ブラック・ブレット[黒の槍]   作:gobrin

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最近色々忙しくて全然書けなかったorz
お待たせしました。




第五話

聖天子から民警に依頼があった日の翌日。

 

休日であり、天気のいい今日。久しぶりに家族で出掛けようということになった。

 

 

 

 

 

だが、まずは朝の稽古である。

 

 

今日は珍しくペア対戦だった。

 

光、舞ペアVS樹、縁ペアである。

 

「うふふ、じゃあやりましょうか」

 

「前やったときは手も足も出なかったんだよなあ」

 

光が遠い目をして愚痴をこぼす。

 

「大丈夫だよ、光。あたしたちなら今日こそは勝てるよ」

 

「おうおう、その意気だ!えらいぞ舞!

光は俺たちにこてんぱんにされて悔しくて泣くがいい!」

 

樹が大人げないことを言う。

 

「そういうことを言うから冷たくされるんだって何回言ったらわかるんだ」

 

「パパ、嫌い」

 

光の言葉に続いて呟いた舞のたったの二言、音にして五音の台詞が樹の心を抉った。

 

「しくしく、嫌いって言われた。嫌いって言われた。きrぐふぉ!?」

 

「はい黙って〜」

 

壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返しそうだった樹を、縁が黙らせた。………肘打ちで。

完璧な肘打ちだった。スピード、威力ともに申し分無い。しかも鳩尾に決まっていた。

その威力を示すかのように、樹は立っていられなかったのか崩れ落ちた。

 

 

「ぐ、お、お、お、ぉ、ぉぉ…………!!」

 

「うふふ、静かになったわね」

 

アレを喰らってすぐに呼吸ができている時点で樹も相応にすごい。そこは流石と言わざるを得ないだろう。

だが、それを褒める者も、気にする者もここにはいない。

 

 

「やった!一人減った!」

 

「だね!行くよ、舞!」

 

「うん!」

 

光と舞が飛び出す。

 

 

舞の武装はいつもと同じ短槍二本。

光も今日は同じ武装だった。

小回りの利く短槍二本のほうが、二対二の状況に適しているからだ。

 

縁も同じく短槍二本。

今回戦闘不能の樹は連結長槍二本で参戦する予定だった。

つまり、今日は全員が二刀流(二槍流)なのである。

 

 

図らずも二対一になった二人は、縁を囲うようにして動く。

縁は、足下の粗大ゴミ(笑)に光たちが躓かないように、流れるような動きで場所を移した。

それに気づいた二人は、思う存分動き回り縁を攪乱しようとする。

縁の重心が少しでもズレたら技を使って畳みかけよう、という作戦だ。

 

 

だが、それしきの戦術は縁には効果がない。

 

「ふふ。来ないなら、こっちから行くわね?」

 

縁は、まるで腕を自分に巻き付けようとするかのように構える。

構え始めから構え終わりまで、一秒もかからなかった。

 

構えから技がわかった二人は飛び退ろうとするが――縁の方が速かった。

 

 

「立花流槍術二ノ型四番『旋風(つむじかぜ)』」

 

その言葉とともに、縁の腕に溜められた力が解放される。

縁の両腕が目にも留まらぬ速さで振り切られ、遠心力により縁の身体も回転する。

 

光と舞は、攻撃と自分の身体の間に武器を差し込み、なんとか直撃は避けた。

その対応すらも、縁に誘導されたモノではあったが。縁は自分の子供たちが得物を差し込めるタイミングで『旋風』を解き放ったのだ。

 

 

「うわぁ!?」

 

「きゃあ!」

 

二人の悲鳴が聞こえ、縁の巻き上げた草が舞い落ちると―――

 

 

 

縁が元の場所に何事もなかったかのように立っており、光と舞の武器は遠くに弾き飛ばされていた。

二人は尻餅をついており、戦闘続行が可能な状態にない。

 

 

「うふふ。勝負アリ、ね?」

 

 

穏やかに笑う縁の足下は少しだけ抉れており、周りは短槍の長さ分の範囲にある草が半分に切り取られていた。

 

 

「うぅ……一撃って……」

 

「ママ強すぎぃ……」

 

光と舞が寝転びながら項垂れるという器用なことをした。

 

 

「ぐおおぉぉぉ……!!」

 

樹は未だに唸っていた。

 

 

 

 

光と舞が風呂から上がり、縁がぐおぐお唸っていた樹を気絶させて根本的に黙らせた後の朝食。

 

