ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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第二十六話をお送りします。

公爵閣下には、最後まで道化になっていただきました。

公爵家のみなさんの使い魔って出てきましたっけ?


 第二十六話

 

 

 「では、どうあっても、今回の戦争に参加するというのね、ルイズ?」

 

 ヴァリエール家の朝食は、日当たりの良いバルコニーで摂ることが慣例となっていた。バルコニーに引き出された長テーブルには、ルイズ、エレオノール、カトレア、そして上座にカリーヌ夫人が座り、豪勢な朝食を摂っていた。公爵は未だにショックから立ち直れないのか、姿は見えなかった。一通り、食事を終えた所でカリーヌが問いかけた。ルイズは、母を正面から見据えて言った。

 

 「はい。私の決意は変わりません」

 

 「ヴァリエール家から勘当されても?」

 

 カリーヌの言葉に、思わず立ち上がるエレオノール。

 

 「そんな! 母様、いくらなんでも……」

 

 「エレオノール。わたくしは、ルイズと話しているのです」

 

 母の言葉に、下を向きながら着席するエレオノール。当のルイズは、一切の動揺を見せずに言い切る。

 

 「たとえ、家から勘当されたとしてもです。私は貴族とは、家名だけで名乗るものではないと考えます。恥じることのない、気高い生き方を貫ける者が貴族を名乗る資格があると考えています」

 

 「それが、あなたの考えなのね、ルイズ」

 

 夫人は、立ち上がりルイズの席へ歩み寄る。そして、ルイズの頬に手を添えて万感を込めて言った。

 

 「いってらっしゃい、ルイズ。あなたが信じる生き方を貫いて見せなさい。ただし……」

 

 ふいに口調を変えたカリーヌが、ルイズの頬っぺたをつねり上げる。

 

 「行くからには、中途半端は許しません。我がヴァリエール家の名をアルビオン大陸に轟かせること。いいわね?」

 

 「ひゃ、ひゃい、かあひゃま。おおへのとほりに……」

 

 カリーヌが席に戻ると、今度はカトレアがルイズの席に小走りに近づき、妹を抱きしめる。

 

 「ルイズ、いってらっしゃい。一日も早い帰りを待っているわ」

 

 最後にエレオノールが席についたまま、末妹に激励の言葉を伝える。

 

 「嫁入り前の身体なんだから、気を付けなさい、ルイズ。何を言っても、あなたは公爵家の令嬢で私の妹なんだから」

 

 「母様、カトレア姉さま、エレオノール姉さま……行って参ります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルイズ、セル、シエスタの一行は学院の馬車で、帰路に着こうとしていた。公爵家の馬車を用意すると言われたが、ルイズはあえて断った。まがりなりにも、公爵家当主である父からの許しは得ていないのだ。それはルイズなりのけじめだった。

 馬車内で、若干顔色が悪いシエスタがセルに問いかけた。

 

 「あ、あの、セルさん。わたし、昨日変な事、しでかしませんでしたか?お酒を飲んでからの記憶がどうもあやふやで……」

 

 恫喝まがいの口調で自分に迫ってきた、とは言わず、当たり障りのない返しをするセル。ルイズは、ヴァリエール城を惜別の思いで見上げていた。三人が乗った馬車が、ヴァリエール城の城門に差し掛かった時、それは突然、門の前に出現した。門全体を覆い隠すほどの巨大な氷の壁だった。

 

 

 

 

 カリーヌは、城内のバルコニーから、ルイズが乗った馬車が城門に差し掛かる様子を見ていた。そして、巨大な氷の壁が城門前に出現したのとほぼ同時に、ひどく慌てた様子の執事長ジェロームが、注進に現れた。

 

 「お、奥様! 旦那様が寝室から、いずこかへ消えておしまいに……」

 

 

 パチンッ

 

 

 「わかっています。まったく、あの人ときたら、いつまでも子離れができないのだから」

 

