ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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第二十四話をお送りします。

ヴァリエール公爵家の皆さまのご登場です。

公爵の系統ってなんでしょうね?原作とかアニメに出てましたっけ。


 第二十四話

 

 

 ――ルイズ達一行が、学院を出発して二日目の昼。

 

 ラ・ヴァリエール公爵領内のとある宿場町にて、一行は小休止をとることになった。宿場町で最も上等な旅籠に入ったエレオノールとルイズ達は、下にも置かないもてなしを受けた。さらに、宿場町の町長だの、旅籠組合の会頭だの、といった周辺の名士たちが続々と挨拶に駆けつける。二人はさも当然のようにその挨拶を受ける。人々は口々に二人を誉めそやす。

 

 「いやあ、ルイズ様もしばらく見ない間にずいぶんと大きくなられたものだで」

 「んだ、お綺麗になられただなぁ」

 「エレオノール様も、相変わらずお綺麗ですなぁ」

 「そういえば、最近ご婚約されたとか?」

 

 最後の一言を聞いたエレオノールの眉に稲妻が奔る。瞬時に緊迫感に包まれる旅籠の一室。不用意な一言を発した助役末席の若い男は他の連中に別室に連れ込まれ、一通りボコられた。見るからに不機嫌な空気を発し始めたエレオノールに恐れをなしてか、皆一様に黙りこんでしまう。部屋の入り口に待機していたシエスタはその空気に怯え、隣で同じように待機していたセルの腕に縋り付いた。セル自身はいつも通り、平然としていた。そんな雰囲気に耐えかねたルイズが場をほぐそうと、姉に話しかける。

 

 「あ、あの、姉さま! お、おめでとうございます!」

 

 

 ピシッ

 

 

 さらに、エレオノール周辺の空気に緊張が奔る。周りの人々も、ヴァリエール家の三女が相手では実力で排除するわけにもいかない。必死にこれ以上、場を悪化させないでくれ、と祈る宿場町の人々。

 

 「なにがかしら?……ルイズ」

 

 低く抑えた声でルイズに問うエレオノール。未だに状況を察することができないルイズが決定的な一言を発しようとしたその時。

 

 「え、だ、だから、ごこ……」

 

 

 バターンッ!

 

 

 「まあ! どこかで見た馬車が止まっていると思ったら、こんなにも素敵なお客様がお見えになっていたのね! エレオノール姉さま、お久しぶり!」

 

 突然、部屋のドアが大きな音を立てて開かれると、羽根のついたつばの広い帽子と腰のくびれたドレスを優雅に着こなした貴婦人が現れた。帽子から除く桃色がかったブロンドと鳶色の瞳、可愛らしい容貌はルイズによく似ていた。

 

 「カトレア、あなた外に出て大丈夫なの?」

 

 直前までの憤怒の気を霧散させたエレオノールが心配げな声をカトレアにかける。ルイズもカトレアに気付くと、表情を輝かせて彼女の胸に飛び込む。カトレアも同じように喜びに顔を輝かせてルイズを受け止める。

 

 「ちいねえさま! お会いしたかったですわ!」

 

 「まあまあ、ルイズ! あなたなのね! わたしのちいさなルイズなのね!」

 

 エレオノールの妹であり、ルイズの姉。ヴァリエール家の次女ということか。セルがカトレアを見つめていると、その視線に気付いたのか、カトレアが近付いてくる。

 

 「まあ、まあ、あらあら、まあまあ」

 

 カトレアは、二メイルを超えるセルの外骨格をペタペタと触り始めた。そして、自身より六十サントは高いセルの顔を見つめるとにこやかに言った。

 

 「あなたが、ルイズの良い人なのかしら?」

 

 セルのとなりにいたシエスタが目を見開くと同時に顔を染めたルイズが大声で叫んだ。

 

 「た、ただの使い魔です! だ、だって、あ、あ、亜人ですからぁ!!」

 

 「あら、そうなの。ごめんなさいね。わたしったら、すぐに間違えてしまうのよ。どうか、気にしないで」

 

 カトレアは楽しそうに笑いながら、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カトレアが乗ってきた大型のワゴンタイプの馬車は、ルイズ、エレオノールさらにシエスタが同乗しても余裕があるほどの広さを備えていたが、やはり亜人セルには窮屈だった。さらに、カトレアの同乗者である多数の動物たちが、どうもセルに怯えてしまうようなので、セルは元々、乗ってきた学院の馬車で追従することになった。ヴァリエール公爵家の三姉妹と同乗するなんて恐れ多すぎる、と言ってシエスタもセルの馬車に同乗した。

 夜がふけて、いよいよヴァリエール公爵家の居城が見えてくると、カトレアの馬車に一羽のフクロウが飛来し、三姉妹に優雅に一礼した。

 

 「おかえりなさいませ。エレオノール様、カトレア様、ルイズ様」

 

 「ご苦労様、トゥールカス。父様は?」

 