席に着きながら、光は和に話しかけていた。

 

 

ちなみに樹も復活している。

厳が一撃叩き込んで起こしていた。

『朝飯だぞばかもんが!』というかけ声とともに全力の一撃。

樹は『ガハッ』と息を漏らした後、『いてて……親父、手荒な起こし方はやめてくれ』とだけ言っていた。

毎日のようにやられているためか、かなり頑丈な設計の樹である。

 

 

「和ちゃん。朝話してたんだけど、今日は天気がいいから皆で出掛けない?」

 

「ふみゅう。賛成」

 

「よかった」

 

眠そうにしながらもしっかりと返事をする和。

そこで、華奈が話に入ってきた。

 

「はいはいはーい!うちはうちは?」

 

「華奈お姉ちゃんは怪我してるから自宅待機ね」

 

「いやぁぁぁああ!!!」

 

ニッコリ、と効果音が出そうな笑顔を華奈に向ける光。

華奈は怪我をした昨日の自分をぶちのめしたい衝動に駆られていた。

皆で買い物!休日の買い物!!うちは行けないけどね!!

こんな感じの悲嘆の声が聞こえてきそうな表情を浮かべながら、華奈は食事を続けていた。

 

 

「おじいちゃんはどうする?」

 

「ふむ。誘ってくれたのは嬉しいが、今日は依頼が入っていてな」

 

「あ、そうなんだ」

 

厳は、家庭教師のアルバイト的なことをしている。

 

家の方針としては厳に食費を入れる義務はないのだが、厳曰く『孫たちが食費を納めとるのに、わしが何もしないわけにゃあいかんだろう』とのこと。

それで、昔から交流のあった家の子供に勉強を教えたら、これが大絶賛された。

それが評判となり、近隣住民から家庭教師の依頼がたくさん舞い込んだ。

始めはボランティアだったが、周りから報酬を払われるようになった。

 

という理由があるため、アルバイト()()()()なのである。

 

今では厳も食費を納めており、こうしてたびたび依頼が舞い込んでくるのだ。

 

 

「すまんな」

 

「いや、大丈夫だよ。頑張ってね」

 

「うむ」

 

厳も孫に励まされて、心なしか嬉しそうだ。

 

「お母さんは?」

 

「私は華奈ちゃんの面倒を見るついでに、お留守番してるわ」

 

 

半ば予想はついていたが、縁の返事を聞いて光は嘆息した。

 

 

「わかった。じゃあ仕方がない、保護者なしで行こう」

 

 

その発言に激しく反応した者がいる――樹だ。

 

 

「っておい!俺は!?俺には聞かないのか!?」

 

「え?うん」

 

「うんって!?ホントに最近冷てえな光!」

 

「だから何?」

 

「意を汲み取ってくれない!」

 

「はあ?何が言いたいのさ」

 

「俺も連れてってくれ!」

 

「決まってる。やだ」

 

「ひどいぃぃぃ!!!!」

 

当然のことながら樹の言わんとすることを最初から理解していた光。

 

 

「あぁ………でも、子供からすげなく扱われるって結構イイかも………」

 

「唐突に何言っちゃってんの!?」

 

いきなりアブナイ発言をし始めた樹に、身の危険を感じた光は食事を中断してまで距離を取る。

 

 

そんな一幕がありながら、にぎやかに食事は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、そろそろ夕方になろうかという時間帯。

買い物も終わった一同は、仲良く手を繋いで歩いていた。

 

 

「じゃあ帰ろっか」

 

「うん」

 

「みゅ」

 

「………………」

 

光が声をかけると、舞と和は充実した今日を噛み締めるかのように返事をした。

黙っているのは荷物持ちAである。

ちなみにBはいない。

 

「お父さん、今日は荷物持ちありがとね」

 

光は最低限の礼儀として、樹に礼を述べておいた。

 

「ああ、気にすんな……」

 

樹は疲れた声音で返事をする。

樹が疲れている理由は他でもない。

子供たちに大いに振り回されたからだ。小学生のあの無尽蔵のエネルギーは、一体どこから現れるのか。

 

「いやあいい買い物したね」

 

「そうだね!」

 

「みゅう。お買い物、楽しかった」

 

ちなみに光たちは全て自腹で買い物している。

生活必需品以外は自腹で買うというのが立花家の方針だ。

それを軽く実行している光たちは、紛れもなく実力者だった。

 

 

 

 

