Gate/beyond the moon(旧題:異世界と日本は繋がったようです) 作:五十川タカシ
マージナル・オペレーション漫画二巻買った!
漫画一巻は近くの本屋4件回って見つからず……『これだから田舎は』と愚痴りながらアマゾン購入を決意しました。
そして二巻読んで、
アラタとオマルも印象違い過ぎやろ!
と声で出して突っ込んでしまいました。
アラタがドンキに向ける笑顔がヤバ過ぎる……。
結論として本二次小説はマジオペ原作小説準拠でいこうと思います。
これが報告したかった。ただそれだけです。
お目汚し申し訳ございません。
今回は伊丹とノリオ回です。
ノリオは生き残ることが出来るか?(By某機動戦士風)
さて、伊丹による海苔緒の尋問だが……、
伊丹は己の持てるオタク知識を総動員して、対魔術師、対サーヴァントの対策を考えてみたのだが、結局何ら対策なしで尋問することにした。
海苔緒もアストルフォと名乗るサーヴァントも政府の調査に協力的であり、暴れる様子も兆候もない。ここで下手に小細工を弄しては、要らぬ警戒をされることになりかねない。
故に対策すること自体が下策であり、無策こそが最大の上策なのだ。
ならば何故、そんな対策を何時間も考えていたかと云えば、ぶっちゃけ、魔術師やサーヴァントを尋問するというシチュエーション自体を妄想するのが楽しかったから。
後は『対象の研究資料です』と云って、公費で買ってきた設定資料本やら某ゲームやらを仕事の時間に読んだり、プレイしたりも。
やりたい放題ここに極まれり、である。
伊丹の使用済研究資料はやがて新たな布教の道具となるだろう(意味深)。
さすが『喰う寝る遊ぶ、その合間にほんのちょっとの人生』をモットーとする男だけのことはある(ちなみに伊丹耀司は、これでも一応自衛隊幹部兼特殊作戦群の一員です)。
上司の『ぐぬぬ』とでも擬音を付け足せそうな顔をさらっと受け流し、伊丹は海苔緒の取り調べに望んだ。
机を挟み、椅子に座って向かい合う二人。
「名前を聞かせてもらっていいかな? あ、一応本人確認ってことで」
「……紫竹、紫竹海苔緒っす、……いえ、です」
伊丹の気楽な声掛けに海苔緒は戸惑った様子を見せる。
こうして伊丹耀司と紫竹海苔緒の奇妙な会遇が幕を開けた。
「調べたけど競馬、競艇に宝くじ。その他諸々で
半分冗談半ば本気で伊丹は尋ねた。
海苔緒は肩をすくめ、溜息混じりに答える。
「そんな便利な能力があったら、多分あの日、銀座に居なかったと思います。何ていったらいいのか。俺……じゃなくて自分は昔から金運は良くて、えっと、その……」
「金ぴかの黄金律スキルみたいな?」
「はい……そんな感じです」
時々オタク同士しか分からないような会話を挟みながら、伊丹と海苔緒の会話は続く。
尋問を受ける海苔緒は自分からペラペラしゃべる訳ではなく、聞かれれば少しずつ答えるスタンスを取っていたし、引きこもりであったために正直コミュ症気味である。
伊丹のような理解力のあり、(興味のお蔭で)物怖じしないタイプは海苔緒の尋問にまさに最適。
加納太郎閣下の采配は的確であった訳だ。
………………………、
「で、どうやってあのサーヴァント、召喚したの? やっぱり儀式とか、したの?」
「いえ……自宅のマンションで普通に映画見てたら、勝手に出てきました。令呪もその時……」
目を逸らしつつ、海苔緒は普段薄い手袋(紫外線除けの婦人用)で隠している片手を見せた。その手の甲には幾何学的な紋様の痣が浮かんでいる。
「おおぉ! まるでゲームそのままみたいだ! 実は昔住んでいた住人が魔術師で、英霊を召喚するために魔法陣を部屋に刻んで……」
「すいません、住んでるマンション、完成して二年しか経ってません。それに最初の入居者、自分です」
「……………あ~、そうなの」
蛇足かもしれないが、海苔緒が丸ごと購入して入居した高級マンションは立地が悪いせいか、未だほとんど入居者がいない。けれど海苔緒の現在の収入内訳は、マンションの賃貸料金よりもファンドに預けた金の配当の方が遥か多かった。