 カトレアがそう問うと、トゥールカスと呼ばれたフクロウは淀みなく答えた。

 

 「旦那様は、さきほどお戻りになられて、晩餐の席で皆様をお待ちでございます」

 

 「母様は?」

 

 ルイズが小さな声で尋ねる。

 

 「奥様は、領地巡察にお出かけですが、もう間も無く、お戻りになられるかと」

 

 つまり、両親二人ともにすぐ会えるのだ。ルイズは気を引き締める。一応、セルには口を挟まないようにと命令しておいた。

 ヴァリエール家の居城は、その広大さで言えば、トリスタニアの王宮をも凌駕しうるものだった。巨大なゴーレムが跳ね橋を上げる鎖を巻き上げ、馬車は城内に入っていった。幾つもの豪奢な部屋を通り、公爵家の人々の私的な晩餐室に到着した。シエスタは召使たちの控え室に留め置かれたが、セルは使い魔ということで特別に同伴を許された。セルはルイズの席の背後に護衛のように控える。

  

 三十メイルはある長テーブルの上座には、ルイズ達の父親であり、トリステイン王国最大の領地を治める名門中の名門ヴァリエール家の当主、ラ・ヴァリエール公爵その人が娘達の到着を待ち構えていた。公爵は、年の頃は五十過ぎ、ブロンドの髪と口髭には、白いものがかなり混じっているが、その眼光は鋭く、その体躯の壮健さが、豪奢な衣裳からも推し量ることができた。そして、公爵の機嫌はあまり、よろしくないようだった。彼は開口一番に言った。

 

 「まったく、あの鳥の骨め!!」

 

 「どうかなさったのですか、父様?」

 

 エレオノールが公爵に問いかけると、彼は憤懣やるかたないという様子で娘たちに語った。ルイズなどは気が気ではない。

 

 「このわしを、わざわざ王宮にまで呼びつけて、何を言うかと思えば、「貴公の諸侯軍から一個軍団編成されたし」などとぬかしおったわ!」

 

 「ご承諾されたのですか?」

 

 「するわけがなかろう! わしは軍務を退いた身だ。わしに代わって軍を率いる世継ぎとておらん。それにわしはこの戦には反対だ」

 

 「ですが、枢機卿猊下と暫定女王陛下の連名を以って、挙国一致によって同胞アルビオン、そして我がトリステインを脅かす仇敵を討つべし、との布告が出されたばかりです。口さがない者たちが、ヴァリエール家に逆心ありと騒ぎ立てるかもしれません」

 

 顔をしかめつつ、父に諫言するエレオノールだが、公爵は一蹴する。

 

 「有象無象の者どもには言わせておけばよい! それに、あんな鳥の骨に猊下などと、怖気がはしるわ! 前王陛下の喪に服されていた太后陛下と、まだお若い王女殿下を誑かしおって!」

 

 我慢できなくなったルイズが、公爵に向かって口を開く。

 

 「と、父様に伺いたいことがございます」

 

 「おお、いいとも。わしのルイズよ。だが、その前に久しぶりに会った父に接吻をしてはくれないのか?」

 

 ルイズは席を立つと、公爵に近寄り、その頬にキスをした。そして、父である公爵の目を真っ直ぐに見つめて言った。

 

 「なぜ、父様はこの戦に反対されるのですか?「レコン・キスタ」を名乗る叛徒どもは友邦であるアルビオンを陥れ、我がトリステインを始め、他の王権国家にとっても脅威ですのに……」

 

 「いいかね、ルイズ。確かに反王権を掲げる叛徒どもは、脅威には間違いない。だがね、だからといってこちらから攻め込むとなれば、話が違ってくるのだ。敵軍の兵力は二万、我が軍は三万だ。一万多ければ勝てる?そう、単純ではないのだ。攻め込む以上、敵軍の三倍の兵力が必要となるのだ。でなければ、苦しい戦いを強いられるだろう。そのような愚を冒さずとも、我が国はアルビオンを空路封鎖してしまえばよい。いずれ、時を待たずに叛徒どもは干上がり、向こうから和平を申し入れてくるだろう」

 

 公爵はルイズの頭に手をやり、諭すように言葉を続ける。

 

 「まして、あの鳥の骨めは、魔法学院の生徒を仕官として従軍させるという。愚かな真似を。子供など戦に連れて行って何とする。攻めるという行為は絶対に勝利できる自信があって初めて行えるのだ。そんな戦にわが娘を従軍させるなど、決して許さん」

 

 「父様……」

 

 「戦の話は終わりだ。それより、おまえにも婿をとらせることを考えなければな」

 

 「でも、父様! 殿下が! アンリエッタ王女殿下が私の力が必要だとおっしゃってくれたのよ!!」

 

 「殿下はお若い。戦場に赴くのに気心が知れた侍女をご所望なのだろう。なにもおまえが志願する必要はない」

 

