実家から原作を回収してきたので、第一話の説明を少し付け加えました。
少し詳しい説明になったと思います。
それでも大分ざっくりしたものですが。
僕も大好き、みんな大好き、
ハレルゥヤァァァさんの登場です。
ですが、シリアスになりすぎないようにしました。
樹、頑張れ。
では、どうぞ。
『皆さん、楽にしてください。私から説明します』
聖天子がそう言ったが、誰も座ろうとはしなかった。
ちなみに樹はニヤニヤしながらずっと座っている。
凄まじく不敬では?
聖天子の後ろに控えているのは天童菊之丞。
天童木更の祖父だ。
再び聖天子が口を開く。
『といっても依頼自体はとても単純です。皆さんに依頼するのは二つ。昨日東京エリアに侵入して感染者を一人出した感染源ガストレアの排除。そして、このガストレアに取り込まれていると思われるケースを無傷で回収してください』
聖天子の言葉の後で、パネルに別ウィンドウが開かれた。
ケースの見た目と、成功報酬が表示される。
その莫大な金額に、さすがの樹も目を剥いていた。
(……あれだけあれば、どんなに無駄遣いしても一年分の食費は確実に残る。欲しいな)
逆に光は、とても冷静に分析していた。とんだ大物だ。
先ほど将監を静止した社長が挙手する。
「質問よろしいでしょうか。感染源ガストレアの形状、種類、現在の潜伏場所について、政府はなにか情報をつかんでいるのでしょうか?」
『残念ながら不明です』
続いて木更が挙手した。
「回収するケースの中にはなにが入っているか聞いてもよろしいですか?」
樹を除く社長にざわめきが走る。
『おや、あなたは?』
「天童木更と申します」
『……お噂は聞いております。ですが、その質問は依頼人のプライバシーに当たるのでお答えできません』
聖天子は少し驚いたような顔をしたが、すぐに元の表情に戻り、木更の質問に淡々と返す。
――再び光と樹の心の会話――
(―――お父さんは、中身知ってるの?)
(サアネ☆)
(………答えろダメ親父)
(そんなこと言うなら絶対教えないもん)
(子供か!!!――ボクは真面目に聞いてるんだけど)
(―――そうか。ああ、知ってるよ)
(――そ。ありがとう、お父さん)
その間に、木更は聖天子を問いつめていた。
「納得できません。感染源ガストレアが感染者と同じ遺伝型を持っているという常識に照らせば、感染源ガストレアもモデル・スパイダーでしょう。
その程度の敵ならウチのプロモーター一人でも倒せます。………多分ですけど………………」
最後の付け加えに、蓮太郎は頬を引き攣らせる。
光は、蓮太郎には悪いと思ったが、笑いを堪えるのに必死だった。
「ぶふぉっ!!」
樹など思いっきり噴き出していた。
「………くっ、お父さん、蓮太郎お兄ちゃんに失礼だよ。………くくっ」
光が嗜めるも、自分自身笑いを堪えきれていなかった。
蓮太郎は、子供にまで笑われてかなり泣きそうだった。
「………こ、これは失敬。………ふっ、くっ………。………どうぞ続けてください」
樹はなんとか抑えて二人に先を促す。
「……あ、はい。問題はなぜそんな簡単な依頼を破格の依頼料で――しかも民警のトップクラスの人間達に依頼するのか腑に落ちません。ならば値段に見合った危険がそのケースの中にあると邪推してしまうのは当然ではないでしょうか?」
『それは知る必要のないことでは?』
「かもしれません。しかし、そちらが手札を伏せたままならば、ウチはこの件から手を引かせてもらいます」
『………ここで席を立つと、ペナルティがありますよ』
「覚悟の上です。そんな不確かな説明でウチの社員を危険に晒すわけにはまいりませんので」
「………よかったね、蓮太郎お兄ちゃん」
光がニヤリとしながら蓮太郎に話しかける。
意外の感に打たれていた蓮太郎は、光の言葉に少し照れた。
「フハハハハハハハ!!!!」
突如、笑い声が響き渡る。
『誰です』
「私だ」
聖天子が鋭く問いかける。
全員の視線が答えた声の主に集まる。
つい先ほどまで空席だった一席に、シルクハットに燕尾服で仮面をかぶった怪人がいて、机に足を投げ出していた。
両隣の社長は驚いて椅子から転げ落ちる。
怪人は反動をつけて机の上で立ち上がった。
シルクハットを手に持ち、腰を折って礼をする。
「私は
「初めましてこんにちは!!」
影胤の台詞を遮る大声が響いた。
―――光だ。
「おや、君は?」
