ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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第十四話をお送りします。

本話から原作二巻の内容となります。若干アニメの要素も入ります。


第二章 レコン・キスタ
 第十四話


 

 ルイズは夢を見ていた。

 その舞台は魔法学院ではない。懐かしきヴァリエール公爵本家の屋敷内の中庭だった。

 

 「ルイズ! どこに行ったの? まだ、お説教は終わっていませんよ!」

 

 大きな声でルイズを探しているのは、母だった。ルイズは上二人の姉たちより、魔法の成績が極端に低いために、母から度々、叱られていたのだ。広大な中庭の植え込みに隠れるルイズに、近くに居た使用人の言葉が聞こえる。

 

 「ルイズお嬢様は難儀だねぇ」

 

 「まったくだ。エレオノールお嬢様も、カトレアお嬢様も、将来はスクウェア・クラスは間違いない、なんて言われてるのにねぇ」

 

 使用人たちの心無い言葉に、悲しみと悔しさをその小さな胸に抱く六歳当時のルイズ。そんな時、ルイズは必ず、ある場所に足を向けた。中庭の一角に設えられた池。その池の中心には小さな島があり、そこには白い石材で造られた東屋があった。島のほとりには、舟遊びを楽しむための小舟が一艘係留されており、そこがルイズにとっての安息の場所だった。舟の中に横たわるルイズ。

 

 (わたし、どうして、魔法ができないの?お父様もお母様もお姉様たちも、みんな上手にできるのに……)

 

 もしかしたら、自分はこの家の子供ではないのでは?などと暗い考えにとらわれてしまう。そんな、ルイズに聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 「ルイズ、こんなところで何をしている?」

 

 ルイズが舟の中で立ち上がり、上を向くと、そこには空中に浮遊する長身異形の亜人、セルがいた。いつの間にか、ルイズ自身も六歳から、十六歳の姿に戻っていた。

 

 「……私は、このヴァリエール家の人間じゃないかもしれない。魔法を使えないなんて、王家の血筋に連なる者なら、ありえないわ」

 

 セルに対して平坦な声で応えるルイズ。だが、セルはその言葉を真っ向から否定する。

 

 「それは、違う。ルイズ、きみこそが、始祖「ブリミル」の系譜たる四王家にあって、最も濃い血をその身に宿しているのだ。そして、その血こそが……わた……の肉体を……させる……最後の……なのだ」

 

 次第に池の周囲を霧が覆いつくし、セルの姿も、声も不明瞭にしてしまう。ルイズは、思わずセルの身体に手を伸ばす。

 

 「ま、待って!! セル、今何を言ったの!?……」

 

 

 ガバッ!!

 

 

 ルイズは、ベッドから跳ね起き、何もない空中に手をさし伸ばしていた。部屋の時計はまだ、深夜と呼べる時間を指していた。ルイズは自分がどこで何をしていたのか、わからなかった。

 

 「はぁ~、夢で飛び起きるなんて、いつぶりかしら……しかも、夢の内容全然覚えてないし。ふわぁぁ~、まあ、いいわ。早く寝ましょ……」

 

 再度、ベッドに潜り込んだルイズは、今度こそ深い眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ~~……」

 

 「ちょっと、キュルケ。あんた、それ今日何回目のため息よ?」

 

 「……十四回目」

 

 ルイズは、キュルケ、タバサと一緒に食堂外にあるオープンテラスで昼食後の食休みをとっていた。キュルケは朝から妙にテンションが低く、ことあるごとにため息をついていた。

 

 「いっつも、ほざいてる恋のため息ってわけでもなさそうだし。なにか知ってる、タバサ?」

 

 「……知らない」

 

 以前からの親友であるタバサにもわからないのなら、ルイズにはお手上げだった。しかし、どうもキュルケがこのザマでは、彼女も調子がでない。

 

 「ほんとにどうしたのよ、キュルケ?とうとう、その脂肪の塊が垂れてきたのかしら?」

 

 「……そんなんじゃないわよ、ルイズ」

 

 いつもなら、食いついてくる軽口にも、反応がうすい。しかたなしにルイズは、タバサに話しかける。その間、キュルケの頭の中では、これからの自身の収支計画を必死に考えていた。

 

 (まさか、実家にあの散財が伝わるなんて。どこから、漏れたのかしら?)

