ブラック・ブレット[黒の槍]   作:gobrin

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やっと原作の話が書けた。

他のところで少しでもほのぼの感が出せているといいのですが....。

では、どうぞ。



第三話

春休みも終わって少し経ったある日。

 

 

今日も今日とて平和な朝の稽古を終え、樹が拗ねながらの朝食の時間が過ぎた。

 

子供たちは全員学校である。

 

「じゃあ行ってきます、社長、副社長」

 

「ふふ、いってらっしゃい華奈ちゃん」

 

「おう、気を付けて行ってきな!」

 

華奈は高校だ。

華奈は光たちにも声をかける。

 

「光君、舞ちゃん、行ってくるね。和はしっかりやるのよ」

 

「うん。いってらっしゃい、華奈お姉ちゃん」

 

「華奈姉いってら」

 

「ふみゅう。いつもちゃんとしてるもん〜」

 

光、舞、和の順で返す。舞は雑に返しているが、これがデフォルトである。

残った三人も、保護者に声をかける。

 

「じゃ、行ってくるね、ママ!」

 

「うふふ、いってらっしゃい」

 

「ねえ俺は?俺には!?俺父親よ!?」

 

舞は朝から元気がいい。

 

「みゅ。副社長、行ってきます〜」

 

「ええ、気をつけてね」

 

「だから俺には!?」

 

和は案外空気が読める子だった。

 

「では、お母さん。行ってきます。お父さん。僕は学校に行ってきます。なのでお父さんも逝ってきてください」

 

「はい、いってらっしゃい。今日も舞たちのこと、よろしくね」

 

「どこに!?俺のほう字面が違う気がするんだけど気のせいか!?」

 

光は相手によってがらりと態度を変える。

 

今も縁には礼儀正しく、樹にはニヤリと笑みを浮かべて言っていた。

笑みを深くして樹のツッコミに返す。

 

「気のせいだよ」

 

「うわぁぁあーん!これぜっったい『逝く』のほうで言われたぁああー!!」

 

親の威厳…………いや、もう言及しなくていいか。樹だし。

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー」

 

「おはよー」

 

小学校の校門前で、子供たちが友人同士で挨拶を交わしていた。

その中には光たちの姿もあった。

 

「あ、光君、おはよー!」

 

「うん、おはよー」

 

「舞ちゃん、おっはー」

 

「おっはー」

 

この場では光も子供っぽく振る舞っている。

舞と和はいつも通りだ。

 

舞と和が呪われた子供たちであることは秘密だ。

呪われた子供たち、ということだけで迫害の対象になるのだ。言えるわけがない。

自然と光が民警だということも秘密になる。

 

「では行ってくるのだ、蓮太郎!」

 

「ああ、頑張って勉強してこいよ!」

 

とてつもなく元気な声が聞こえた。

 

「あ、延珠ちゃんだ」

 

「みゅう。今日も元気」

 

藍原延珠。いま自転車を漕いでいった里見蓮太郎と同居している少女だ。

光たちと同じクラスである。

 

「延珠ちゃん、おはよ」

 

「おう、光!おはようなのだ!」

 

光たちは延珠が呪われた子供たちの一人であることを知っている。

蓮太郎とペアを組んで民警をやっていることも。

延珠がこちらのことを知っているかはわからないが。

 

「光、行こ?」

 

「みゅ。光、ご〜」

 

「あ、うん。そうだね。行こっか」

 

光は家を出てからずっと繋がれていた手を引かれて教室に向かう。

そんな光を羨ましそうな目で見ていた子供たちがいたのはご愛嬌だろう。

 

 

 

 

 

――休み時間。

 

 

光のイヤホンに一本の着信が入った。

 

イヤホンといっても、コードの類はない。インカムと表現した方が正しいかもしれない。

学校で携帯を使うわけにもいかない光用の電話、といったところだ。

 

舞と和は延珠達と談笑している。

 

なぜこんな時間にと疑問に思いながらも袖口のマイクを口に近づけて応答する。

 

「もしもし、お父さん?どうしたのこんな時間に」

 