「その前に僕、そっちにいる女の子にも挨拶したいな」
光は背後に視線を送る。
そこにいるのは知っているぞ、そう言うように。
「ほう、これは驚いた。気づいている者がいたか。ならば紹介しよう。
「はい、パパ」
光と蓮太郎の側を少女が歩いていった。
ウェーブがかった短髪に、黒いフリル付きのワンピース。
それに腰に二本の小太刀を差していた。
その鞘からは血がしたたっている。
少し苦労して机に登り、影胤の横で辞儀をした。
「蛭子小比奈。十歳」
「私のイニシエーターにして娘だ。さて、君の名前を聞こうか」
「うん。僕は立花光。そちらの小比奈ちゃんと同じく十歳。プロモーター。よろしくね、影胤さん」
影胤に問いかけられた光は、少し前に出て二人に礼をする。
「ふむ、立花光君ね……。そっちの立花とは関係が?」
「僕のお父さんだね。いつまでニヤニヤしてるんだろう」
「全くだ。では君のことは光君、と呼ぶことにしよう」
「ご自由にどうぞ」
いきなり現れた影胤に対して臆することなく接する光。
依然として席に腰掛けてニヤニヤしている樹。
周りをそっちのけで話が進んでいる。
周りから見ればかなり不気味だった。
「しかし、なぜ君は急に大声をあげたのかね?」
「ほとんどの人が萎縮してたから。呑まれないためにはそうするしかないかなって」
「なるほど」
そんな呑気な会話で、蓮太郎が最初に我に返った。
銃を抜き、影胤に向ける。
「お前ッ………!!」
「フフフ、元気だったかい里見君。我が新しき友よ」
「どっから入ってきやがった!!」
「正面から堂々と。途中に居たうるさいハエはあらかた殺したが」
「パパ、あいつ、テッポウこっち向けてるよ、斬っていい?」
「よしよし、だがまだ駄目だ。我慢なさい」
「うぅ………パパァ」
小比奈が不満そうに影胤の服の裾を掴む。
と、ここで光に興味を持ったのか、光に向き直った小比奈が首を傾げる。
「………?パパ、あいつ、変だよ。だって私と――」
(――――あの先を言わせたらマズいッ!!!)
直感で危機感を覚えた光は状況を打開する行動を瞬時に考える。
「えっと、小比奈ちゃん!?君、戦いたいんじゃない!?今度戦おうか!だから今は黙ってお願い!」
「え!?いいの!?」
小比奈の目がキラキラと輝く。
とても嬉しそうだ。
「うん。ホント。今度ね」
「やったぁ!もう一回、名前、教えて!」
「うん。僕は立花光。覚えておいてくれたら嬉しいな」
「光、光、光………。覚えた。私はモデル・マンティス、蛭子小比奈。次は斬るよ」
「あ、マンティスだったんだ。よろしく」
今度は自身のモデルも含めて名乗りなおす小比奈。
そして完全に置いていかれている周り。
「ところで、何の用なの?」
光は気軽に影胤に問う。
「今日は挨拶だよ。『七星の遺産』のレースに私も参加させてもらおうと思ってね」
その言葉を聞いて、聖天子が一瞬目を強くつぶったのを光は見逃さなかった。
樹にアイコンタクトを送る。
(――これも?)
(――ああ、物は知ってる)
前からだが、樹の情報網の広さやコネの多さには恐れ入る。
「七星の遺産?」
蓮太郎が疑問の声をあげる。
「おやおや、可哀想に。君たちは本当に何も知らされていないんだね。ケースの中身さ」
影胤は肩を竦めて、小馬鹿にするように言う。
そして、腕を大きく広げて卓上で回転し、高らかに告げた。
「諸君ッ、ルールの確認をしようじゃないか!私と君たち、どちらが早く七星の遺産を手に入れられるかの勝負といこう。七星の遺産は、感染源ガストレアを殺せば手に入るだろう。
「――黙って聞いていればごちゃごちゃと」
声を上げたのは、先ほど光達につっかかってきた伊熊将監だった。
「要約すると、テメェがここで死ねばいいんだろ?」
そう言った将監の姿が掻き消えたと思ったら、影胤に接近していた。なかなか速い。
しかし、それはマズい。
「あ、駄目――」
―――ガゥンッ!
光が上げようとした声は、銃声に遮られた。
見れば、撃った人物は樹だった。
樹が撃った銃弾は、将監の動きを止める軌道だ。
「テメェ、なにしやがんだオッサン!」
「オッサン!?」
・将監のマインドショック攻撃!
・樹に効果はバツグンだ!
・樹に300のダメージ!
・樹の特性『開き直り』が発動!
・樹は開き直って50のダメージを受けた!攻撃力が二倍になった!防御力が半分になった!素早さが0になった!
