ブラック・ブレット[黒の槍]   作:gobrin

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またもや時間が経ってしまった。

今回から、二章の始まりです。

では、どうぞー。


第二章
第十四話


影胤テロ事件の約一ヶ月後。

 

 

よく晴れた平日の朝、光たちは小学校に行って――――いなかった。

 

「それで、ここはこうなるわけ。わかった?」

 

「うん!光、すっごくわかりやすい!」

 

「ふみゅう。光大先生、すごい」

 

「確かに、簡潔に纏められていて理解しやすいね。すごいよ」

 

「いやいや、夏世ちゃんもこれくらいできるでしょ」

 

「まあ、できるかできないかと問われれば、できるけど……」

 

「ほらね」

 

学校へは行かず、光が先生となって、舞、和、夏世の三人に算数を教えていた。

と言っても、夏世には必要ないが。IQ二百オーバーは伊達ではない。

 

 

光たちがこんなことをしている理由は、延珠にある。

あの一件で延珠が『呪われた子供たち』であることがバレてしまい、新しい学校を見つけられていないのだ。

 

光はすでに高校を受験できるくらいの学力を有しているので、学校に行く必要性を特に感じていない。

舞と和は先生のこだわりがない。と言うよりもむしろ、光の方がわかりやすい。夏世は元から学校に行っていない。

 

というわけで、延珠の行く学校が決まるまで自宅学習することにしたのだ。

光たちの転校用の書類も、すでに用意はしてある。

 

 

 

「よし、そろそろ休憩にしようか」

 

「うーん、疲れたぁ」

 

「みゅ。眠い」

 

「こんな時間から寝ちゃダメだよ」

 

 

光が一区切り入れることを提案し、三人がそれに賛同した。

舞が身体を伸ばし、身体を解そうとする。

和は眠りそうになって夏世に止められていた。まだ十一時だ。一眠りするにしては早いだろう。

 

 

 

 

「光、ちょっといいか」

 

四人がリラックスしていると、光が樹に呼ばれた。

 

「なに、お父さん?」

 

光が立ち上がって樹の下まで行くと、樹が歩き出した。付いて行けばいいようだ。

 

「皆、ちょっと待っててね」

 

三者三様の返事を受けて、光は樹の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?社長室に移動する必要はあったの?」

 

場所は変わって社長室。光は、樹が何故ここに移動したのかがわからなかった。

 

 

「ああ、ちょっと厄介な依頼が入ってきてな」

 

「そう言うってことは、政府からの指名依頼?

しかもボクに?なら、相手は聖天子様かな?」

 

「当たりだ。けど依頼の話の前に一つ。

ちょっと前に光のイヤホンの方の番号を探り当てた爺が一匹いたのを覚えているか?」

 

 

本当に聖天子から光への指名依頼だったようだ。

それはそうと樹のこの言い方、まだ根に持っているらしい。

まあ、光もそのせいで苛つかされたので少し思うところはあるが。

 

 

「うん、覚えてるよ。あの耄碌お爺さんのせいで結構苛ついたしね」

 

光も思い返してちょっとムカムカしてきた。早く忘れようと心に誓う。

 

「その爺が今、この国にいないことは知ってるか?」

 

樹に問われて光は頷いた。

 

「確かロシアに行ってるんだっけ?テレビで言ってたね」

 

「そうだ。それで爺がいないことが恐らく直接の原因なんだが、大阪エリアの斉武(さいたけ)宗玄(そうげん)が明後日東京エリアを訪問する。非公式だけどな」

 

 

今の日本は、東京、大阪、博多、仙台、札幌の五つのエリアに分かれ、それぞれ一人の国家元首が統治している。

斉武宗玄は、大阪エリアの国家元首だったはずだ。

 

 

「依頼ってもしかして、その間ボクに菊之丞さんの代わりをやれってこと?」

 

「多分な」

 

光は内心辟易していた。聖天子の護衛など何故光がやらなければいけないのか。

しかし、これは聖天子の指名依頼だ。断ることは許されない。

 

「菊之丞さんがいないことが原因ってどういうこと?」

 

「斉武と爺は大戦前から政敵だったからな。今をチャンスと見たんだろう」

 

「なるほど。と言うか、いい加減その呼び方止めたら?」

 

「嫌だね。あんな奴爺で十分だ」

 

樹が拗ねた子供と化した。こうなった樹は面倒臭い。とても面倒臭い。この場合はスルーするに限る。

 