『ああ、悪いんだが早退してくれ。防衛省から集合要請がかかった』

 

「防衛省?何の用かはしらないけど、そういうときって華奈お姉ちゃんが行くことになってなかった?」

 

『…………のっぴきならない事情があって華奈ちゃんは無理だ。お前に頼むのも本当は嫌なんだが、『立花民間警備会社』に来た話な以上、民警を連れていかないわけにはいかない。お前は中学校くらいまでの勉強は大丈夫だろ?ホント悪いんだが、頼むわ』

 

「……わかった。保健室で休んでるから迎えに来て」

 

『悪いな。すぐ着くから待ってろ』

 

樹との通信を終えた光は、教師に具合が悪いと告げて、舞と和に軽く事情を説明してから保健室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

――十数分後。

 

 

迎えに来た樹の車の中で、光はシラケた目をしていた。

 

理由は樹から聞かされた『華奈が行けないのっぴきならない理由』のせいだ。

 

 

――そのあらましはこうだった。

 

 

今日華奈のクラスでは体育の授業があったらしい。

 

女子の種目はハードル走だったそうだ。

 

華奈はなぜかぼーっとしながら走り、ハードルに引っかかった。

 

――結果、骨折。

 

 

それが華奈から縁に伝わり、縁から樹に伝わり、最終的に光に伝わった事の顛末だ。

 

 

それを聞いた光は、『なんてしょうもない……しかもよりにもよって何で今日……』という思いでいっぱいだった。

 

 

「あー。まあなんだ。お前も色々思うところがあると思うが、ひとまず庁舎行くぞ」

 

「………うん」

 

光と樹を乗せた車はスピードを上げて目的地へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

到着した樹が受付で用件を伝えると、奥へ案内される。

 

その途中で見知った顔を見つけた樹が声をかけた。

 

「やあ、木更ちゃん。久しぶりだね」

 

「え?あ、樹さん。お久しぶりです」

 

「?木更さん、誰だこの人?」

 

『天童民間警備会社』社長の天童木更だ。

その隣には蓮太郎もいる。

 

「里見君、紹介するわ。こちら、立花家現当主にして『立花民間警備会社』社長の立花樹さん。聞いた事ないかしら?」

 

「ああ、そういえばジジイが昔、立花の槍術は優れた武術だとか言ってた気がする。そういえばアンタもどっかで見た事ある気がするな」

 

「その立花の現当主、立花樹です。よろしく、里見君。天童家とは多少の関わりがあってね。何回か訪問したことがあったからその時に見かけたのだろう」

 

現当主らしい雰囲気を伴った樹を叩き折ったのは光だった。

 

「ねえお父さん。いつものだらしなさが見えないけど、どうしたの?」

 

ものすっごい子供っぽい話し方で話しかける。

 

光は基本的に最初は自分の実年齢の低さを活かして子供らしく振る舞う。

この方がお咎めが少ないからだ。

子供というのは便利なものである。

 

「ちょ、そういうこと言うのやめろよ!せっかく威厳ある感じにできてたのに!」

 

先ほどまでの堂々とした空気が霧散する。

豹変した樹の態度に、蓮太郎と木更は驚きが隠せない。

 

「で、お兄ちゃんが蓮太郎お兄ちゃんだよね?延珠ちゃんのプロモーターの」

 

「え、延珠のことを知ってるのか?」

 

「うん。僕、同じクラスだもん」

 

「そうなのか。ここにいるってことは民警だよな。…………………………え!?十歳!?マジ!?」

 

「うん、マジ。お姉ちゃんはなんて呼んだらいい?天童社長?木更お姉ちゃん?」

 

「木更お姉ちゃんでお願い。私は君のことをなんて呼べばいいのかしら?」

 

その問いを投げかけられて、光は自分がやってしまったことを理解した。

――――お父さんをいじるのに意識を割きすぎて、自己紹介するの忘れてた!

