ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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第二十一話をお送りします。

ゼロ魔の魔法は魔法名を唱えるアニメ版と魔法名は詠唱しない原作版がありますが、本SSでは判り易いように魔法名も唱えます。




 第二十一話

 

 

 その時、「レコン・キスタ」軍野戦司令部の天幕では、総司令官が幕下の貴族や軍人たちとともに軍議を行っていた。

 

 「さて、諸卿らの奮戦によって、無能なる王家とそれにしがみつく愚か者どもを、かの出城に追い詰めることが出来た。このクロムウェル、心より礼を申す」

 

 快活かつ澄んだ声色で、そう言って僧帽をかぶった頭を下座に居並ぶ配下の者達に下げる、三十代半ばの男。彼こそが、「レコン・キスタ」軍総司令官、反王権貴族連盟議会議長、アルビオン教区総大主教を兼ねるオリヴァー・クロムウェルその人であった。彼の右手には、深い蒼をたたえた指輪が嵌められていた。

 

 「閣下!! どうか、お顔をお上げください!!」

 「我らは閣下の理想に身命を捧げたのでございます!!」

 「左様、愚鈍なる王家を打倒し、世界を開放するという閣下の崇高なる使命の一助となれれば、我らはいかなる犠牲も厭いはしませぬ!!」

 「何卒、明日正午の総攻撃では、小官に先陣をお任せ頂きたく存じます!!」

 

 配下の者たちの熱の篭った言葉に鷹揚に頷き返すクロムウェルだが、内心では彼らを見下していた。

 

 (ふん、おまえたちが欲しいのは褒賞だけであろうが。そのような下賤な心根しか持たぬから、下層から這い出せぬのだよ。余が拾ってやらねば、いつまでも辺境でくすぶっておったであろうに)

 

 今、発言した者たちは、「アンドバリ」の指輪の影響下にはない。「レコン・キスタ」軍が討伐軍に対して三度目の勝利をあげた後、馳せ参じた地方の下級貴族や辺境駐屯の下級軍人たちだった。彼らは口々に王家の堕落と中央の腐敗を並べ立て、偉大なるクロムウェル閣下の下でそれらを打倒したいと幕下に加わったのだ。日和見の行動なのは明らかだった。

 その時、クロムウェルの左手に座していた白髪と白ひげのきびしい表情の軍人が発言した。

 

 「しかしながら、王軍を追い詰めたとはいえ、我らも予期せぬ事態により、主力艦隊を失いました。このままでは、新たな国家を立ち上げても外征に出ることもままなりませぬ」

 

 彼の名は、ジョージ・ホーキンス。王立陸軍の将軍であり、アルビオンでも指折りの戦上手として知られる軍人であった。彼も指輪の支配下にはない。実直な軍人である彼は、上司である陸軍大将たる公爵が「レコン・キスタ」に下ったため、今の立場となったのだ。ホーキンスの現実的な発言に気を良くしたクロムウェルは自信満々に言った。

 

 「将軍の懸念も尤もであるが、何の問題もない。確かに主力艦隊の消失は痛手ではあった。だが、その原因究明のために余が最も信頼する秘書官長を派遣している。彼女ならば必ず、朗報をもたらしてくれると余は確信している。そして、これはまだ諸卿には知らせていなかったのだが、艦隊についても、すでに都合がついているのだよ。我らには、交差せし二本の杖がついているのだから」

 

 「交差せし二本の杖」、わずかでもハルケギニアの事情に通じていれば、それが何を意味するか解らぬ者はいない。たちまち、騒然となる天幕内。

 

 「な、なんと、かの大国が?」

 「おお! それが真であれば、恐れるものなど何一つございませんな!!」

 「閣下もお人がお悪い! そのような朗報を今の今までお隠しになられるとは!!」

 

 その場で立ち上がったクロムウェルは両腕を広げ、まるで信徒に教義を知らしめる教祖のごとく宣告した。

 

 「諸君、まもなくだ。まもなく我らが革命は成る。始祖「ブリミル」より授けられし王権を、無能なる者どもから奪還するのだ!」

 

 

 カッ!!