 カリーヌは手にした羽扇子を勢いよく閉じると、ジェロームに自分の杖を持ってくるように命じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ルイズよ! この先に進みたければ、この父を乗り越えて行けぃ!!」

 

 巨大な氷の壁を背後にし、若干やせこけたヴァリエール公爵が右手の杖をルイズたちに向けて宣言する。その様子を見ていたシエスタが、ぽつりと口にする。

 

 「あれじゃ、誰もお城から出れないんじゃないですか?」

 

 「……言わないで、シエスタ」

 

 こめかみを押さえたルイズが苦々しく言った。セルが無言で前に進み出て、左手を公爵に向けてかざす。だが、ルイズがセルを止める。

 

 「待って、セル。私がやるから、力を貸して」

 

 「承知した」

 

 ニューカッスル城の時のように、ルイズの背後にセルが立ち、彼女の小柄な身体を抱きすくめるようにして、両手を支える。ルイズはデルフリンガーと水と風のルビーに意識を集中する。その様子を見たシエスタが、「まあっ!」と叫んで、無意識に自身の爪を噛んだ。そして、ヴァリエール公爵は。

 

 「わ、わしの小さなルイズとひそひそ話だけでは飽き足らず、だ、抱きすくめるだとぉぉぉ!!……駆除だ。いますぐ駆除してやる。破廉恥な亜人は即刻! 駆除だぁぁぁぁ!!」

 

 公爵の周囲に百本を優に超える氷の矢が出現する。激昂していても、最愛の娘には氷の矢を当ててしまわないように、慎重に狙いをつける公爵。だが、その間にルイズは詠唱を完了する。

 

 「ウル・スリサーズ・アンスール・ケン……以下省略で、ディスペル!!」

 

 「うおぉい!? いくら、なんでもそりゃあないだろうぉぉぉぉ!!」

 

 デルフリンガーの突っ込みと同時にセルとルイズから眩い光の波動が放たれる。その規模は、ニューカッスル城の時とは、比べるまでも無いほど小さいものだったが、公爵が造り出した氷の矢の大群と巨大な氷の壁を一瞬で霧散させた。

 

 「な、なんだと!? こんな魔法があるはずが……ぬっ!?」

 

 背後を振り返り、氷の壁の消失に驚愕した公爵の右手から杖が、ひとりでに離れる。公爵の杖はそのまま宙を飛び、ルイズの手に収まる。セルの念動力ではない。ルイズ自身の念力のコモンマジックだった。「虚無」に目覚めたルイズは、系統魔法はこれまでと同じく、まともに発動できなかったが、コモンマジックについては、スクウェアクラスの実力を身につけていたのだ。極端に魔力を消費したルイズは、セルに抱き抱えられながら、父である公爵に言った。

 

 「つ、杖を奪いました。私の勝ちです、父様」

 

 「ルイズ、おまえ、いつの間に……」

 

 「いつまでも、小さなルイズではないんです!」

 

 公爵が杖を失った以上、結着は明らかだった。公爵はその場で座り込み、ルイズたちから視線を逸らしたまま、口を閉ざした。そんな父のそばを通り過ぎるルイズ。小さな声で別れを告げる。

 

 「……行って参ります、大好きな父様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルイズたちが、城を出てしばらくすると、未だに立てない公爵のそばにカリーヌ夫人がフライの魔法で降り立つ。夫人が公爵を慰めるように言った。

 

 「あなた、大丈夫ですよ。ルイズは強い決意と、自身の才に目覚めたのです。わたくしたちの娘ですもの、必ず無事に……」

 

 夫人の言葉が聞こえていたのかいないのか、突如立ち上がった公爵が滂沱の涙と鼻水を流しながら、大声を張り上げた。

 

 「うおおぉぉぉぉん!! うおおぉぉぉぉん!! わしのルイズが! わしの小さなルイズが!! わしを大好きと言ってくれたルイズが!! うおおぉぉぉぉん!! 往ってしまった!! 戦場へ往ってしまったぁぁぁ!!」

 

 「……」

 

 

 パチンッ

 

 

 ドゴッ!!