 

内心慌てながら自己紹介する。

普段はだらしない樹だが、こういうことには意外と厳しいのだ。

 

「し、失礼しました。こちらは自己紹介もせずに。僕の名前は立花光。プロモーターで序列は一万九千三百八十七位。樹の子供です。お好きなようにお呼びください」

 

先ほどの樹以上の豹変に、蓮太郎と木更は目を丸くする。

蓮太郎がなんとか口を開く。

 

「………喋り方が急に変わったんだが、何だ?」

 

「こっちが僕の素の話し方です。子供は不便ですが、子供っぽく振る舞っていれば色々メリットもあるので、最初はアレで通すようにしているんです。騙すような真似をして申し訳ございませんでした」

 

「………あ、そこまで硬くならなくてもいいのよ?」

 

「では、お言葉に甘えて。――こっちのときは里見先輩って呼ばせてもらいますね。木更お姉ちゃんはそのままで」

 

蓮太郎と木更はすっかり気圧されてしまったようだ。

 

妙な空気のまま、四人は指示された部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

蓮太郎が第一会議室と書かれたプレートがかかった部屋の扉を開ける。

 

扉の中にはテーブルがあり、そこには社長風の人物が数多く座っていた。

壁際にはプロモーターと、イニシエーターらしき人影もある。

 

木更を先頭に中に入ると、野太い声が聞こえた。

 

「おいおい、最近の民警はどうなってんだ?ガキまで民警ごっこかよ!?」

 

バスタードソードを背負ったガタイのいい男がそんなことを言いながら四人に近づいてくる。

 

蓮太郎が木更をその男の視線から庇うように前に出た。

 

その行動が気に食わなかったのか、男が声を上げる。

 

 

 

 

――――否、上げようとした。

 

 

「ねえ、おじさん。恥ずかしくないの?」

 

先に声を上げたのは光だった。

 

その場にいたほぼ全員がイザコザに意識を向け、声を発した人物を見て驚く。

明らかに小学生程度の子供だったからだ。

 

「あぁん?んだチビこらァ!?何が言いてえんだ!?」

 

「だって、僕らのことをガキって認識してるんでしょ。そんな相手にちょっかいかけて、恥ずかしくないの?」

 

あくまでも子供を意識した喋り方だった。

 

「んッだとこのガキ………!ぶっ殺して」

 

「やめんか将監!そんな年下の子供に言われてもわからないのか!恥をさらすんじゃない!それにもし流血沙汰にでもなったら、我々とてハイスイマセンというわけにはいかないんだぞ!」

 

自身の社長に言われて渋々引き下がる将監。

それを見て、光も蓮太郎に釘を刺す。

 

「…………里見先輩。面倒事は起こさないでくださいよ。今、喧嘩買う気でしたよね?」

 

「い、いや………すまん」

 

「よし、もういいだろ。俺と木更ちゃんはこっちだな。光たちはそっちで待機しててくれ」

 

樹がその場を終わらせ、自分たちの席へ向かう。

と、そこに別の社長が樹に声を掛けた。

 

「しかし、立花社長も大変そうですねえ。連れてくることができる民警が、そのような子供一人だとは。いやはや、人材不足だと見受けられる」

 

「……これはこれは、ご丁寧な挨拶をどうも。見た目だけを基準に相手を判断する貴方のご慧眼も中々のようですね」

 

「……はははは、名高い立花民警会社社長の立花樹殿にそのように褒められるとは。照れてしまいますな」

 

「……あははは、名前を覚えてもらっているとは光栄ですね。しかしすみません、私は貴方の名前を覚えていませんで。よろしければお名前を教えていただけますかな?」

 

「…………いえいえ、貴方のお耳を汚すほどの名ではありませんよ、あっはっは!」

 

「そうでしたか!記憶の無駄遣いをせずに済みそうですよ、あっはっはっは!」

 

空気が死滅した。

樹は先に煽られたとはいえ、やり返しが熾烈すぎる。

しかも、樹が本当に相手の名を覚えていないのがある意味一番の問題かもしれない。一体どこで恨みを買ったのやら。

 

その空気の中、光と蓮太郎も壁際へ移動し始める。

その途中、光が将監の横にいる少女に気づいた。

恐らく将監のイニシエーターだろう。

 