 

「はあ、了解。うう、面倒だなぁ……」

 

「ま、安心しろ。光が一人でやるわけじゃない」

 

非常に落ち込んだ表情をしている光に、樹の声がかかる。光にはそれが救いの声に聞こえた。

 

「え?他にも誰かいるの?」

 

「ああ。一緒に依頼をやるのは――――かの有名な英雄様だ」

 

「なんだ、里見先輩か」

 

 

一瞬にしてトーンダウン。

明るくなっていた光の顔が、瞬時に暗くなった。

 

 

「ちょ、そのリアクションなんだよ?勿体ぶったのが馬鹿みたいじゃねえか」

 

「いやだって、里見先輩突っ込みすぎるところあるし……」

 

「それはまあ確かに……」

 

それを言われてしまうと樹は何も言えない。

光はああいうタイプの人間があまり好きではないのを知っているからなおさらだ。

 

「しかもロリコンだし……」

 

「なるほど、光からしたら危険人物か」

 

「うん。『呪われた子供たち』は全員幼女もしくは少女だから。それも顔の整った。心配だよ」

 

「全くだな」

 

 

『呪われた子供たち』を守りたい光からしてみれば、蓮太郎は危険なことこの上ない。

本人が聞いていれば全力で否定しただろうが、この場に蓮太郎はいない。

彼はロリコンということで決定してしまうのだった。

 

 

 

「それはそうと、さっきの情報は聖天子様が教えてくれたの?」

 

「なわけないだろ。俺の情報網だよ」

 

「流石はお父さん。本当にすごいね」

 

一連の情報は独自のルートで手に入れたものらしい。無駄にすごい。

 

 

 

「仕方がない、依頼を受けるよ。いつ行けばいいの?」

 

「今日の午後だな。里見君の学校が終わってから聖居に行けばいいらしい」

 

「了解。……はぁ、今から気が重い」

 

「ま、諦めろ。これも経験だって」

 

「……はぁい」

 

 

その後、光は三人の下に戻り、事情を説明した。

事情を聞いて、舞は面倒臭いと愚痴を零した。護衛依頼ということは、舞も出る必要があるからだ。

和と夏世は、そんな舞を宥めていた。

 

 

 

 

 

 

 

そして午後。

 

光は、聖居の前で蓮太郎を待っていた。

舞は置いて来ている。今日は依頼の内容説明だけだろうし、舞がいる必要がないからだ。

舞がいても退屈なだけだろうという配慮で、光だけで来た。

 

守衛に話をして、ここで待つ事の是非を問うて許可をもらってから蓮太郎を待っている。

門の外からは見えない壁の内側に寄りかかって、そろそろ暇に感じて来た頃。

 

「―――来た」

 

蓮太郎が気怠げに守衛の下へ歩いて行くのが見えた。

光は軽く反動をつけて壁から離れ、蓮太郎に歩み寄る。

 

「里見先輩」

 

「ん?お、光じゃねぇか。どうした?なんでこんなところに……って、まさか」

 

「そのまさか。僕も指名依頼されたんですよ」

 

「そうだったのか……。悪い、待たせちまったみたいだな」

 

「気にしないで。僕が勝手に待ってただけですし」

 

光がそう言ったのと同時に、守衛が中とのやり取りを終えた。

守衛が二人出てきて、蓮太郎と光の前後を挟んで歩き出した。

 

「そう言えば、前から訊きたかったことがあるんだけどよ」

 

「え?なんです?」

 

光が小首を傾げて質問を促すと、蓮太郎は質問をぶつけてきた。

 

「いや、光って車とか運転できんのか?民警は基本的に二輪車四輪車を運転できるはずだけど、光の身長じゃあペダル届かないだろ?」

 

民警ライセンスは、同時に運転免許証代わりにもなる。

当然、それを持つ者が運転できなくては意味がない。

 

「できますよ。まあ、多少強引にだけど」

 

「…………そうか。深くは聞かないでおく」

 

「その方がいいと思います。あ、別に僕だけ特例ってわけじゃないですからね?ただ、その運転をすると車の持ち主に怒られるっていうだけで」

 

「それは十分問題だろ!」

 

そんなことを話しながら、光と蓮太郎は聖居に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

通された場所は前とは違い、記者会見室だった。

演説の練習なのか、聖天子がひな壇の上に立って周囲に座る人間に対してなにか話している。

光は、その光景を感嘆とともに見つめていた。

 

