って、この領主を更迭する腹積もりであった。

 

 「まあ、大した案件じゃないが、あそこの領主には、いい印象もないしね。これを機に臭い飯でも食ってもらおうじゃないか。」

 

 およそ、王族とは思えない言い回しをするイザベラ。セルの高速飛行によって、本来なら王都リュティスから二日はかかるアルデラ地方まで、わずか一時間の行程である。眼下に広大な「黒い森」が見えてきた所で、セルがイザベラに注進する。

 

 「ふむ、どうやら住民たちは、中央から派遣される騎士を待つことをやめたようだ。自らの手で、障害を排除する気だぞ。」

 

 「なんだって!?冗談じゃないよっ!わたしの華々しい周遊デビューが台無しじゃないかっ!!」

 

 イザベラは、直ちにセルに命じる。

 

 「セル!主として命じるよっ!すぐに馬鹿どもを止めるんだっ!!」

 

 「承知した。」

 

 二人は、それまでの倍のスピードで、ライカ欅の群生地へ急行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライカ欅の群生地は、高く伸びた枝葉に遮られ、昼間でも薄暗かった。群生地の中でも一際太く、背の高いライカ欅の前に数十人の村人が斧や弓で武装して集まっていた。ライカ欅の周囲には、一枚布の簡易な衣装を纏い、背に一対の翼を持った人間たちが浮かんでいた。その数は、五~六人ほど。彼らが「翼人」だった。

 村人たちは殺気立ち、いつ矢を放つかもわからない有様だった。「翼人」たちも油断無く村人たちを見据えている。正に一触即発の状態だ。

 そんな両者の間に、一人の少年と一人の「翼人」の少女がいた。二人はお互いが属する勢力へ、必死に説得を試みていた。

 

 「兄さんもみんなも、まずは落ち着いてくれ!翼人たちと争って、何になるっていうんだっ!」

 

 まだ、あどけなさを残した少年が、村の仲間たちに自制を促そうとするが、彼らは理性を失いつつあるようだった。村人のリーダー格と思われる体格のいい青年が、恫喝するかのように少年に迫った。

 

 「おいっ、ヨシア!いくら弟だからって、いつまでも甘い顔をしてると思ったら大間違いだぞっ!これは、村の総意なんだ。それに逆らうなら、村長の息子でも、弟でも容赦しないぞっ!!」

 

 ヨシアと呼ばれた少年は、自身の兄であるサムの迫力に一瞬ひるむ。翼人の少女も、自身の同胞に声をかける。

 

 「みんな、落ち着いて!このまま戦ったりしたら、森との契約を汚すことになってしまうわ!」

 

 「アイーシャ様!どうか、そこをお退き下さい!降りかかる火の粉は、払わなければなりません。自衛のためなら森の精霊も、理解してくれるはずです!」

 

 翼人たちも、村人からあからさまな敵意を向けられたためか、非常に興奮しているようだった。

 いよいよ、説得する二人を押しのけて、戦端が開かれようとした、その時。

 

 

 「双方、待ちなっ!!」

 

 上空から、若い女性の大声が響き渡る。それと同時に対峙していた村人と翼人が、一切の動きを止める。それは、比喩ではない。猟師と思われる村人は、弓につがえた矢を放つことができない。指を離すどころか、身動き一つとれないのだ。滞空していた翼人たちにいたっては、空中で完全に停止していた。とてつもなく強力な念力だった。

 

 「な、なんだ、こりゃ!?う、動けねぇぞ!」

 「鳥どもの、せ、先住魔法か?」

 「い、いや、翼人どもも、浮かんだまま止まってるぞ!」

 

 「こ、これは、人間の魔法!?だが、こんな強力な……」

 「これでは、森の精霊の力を借りることができないぞ!」

 「み、見ろ!何かが、下りてくるぞ!」

 

 スタタッ

 

 ちょうど、村人と翼人たちが対峙している中心に、一人と一体が、上空から降り立った。一人は若い女性だった。さっきの大声は彼女のものだろう。都で流行っているという男装の麗人姿で、年の頃は十七ほど。腰には、杖を下げており、メイジのようだ。もう一体は、見たこともない長身異形の亜人だった。

 若い女性が、村人と翼人の双方に告げる。

 

