ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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第三十話をお送りします。

本編も三十話を迎えることが出来ました。

これも、ひとえに読者の皆様のおかげです。

ありがとうございました。


 第三十話

 

 

 ルイズが発動した「アブソーブ〈吸収〉」によって神聖アルビオン共和国軍は、戦闘力の大半を失った。地上軍の要であるメイジ部隊は完全に無力化され、虎の子の戦列艦隊は、不時着には成功したものの行動不能。なにより敵艦隊旗艦から放たれたと思われる、魔力を吸収する未知の魔法あるいは兵器の存在が、彼らの戦意を大幅に削いでいた。

 

 トリステイン軍旗艦「ヴュセンタール」号の船首から、敵軍の様子を確認したルイズは、背後の使い魔に言った。

 

 「さすがに魔法が使えなくなれば、降伏するでしょ。ところでセル、これっていつ収まるの?」

 

 ルイズは自分の両手を見ながら、質問した。彼女の全身は、青白く発光していた。ある程度のメイジであれば、ルイズが途方もない魔力を放出してるのが感じられるだろう。だが、それはごくわずかな余剰魔力の放出にすぎない。今のルイズは、数百人分のメイジの魔力に加え、八隻の戦列艦に搭載されていた風石の魔力をも取り込んでいた。

 

 「おそらく、余剰魔力が尽きるまでだろう。一時間で尽きるか、一日で尽きるかは私にもわからん」

 

 「あ、そう……しばらくはこのままなのね」

 

 ため息をつくルイズ。よく見ると、ため息すら青白く光っているようだった。デルフリンガーが控えめな声で発言した。

 

 「あのぉ、お二人さん? もう少し、自重してくれませんかねぇ。自前で新しい「虚無」を編み出しちまうとか、どんだけ……」

 

 「私は、自分の頭に浮かんだスペルを詠唱しただけよ?」

 

 「おまえは、ただルイズが、自らの力を引き出す手助けをしていればいい」

 

 担い手と、その使い魔の言葉に沈黙するデルフリンガー。セルも敵陣を観察すると、主に注進する。

 

 「ルイズ、最後のトドメが必要だ」

 

 「と、トドメって、まさか敵陣を吹き飛ばせとか言うんじゃないでしょうね?」

 

 「当たらずも遠からず、だ。敵の戦う力は奪った。後は、こちらの圧倒的な力を見せつけ、敵の心を圧し折るのだ」

 

 「……あんた、やっぱり理想主義者なんかじゃないわ」

 

 ルイズが振り返り、自身の使い魔をジト目で見つめる。その時、彼らの背後からアンリエッタ王女とウェールズ皇太子が走り寄って来た。

 

 「ルイズ! あなたは本当にすごいわ!! 敵軍の魔力を吸収してしまうなんて!! この魔法があれば、どんな戦争も止めることが出来るかもしれないわ!!」

 

 興奮するアンリエッタを、なだめるようにウェールズが言った。

 

 「だが、ミス・ヴァリエールの身体は大丈夫なのか? 風石の魔力をも吸収したとすると、メイジ数千人分の魔力をその身に宿したということになるが……」

 

 はっとするアンリエッタ。声のトーンを落とし、心配そうにルイズに尋ねる。

 

 「そ、そうですわね。ルイズ、あなたの身体や精神は大丈夫なの? あなたの小さな身体に、そんな膨大な魔力を吸収してしまって。もし、あなたの心身に負担を掛け過ぎるなら、今の魔法の使用を禁じなければ……」

 

 王女の言葉に、ルイズは慌てて両手を振りながら答える。

 

 「だ、大丈夫です、姫さま!! なんか、今は光ってますけど、私の身体は何ともありませんから!!」

 

 「さて、最後の仕上げはお前たちに任せるとしよう」

 

 突然、セルがウェールズに対して、いつもの調子で言った。

 

 「ど、どういうことだろうか、使い魔殿?」

 

 「敵の戦力は大幅に減少したが、降伏を促すためにこちらの力を見せ付ける必要があるのだ。以前、オスマンに聞いたのだが、四王家の血に連なるメイジには、合体魔法なるものがあるという」

 

 「たしかに王家のみに許されたヘクサゴン・スペルと呼ばれるものはあるが……」

 

 セルは、再度ルイズの身体を抱きすくめながら、主に言った。

 

 「ルイズ、今回の戦争、その元凶は、言ってしまえばこの二人だ。その責任を取らせるための力をきみが与えるのだ」

 

 「ちょっと、セル! 元凶は言い過ぎよ! ま、まあ原因の一つだとは思うけど……」

 

 思わず本音が漏れるルイズ。だが、彼女には使い魔の意図が理解できていた。「アブソーブ〈吸収〉」を詠唱した際に、それと対になる魔法のスペルも脳裏に浮かんでいたのだ。集中を開始したルイズの身体がさらに眩さを増し、共鳴音が響く。

 

 

 キィィィィィィン

 

 

 「リル・ヴァーゾル・ダネ・ヴィール・ガーン・ラハース・クリルーン・アウス・ベン・ガール・ノス・ムール・クア・ディーブ!」

 

 ルイズが詠唱したのは、「アブソーブ〈吸収〉」で吸収した魔力を味方に分け与える魔法。

 

 「ディストリビューション!!」

 

 ルイズの身体から溢れ出た青白い純粋な魔力が、アンリエッタとウェールズに流れ込み、二人の身体も青白く発光しはじめた。

 

 「あ、あれ、私……」

 

 立て続けに「虚無」の魔法を発動したルイズが意識を失う。主を抱きとめたセルは、二人の王族に向き直り言った。

 

