スーパーロボット大戦OG ~求める存在~   作:ショウマ

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忍び寄る悪意

 

 

 紫と赤。

 

 独特な配色がされている機動兵器が一機、暗礁宙域を駆け巡っていた。

 

 その後を無数の光弾が追い、あるいは逸れて脇を通り抜け、またはバリアシステムに散らされる。

 

 この[ライグ=ゲイオス ゼフィリーア]だけを残して、近辺のゾヴォーク艦隊は壊滅に近い損害を受けていた。

 

「……これは、ちょっとシャレにはならない……わ、ね!」

 

 エルミアは、握っていた操縦桿を思い切り左に押し倒す。

 

 その通りに急旋回するゼフィリーアは、後ろから迫っていた凝縮されたエネルギー弾を回避。

 

 続けて、機体の正面からは立て続けに、ビームや弾丸が向かってくるのが見える。

 

 その数の多さに回避することを諦め、ゼフィリーアのバリアシステム――イナーシャル(ディフレクト)シールドを信じて突っ込んでいく。

 

「――ハアァァアアアッアッ!」

 

 背部にあるスラスター全て――特徴的な三対六枚の翼に仕込まれたそれも、一際強く青白い炎を吹き上げ、ゼフィリーアがさらに加速する。

 

 向かってくるビームは機体に触れること無く見えない壁に阻まれ、ミサイルが爆煙を撒き散らす。

 

 その中から無傷で飛び出してきたゼフィリーアは、煙の尾を引きながら右手の剣を構えていた。

 

「レーザーソード! いっけえぇぇっ!」

 

 ゼフィリーアのツインアイが緑に煌めく。

 

 実体剣の刀身を光が包み込み、突進する勢いのままに突き出された剣が相手の――恐竜に酷似した機体の厚い装甲をやすやすと貫き、中枢部へと。

 

「――撃ち抜いて、斬り裂きなさい! プラネイト・ガン・ソード!」

 

 六枚の翼、それぞれの付け根から菱形のパネル状のパーツが外れ、移動ユニットによって即座に行動に転じた。

 

 相手の攻撃を掻い潜りながら飛行すると、逆に内蔵された連装ビームによって相手の装甲を蜂の巣にしていく。

 

 銃撃後に非実体の刃を構成すると、先のそれにより弱まった装甲部分へ正確に突き刺さり――。

 

「破砕!」

 

 完全に貫通した剣を横に振り抜くと、バーニアスラスターを吹かし、その場を離れる。

 

 プラネイト・ガン・ソードが貫通、それぞれに相手の背後から姿を見せて弧を描くと同時に、七つの爆光が戦場を彩った。

 

「ディフェンサーモード」

 

 戻ってきた六つのパネルの内、二枚は元の翼の付け根へ、残りの四枚は掲げた左腕へと装着される。

 

 そこにバリアを纏うことで盾となると、二発三発……飛来した集束弾を全て受け止めた。

 

 衝撃は振動となってコクピット内のエルミアにも伝わるが、それも少女の手を止めることは出来ない。

 

 少女の目は、メインモニターの端に表示された一文字の数字を捉える。

 

「――ダメージ、ゼロ。……それじゃ、次はあたしから! 狙いももう、付いてるわ」

 

 上げていた左腕を下ろすと、両肩の砲門が即座に集束し終えていた弾を吐き出した。

 

 数発のドライバーキャノンが、ズングリした体型の自動砲撃機体を次々と粉砕していく。

 

 その時、小さな電子音がエルミアに警戒を報せる。

 

 警戒指定先をモニターで拡大すれば、彼女の大好きな機体達が、とても見覚えのある黒い球体を集束させていくところだった。

 

 さらに、胴部に大きくAとBと書かれた二体の機体も、それと挟み込むように向かってきている。

 

「本当に、シャレにならなくなってきたわね……でも」

 

 発熱により熱の籠った息遣いをしながら、エルミアは流れる汗をそのままに、吐息と共に言葉も吐き出す。

 

 制服も、それ対策に特殊な素材を用いての特製な物であったが、腕などに重みを感じ始めてきている。

 

「でも、いかせない!」

 

 戦闘が始まって、既に四時間が経とうとしていた――。

 

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「――で、結局ゼブもセティ姉もロフさんも、あたしを置いて行ってしまったんですよ!」

 

「ククク。任務であるなら仕方無いでしょう? キミはキミで、こちらで仕事をこなしながら彼らの帰還を待ちなさい」

 

 患者である紫髪の少女の話に、白衣を着た男は慇懃に答える。

 

 短めの金髪に、切れ長の目。整った顔立ちの、冷たい印象の美青年。

 

 年齢は二十七歳だが、出会った六年前から変わらないため自称であるようだ。

 

 独特の薬臭い匂いをさせている、施設内の医務室。

 

 点在する用途不明の様々な機材が、この部屋と男の雰囲気をより怪しくしていた。

 

「って、テスタネット先生が遠征にOKを出して下さってれば、あたしだって一緒に行けたんですが!?」

 