 「わたしは、ガリア北花壇騎士イザ……じゃなかった。え、えーと、あ、そうだ。こほん、わたしは、ガリア北花壇騎士ジャンヌであるっ!エギンハイム村の求めに応じて、馳せ参じたっ!!」

 

 イザベラの大仰な名乗りに、一瞬虚をつかれたように呆ける村人たち。リーダー格のサムが、我に返り斧を振り上げたままの格好でイザベラに懇願する。

 

 「か、花壇騎士さまっ!お待ちしておりましたっ!!エギンハイム村の村長の長男、サムと申します。ど、どうか、あの翼人どもを成敗してくださいましっ!!」

 

 待っていたなど、どの口が言う。イザベラは、サムの言葉を無視すると、目の前で仲良く固まっているヨシアとアイーシャに近寄りながら、声をかける。

 

 「どうやら、まともに話せそうなのは、おまえたちだけみたいだねぇ。さて、話してみな。」

 

 そう言って、イザベラはセルに向かって片手を振る。すると、二人にかけられていた念力が解かれる。思わず、たたらを踏む二人。ヨシアが勢い込んで、イザベラに話し始めた。

 

 「翼人たちは、春先の繁殖のためにライカ欅に家を作るんです。何も、俺たちを困らせようとして群生地を占拠してるわけじゃないんです。」

 

 さらに、ヨシアは、村が糧として切り出す木は「黒い森」の中にいくらでもある。村人たちは、ただ高く売れるライカ欅を切り出したいがために、翼人を追い出そうとしている、と説明した。これには、サムたち村人も黙ってはいない。口々にヨシアを糾弾する。

 

 「よ、ヨシア!!この、村の恥さらしが!!」

 「村の仲間よりも、鳥どもの肩を持つのか!?」

 「お、おまえ、まさか、まだその翼人と……」

 

 

 「うるさいねぇ。少し黙りなっ!」

 

 雑言にイライラしたイザベラが、村人たちに向かって手を振ると、セルの念動力が強化され、村人たちは一言も発せられなくなる。ヨシアに続いてアイーシャが口を開く。

 

 「わたしたちは……わたしたちの存在が争いを引き起こすなら、この木から去ります。」

 

 「そんなっ!きみたちは、大きな木がなければ家を、巣をはれないじゃないかっ!」

 

 「でも、争いに精霊の力を使うぐらいなら……」

 

 

 ヨシアとアイーシャの話し合いをよそに、イザベラの心情は九割方、翼人にかたむいていた。ヨシアの話や、村人たちの慌てた様子から見れば、今回の案件は、エギンハイム村の勇み足だろう。ここは、絶好のタイミングで帽子を取り捨て、王女としての身分を明かし、ライカ欅の群生地を王家の直轄地にしてしまえばいい。なにより、イザベラは翼人たちの優美な姿をすっかり気に入ってしまっていた。ふと、自身の使い魔であるセルを振り返る。その容貌は、優美さからは、かけ離れている。

 

 「セル、おまえも翼人たちほどとは、いわないけど、もう少し、その姿何とかならなかったのかねぇ。」

 

 すると、セルは、おなじみの良い声で答える。

 

 「わたしの美しさが理解できないとは……悲しいな、主よ。」

 

 「ああァ?冗談は、顔だけにしなっ!」

 

 「……」

 

 バッサリ、である。

 

 ヨシアたちの話し合いも佳境に入るようだった。イザベラは、自身のつば広の帽子に指をかける。だが、セルが割り込むように主に言った。

 

 「ところで、イザベラ。もし、この場にかの大アンリが居たとしたら、この状況どうさばく?」

 

 「えっ……」

 

 使い魔の言葉に、虚をつかれた表情をするイザベラ。

 

 この場に、あの大アンリがいたら……

 

 

 イザベラが尊敬してやまない、自身の先祖「大アンリ」。本名アンリ・ファンドーム・ド・ガリアは、およそ千年前のガリア王である。王国中興の祖として、始祖「ブリミル」、祖王ガリア一世に次ぐ偉人として国内で絶大な人気を誇る。その人格は、品行方正、清廉潔白、質実剛健。ガリアでは賞賛を意味する四字熟語は、大アンリを讃えるために整えられたとさえ言われていた。なにより、「大アンリのガリア周遊記」に記された冒険譚は、人々の心を捉えて離さない。