 「今のお前たちなら、望む力を発揮することができるはずだ。我が主の信頼を裏切るなよ」

 

 船首の場所を譲るセルとルイズ。アンリエッタとウェールズが代わりに船首の突端に立つ。

 

 「ま、まるで魔力が、後から後から湧き出してくるようですわ! ウェールズ様、今なら!」

 

 「ああ、ぼくのアンリエッタ! この戦争にぼくたちの手で終止符を打とう、愛しい人よ!!」

 

 二人の詠唱が、高らかに紡がれていく。ウェールズはアンリエッタを愛しさを込めた瞳で見つめ、アンリエッタはウェールズを熱く潤んだ瞳で見上げる。水の竜巻が二人の周囲に巻き起こる。

 

 七百年前のハルケギニアにおいて、勃発した亜人たちによる一大蜂起。それまで、敵対していた二つの王国は、手を取り合い、共に立ち向かった。最後の決戦において、不倶戴天の敵としてお互い憎み合っていたはずの一人の王子と一人の姫が、人間の未来のために、その類まれな魔力を掛け合わせた。本来、同じクラスであっても、息が合うことは珍しいという。だが、二人は密かに愛し合っていたのだ。ただ一撃を以って亜人の大軍団を吹き飛ばした伝説の「オクタゴン・スペル」。 

 今、伝説が再現されようとしていた。

 『風』、『風』、『風』、『風』、そして『水』、『水』、『水』、『水』。

 風と水の八乗。ルイズから与えられた魔力によって、一時的にスクウェアクラスとなったウェールズとアンリエッタの詠唱が互いに干渉しあい、際限なく膨れ上がっていく。「ヴュセンタール」号の前方の空間で巨大な八芒星を描く竜巻は、無数の真空の層を内包し、ライトニングクラウドを遥かに超える雷と超高圧の水の刃が内部を荒れ狂う。

 そして、詠唱が完成する。

 

 「「ディヴァイン・トルネード!!」」

 

 

 ズゴォォォォォォォォ!!!

 

 

 直径数百メイル、高度十リーグを超える超巨大竜巻が、神聖アルビオン共和国軍に迫る。不時着した「ピューリタン」号の艦橋から、どうにか脱出したホーキンスは、荒々しくも神々しい神の竜巻の威容を前に、静かに目を閉じる。共和国の兵たちも、もはや逃げ出す者はおらず、ただ最期の瞬間が訪れるのを待っていた。

 神の裁きを待つ、敬虔な信徒のように。

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

 

 だが、裁きは下らなかった。ディヴァイン・トルネードは、共和国軍の陣地をそれるように進み、ロンディニウム郊外の森を跡形もなく吹き飛ばした後、ゆっくりと消えていった。呆然とした様子の共和国軍最精鋭部隊に空から聞き覚えのある声が降ってきた。

 

 『忠勇にして親愛なるアルビオンの兵たちよ!! どうか、私の言葉に耳を傾けてもらいたい!! 私は、ウェールズ・テューダーである!!』

 

 スクウェアクラスとなったウェールズが自身の声を風魔法によって拡大していた。

 

 『私は、王城を追われ、国を追われた身だ。祖国に大きな混乱を招いた不甲斐無い私の言など、聞く耳持たないと諸君らが考えても、何ら不思議ではない。だが、あえて諸君らに願いたいことがある!』

 

 一呼吸おいたウェールズが、さらに声を大にして叫んだ。

 

 『どうか、生きて欲しい!! これからのアルビオンには、諸君らが、必ず必要となる!! その力を、その意思を、その想いを!! 諸君らが愛してくれたアルビオンのために!!……それだけが私の願いだ』

 

 静まり返った共和国軍の陣地の前方、不時着した「ピューリタン」号のそばで、ウェールズの言葉を聞いていたホーキンスは、わずかな瞑目の後、自身の胸につけられていた共和国軍の勲章や徽章を力任せに引き千切ると、魔力を吸われた疲労感にもめげず、精一杯の声で答えた。

 

 「フレイ、アルビオン!! フレイ、プリンス・オブ・ウェールズ!!」

 

 総司令官の言葉を聞いた周囲の共和国軍の兵たちも、すぐに同調する。それは、瞬く間に陣地内に拡がり、巨大な唱和となった。

 

 「フレイ、アルビオン!! フレイ、プリンス・オブ・ウェールズ!!」

 

 それを聞いていたトリステイン軍の将兵たちも、負けじと声を張り上げた。

 

 「ヴィヴラ、トリステイン!! ヴィヴラ、アンリエッタ!!」

 

 平原に両軍の唱和が響き渡った。誰の目にも会戦の終わりは明らかだった。

 

 「みな、ありがとう。ありがとう……」

 

 「ウェールズ様……」

 

 滂沱の涙とともに、呟き続けるウェールズに寄り添うアンリエッタの目にも涙が浮かんでいた。そんな二人には見向きもせず、セルは自身の腕のなかで眠る主を見下ろしていた。

 

 (ついに自らの望みを叶える魔法を、編み出すまでになったか、ルイズ。よくやった、我が主よ。今はやすらかに眠るがいい)

 

 「……」

 

 目を持たないデルフリンガーが、主従を複雑な想いで見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




第三十話をお送りしました。

オリジナル魔法を連発してしまいました。いまさらですが、今後はタグにチートも追加させていただきます。

次話で、第三章も区切りとなります。

まあ、戦闘らしい戦闘もなかったんで、ド・ポワチエ元帥(仮)は元帥杖を手に入れることはないでしょう(メール確認しながら)

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