(うーん、上手だなぁ。ボクには演説の差とかはよくわからないけど、これは上手いってわかる。抑揚とかがしっかりしてる。この人が里見先輩と同い年ってのが信じられないね)

 

さらっと心の中で蓮太郎をディスりつつ、光は聖天子が気づくのを待つことにした。

――と思ったら、隣からいきなり大きな音が聞こえてきた。

何事かと思ってそちらを見ると、蓮太郎がパイプ椅子の背板に手を置いていた。その際に椅子の脚が鳴ったようだ。

 

「驚かせないでくださいよ、里見先輩……」

 

「す、すまん」

 

周囲から一斉に視線に晒された蓮太郎は、居心地が悪そうに答えた。

聖天子が手を緩く振りながら寄ってくる。

 

「ごきげんよう、里見さん、光さん。時間通りですね」

 

「こんにちは、聖天子様」

 

光は即座に挨拶を返したが、蓮太郎はバツの悪そうな顔で、俯きがちに頭を掻いている。

恐らく、叙勲式で掴みかかりそうになった場面を思い出しているのだろう。

 

「その、この前は悪かったな」

 

「気にしていません」

 

聖天子が天使の様な笑みを浮かべて蓮太郎を許した。

顔だけでなく性格までいいとは、国民に人気が出るわけだ。

 

その時、秘書らしき女性が歩み寄ってきた。

 

「こちらの方々は誰ですの」

 

「清美さんは初めてになりますね。こちらはガストレアステージⅤを退けた東京エリアの英雄、天童民間警備会社の里見蓮太郎さんです。

そしてこちらが―――」

 

「里見蓮太郎って……元歌のお兄さんでゲイバーのストリッパーの、あの里見蓮太郎ッ!?」

 

「誰がゲイバーのストリッパーだよ!ってか誰だ、いい加減な噂流してる奴は!?」

 

聖天子は光も紹介しようと思ったが、その前に清美と呼ばれた女性がギョッとした様子で叫んでしまったので、うやむやになってしまった。

光は光で、携帯を持ってきていなかったことを軽く後悔していた。

 

(携帯を持ってきていればすぐに検索できたのに。帰ったら絶対『里見蓮太郎 ゲイバー』で検索しよう)

 

その後聖天子は周囲の人間を下がらせると、光たちをここに呼んだ理由を説明し始めた。

内容は樹が予想したものがほぼ正解だった。

光がその会話の中で知らなかったのが、蓮太郎と菊之丞の間の確執だ。

恐らく、樹はこのことも知っているのだろう。

 

 

「大体、アンタの周りにはキチンとした護衛がいんだろ」

 

「それを今、紹介しようとしていたところです。入ってきてください」

 

話の大部分を聞き流していた光は、話を聞く準備を整えた。ここからは知っている話ばかりではない。

 

聖天子が腕を上げて手招きすると、一糸乱れぬ動きで六人の男が入ってきた。聖天子付き護衛官だ。

整列した彼らの様相は、皆同じ白い外套に制帽、腰に差した拳銃だ。

 

「里見さん、光さん。こちらが隊長の保脇さんです」

 

背の高い見た目は美男子が出てきて、右手を差し出してきた。

 

「ご紹介に与りました保脇卓人です。階級は三尉、護衛隊長をやらせていただいております。

お噂はかねがね。任務中、もしもの時はよろしくお願いしますよ、里見君。

君のことは、光君と呼べばいいのかな?よろしくね」

 

「まだ受けたわけじゃねぇよ。それに俺は任務じゃなくて、あくまで依頼の説明を受けにここに来たんだ」

 

蓮太郎は棘のある言葉で保脇の挨拶を突っ撥ねた。

光は嘆息しながらも、同時に蓮太郎の態度に納得もしていた。

 

(この人、なんか嫌なこと考えてる感じがするんだよね。笑みも気持ち悪いし。

舞を連れてこなくて本当によかった。連れてきてたら絶対何か言ってたよ)

 

内心で歓迎されていないと断定すると、光も右手を差し出した。

 

「こんにちは、立花光です。立花とでも呼んで下さい」

 

「そうか、では光君と呼ばせてもらうよ」

 

「立花と呼んで下さい」

 

「……そ、そうか。では立花君と呼ばせてもらう」

 