 

 イザベラは、はたと気づく。わたしの大好きな大アンリなら、救い難い悪人でもなければ、片方の意見を、権力を笠に着て封殺するなどするはずがない。それなら、どうすれば……

 

 セルが、何気なくイザベラに言った。

 

 「物事は、常に単純だ。誰が何を欲しているかを考えればな。」

 

 「!そ、それなら……セル!念力を今すぐに解くんだ!」

 

 「承知した。」

 

 その場の全員が、自由を取り戻すと同時に、イザベラは帽子をかぶったまま、高らかに叫んだ。

 

 「高貴なるイザベラ王女殿下の名代として、北花壇騎士ジャンヌが宣言するっ!エギンハイム村のライカ欅すべてを二万エキューで買い取る!そして、そのライカ欅を、翼人アイーシャとその氏族に、殿下の御名において貸与するものとする!期間は百年、対価は……いずれ、イザベラ殿下がご行幸されたあかつきには、氏族を挙げて歓待すること!これは、決定事項である!殿下と王陛下を除く何人も異議を差し挟むこと、まかりならんっ!!」

 

 あっけにとられる村人と翼人。イザベラは、サムの前に立つとセルに命じる。

 

 「セル、払ってやりな。」

 

 「承知した。」

 

 シュルン 

 

 ギュパッ

 

 ジャラジャラジャラッ

 

 亜人の尾の先端が、漏斗状に広がると、そこから二万枚のエキュー金貨が、吐き出される。それは、エギンハイム村の年間総収入を上回る大金だった。そんな大金を前に茫然自失のサムたち村人。突然の展開についていけない翼人たちも同様だった。

 

 イザベラは、ヨシアとアイーシャの二人に近寄りながら言った。

 

 「後は、おまえたちに任せるよ。村と氏族にとっていいようにしな。」

 

 その言葉に、感極まったかのように頭を垂れるヨシア。

 

 「あ、ありがとうございますっ!!騎士様、このご恩は生涯忘れませんっ!!」

 

 「そういうのはいいから、殿下がお越しになられたら、精々わたしに恥をかかさないように歓待してもらおうか。」

 

 ヨシアの傍らに立つアイーシャが、請け負う。

 

 「もちろんです。必ずやご満足いただけるように努めさせていただきます。」

 

 「なら、それでいい。いくよ、セル!」

 

 「承知した。」

 

 

 イザベラは、セルとともにライカ欅よりも高く飛び上がると、そのまま高速で飛翔した。

 

 

 

 

 

 高空を飛翔するイザベラは、未だかつて感じたことのない喜びと充足感の中にいた。王女という身分なしで掛け値のない感謝の意を伝えられたのは、一体いつ以来だろう。もしかしたら、十年以上前、あの従妹姫と何も考えず無邪気に遊んでいた頃以来かもしれない。

 

 その想いが、彼女の内で眠っていた資質を目覚めさせた。本来であれば、決して覚醒しなかったであろう力。密かにセルはほくそ笑む。

 

 (やはりな。分身体とはいえ、このわたしを、人造人間セルを召喚したのだ。本体の主と同種の力を秘めていて不思議はない……だが、本体の主と比べると、不完全だな。何かが足りない、か。)

 

 セルの内心など、何処吹く風といった様子のイザベラが、輝かんばかりの笑顔と共に言った。

 

 「さて、次は何処に行こうかねぇ、セル?」

 

 「イザベラの望むままに……」

 

 「はっ!当たり前だろう!おまえは、わたしの使い魔なんだからっ!!」

 

 

 

 

 この後、イザベラとセルは、ガリア各地を巡り、あらゆる揉め事に首を突っ込んだ。後世、その物語は、『冒険女王イザベラと奇天烈な使い魔』という冒険譚として、永く語り継がれることとなるが、それはまた、別の話……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




断章之伍をお送りしました。

本来なら、ゲーム内容を反映した断章の予定だったのですが、い、いつの間にかイザベラ様の話に変わっていた……

これも、イザベラ様の魅力の成せる業か、いや、まあ、すみません。

次話も断章あるいは三章の外伝の予定です。一体いつ四章に入れるのか……

ご感想、ご批評よろしくお願いします。

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