 

 

 その瞬間、クロムウェルたちの天幕を眩い光の波動が包み込んだ。一瞬、視界を失う「レコン・キスタ」の幹部たち。

 

 

 ドサッ ドサッ ドサッ ドサッ

 

 

 何かが、複数倒れる音がした。視力が回復したクロムウェルが天幕内を見渡すと、幾人かの貴族、軍人が倒れていた。すべて、一度死んだ後、蘇生させ傀儡とした有力貴族や高級軍人だった。思わず、目を見開くクロムウェル。まさか、そんな、うそだ。彼が恐る恐る自身の右手に嵌めていた指輪を確認すると、「アンドバリ」の指輪は輝きを失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、あれ?……」

 

 ディスペルを発動したルイズは、力を使い果たしたかのようにセルの腕に抱きとめられ意識を失った。

 

 (見事だ、ルイズ。新たな力に目覚めたな。さすがは我が主だ)

 

 バルコニーから見える「レコン・キスタ」陣地では、ただならぬ事態が起きているようだった。光の波動が到達するまでは、陣地内を普通に行き来していた兵がいたるところで倒れているようだ。一部の天幕では火の手が上がり、かなりの兵が陣地からあさっての方向に走り去っていくのが確認できる。ウェールズは、亜人の使い魔に問いかけた。

 

 「つ、使い魔殿、一体何が起きたのだ? 「アンドバリ」の指輪はどうなったのだろうか?」

 

 セルからの答えはなかった。

 

 「……」

 

 亜人の使い魔の中で、この浮遊大陸に対する興味が急速に失われていた。目論見通り、ルイズは新たな力を覚醒することができた。もう、滅びかけたこの国にいる意味はない。「レコン・キスタ」などどうでもいい。ちょうど、主も意識を失っている。大地の地下に眠る風石とやらの暴走とでも銘打って、大陸ごと消し去るか。

 

 

 キュ

 

 

 その時、セルの腕の中で意識を失っていたルイズがまるで赤子のように彼の指の一本を握った。あどけないルイズの顔を見つめるセル。思うところがあったのか、ルイズをお姫様だっこで抱き上げ、ウェールズに向き直る。

 

 「指輪の魔力は、ルイズによって打ち破られた。死んだ後、蘇生され傀儡となった者はその場で再び死体に戻ったようだ。心を縛られていた者は開放後の混乱で陣地から逃走を図ったのだろう。だが、それでも残存している兵力は二万を超える。指輪の魔力も永遠に失われたかは解らん」

 

 「そ、そうか、ミス・ヴァリエールのおかげだな……だが、彼女のあの力は、一体?」

 

 「おまえが今、それを知る必要はない」

 

 妥協のない口調で言い切るセル。思わずひるむウェールズに、さらにたたみかけるように問う。

 

 「皇太子よ、おまえは選択しなければならん。無駄死にするか、トリステインに亡命するか、今すぐに決めろ」

 

 「そ、それは……解ってはいるつもりだ、さきほどとは状況が全く変わってしまったことは。だが、きみになんと罵られようと、私は考えてしまうんだよ。私たちの亡命がトリステインに、アンリエッタにどんな影響を与えてしまうかを」

 

 懊悩を隠そうともしないウェールズに対して、セルは口調を弱め、諭すように言った。

 

 「指輪の魔力を破られた「レコン・キスタ」は拠り所たる「虚無」と数万の兵力を同時に失った。すでに死に体といっていいだろう。今ならばトリステイン単独の戦力でも、撃破は可能だろう。そして、アルビオンの正当王家との強固な同盟と大きな軍事的成果は、国内の反発を十分に押さえられるはずだ。ゲルマニアとの同盟は、皇帝と王女の婚姻を前提としている。その将来はどうなる? ゲルマニアによるトリステイン吸収だ。だが、収まるべき鞘に収まるならば、トリステイン・アルビオン連合王国というのも……悪くあるまい?」

 

 「!!」

 

 ウェールズは今日、何度目かわからない絶句を経験していた。この使い魔は一体何者だ?ミス・ヴァリエールの見せた魔法も謎だが、この使い魔は……恐ろしい。ただ、恐ろしい。蛇ににらまれた蛙のように硬直するウェールズ。だが、かすかに冷静な彼の頭の一部分ではセルの言ったことが的を得ていることを理解していた。彼が逡巡する時間は長くは無かった。

 

 「……父上と重臣たちに諮らせてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……どういう風の吹き回しだい、旦那?」

 

 「何のことだ、デルフリンガー?」

 