笑みを深くし、有無を言わせぬ口調でそう言うと、保脇は頬を引き攣らせながら頷いた。

やっと拒否の感情が理解できたようだ。光は、こんな奴に名前を呼ばれたくなかった。

 

握手を返さない蓮太郎と、さり気なく拒否の姿勢を見せる光。

二人と保脇の間に流れる不穏な空気を感じ取ったのか、聖天子が慌てた様子で取りなした。

 

「里見さん、握手も返さないのは失礼ではありませんか?光さんも」

 

「いえ聖天子様。民警からこういう扱いをされるのは慣れております。

彼らも民警とは言えまだ子供。多少なりとも緊張しているのでしょう」

 

保脇が制帽を抜いで聖天子に軽く微笑んで告げた。

その目の中に穢らわしい感情が渦巻いているのを感じ取り、光は少し気分が悪くなった。

 

 

聖天子が依頼の報酬の話を始めた。

光は報酬に関わらず受けるつもりだったし、気分を落ち着かせるために聞き流していた。

蓮太郎は蓮太郎で、何か考え事をして聞いていないようだ。

 

光は自分のことを棚に上げて、話は聞かなきゃダメだよ、里見先輩……と思った。

 

 

「では依頼を受けて頂ける場合、必要書類に記入してこちらにご連絡ください」

 

先ほどの秘書がそう言って書類を手渡すと、聖天子は、

 

「では、これからの予定が押していますので」

 

と言って、記者会見室を出て行ってしまった。

 

蓮太郎は口の中で何か言葉を発すると、そのまま歩き出した。

何と言ったのかは聞き取れなかったが、光ももうここには用はないので蓮太郎に付いて行った。

 

 

 

蓮太郎に付いて行っている途中から、光は違和感を覚えていた。

 

(里見先輩はどこに行きたいんだろう?出口とは全く別の方向なんだけど。

トイレかと思いきや素通りしたし。……もしかして、出口がわからなくて、適当に歩いてる?)

 

不安になった光は、今も隣を歩いている蓮太郎に確認することにした。

 

「ねえ、里見先輩。もしかして、道がわからない?」

 

「……ああ、わからねぇ。適当に歩いてた」

 

光は、深くため息を吐いた。

 

「……それならそうと、早く言ってほしかったですね。

僕は里見先輩がウロウロした分も含めて道を覚えてるので、付いてきてください」

 

「あ、ああ。すまん」

 

「気にしないで。それと、避けてね」

 

「は?」

 

蓮太郎が素っ頓狂な声を上げるのに構わず、光は回転しながら一応持ってきていた拳銃を振り抜いた。

樹が護身用に持っているベレッタだ。今回、護身用に借りてきている。もちろん、影胤の物のように悪趣味な装飾は為されていない。

光が振り向くと同時に、小さい銃声が一発。

 

「うおっ!?」

 

光の振り回す拳銃の軌道上にいた蓮太郎は、驚いて声を上げながら飛び退った。

避けなければそのまま脚を殴られていただろうから、当然だ。

そしてそこを通り過ぎて行った一発の弾。

 

光は蓮太郎を一切気にせず、真後ろを向いて拳銃を構えた。

銃口の先には、先ほどの護衛官が二人いた。どちらも拳銃を手にしている。二人とも、奇襲が失敗したためか狼狽えていた。

弾が光の腕を掠ったが、光はそんなことを伺わせないでピタリと照準していた。

 

「さて、何故僕たちを襲ったのか教えてもらって構いませんかね?

あ、里見先輩はそっちをよろしく」

 

「そっち?」

 

「動くな」

 

光の背後から撃鉄を起こす音が聞こえてくる。

蓮太郎はそれで背後の存在に気づいたのか、慌てて光の背後に立ってXD拳銃を構えた。

 

「ああ、もう……里見先輩は気配察知ができるようにしてください」

 

「す、すまねぇ。努力する」

 

後手に回ってしまったため、光が再びため息を吐く。

そして、自分の後方にいる存在に話しかけた。

 

「それで?何の用ですか、保脇さん?拳銃なんか向けて」

 

「何もかんもあるか。僕の部下が拳銃を向けられているんだ。当然の行動だろう?」

 

「その狙われている部下が、手に拳銃を持っていることをどう説明するおつもりで?」

 

「拳銃を向けられたから、抜いてしまったんだろう。そういう訓練をしているからな」

 

「ああそうですか。もういいです。それで、本題は?」

 

埒が明かないと判断した光は、話をさっさと終わらせるために本題を聞くことにした。

その間、銃口はいつでも前にいる二人を撃ち抜けるように照準している。

 

「おい」

 

保脇が護衛官の二人を下がらせた。

二人が完全に見えなくなったところで、光は保脇の方に振り向いた。

 

「それで?」

 

「なら単刀直入に言う。貴様等、この依頼を断れ。聖天子様の後ろに立つのは僕の役目だ」

 

「あ、無理です。というか、聖天子様直々の依頼を断れると思ってるんですか?実は馬鹿?」

 

「なッ……!?そ、そんなもの、何か理由を付けて断ればいいだろう!