当初は小さなファンドだったが、海苔緒が金を預けた途端、急激に成長したのだ。これもおそらく海苔緒の黄金律スキルもどきの影響だろう。
マンションの管理人はかなり年輩の方で、何度見ても海苔緒の顔を覚えてくれず、今でも時々、唐突に顔を忘れられる。
ネットも使わないし、テレビも殆ど見ないと云っていたから、海苔緒が今話題の人になっていることすら多分気付いてはいないと思われる。
………………………、
「ふーん、知っている武器を何もない所から取り出せて、その武器は一定時間触れてないと消える……か。何かゲート・オブ・バビ●ンと投影の合いの子みたいな能力だねぇ」
「あ……はい」
最初は驚くようなリアクションを取っていた伊丹も、途中から大した動じなくなった。
以前の伊丹ならそうではなかったと思うが、銀座事件にて、飛龍やらオーク、ゴブリン、トロル、中世の騎士のような連中を間近で見たせいか、伊丹の常識は『ファンタジー世界は実在した』という
追い打ちをかけるように神聖エルダント帝国やハルケギニアなどの複数の異世界の存在を聞かされ、平時であれば鋼のような硬度を持っていた筈の伊丹の
故に伊丹はこう思っていた。
『これだけファンタジー世界が存在してるんだから、魔法少女が居ても、魔術師が居ても、サーヴァントが居ても、おかしくないんじゃないかな?』
待て! その理屈はおかしい……と普通なら周りが突っ込んでくれただろうが、生憎と周囲の常識もクラッシュ済みで揃って新しい
加えて伊丹にとってファンタジー世界とは絶対的な二次元の存在であった。
それが現実に現れたことにより、一時的に認識上の二次元と三次元の壁が取り払われ、その境界が 曖昧になったのだ。悪く云えばゲームと現実の区別が付かないとか、そんな感じである。
伊丹はそれによって良くも悪くも海苔緒とアストルフォをすんなりと受け入れられた。
「じゃ、ここであの対戦車ライフルみたいな武器出せる? あっ、担姫のアンジェリカの
伊丹も全巻読破済みであった。アニメ公開に合わせて制作された公式設定資料集も今なら、公費で買って仕事の時間に布教出来るという素晴らしい状況にある。
伊丹も海苔緒の動画を見て以来、本物の機杖に一度でいいから触れてみたかった。
「はい、分かりますど……一応武器ですし、ここで出して大丈夫ですかね?」
「あ……」
遠慮がちに口に出した海苔緒の言葉に、伊丹は固まる。
確かに拙いかもしれないと思ったのだ。後から伊丹は報告書を出さなければいけない身だ。内緒で出して貰おうにも、この部屋には監視カメラが備えられている。
口八丁でどうにかなる気もしたが、今回は諦めることにした。
「じゃ、代わりに変身に使ったステッキ、出せない?」
「えッ! はい、…………分かりました」
海苔緒は盛大に顔を顰めるが、葛藤の後、ステッキ『カレイドサファイア(仮)』を虚空から取り出した。
伊丹はそれを見て『おお、マジでゲート・オブ・バビロンみたいだ』と呑気な感想を抱く。
「どうぞ」
海苔緒はステッキを伊丹に手渡した。
「う~ん。動画で見た時は画素が悪くてよく分からなかったけど、やっぱり星の杖じゃなくてホロウのカレイドステッキに良く似てるな。羽根飾りの部分がリボンに変わってるんだ。後は柄の部分が十字架から筆毛みたいな意匠に変化してる。でも動いたり、喋ったりはしないんだなぁ。このステッキって何て名前なの?」
もし喋るのであれば、伊丹は『キャァァァァシャベッタァァァァ!!』とオーバーリアクションしてみたかった。
伊丹の質問に海苔緒の体はドキリと硬直する。
「……すいません。分からないんですよ、自分でも。元ネタは多分、仰る通りカレイドステッキなんでしょうけど」
全身からドッと冷や汗が噴き出る感覚。海苔緒は若干震えながら目を逸らした。
そんな海苔緒を伊丹はしばらくじっと見つめ、