 

 キュルケは、先だっての虚無の曜日における散財ぶりが、実家であるツェルプストー家にばれてしまい、しばらくは自由に使える仕送りは見送るという宣告を受けていたのだ。セルとギーシュの決闘における賭けで儲けた分は、先の散財でふっとんでしまっていた。

 

 (はぁ~どうしよう。また、誰か決闘してくれないかしら?)

 

 

 

 

 

 

 ルイズ、キュルケ、タバサ。トリステイン魔法学院でも五指に入るだろう美少女たちが、昼下がりにオープンテラスのテーブルで語らう。本来であれば、彼女らの美貌に目の眩んだ男子生徒たちがダース単位で話しかけてきても、おかしくないが、彼らは遠巻きに見守ることしか出来ない。その理由は当然、ルイズの少し背後に護衛兵よろしく佇む人造人間セルの存在だった。

 

 「ところで、タバサは使い魔品評会で何をするかってもう決めているの?」

 

 「……シルフィードの空中機動と空中戦の模擬戦闘」

 

 「うっ、話を聞くだけで、上位入選はまちがないなしって感じね」

 

 「……ルイズも、彼の「キ」を披露すればいい」

 

 「う~ん、そうなんだけど、もう少しインパクトというか、派手さが欲しいのよね。なんたって姫様がお見えになるんだし」

 

 使い魔品評会は、春の召喚の儀において、召喚された使い魔たちを学院の生徒や教師陣、さらには王宮のお偉方にお披露目する学院の大型イベントの一つだ。「メイジの実力を知るには、使い魔を見ろ」という言葉があるとおり、メイジにとって、使い魔の良し悪しは、自身の実力や将来にとって大きな意味を持つものだ。基本的には、王国にとってどの程度、有益かという観点が評価の大部分を占める。つまり、戦争に役立つかどうかである。セルの「キ」による念動力や飛行、桁外れの膂力は十分、上位を狙えるポイントなのだが、ルイズは今回の品評会では、トップを取りたいと考えていたのだ。なにしろ、今年の品評会には、多忙極まるはずのトリステイン王国第一王女アンリエッタ殿下のご行幸が通達されていたのだ。

 

 「……そうだわ! 品評会よ!! 品評会で上位入選、ううん、トップを取れば、父様もきっと許してくれるわ!!」

 

 キュルケは突然、立ち上がり、品評会への決意に燃え上がる。ルイズとタバサは、目をぱちくりさせる。

 

 「ねえ、キュルケって、躁鬱じゃないわよね?」

 

 「……多分」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――同日深夜、王都トリスタニア郊外チェルノボーグ監獄。

 

 脱出不可能と悪名も高いこの監獄の一級犯罪者専用の獄舎に「土くれ」のフーケは収監されていた。

 

 「まったく、かよわい女一人閉じ込めるのにこの物々しさはどうなのかしらね?」

 

 室内の粗末なベッドに横たわりながら、フーケはぼんやりと天井を見つめていた。思うことは、自分を捕らえた貴族の少女たちと異形の亜人だった。

 

 「ほんとにたいしたもんだよ! あいつら!!」

 

 特にあの亜人、片腕で彼女のゴーレムを吹き飛ばし、「破壊の篭手」の使い方すら熟知していた。見たことも聞いたこともない亜人。あれは一体なんだったのか……いや、今となってはどうでもいい。フーケは眠りにつこうとした。だが、すぐに目を開けると、ベッドから飛び降りる。何者かが、獄舎に降りて来ているのだ。足音は一つだ。すぐに鉄格子の前に一人のメイジが現れた。黒いマントを纏い、白い仮面で顔を覆っている。長いマントからは杖が覗いている。