大体、目障りなんだよ。何がゾディアックを倒した英雄とそれを援護した者だよ。ただのクソガキじゃないか。

偶然それが可能な手段の近くにいただけの成り上がり共が。あの場に僕がいれば僕が倒していたさ」

 

さらりと罵倒した光に汚らしい叫びを叩き付け、何やら語り始めた。

 

「何故貴様等なんだ?天童閣下は留守の間、聖天子様のことを僕に託された。

この僕にだ。本来なら、聖天子様の隣は僕のものだったんだ」

 

「知らねぇよ」

 

「里見先輩に激しく同意ですね」

 

「それにな」

 

光と蓮太郎が吐き捨てるのに構うことなく、保脇は生理的嫌悪感を引き起こす舌なめずりをした。

光は、全身が総毛立つ感覚に襲われた。キモイ。ただひたすらにキモイ。

 

「聖天子様も十六歳だ。そろそろ、世継ぎが必要な頃合いだと思わないか?」

 

「ああ、結局はそういうことかよ」

 

「ヤバい、吐きそう。キモイ。里見先輩、どうしよう。あれがキモすぎて吐きそう」

 

蓮太郎が不快感を露にした。すでに光は保脇を人として見ていない。汚物扱いだった。

保脇は拳銃を構えたまま、高らかに言葉を発した。

 

「あのお美しい顔に、柔らかそうな唇!くびれた腰も素晴らしいし、尻も中々!

特に、あの胸!恐らく揉み心地も―――」

 

『ガウンッ!!』

 

最後まで聞いていられず、光が発砲した。

弾は狙いと寸分違わず、保脇の頬を掠めて行った。

拳銃の音に反応して周囲にいた他の護衛官が拳銃を手に飛び出してくるが、光に続き蓮太郎も発砲。

相手に撃たせる前にこちらから先手を打ち、相手に敵わないことを理解させる。

 

自身が狙われて発砲されたことでオロオロし始めた連中を保脇が一喝し、憎悪に満ちた目で睨んできた。

 

「殺してやる……殺してやるぞ、貴様等ぁッ!!」

 

捨て台詞を残し、保脇は部下を連れて去って行った。

 

銃声を聞きつけ、職員たちが走ってきた。

最初に向こうが撃った一発は、消音器が優秀だったのか、聞こえていなかったようだ。

 

光が弾が掠った腕を簡単に治療してもらい、職員に事情を聞かれ、無罪放免で釈放された。

光たちはある程度の罰は覚悟していたので、拍子抜けした。

職員たちの様子を見ると、保脇たちのクズっぷりは周知の事実であるらしい。

光は、保脇たちの行動に妙な方向で感謝した。

 

 

職員に先導されながら、光は蓮太郎に話しかける。

 

「……里見先輩、依頼受けたくなかったみたいですけど、どうします?

僕は受けますけど。お父さんにも言われてるし、元から断れませんし」

 

「……受ける。アイツらには任せておけねぇ」

 

「そうですか。なら、よろしくお願いしますよ」

 

「ああ」

 

そんな会話を交わし、光たちは聖居の外に出た。

 

 

 

 




というわけで始まりました、VS神算鬼謀の狙撃兵編。
今回は原作通りの導入という感じになりました。

あの娘はまだ出てきません。次回出てきます。

保脇が原作よりもキモくなった……。何故だ……。
いやまあ別にあいつがどれだけキモくなろうが知ったこっちゃないんですけど。
むしろその方が心置きなくヤれるんで、ありがたいんですけど。
ぶっちゃけ元からヤる気全開ですが。

でもあいつ、殺すわけにはいかないんですよね……。チッ。
本当は今回の話で脚でも撃ち抜こうかと思ったんですが、そうすると色々面倒事が起こりそうだったので、泣く泣く断念しました。

感想等、あればお願いします。

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