ゼロの人造人間使い魔   作:筆名 弘

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第二章開始前に断章をお送りします。

第一章三話にて、ハルケギニア各地に散ったセルの分身体が何をしているのか……

……決して、第二章執筆に煮詰っているわけではありませんので。


 断章之壱 『王権』の最期

 

 

 浮遊大陸を統治するアルビオン王国。その王立空軍には、「ロイヤル・ソヴリン」号と呼ばれるフネがある。正確には、あった。

 全長二百メイルを超える巨大な船体に、両舷合わせて百八門の火砲を備え、直掩戦力として二十騎の竜騎士をも搭載しており、その戦闘力は、大陸各国が保有するフネの中で、間違いなく最強と呼べるものだった。アルビオン空軍の誇りともいうべき、「ロイヤル・ソヴリン」は、しかし今は、その主を王立空軍から「レコン・キスタ」と称する集団へと変えていた。

 「レコン・キスタ」、自らを反王権貴族連盟と称するアルビオン貴族を中心とした勢力である。「聖地」の奪還と、王権の打破を目的とし、国の枠を超えたメイジが参加していた。彼らは蜂起後、接収した「ロイヤル・ソヴリン」を最初の戦勝地の名をとって、「レキシントン」号と改名した。

 今、「レキシントン」号を旗艦とした「レコン・キスタ」艦隊は、王党派が最後の砦としているニューカッスル城へ向けて航行していた。

 

 「王党派に与する者どもの兵力は、わずか三百足らずとか。それにひきかえ、我が軍の地上戦力は五万、さらにこの「レキシントン」を旗艦とした主力艦隊が戦線に加わるとなれば、いやはや、戦いと呼べるものになるかどうかですな、ボーウッド司令」

 

 「……王党派は、そのすべてが手練れのメイジだ。寡兵と侮ると、思わぬ痛手を蒙ることになるぞ」

 

 自らの副官の楽観的な意見をたしなめる「レコン・キスタ」主力艦隊司令サー・ヘンリ・ボーウッド。彼は元々、王立空軍でも、屈指の戦艦長であったが、直属の上司である本国艦隊司令が貴族派に寝返ったため、実直な軍人たる彼は、心ならずも「レコン・キスタ」に属することになった。しかも、王軍との最初の大規模戦闘で艦隊司令が戦死したため、接収された「ロイヤル・ソヴリン」号の艦長と主力艦隊の司令を兼任することになったのだ。

 副官に気付かれぬように嘆息するボーウッド。

 

 (……「レキシントン」か、いつの日か「ロイヤル・ソヴリン」の艦長たることを夢見ていた、この私が、今のような立場に就くことになるとはな。始祖「ブリミル」よ、あなたの末裔たる王家に刃向かった私への、これが報いなのですか?)

 

 ボーウッドは自らの煩悶を押し殺すように艦長席から立ち上がると、艦橋の部下たちに命じた。

 

 「現状を報告せよ!!」

 

 「現在位置、目標ニューカッスル城の西南約八十リーグ」

 

 「速力は二十リーグを維持。風石の残量も問題ありません」

 

 「先導艦「デファインス」号より信号確認、周囲十リーグ二敵性勢力ハ確認デキズ」

 

 「殿艦「レゾリューション」号よりも信号確認、艦周囲十リーグニ異常ナシ」

 

 「順調ですな。これなら、本日中にニューカッスルに到着できるかと」

 

 「そう願いたいがな」

 

 

 カッ!!  ズドォォォォォン!!

 

 

 ボーウッドの言葉と、ほぼ同時に艦隊前方に巨大な閃光と爆発が発生する。思わず、片腕で目を覆うボーウッド。最初の衝撃から立ち直ると即座に命令を下す。

 

 「な、何だ、今の光と衝撃は!? 観測手、何が起きた!?」

 

 「し、司令!! 艦隊前衛の戦列艦が、ぜ、全滅していますっ!!」

 

 「な、なんだと!? そんな馬鹿なことが……」

 

 ボーウッド自身が艦橋から、自分の配下にあるはずの艦隊を確認すると、「レキシントン」号の前方を航行していたはずの戦列艦二十隻は跡形もなくなっていた。しばし、呆然とするボーウッドだが、直ぐに気力を持ち直すと、さらなる命令を下す。

 

 「全艦、第一種戦闘態勢!! 全艦の観測手に全周警戒を密にやらせろ!! 後衛艦隊を前進させ、直ちに戦闘隊形を組ませるんだ!! それから、直掩の竜騎士隊を全騎を発進させろ!! 両舷の砲撃班も目標を確認しだい命令を待たず、砲撃開始だ!!」