・樹は倒れた!
・将監は5経験値と20円手に入れた!
「なに寝てんだッ!」
・光の(物理的な)ツッコミ!
・樹はHPMAXで生き返った!
「はっ!おお、助かったよ光。――ゴホン。やめておけ、伊熊将監。そいつらは君のIP序列千五百八十四位程度で太刀打ちできる相手ではないぞ」
「かっこつけてんじゃねぇよオッサン!」
「またオッサンって言われた!!」
・将監の(以下略)
「はぁ……。お父さん、拳銃借りるね」
光は倒れた樹の手から拳銃を取り上げ、影胤に向かって発砲した。
反動によって光の腕が跳ね上がるが、それを回転の勢いに転化させ隙をほとんど作らずに再び銃を構える。
すると影胤を囲うように青白く輝くドーム状のバリアが現れ、弾丸をあさっての方向へ弾き飛ばした。
「とまあこんな感じで躱されるみたい」
光がため息とともに言葉を紡ぐ。
樹の対処が面倒くさかったからだ。
「よく気がついたな。これは斥力フィールド。私は『イマジナリー・ギミック』と呼んでいる」
「それって、もしかして……………『新人類創造計画』?」
影胤が鷹揚に両手を広げて答えた。
それに光が思い浮かんだ可能性をぶつける。
「そうだ。名乗ろう光君、里見君。
私は元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊『新人類創造計画』蛭子影胤だ」
その場にいる誰もが硬直した。
―――床で寝ている樹と、光を除いて。
「実在したんですね。初めて見ました」
ただ、光も少しは驚いたようで、素が出ている。
「おや、疑わないのかね?」
「あんなことができるのは貴方のような方々だけでしょうし」
「ヒヒ、全くもってその通りだ」
影胤は喉の奥から笑いをこぼすと蓮太郎に近づき、どこからか取り出した赤いリボン付きの箱を蓮太郎に手渡した。
「君へのプレゼントだ。ではこの辺でおいとまさせてもらうよ。絶望したまえ民警の諸君。滅亡の日は近い。いくよ小比奈」
「はい、パパ。またね、光」
「うん、バイバイ、小比奈ちゃん。影胤さんも」
二人は窓まで歩き、叩き割って、当たり前のように飛び降りる。
光は穏やかに手を振って二人を見送った。
部屋の中は不気味なほど静かだった。
少しして、騒然としてくる。
木更が蓮太郎に影胤との接触の様子を尋ねた。
将監の社長が机を叩きながら菊之丞に詰問するも、菊之丞はその問いをばっさり斬り捨てる。
そして、慌てた様子で部屋に一人の男が飛び込んできた。
空席だった社長の秘書で、社長が殺されて、首から上がないと叫んだ。
―――蓮太郎が受け取った箱からは、血がにじみ出ていた。
『静粛にッ!』
聖天子の声に、場が静まる。
やっと樹もかろうじて復活した。
『皆さん、私から新たに依頼の達成条件を付け加えさせていただきます。ケース奪取を企むあの男より先に、ケースを回収してください。でなければ大変なことが起こります』
「中に入っているものがどういうものなのか、説明していただけますよね?」
木更が聖天子を睨み上げる。
聖天子は唇を小さく噛んでから答えた。
『いいでしょう、ケースの中に入っているのは七星の遺産。邪悪な人間が悪用すればモノリスの結界を破壊し、東京エリアに”大絶滅”を引き起こす封印指定物です』
その言葉に、再び部屋の中が騒然とした。
招集が終わって帰宅した二人。
ちなみに、木更たちと会った時の失態は怒られずに済んだ。
「ただいまー」
「ただいまっ!皆のパパが、帰ってきたよっ!」
「おかえり光ー!!」
「ふみゅ。光、おかえり」
胸に飛び込んできた舞を、光が受けとめる。
和も、とてとて、と走ってきて光に抱きついた。
「うん、ただいま」
二人の少女を抱きとめて、帰宅の挨拶をもう一度言う光。
その隣で樹が崩れ落ちていた。
「うわぁぁーん!!誰か俺にもおかえりって言ってくれー!!」
そこへ救世主、縁と華奈が現れた。
華奈は松葉杖を装備している。
樹は二人に期待の眼差しを向ける。
「あらあら。おかえりなさい、光」
「光君、おかえりー」
「ただいま、二人とも。華奈お姉ちゃん、怪我大したことなかったんだ。よかった」
ついに二人にも見放された樹。
「ぐすん。もういいもん。
ただいまー。
あ、おかえり樹。
出迎えご苦労、樹。
………………………。
……………………………。