 このままでは、いつまで経っても父は判ってくれない。ルイズは、唇を噛み締めて佇んでいた。そして、彼女は我知らず自身の使い魔である亜人を振り返った。亜人はあさっての方向を見ていたが、やがて笑い声をあげた。

 

 「くっくっくっ、ふっふっふっ、はっーはっはっはっ!」

 

 あさっての方向を向いたまま、笑い声をあげるセルにその場にいた三姉妹や公爵、テーブルの後ろに控えていた使用人たちは、あっけにとられた。セルはテーブルとは反対を向きながら、両手を高く掲げて、その良い声を以って朗々と語り始めた。

 

 「物語を語ろう! 古の大公爵の物語を! 娘可愛さの余りに戦を見誤り、祖国を危機に導いた大公爵がいた! 絶対に勝利できる? そんな戦にしか赴いたことが無い、自称冷静な戦略眼を誇った大公爵がいた!……今はどうだ?国は潰え、家は潰え、城は崩れ去り、その廃墟に残るは、大公爵が身に付けていた古ぼけたモノクルが一つ……」

 

 まるで、吟遊詩人のように素晴らしい声で語るセル。だが、その内容は誰が聞いても、ラ・ヴァリエール公爵を激しく卑下するものだった。

 

 

 バンッ!

 

 

 テーブルに手を叩きつけて立ち上がる公爵。その右手には愛用の杖が握られていた。杖の先を亜人に向ける公爵。

 

 「このわしを愚弄するかっ! 亜人風情が!!」

 

 「父様、お願い! 待って!! セル、あんた、口を挟むなって言ったでしょう!?」

 

 セルを背後に庇いながら、ルイズが大声で問う。セルはやはり、いつも通りの調子で答えた。

 

 「口を挟んではいない。ふと、思いついた小噺を口にしたまでだ」

 

 「いくら何でも、あからさま過ぎるでしょぉぉがぁぁ!!」

 

 「ふむ、やはり愛娘からのトドメが必要か……ルイズよ、こう言うのだ」

 

 ルイズの困惑も、どこ吹く風のセルが、彼女の耳元に顔を寄せて何事かを伝える。その様を見た公爵がさらにヒートアップする。

 

 「わしの小さなルイズに、ひそひそ話だとぉぉぉぉぉ!? もはや、許さんっ!! 百回、葬ってくれるぞ!!」

 

 「え、そんなことを?……わ、わかったわよ! 言えばいいんでしょっ!!」

 

 詠唱を開始しようとする公爵に、ルイズがあらん限りの声を振り絞って言った。

 

 「もう、父様なんて、大っ嫌い!!」

 

 「!!」

 

 ルイズの一言が、ヴァリエール公爵のなにかを粉々に打ち砕いた。

 

 

 カランッ ポトッ

 

 

 詠唱のポーズのまま、固まった公爵の右手から杖が落ち、生気を失った右目からモノクルが落ちた。公爵の背後から執事長のジェロームが駆け寄る

 

 「ああ、旦那様! お気を確かに!! こ、これは、意識をお失いになっておられる! おい、旦那様をすぐに寝室にお連れするのだ! 典医を呼べ!!」

 

 ジェロームの命令にすぐに数人の使用人が固まったままの公爵を横にして運び出そうとした。

 

 「あらあら、まあまあ、ルイズったら、大胆ね」

 

 一連の流れを見守ったカトレアがにこやかな表情のままに言った。長姉であるエレオノールはその場で立ち上がり、ルイズを詰問する。

 

 「おちび! ちびルイズ! あなた、父様になんてことを!!」

 

 ルイズは自分の一言が、あの父を再起不能にしてしまったことに妙な自信を持ってしまった。その自信が彼女にタブーを犯させてしまう。

 

 「行かず後家の姉さまは黙ってて!!」

 

 

 ビキビキビキィ!!

 

 

 「あ、そ、それはさすがに……」

 

 にこやかだったカトレアの額にも、冷や汗がにじむ。公爵を運ぼうとしていたジェロームと使用人たちも、公爵家の長女から立ち上る瘴気に当てられたのか、その場から動けなくなってしまう。エレオノールらしきモノは、その美しいブロンドをまるで、角のように逆立てると、地の底から響くような声色でルイズに迫った。

 

 「ルうぅぅぅぅぅイいぃぃぃぃぃぃズうぅぅぅぅぅぅっ!!」

 

 あ、私、死んだわ。ルイズは大蛇に睨まれた蛙のごとく、その場から動けなくなった。背後のセルは、なかなかの殺気だ、悪くない、などと考えていたが。

 その時、晩餐室の扉が開き

 

 「何を騒いでいるのですか?」

 

 凛とした声が室内に響き渡った。公爵の妻であり、三姉妹の実母、ヴァリエール公爵夫人カリーヌ・デジレ・ド・マイヤールの登場であった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第二十四話をお送りしました。

公爵家の真の支配者の登場です。

公爵に今後の出番があればいいのですが。

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