「……ふ~ん。あっちは赤いし、使ってるのが凛だからルビーって感じだったけど。こっちは青だからサファイアって感じかな。あっ! 今気付いたけど、まるでポケ●ンのバージョン違いだ。赤い方に声を当てるならメル●ラやドラマCD的にCV高野●子だけど、こっちならCV松来●祐かな。それに原作に出てくるとしたらルヴィアゼリッタとセットだよね、多分」
夢中になってステッキを弄り倒す伊丹。それ故、幸いにも空調が効いている筈の部屋で汗を垂らしながら震える海苔緒の姿を確認することはなかった。
その後変身をして貰おうかとも思ったが、伊丹は海苔緒が男であることを思い出し、要求を取り下げた。
だって伊丹には、男の娘の趣味はないのだ。
………………………、
(しかし話してみると案外普通なんだな。もっと普通じゃないのを想像してたんだけど……)
例えば自分で狂気のマッドサイエンティストとか云っちゃう人とか、闇の炎が云々といった感じで片目に眼帯付けちゃう人とか、そういうネタ的な人を想像していた訳ではないのだが、それでも常人とは違う雰囲気を纏った人間を伊丹は想像していた。
何せ
『●●●は、あんたが殺しただろう!』
不意に
胃液が口内へと逆流しかけ、思わず伊丹は口を押さえる。
伊丹に脳裏に再生されるのは悪夢のようなあの日々だ。
「あの、大丈夫っすか?」
海苔緒の声を掛けられ、伊丹は急速に現実へと引き戻された。
こみ上げてきたもの伊丹は無理矢理抑え、押し戻すと何とか表情に笑みを張り付ける。
「本当に大丈夫ですか? 顔、滅茶苦茶蒼いっす……ですよ」
「大丈夫、大丈夫。ちょっと昼飯食べ過ぎたみたい。いや~、三十過ぎるといかんねぇ、ちょっと食べすぎると、これだよ」
自分でも己の顔が引き攣っているだろうとは自覚しているが、それでも伊丹は苦しい言い訳並べ立てるしか出来なかった。
内心では必死に自分に云い聞かせている。
……忘れろ、頭の隅に追いやれ、目を背けろ。イタミヨウジ……お前はいつもそうやって生きてきた筈だろ。そしてこれからも――。
伊丹が
何せ伊丹にとって現実とはある時期を境に、目を背ける対象になったのだから。
目を背けた先に、夢と妄想の世界があった。ただそれだけの事だったのかもしれない。
そして伊丹は今も目を逸らし続けている。一人では到底立ち向かう勇気が無いから。
いや、今は妻の梨紗がいるが、それでも勇気は湧いてこない。
……そう今は、まだ。
気を取り直した伊丹はあの後も質問を続け、やがて質問は門から攻めてきた『武装勢力』についてに行きついた。
海苔緒は知らないとあっさり首を振るが(大嘘)、初めて逆に伊丹に問いを投げ掛ける。
「伊丹さん、捕虜にした連中から事情聴取してないんですか?」
「え、ああ……勿論してるらしいけど、生憎言葉は通じないし、文字も分からないから……」
「え!? 確か慎一から聞いた話じゃ、エルダントには互いの指にはめるだけで言葉が通じるようになる魔法の指輪があるそうですし、ルイズさんやティファニアさんは未知の言語を解読出来る『リードランゲージ』ってコモンマジックが使えるそうですけど」
「え、なにそれ、そんなのあるの?」
「……えッ!」
「……えッ?」
戸惑う伊丹と海苔緒。全く両者の認識は噛み合っていなかった。
海苔緒としてもうとっく両方を駆使して、帝国の連中から情報収集しているものだと思っていた。
ちなみにティファニアが呼ばれた理由は、ハーフエルフのミュセルとティファニアを医学的に比較することで両者が同種の人種――というか生物であるか調査するためである。
引いてはエルダントのある異世界と、才人が召喚されたハルケギニアが同一の世界か、否か、判断するためでもある。
才人と慎一はハーフエルフの女性が知り合いであるという点で盛り上がったりもした。どうやら才人も慎一もティファニアやミュセルの耳を隠すのに苦労したらしい。
なのでその時、海苔緒はこう云った。