「……ねぇ、アレなんだろう?」

 

子供たちで談笑していた光が、前方に人だかりができているのに気づいた。光は嫌な気配を感じ取っていた。

 

「……なんか嫌な感じだね」

 

「みゅ。あまり関わりたくない空気」

 

「そうだな。向こうから帰るか」

 

舞、和もそこから嫌な雰囲気を感じ、樹は子供たちを守るために回り道を提案した。

 

「うん、そうだ――」

 

「――そいつを捕まえろぉぉ!」

 

それに光が賛同しようとしたとき、悲鳴のような声が上がった。

その声に釣られて光たちがそちらを見ると、人垣の中から一人の少女が飛び出した。

その少女は、遠目にもわかる程に汚れた服を着ていた。

外周区に住んでいる呪われた子供たちの一人だということが容易に予想できてしまう。

 

 

外周区とはモノリスと接している国境線区域のことだ。

そこでは、身寄りのない呪われた子供たちが暮らしている。

 

 

その少女は手にかごを持っているようだった。

少女が急いでいる状況から鑑みるに、恐らく盗品なのだろう。

 

 

その少女は人垣の先にいた人の前で立ち止まった。

 

――その人物は、なんと蓮太郎と延珠だった。

 

彼らの睨み合いは、大人たちが物理的に終わらせた。

少女の頭を掴み、アスファルトに押し付ける。

 

 

――粗雑に扱われた少女を見て、光は堪らず飛び出した。

 

「あ、ちょっと、光!」

 

「みゅ、待って!」

 

「ったく、行くぞ、二人とも!」

 

走り出した光を追いかけて、舞たちも現場に駆ける。

だが、光は全力で走っているのか差は開く一方だ。

 

 

一足早く現場に到着した光は、大声を張り上げた。

 

「ちょっと、何してるんだよ!?」

 

無論、光は何が起きているのか予想がついている。

だが、子供の光が言うと、こうなるのだ。

 

「ダメだよ、ボク。あの『赤目』に近づいちゃいけない!」

 

「あの『赤鬼』は盗みをやった上に、声をかけた警官を力を使って半殺しにしたんだぞ!危険だ!」

 

そう。頭ごなしに止めずに、何があったかを説明し、近づかないように諭すのだ。

それを利用し、光はさらに踏み込んで声を張り上げる。

 

「なら僕がお金を払う!だからその子を放して!」

 

いきなり近づいてきた子供に場が一瞬停止する。

少女に手を伸ばされていた蓮太郎も、その手を払いのけようとしていた自分の手を止めて光を見やった。

その場にいる人間は、光が言っていることを理解しようとして失敗していた。

拘束が緩んだ少女も、呆気にとられて脱出するのを忘れている。

 

 

そして、場が再び動き出す。

 

「ボク、何を言ってるんだい?君みたいな子供にそんなお金を払えるわけがないだろう?」

 

「それに、そんなガストレアのために金を払う必要なんてねえぞ?」

 

大人たちが口々に光を説得しようとしてくる。

大人たちは純粋な善意で、光を諭そうとしたのだろう。

 

 

――だが、今、この男は、言ってはならないことを、言った。

 

 

光は、民警ライセンスを取り出して、高らかに声を上げる。

 

「僕は、民警だ!それくらいのお金は払えるし、僕は呪われた子供たちを侮辱する人間は赦さない!

一人の呪われた子供たちを侮辱することは、東京エリアを守っている全てのイニシエーターを侮辱することと同義だ!

僕はそんなことをする奴らに、決して手加減しない…………!!」

 

殺気を放ち始めた光を怖れて、周りにいる大人たちが後ずさる。

少女を押さえつけていた数人も腰を抜かしてしまった。

蓮太郎ですら気圧されてしまって声を出すことができない。

 

 

光は少女に歩み寄る。

周囲の人間がさらに一、二歩下がった。

 

「大丈夫?立てる?」

 

光は周りに殺気を飛ばしつつも、少女には柔らかな笑みを浮かべて手を差し出す。

 

「う、うん........」

 

少女は光の手を取り、立ち上がった。

光は少女の持つかごの中身を見て、ポケットから財布を取り出す。

 

「うーん、これぐらいあれば治療費も足りるよね」

 

そして、それなりの枚数の万札を取り出して、すぐ側にいた男に手渡した。

 

「はい、これだけあれば警官さんの治療費もまかなえると思います。

この子が商品を盗ってきた店にも代金をしっかり払った後、残りを治療費にしてください。

それでも余ったら、あなたがご自由に使っていただいて構いません」

 