 

 

 手にしていた羽扇子を閉じると、カリーヌは無様に泣き叫ぶ夫の後頭部に呵責ない一撃を加える。かなり鈍い音がして昏倒する公爵。どうやら、ただの羽扇子ではなく鉄扇だったようだ。一つため息をつくと、カリーヌは末の娘が向かった魔法学院の方角をいつまでも見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、トリステイン魔法学院にあるアウストリの広場の一角に置かれたテーブルー

 キュルケとタバサがもう一人の女子生徒とともに休み時間を過ごしていた。物憂げにため息をつく女子生徒。キュルケがその訳を尋ねる。

 

 「今日、二十六回目のため息よ、モンモランシー。そんなに恋人が心配?」

 

 「おあいにくさま。あんなのいなくなったほうがせいせいするわ」

 

 人事のようにつぶやいた女子生徒は、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。ブロンドの髪を縦ロールに整え、後頭部には大きな赤いリボンを身に着けたなかなかの美少女だった。ルイズやキュルケの学友であり、ギーシュ・ド・グラモンの恋人でもあった。ギーシュの二股騒動で一時期、絶交状態だったが、なんだかんだで元の鞘に収まっていた。そのギーシュは、アルビオン遠征軍に従軍志願し、今はマリコルヌらとともにトリステイン各地の練兵場で即席の仕官教育を受けているはずである。

 

 「その割には、ずいぶん寂しそうじゃない?」

 

 「ギーシュのヤツ、根っからの臆病者のくせに、「きみのために一番槍の手柄を立ててみせる」なんて格好つけちゃって。そもそも、後方支援部隊でどうやって一番槍なんかとるつもりなのかしら?」

 

 「まあ、たしかにね。私やタバサも留学生仕官として従軍はするけど、やっぱり後方支援部隊だもの。前線で暴れられると思っていたのに」

 

 「……私たちはアピール要員」

 

 魔法学院の生徒と教員から十数人、そして他国の留学生達が十人弱。これらが、学徒仕官、教職仕官として遠征軍に組み入れられるのだが、配属先は後方支援部隊に限定された。予測された仕官不足は、アルビオン王軍派の精鋭三百名の充当で目途が立ったため、内外へのアピールのため、貴族の子弟の志願が求められたのだ。留学生たちも、本国のポーズとして遠征軍への志願を半ば強制された。キュルケなどは、自慢の炎魔法を存分に披露できると期待していたため、肩透かしをくらった格好だ。タバサは、本国というか、伯父王の真意を計りかねていた。自分の死を期待して、てっきり最前線に送るのかと思ったが、他国の留学生と同じ後方支援部隊への従軍に限ると命令してきたのだ。それに最近は従姉からの呼び出しも全くかからなくなった。

 

 「そういえば、ここ最近ルイズを見かけないけど、どうしたのかしら?」

 

 モンモランシーが、二人に聞くとキュルケが答えた。

 

 「品評会が終わってから、急に姿を見かけなくなったのよね。三日ぐらい前に久しぶりに見たと思ったら、やたら豪奢な馬車に乗ってどっかに行っちゃったみたいだし……」

 

 「……使い魔の彼がいる限り、多分従軍する」

 

 タバサの言葉に背後を振り返りながら、キュルケとモンモランシーは納得した。二人の視線の先には、セルとルイズが使い魔品評会で造り出した、アンリエッタ王女の石像「聖王女立像」が学院の建物の高さを超えて、その長大な姿を見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




第二十六話をお送りしました。

ようやく、帰省編が終わり、第二章ではほとんど出番のなかった学院生を出してあげることができました。

ご感想、ご批評、よろしくお願いします。

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