 

 「りょ、了解!! 全艦、第一種戦闘態勢!! 繰り返す!! 全艦、第一種戦闘態勢!! 後衛各艦に戦闘隊形の信号を送れ!!」

 

 「全観測手! 全周警戒!敵目標を探せ!!」

 

 「レキシントン竜騎士隊、全騎発進せよ!!」

 

 「砲撃班、全砲に散弾装填を開始!!」

 

 慌しく、動く「レキシントン」号の艦橋。ボーウッドは、自身の艦隊を一瞬で半壊させた敵について、必死に考えをめぐらせていた。

 

 (一瞬で、戦列艦二十隻を消し去るような兵器など存在しない。噂に聞く、四王家に連なるメイジにのみ許されたというヘクサゴン・スペルでも、ここまでの威力は無いはず……まさか、「虚無」?)

 

 そんなはずは無いと、頭を振って前方に視線を戻したボーウッドは、上空から艦橋に光の塊が迫るのを目撃した。それが、「レコン・キスタ」主力艦隊司令サー・ヘンリ・ボーウッドがこの世で観た最後の光景だった。

 

 

 ズオォォォォ!!! バゴォォォォォン!!!

 

 

 上空から放たれた螺旋状の光を纏った光線は「レキシントン」号の艦橋を蒸発させると、その巨大な船体を貫く。弾薬庫に直撃を受けた船体は、大爆発を起こし、四散する。さらに光線は、浮遊大陸の根幹たる分厚い岩盤をも貫き、ハルケギニア大陸西方海域に着弾し、巨大な水しぶきを上げてようやく消えた。残存艦隊も、無数に飛来する光球によって消滅する。

 「レコン・キスタ」主力艦隊四十隻は、ハルケギニアから消えた。搭乗していた一万人以上の人間と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あれが、この世界で最大級の兵器か。中世レベルの文明が建造したと考えれば、悪くはないがな」

 

 そう、呟いたのは、上空に浮遊する異形の亜人だった。二メイルを超える長身と、まるで虫のような外骨格を持ち、先端が針のごとく尖った尾を持つ存在、人造人間セルであった。だが、トリステイン魔法学院にて「ゼロ」のルイズの使い魔をしている個体ではない。使い魔セルが、召喚された晩に生み出した分身体の内の一体であった。

 アルビオンを訪れた分身体は、浮遊大陸の存在に興味を駆られ、大陸の組成に関する調査を行い、現地人が風石と呼ぶ特殊な鉱石の効果によって浮遊していることを確認していた。その調査の中途、この大陸を治める王国が内戦状態に入りつつあることを知った分身体は、この世界の軍隊の力を調査するために、最も近くにいた「レコン・キスタ」主力艦隊を全滅させたのだった。

 

 「この地の争いは、あるいは本体が仕える主にとって、丁度いい試練になるかもしれん……ふむ、新たな調査対象もできた。一度、本体とリンクしておくべきか」

 

 セルは、目視不能な超スピードでその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……な、なんなのだ? あの怪物は……まさか、あれこそが「大災厄」を引き起こしたという悪魔なのか?」

 

 セルが「レコン・キスタ」艦隊を消滅させた空域から数リーグ離れた場所に一人の男が浮遊していた。彼の名はビダーシャル。ハルケギニア東方の砂漠に住まう異種族エルフの一人であり、「ネフテス」と呼ばれる諸部族連合の意思決定機関「老評議会」の一員でもあった。彼は、「ネフテス」頭領テュリュークの使者として、人間族最大の国ガリア王国王都を目指していたが、アルビオン方面から感じられた精霊たちの激震な反応を確認するため、浮遊大陸を訪れていたのだ。

 

 「蛮族どもを押さえるどころではない。あの悪魔がもし、サハラに襲来すれば、我が一族は……急ぎ、戻らねば!」

 

 ビダーシャルは、サハラに戻るために指にはめていた風石の指輪に意識を集中した。ビダーシャルの身体が「フライ」を超えるスピードで空を駆けた。彼は優れた精霊魔法の使い手であり、あの悪魔を監視している際も自身の気配を消す特殊な魔法を唱えていた。そのため、彼は気付かなかった。

 

 

 

 その悪魔が、自身の存在を感知していたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




断章をお送りしました。

ビダーシャルさん、早めの登場が彼の運命をどう左右するのか?

……作者にもわかりません、まだ。

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