 

 「おやまあ!こんな夜更けにこんな場所にお客様とは、珍しいこともあるものね!」

 

 フーケは油断なく身構える。どこぞの貴族が送り込んだ刺客だろう。散々、貴族のお宝を失敬してきた自分だ。処刑を待てないせっかちな貴族か、あるいは、ご禁制の品を収集していたことが自分の口から漏れるのを恐れた連中に雇われた殺し屋か。だが、マントのメイジは男の声でフーケに確認した。

 

 「土くれのフーケ、間違いないな?」

 

 「だれがつけてくれたかは知らないけどね」

 

 「おまえの力がほしい。マチルダ・オブ・サウスコーダ」

 

 フーケは絶句した。その名は捨てた。いや、捨てさせられた。もう、知る者とていないはずなのに。

 

 「あんだ、何者だい?」

 

 質問には答えず、マントの男はさらにフーケに詰め寄るように話す。

 

 「新たなアルビオンに仕える気はないか?」

 

 「あ、新たな、だって……どういうことだい?」

 

 「簡単なことだ。無能かつ愚かな王家はまもなく、倒れる。そして、真に国を憂える貴族たちがアルビオンを統治する。すなわち、革命なのだ!!」

 

 「革命ねぇ、それにあたしがどう関係するってんだい?」

 

 「我々は一人でも多くの優秀なメイジを必要としているのだ。なぜなら、我々の最終目的はすべての王権の打破と始祖「ブリミル」が光臨せし「聖地」の奪還なのだからな」

 

 フーケは蔑みの笑みを浮かべる。

 

 「あんた、牢獄じゃなくて病院にいったほうがいいんじゃないかい?」

 

 こいつはハルケギニア各国の王権を打倒するだけでなく、あのエルフたちすら打ち倒そうというのか。ハルキゲニア東方に住まう異種族エルフ。彼らは系統魔法を遥かに超えた先住魔法の使い手であり、いままでにも「聖地」奪回を目論見、軍を派遣したものの無残な敗北を喫した国は歴史上、数知れない。正気の沙汰じゃない。

 

 「おまえには選択の余地はない。我々の目的を知った以上、我らに加わるか、ここで死ぬかだ」

 

 男は杖をフーケに向ける。

 

 「……はあ、はじめから、そういうことだろう。まったく、貴族ってのは、他人の都合をまるで考えやしないんだから」

 

 「返答は?」

 

 「あんたたちの組織はなんていうんだい?大層な目的をぶちあげてるんだ。貴族連盟なんて安易なもんじゃないんだろう?」

 

 「その問いは、加わると考えてかまわないようだな」

 

 男は懐から出した鍵を鉄格子についた錠前に差し込みながら言った。

 

 「我らは、「レコン・キスタ」……がっ!?」

 

 鍵をまわした男が、突如仰け反る。そのまま一メイルほど浮かび上がる。

 

 

 ズギュン!!ズギュン!!ズギュン!!

 

 

 「おおっ!!……おおああぁ……ああ……あ……」

 

 何かを吸い取るような音が牢獄に響き渡る。浮かんだ男は見る見るうちに痩せ細っていく。まるでミイラのように。

 やがて、杖が落ち、鍵が落ち、靴が落ち、手袋が落ち、白い仮面が落ちる。もはや、どのような面相であったかすらもわからない。

 

 

 パサッ

 

 

 最後に服とマントが地に落ち、黒マントのメイジの肉体は跡形もなく消えた。

 

 「あ、あんたは……」

 

 恐怖に見開かれたフーケの瞳に、獄舎の暗闇から現れる異形の存在が映る。

 

 

 

 「ゼロ」のルイズの使い魔、人造人間セルの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




第十四話をお送りしました。

……ご感想、ご批評、よろしくお願いいたします。

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