『別に耳が見えても、何とかなったんじゃね?』
『え?』
『何云ってんだよ、耳が見えたらエルフってバレるだろ!?』
驚く慎一、反論する才人。しかし海苔緒は話を続ける。
『いや……何かアメリカとかだと、整形の延長で耳を弄ったりする奴も居るらしいぞ。今は軟禁されて出来ねぇけど、『アキバブログ、喪服エルフ』でググれば、耳をエルフみてぇにしたカナダ人だか、アメリカ人の女の写真が出てくる筈だ。まぁ、そうなると耳がバレた時、ミュセルさんやテファニアさんは耳を整形で弄った痛い子って事になるけどな』
海苔緒の台詞を聞き、慎一は『あっ!』と思い出したように拳に手を置き、才人は目を丸めて『マジかよ、そんなのいるのか!?』と大変驚いた様子だった。
それはさておき、海苔緒は事情聴取が進んでいると踏んでいたが、現実では捕虜を収容することすら手一杯で、無人島に突貫で収容所を建設している。
ゲート原作より捕虜が増えている為、工事の規模が大きくなり完成自体も遅れていた。
エルダントについても、前政権の嫌がらせじみた最後の悪あがきにより、上手く資料が引き渡されておらず、官僚たちも資料を纏めるだけで精いっぱいで、魔法の指輪などの情報が下の人間に伝わっていない状況にある。
ハルケギニアに関しても聞くべきことが多すぎて、完全に把握出来ていない状況だ。
海苔緒の発言はこの時期に置いて値千金と云えよう。
「分かった、ありがとう。この事は上に伝えておくよ」
伊丹の報告により、『謎の武装勢力』からの事情聴取は一気に段階が飛躍した。
これより『困ったことがあったら紫竹君に相談してみればいいじゃないかな?』という風潮が政府上層部の一部で生まれ、海苔緒は伊丹に何度も事情聴取を受ける羽目となる。
……色々テンプレ過ぎて下手したら転生者だって、伊丹には分かるんじゃないか。
そういった危惧により、尋問を受ける度、伊丹に警戒心を抱いていた海苔緒は何度も胃を磨り減らすことに。
しかしながら海苔緒の危惧は全く的外れであり、心配ご無用であった。
何故なら……、
「おい、伊丹……紫竹海苔緒だが、何か分かったか?」
尋問を終え、報告書を纏める伊丹に上司が近づき、声を掛ける。
「はい、俺、彼の正体が分かったかも知れません」
「何、本当か!? 一体何者なんだ?」
「おそらく彼は……転生者ですね」
「は?」
「前世でトラックか何かに跳ねられたんでしょう。――で、そして神かそれに類する存在に遭遇し、彼は力を手に入れ、転生した」
「…………」
「アニメやゲームに出てくるような魔法や魔術が使えるのもその影響ですし、サーヴァントとかクラスカードといった某ゲームそっくりのアレは十中八九、転生特典というやつです。何せ、二次小説でよく見かけますから」
「……おい、伊丹」
「やっぱり銀髪オッドアイとかテンプレですよね。二十歳にしては達観してる感じでしたし、これで名前が厨二っぽかったら完璧なんですが……」
「……分かった。分かったから、伊丹」
「分かってくれましたか、この完璧な
「伊丹……今回は見逃してやるが、次にふざけたら減俸にすっぞ! 分かったな!! 全くッ! こっちが真剣に聞いてるっつうのに!」
呆れた表情を浮かべて後ろ髪を掻きながら、上司は伊丹から遠ざかる。
「いえ、自分は至って真面目でありまして……」
「分かった。じゃ、報告書の方は真面目にきっちり仕上げろ! 報告書をお前が大好きなオタク本の設定資料集にしてみろ! 減俸だけじゃなく、年末と夏の休暇も取り上げるからな! 肝に銘じとけッ!! クソ、期待させやがって! これだから伊丹の相手をするのは……」
「あっ、ちょっと……」
この様に……普段の振る舞いがアレな伊丹の発言を誰も信じてくれなかった、とさ。
――ちゃん、ちゃん。
悲しいですよね、本当のことを云っても信じてもらえないのは(棒)。
いつの時代も天才は理解されないものです(例えば、ガリレオ・ガリレイとか)。
伊丹は狼少年扱いです。