 

言いたいことだけ言うと、少女の手を引いて歩き始めた。

人垣は光のための道をつくるために割れる。

 

「あと、今回は見逃すけど、次に僕の前でさっきみたいなふざけたこと抜かしたら、容赦はしないよ」

 

先ほどこの少女に向かって『ガストレア』と言った男にだけ再び殺気を飛ばして脅しをかける。

その男が恐怖で失神したのを見届けて、(あれ?やりすぎた……?)と密かに焦る光だった。

 

 

 

 

 

始めは光を追っていたものの、出て行かない方がいいと判断して十字路を曲がったところで待機していた樹たち。

光が彼らの下へ戻ると、まず樹に怒られた。

 

「こら。後先考えずに飛び出すな。あと殺気を飛ばし過ぎだ。ここまで伝わってきたぞ。民間人を威圧してどうする」

 

光の頭に拳骨が飛来。

 

「いたっ!だってあのおっさんがふざけたことを」

 

再び拳骨。

 

「だってもくそもあるか。一般人が呪われた子供たちをどう思ってるか知らないわけじゃないだろう」

 

「いてて……。うぅ……だって、いてもたってもいられなくなったんだもん」

 

「まあその気持ちはわからんでもないし、光のそういう気持ちは大事にしてほしいんだが……」

 

光の優しさに由来する行動だというのは理解しているので、そこまで強く叱れない樹。

二人の会話が止まったところで、舞が気になっていたことを口にする。

 

「ねえ光。その子、どうするの?」

 

「あ、そだね。今日のところは帰ってもらうとして………。お父さん、うちでなにか仕事を提供できないかな?」

 

「う〜ん、難しいなあ……。この子たちはそこまで識字率が高くないだろうし。感情制御も甘いだろうしな……。でもまあ、可愛い子供の頼みだ。考えておこう」

 

無茶振りをした自覚のある光は、樹に対してしっかりと頭を下げた。

 

「ありがとう、お父さん。じゃあ、今日は気を付けて帰ってね。君、どこに住んでるの?」

 

「………第三十九区」

 

「わかった。なにかできることが見つかったら知らせにいくよ。

今度からは、なにかあったら『立花民間警備会社』って名前が入ってる看板の建物に入って。

そこ、お父さんの会社の支社だから。

……あー、しまった。持ってないや。ねえお父さん、紙とペンか、名刺持ってない?」

 

「あん?そんなもの何に……ああ、なるほど。名刺があるからそれでいいな?」

 

「うん、ありがとう」

 

光の発言の意図を理解できたのは樹だけだったため、他三人は状況に置き去りにされていた。

樹が名刺入れから名刺を一枚取り出し、光に手渡す。

 

光は名刺を受け取り、助けた少女に差し出した。

 

「はい、これ。あげる。ここの文字、これが『立花民間警備会社』っていう文字だからね。この文字がある建物に入ってきていいから。わかった?」

 

「……わかった」

 

光は頷く少女の声音から、理解したというのは嘘ではなさそうだと判断した。

 

「じゃあ、気を付けて。警察には見つからないようにね」

 

「……うん」

 

少女は光にペコリ、と頭を下げると、自分の住処へと向かって走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

少女が立ち去って少ししてから、光たちは移動を開始した。

途中、歩きながら寝てしまった和を樹が背負い、親子三人は家路を辿っていた。

光と舞は手を繋いでいたが、会話はなかった。

そんな中、樹がおもむろに口を開く。

 

「光は、今日みたいなことが起きたとき、全員助けてまわるつもりか?」

 

「………できる限り、助けたいと思ってる」

 

「…………そうか」

 

それきり、三人とも家に着くまで口を開かなかった。

 

 

 




お久しぶりです、gobrinです。

あれ?おっかしいな。
ほのぼのした話にして、助けて気分よく終わり!にしようと思ったのに、なんか暗い感じで終わったぞ....?


光は、いくら精神的に大人びてるとはいえ、まだ子供です。
そんな光だからこそ、ああいう結論になります。
子供なんで。

この日は、原作では蓮太郎が少女を病院に連れていき、深夜に影胤に襲撃される日です。
この話では、蓮太郎は色々あって一人帰りが遅くなり、結果襲撃されます。
そこは原作と変わりません。

ちなみに、今日の出来事で、延珠は光が民警だということを初めて知りました。



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