 ウェールズから宛がわれた城内の客室のベッドにルイズを休ませたセルはデルフリンガーの質問に逆に問いかけた。

 

 「けっ、質問を質問で返すなよな。あんた、とっととこの国からオサラバするつもりだったんだろう? 嬢ちゃんの力は上手い具合に引き出せたしなぁ。目的は完了ってとこだろう」

 

 「……ルイズのためだ、とでも言えばおまえは満足か、デルフリンガーよ」

 

 「あんたにそんな可愛げがありゃなぁ。だが、嬢ちゃんのため……冗談でも、そう口にしたんなら、守れよ。あんたが何者だろうと、何の目的を持っているんだろうと、今あんたは、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔なんだからよぉ!」

 

 「おまえに言われるまでもない」

 

 セルは、デルフリンガーに背を向けて言った。その時、ベッドの中のルイズが身じろぎした。

 

 「……う~ん、セル?」

 

 「起きたか、ルイズ」

 

 セルは、ルイズが意識を失っていた間のことを話した。デルフリンガーは黙っていた。

 

 「そう、殿下は亡命について考え直してくれたのね……」

 

 ほっとするルイズ。それから、言おうかどうしようか迷いながらセルに声をかけた。

 

 「あ、あのね、セル。さっきの……」

 

 

 コンコンコン

 

 

 その時、丁度ノックとともにウェールズが部屋に入ってきた。ルイズはすぐにベッドから降り、王族に対する礼をしようとしたが、ウェールズがそれを止める。

 

 「いや、そのままでいい、ミス・ヴァリエール。気付かれて良かった」

 

 ウェールズはルイズに対して、頭を深々と下げた。ぎょっとするルイズに真摯な声色で言った。

 

 「まずは礼を言わせて欲しい。きみのおかげで我々を苦しめ続けていた偽りの「虚無」は打ち破られた。本当にありがとう」

 

 「お、恐れ多いですわ、殿下! わ、私はただ、セルに言われたとおりにしただけで、そんな……」

 

 「そんなきみにさらなる骨折りを願うのは非常に心苦しいのだが、この際だ。もう一つ、お願いしたい。我ら、アルビオン王軍派がトリステイン王国へ亡命するための橋渡しをしてほしい」

 

 目を輝かせたルイズは、思わずウェールズの手を取り、熱を込めて言った。

 

 「よくぞ! よくぞ、ご決断くださいましたわ!! 姫さまもどんなにお喜びになるか!! 亡命の件、私にお任せください!! 必ずや万難を排して皆様を我がトリステインにお連れいたしますわ!!」

 

 「ありがとう、ミス・ヴァリエール。その言葉、万の味方を得た想いだ。だが、今城内に残る王軍派は非戦闘員も含めると六百名を超える。それだけの人数が一度に亡命するとなると……」

 

 確かにそれだけの他国の王族や貴族を受け入れるとなると、本国でも相応の準備が必要になる。いかにセルの高速飛行でも、ここからトリステイン王都、あるいは今現在、姫さまが滞在されている魔法学院までは、往復で七時間以上はかかる。いや、姫さまや宮廷の重臣に事の次第を説明していたら、いつまでかかるか見当もつかない。セルの話では、大混乱に陥った「レコン・キスタ」軍も未だに二万を超える兵力を擁している。通告を反故にして総攻撃を早めないとも限らない。

 

 「ああ! 今すぐ、姫さまにこの善き知らせをお届けしたいのに!」

 

 その時、セルがさらりと言った。

 

 「では、本人の元に行けばいい」

 

 「はぁ? だから、それじゃ間に合わないのよ?」

 

 「二人とも私の尾に触れろ。時間は惜しいのだろう? 急げ」

 

 セルが伸ばした尾に、ルイズとウェールズが触れる。それを確認したセルは左手の中指を自身の額に当てて集中し、「気」を探る。見つけた。

 

 「これでどうするの……」

 

 「使い魔殿、これは……」

 

 

 ヴンッ!!

 

 

 ニューカッスル城の一室から、トリステイン王国の特使とアルビオン王国の皇太子と亜人の使い魔の姿が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第二十一話をお送りしました。

次話で第二章は一区切りとなります。

原作二巻から、かなりブレイクしてしまいましたが、いかがでしょうか?

ご感想、ご批評、よろしくお願いいたします。

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