ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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第一話を投稿します。

ルイズとセルの初コンタクトとなります。
またしても拙い文章となりますが、少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。


第一章 召喚
 第一話


 

「……な、なにこれ?」

 

 

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは困惑していた。

 進級に必須である召喚の儀を数十回も失敗し、周囲の学友達からは嘲笑を受け、担当教師であるコルベールからもやんわりと終了を促され、これが最後と必死の想いを込めたはずの『サモン・サーヴァント』も、やはり爆発を起こしてしまう。それも今まで以上の大爆発だ。

 

 

 (やっぱり……私はゼロなの)

 

 

 爆風に飛ばされないように身を伏せながら、ルイズは自己嫌悪に陥っていた。学友達も「やっぱり、ルイズはゼロだな! なにをやっても失敗じゃないか!」「やるだけ無駄なんだよ!」「もう! 制服が埃まみれじゃないのよ! ゼロのせいで!」などとルイズを小馬鹿にする。最後の機会をルイズに与えたコルベールもあきらめ顔だ。

 しかし、体を起こしたルイズが煙の治まった爆心地に近づくとその中心に何かが横たわっていた。

 

 

 

 

 

 それは、人型をしていた。

 それは、三本指の手足を持っていた。

 それは、頭部に二本の角のようなものを持っていた。

 それは、先端が針のように尖った尾を持っていた。

 それは、全身緑色の体色に黒い斑点模様を持っていた。

 それは、昆虫のような羽根と外骨格を持っていた。

 

 

 ――それは、ルイズをはじめその場の誰も見たことがない亜人だった。

 

 

 

 「……なんだ、あれ?」

 「あ、亜人なのか?」

 「ゼロのルイズが成功したのか?」

 「でも……動かないし」

 「まさか、ゼロのやつ……死体でも召喚したのか?」

 

 

 「あら、ヴァリエール、ようやく成功したのかしら? でも見たことない亜人ね。知ってる? タバサ」

 

 

 ルイズの『サモン・サーヴァント』の爆発を避けるために若干小高い丘から見物していた学友達の中でも一際目立つ燃えるような赤髪と豊満な胸を持つ美女が隣に座りながらずっと読書に没頭していた友人に問いかける。

 

 

 「……知らない」

 

 

 赤髪の美女に勝るとも劣らない美貌を持つ青髪の少女は、はじめて見る亜人に興味を引かれたのか、本から顔を上げながら奔放な友人に応じた。

 

 

 

 

 

 彼の意識は少しずつ覚醒していた。だが、彼は消滅したはずだった。

 彼が創造される理由となった一人の男、孫悟空。そしてその息子である孫悟飯。彼らとの死闘の末、細胞の一欠けらも残さずに消滅したのだ。

 彼は一度、死からの蘇生を経験していた。孫悟飯に圧倒され、追い詰められた果ての自爆。その結果、粉々になった彼の肉体だが、自身の再生を司る核が残ったことが彼を死の淵から救った。だが、二度目はないはずだった。最後の決戦に敗れた瞬間、彼は理解した。自分が核も残さず完全に消滅することを。

 

 

 (私は敗れた……孫悟飯との戦いで……完全に消滅した……はずだ)

 

 

 (だが……なぜ……私の意識が存在している?)

 

 

 (私は……人造人間である私にも……死後の世界が存在するとでもいうのか……)

 

 

 (……私は……生きているのか!?)

 

 

 ガバッ!

 

 

 「きゃあ!!」

 

 

 覚醒したセルは勢いよく上半身を起こした。その際、恐る恐るセルに近づいていたルイズは驚き、思わず尻餅をついた。

 

 

 (ここは……どこだ? 孫悟飯やべジータは?)

 

 

 体を起こしたセルは周囲を見渡した。抜けるような青い空、緑の絨毯のような平原、少し離れた丘には数十人の人間、そして目の前には尻餅をついた桃色の髪の少女。最後の決戦場の景観とは、全くちがう。強大な気を持つ者同士の衝突によって荒れ狂う空、それまでの戦いの余波で半ば荒野となった大地、自らの無力さを嘆く戦士たち、そして私の前に立つ金髪の手負いの少年。

 

 

 「生きてたの? じゃあ、召喚は成功したのね! やったわ! 成功よ!」

 

 

 ルイズは召喚したのが亜人の死骸かも知れないと思い、内心冷や冷やしながら様子を窺っていたが、亜人が目を開け起き上がる様を見て自身の召喚の成功を確信した。起き上がった亜人は2メイルを優に超える長身で見ようによっては強そうに見えなくもない。ちょっと体の色が大嫌いな蛙に似ているが贅沢は言っていられない。使い魔の召喚に成功した以上、留年という最悪の結果は回避できた。なにより、『ゼロ』の彼女にとっては、はじめて魔法が成功したのだ。嬉しくない筈がない。

 喜びに跳ね回るルイズをよそにセルは状況を慎重に分析していた。

 

 (私は再生したのか……だが、この肉体は、17号を吸収する前の初期成体ではないか。それにここは……私が「セルゲーム」の会場として設定した29KSの5地点ではない。そして……なによりも、彼らの気配が全く感じられない。孫悟飯やべジータ、ピッコロといった強力な気を持つ者達の気配が……消滅するはずだった私がなぜ、再生し、この場にいるのか、情報が足りないか……だが……まさか)

 

 

 「ミス・ヴァリエール、喜ぶのもわかりますが、召喚しただけではこの儀式を完了したことにはなりません。引き続き『コントラクト・サーヴァント』による契約を成功させばければ」

 

 

 ルイズたちの担当教師であるコルベールがそう言って、ルイズとセルに近付く。見た目は四十過ぎの禿げ上がった冴えない彼だが『炎蛇』の二つ名を持つトライアングルメイジである。コルベールは最初、セルが危険な亜人かと思い杖を構え臨戦態勢をとっていたが、起き上がった彼がおとなしくしているの見て警戒度を下げていた。

 

 

 「あ、すみません、ミスタ・コルベール。すぐに『コントラクト・サーヴァント』を行います」

 

 

 (え、でも、『コントラクト・サーヴァント』てことは……こ、こ、この亜人とキ、キ、キスしなきゃいけないの!?)