その子がとても悲しそうな目をしていたので何事かと思って、光は少女に目線で問いかける。

それに少女が気づいて、ジェスチャーとともに答えを返してきた。

 

―――お腹が空いているようだ。

 

「里見先輩、先に行っててください」

 

「なんだ?どうした?」

 

「ちょっと野暮用ができたので」

 

蓮太郎にそう言い残し、光は自分のポケットから飴玉を取り出して、少女の下へ向かった。

 

 

 

 

「はい、食べる?」

 

「………いいのですか?」

 

「うん」

 

「おい、てめえ。夏世に何ちょっかい出してやがる」

 

少女は夏世というらしい。

自分そっちのけで話を進められていた将監が会話に割って入った。

 

「おじさんには関係ないでしょ?」

 

「関係なくねえよ。夏世は俺のイニシエーターだ」

 

「でも、おじさんの道具じゃないし、所有物でもない」

 

ばっさり切り捨てた光に食い下がる将監。

光はそこに容赦ない正論を叩き付けた。

 

「ぐ………む………」

 

「ならいいでしょ。この子お腹空いてるみたいだったし。僕から飴をもらうかどうかはこの子が決めることだよ、おじさん」

 

何かを言うつもりだったようだが、それきり将監は黙り込んだ。

夏世の行動を黙認することにしたらしい。

 

「ありがとう。いただきます。私は千寿夏世です。好きなように呼んでください」

 

「僕は立花光。僕のことも好きなように呼んでいいよ。僕は十歳だから、敬語は使わなくてもいい」

 

「わかった。よろしくね、光君」

 

「うん。またね、夏世ちゃん。おじさんも、許してくれてありがとう」

 

「………ふん」

 

光は夏世の行動を尊重してくれたことに対して礼を言ったのだが、伝わったのだろうか?

密かに不安になる光だった。

 

 

 

 

「ただいま、里見先輩」

 

「おかえり。飴あげてたのか」

 

「ええ。お腹が空いてたみたいなので」

 

「そうか。ところで―――」

 

蓮太郎が何か言おうとしたとき、部屋に設置されていたELパネルの前に男性が立った。

何人かの社長が立ち上がろうとしたが、男はそれを手で遮る。

 

「そのままで結構。一つ空席があるようだが、今日諸君らを呼んだのは他でもない。政府からのある依頼を引き受けてほしい。だが、この依頼は聞いたら最後、断ることはできない。腕に自信のない者は退出したまえ」

 

その言葉に、気を引き締めるような気配はあったものの、退出しようとしたものはいなかった。

 

「ふむ、退出者はなし、か。よかろう。依頼の説明はこの方から行われる。心して聞くように」

 

その言葉で、光には誰が出てくるのか予想がついた。

光につくくらいだから樹にもついただろう。

 

巨大なELパネルに電源が入り、画面に二人の人物が映され、そのうちの一人が声を発した。

 

「ごきげんよう、皆さん」

 

現れた人物に、ほぼ全員が驚きを露にし、社長達が慌てて立ち上がる。

 

 

現れた人物は―――――五つに分断された日本のエリアの一つ、東京エリアの長、聖天子だった。

 

 

騒然とする部屋の中で、光は樹を一瞥する。

樹はニヤっとしながら、光を見つめ返してきた。

完全に楽しんでいる。

 

二人は目線で会話する。

 

 

(――もしかして、知ってた?)

 

(エー、ソンナワケナイジャーン)

 

(滅びろクソ親父………!!!!)

 

(だーかーらー、そんな言葉遣いは、メッ!だぞ☆)

 

(死ねぇ!!!!!!)

 

周りの緊張した空気の中、いつも通りの会話が(声に出さずに)為される。

 

―――そして、聖天子が口を開いた。

 

 

 




ちょっと終わりが中途半端になりました。すみません。

ハレルゥゥヤァァァさんは、しっかりと準備して出したかったんです。
と言っても、ほぼ原作通りの登場にはなると思いますが。


感想、意見、質問その他、お待ちしております。

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