うわぁぁぁぁぁああああああああん!!!!!!!」
とうとう出演、脚本、監督が樹一人になった。
哀れすぎる。
「ふふ、冗談よ。おかえりなさい、あなた」
「うちも冗談ですよー。お疲れ様です、社長」
「二人ともぉぉぉぉぉ!!!」
感極まって涙を滝のように流しながら、樹が二人に抱きつこうとする。
華奈は松葉杖で樹を打ち抜き、縁は強力な掌打で樹を吹っ飛ばす。
「うふふ、抱きつくのは駄目よ」
「うちもそれは遠慮させてもらいますね」
樹は本日三度目の戦闘不能に陥った。
伸びている樹は放っておいて、残りの家族は夕飯を食べることにした。
光は今日あったことを皆に話して聞かせていた。
もちろん血生臭いところは省略。
「ふーん。じゃあ、その七星の遺産ってのを誰よりも早く手に入れればいいのね?」
「そう。でも、感染源ガストレアの居場所がわからないから、そこはお父さんに頼もうと思ってる」
樹のコネはあの体たらくからは信じられないほどに多い。
実は、あの聖天子にもコネがある。
ただし、これを知っているのは『立花』の人間だけだ。
家族であっても、華奈と和は知らない。
「みゅ。和はどうしよう?」
「和ちゃんたちは今回はお休みでいいと思うよ。華奈お姉ちゃんがあんなだし」
光は華奈に軽いジト目を向ける。
「あはは………。ごめんね、光君」
「うん、いいよ。大丈夫。舞、気を付けていこうね。影胤さんかなり強そうだったから」
「わかった。光の言うことだもんね」
舞は光の言うことを疑わない。
それほどまでに自分の片割れとも言える光を信頼しているのだ。
「ま、今は動きようがないから、いつも通り生活してればいいよ」
「わかった」
そんな会話をしながら、食事の時間は過ぎていった。
―――その夜。
樹はまたもやいつの間にか回復し、すでに寝ていた。
華奈と和も社宅で寝ているだろう。
「ねーねー」
「ん?」
光は一緒のベットで寝ていた舞から話しかけられた。
「どしたの?」
「えとね、ご飯の時に言ってた影胤って人、そんなに強そうだったの?」
「うーん、そこらの民警よりは。あの場に居た人で勝てそうなのは、四人かなぁ………」
光はあの場を思い出して、周りにいた人間を思い出す。
「誰?」
「まず、当然のごとくお父さん。そして、ボク。あとは、木更お姉ちゃんと里見先輩」
「ああ、延珠の」
「そ」
「あの人、強いの?」
舞も、蓮太郎は見たことがある。
あるからこそ、不思議だった。
それほど強そうには見えなかったのだ。
「正確に言うと、里見先輩は条件付きでなら勝てると思う。今回の勝ちは、戦闘であの人たちを退けることね。普通にやったんじゃ無理かな」
「条件って?」
「うーん、基本的にボクは舞たちを守ることに必要な情報以外は調べないからなぁ。お父さんなら知ってると思うけど。ボクのはただの勘だよ」
「そっかぁ」
舞の声が少し眠たそうだ。
「じゃ、そろそろ寝よっか」
「うん」
「ボクは舞たちのことをなにがあっても絶対に守るよ。だから安心して、おやすみ」
「うん、信じてるから大丈夫。おやすみ」
光は、双子の妹の舞や、他の呪われた子供たちを守るために努力を重ねてきた。
光は、彼女たちを救うためなら、人類を敵に回すことも厭わない。
舞の寝顔を眺めながら、光は今日会った影胤のことを思い出していた。
(多分相容れないからなぁ…………。戦うしかない、か)
影胤は、恐らく呪われた子供たちのことを大事に思っている。
だがそれは、力があるからだろうと光は予想する。
影胤は無能な人間を毛嫌いしているように感じる、というのが光の感想だった。
(ボクは舞たちに害をなす人間を根絶やしにしたいだけで、力なき人全てを消したいわけじゃない。だから、戦うことになるんだろうなぁ………。やだなぁ………小比奈ちゃんと戦うの)
光が嫌なのは小比奈と戦うことだ。影胤はどうでもいい。
(ま、グダグダ悩んでてもしょうがないか。なるようになるよね。―――やるなら捻じ伏せるだけだし。………さて、ボクも寝なきゃ)
物騒なことを考えたまま、光はまどろみの中へと身を投じた。
……………いかがでしたか?
楽しんでいただけていたら幸いです。
光はこんな行動原理で動いています。
というよりも、これ以外の行動原理では動きません。
子供のくせに結構残酷な主人公かもしれませんね。
感想、意見、質問その他、お待ちしております。