 

 

 ルイズは頬を染めながら逡巡していたが、必死に心の中でこれは儀式、あくまで儀式、なんたって儀式なんだから、と自分を納得させようとした。そして、ついに意を決して亜人に向かって跪くように命令しようとした時。

 

 

 「ここはどこかな? お嬢さん」

 

 

 亜人、セルはその外見からは想像もできないようなとても渋い良い声でルイズに話しかけた。

 

 

 「え、は、話せるの、あんた? すごいじゃない! 人語を解する亜人なんて!」

 

 

 「? 私を知らないのか。私の名はセル、人造人間だ」

 

 

 「セル、それがあんたの名前ね。ジンゾウニンゲンって亜人の種族名のこと?」

 

 

 セルは顔を傾げるルイズを見て、自身の推論に対する確信を深めた。セルはかつて地球において完全体となるために現在の初期成体の姿で数十万人もの人間をわずか数日の間に生体エキスとして吸収したのだ。当然、世界中が混乱と恐怖に陥った。その際に少なくない回数、自身の姿をテレビカメラに撮られていた。また、完全体となった後はセルゲーム開催を宣言するためテレビ局を襲い、衆人環視の中、開催宣言と地球側が敗北した時の全人類の抹殺を宣告したのだ。ある意味でセルは地球上で最も知名度の高い存在だった。そのセルを全く知らないという。そしてこの少女のさきほどの「召喚は成功した」という言葉。

 異世界への召喚、それが現状を説明しうる唯一の結論だった。だが、それを目の前の小柄な少女が成したというのか。少女からはほとんど気を感じられないというのに。

 

 

 「ここはトリステイン王国にあるトリステイン魔法学院、その管理下にある平原です」

 

 

 ルイズに代わってコルベールが答えた。彼もセルが流暢に人語を話す事に驚いたが、意思疎通が容易に行えるなら、良好な関係を築けるだろうと考えていた。

 セルは人造人間として生み出される際にコンピューターによって膨大な量の情報を知識として与えられていた。にもかかわらず、彼にはコルベールの言う地名が全くわからなかった。

 

 

 「君が私をこの地に召喚したというのは、間違いないのか?」

 

 

 「そ、そうよ! 私が『サモン・サーヴァント』であんたを使い魔として召喚したのよ!」

 

 

 「使い魔とはなんだ?」

 

 

 「使い魔は、メイジに生涯仕える存在のことよ。ほとんどのメイジが1匹ずつ使い魔を持つの」

 

 

 「この私を下僕にするだと? 待て、私を知らないのに、使い魔として召喚したということは、メイジとやらは使い魔を選ぶことはできないということか」

 

 

 「そうよ。メイジが召喚する使い魔は、そのメイジの魔法属性に応じて、召喚されるの……あんたの場合、どの属性なのかしら?」

 

 

 「さてな……」

 

 

 (今の話を信じるならば、この少女は全宇宙最強というべき、この私を、人造人間セルを召喚するだけの属性とやらを持っているというのか。まだ確証は持てん。だが、この地の情報を得るためにも、この少女の力量を見極めるためにも、ここは素直に従うのが得策か……私としたことが、随分と甘くなったものだ。まあいい、いざとなればこの地をまとめて消し去るまでだ)

 

 

 「そういえば、まだ名前を聞いていなかったな」

 

 

 「そ、そうね。私の名前は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。そ、それで私の使い魔になる……わよね?」

 

 

 「……いいだろう。きみの使い魔となろう」

 

 

 ルイズは、内心ほっとしていた。人語を解する珍しい亜人だが、思っていた以上に知能が高そうだった。ここで使い魔になりたくないといわれたらどうしようと心配していたが、杞憂だったようだ。後は『コントラクト・サーヴァント』を成功させるだけだ。

 

 

 「じゃあ、セル、そこに跪いて。契約の儀式を行うわ」

 

 

 「わかった」

 

 

 ルイズは、跪いたセルに近付き、なんだか芋虫のようなセルの口に接吻した。

 

 

 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」

 

 

 ルイズの詠唱が終わると同時にセルは、左手に熱を感じた。その熱が収まると左手の甲に奇妙な紋様が刻まれていた。

 

 

 「おめでとうございます、ミス・ヴァリエール。これにて召喚の儀式は滞り……まあ、多少滞りましたが、無事終了です。この『炎蛇』のコルベールが確かに見届けましたぞ」

 

 

 「あ、ありがとうございます! ミスタ・コルベール!」

 

 

 コルベールの言葉にここ最近で一番の笑顔で答えるルイズだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ここに、ハルケギニアの歴史上、他に類を見ない使い魔が誕生した。

 後世の歴史家たちは皆そろって、ハルケギニアの運命は、この日を境にして大きく変貌したと記している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




このSSのセルは外見は化け物と呼ばれた第一形態ですが、性格や口調は完全体の冷静かつ若干スカした感じをイメージしています。

また基本的にセル以外は現状、出すつもりはありません。
できましたら、ご感想、ご批評をお願いします。

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