 ゾヴォークの派閥の一つ“ゾガル”が打ち出した『地球文明抑止計画』。

 

 テイニクェット・ゼゼーナンを司令官とする艦隊が発ったのは、つい先日のことだった。

 

 これにはゼブやセティといった正規軍や、傭兵部隊を率いたロフも参加している。

 

 ゼブとセティは総司令となった男に良い感情を抱いていないらしく、終始渋い顔を見せていた。

 

「わたしには、キミ以外にも患者がいるのです。彼らを置いていくわけにもいきません。それともキミは、全員を連れていくでも言うのですか?」

 

「う……ぐぐ」

 

 長い足を組んだ姿勢で椅子に座ってカルテを書いている青年は、言葉が続かない少女に冷たく鼻で笑った。

 

 それに「むー……」と唸りながらも、エルミアは脱いでいた制服の上着を羽織る。

 

 分厚いファイルに書き上げたばかりのカルテを差し込むと、パラパラと捲り始める。

 

 この男は状態や症状に合わせて、カルテを作成するかしないか、する場合も紙媒体かコンピュータ入力かを決めていた。

 

「一番酷い患者はキミですがね。……最近は初診時よりもかなり改善傾向が見られていましたが、このところまた悪化しています。心当たりはありますか?」

 

「心当たり……と言われても、出撃が増えたくらいしか」

 

「もともと、キミの身体は長時間の作業には向いていません。日常生活を送る分には問題無いでしょう。しかし、集中力を高めれば高めるほどに、逆に肉体は衰えていく」

 

 テスタネットはファイルを開いたまま、その射抜くような鋭い眼差しをエルミアに向ける。

 

「はい。軍を薦めたのは先生だったような気がしますが」

 

 何度も聞いた自分の身体のこと。そして、そんな自分をこの職場に推薦した目の前の男に、しっかり言葉を投げ返す。

 

 前にも言い返したことはあるのだが、その時は男に通じず、今回も同じであった。

 

「ククク。キミを連れてきた者が軍属で、わたしも一応軍医ですよ? ならば、キミも軍に入ればその後の治療もしやすいではありませんか」

 

「先生? 何度も言いますが、その笑い方は怪しいと……」

 

「もっとも、わたしが想定したのは内部勤務だったのですがね。説明もしてあったのに、なに機動兵器乗りになってるんです?」

 

「それは……やっぱりあれに惹かれたから。後は……守りたいから」

 

 しどろもどろになって答える。一目見て惹かれた機体で、恩人達の力になりたい。この場所を守りたいから。

 

 そういった詳細は言わずに、表面的な答えだけを口に出す。

 

 少女のその答えに、男は再び鼻でせせら笑う。

 

 その行為は、雰囲気と相まって男にはよく似合っていた。

 

 その毒舌も含めて。

 

「長時間の戦闘には堪えられないのに、何を言ってるんですか。するのなら、相応の準備をしてからにしなさい。でなければ……死にますよ?」

 

 悪寒にも似た何かをもたらす、冷気をまとっているかのような視線。

 

「……分かってます。大丈夫です、引き際はわきまえていますから」

 

「ククク。頼みますよ? キミに死なれると困りますからね」

 

「え?」

 

 この男から訊いたこともない言葉を言われ、しかしエルミアは気味が悪そうに顔をしかめる。

 

 後ろに退きながら、それを訊ねた。

 

「先生? 本気で言ってます? 変なもの食べましたか?」

 

「ククク。もちろん本気です。食べてはいませんが、飲んではいますね」

 

「飲むな! それ、絶対に何か変なもの入ってますから!」

 

「失礼ですね。本気で心配しているのですよ? わたしは」

 

「えー……」

 

「あなたが死んだら、わたしの完治療記録が途絶えますからね」

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 ゾヴォーク艦隊が次々と壊滅、消息を断つという報が飛び込んできたのは、それからしばらくの月日が流れた頃だった。

 

 豊富な兵力を誇るゾヴォークといえど、艦隊規模で失っていれば影響も徐々に大きくなってくる。

 

 よって、その原因の解明及び敵勢力ならばその殲滅のため、大規模な艦隊が派遣されることになった。

 

 その中には、最近出撃の回数を自主的に減らしていたエルミア小隊も含まれている。

 

『でも、いったい何なんでしょうねー。艦隊ごと壊滅が、今回で六回目ですよ』

 

 航行する[ゼラニオ]の内の一隻。

 

 現在は第二種戦闘配置のため、シフト制による機乗待機となっていた。

 

『確かに穏やかな話ではありませんね』

 

 サブモニターに映る、部下のハイ・カーエとモベ・ビーシもどこか浮かない顔をしていた。

 

『姉御は、何か分かりますか?』

 

「姉御は止めなさいって何年言わせるのよ。……ま、事故ってことではないのは確かよね」

 

 視線は手元に落としたまま、ハイのそれにはしっかりツッコミを入れる。

 

「気になるとすれば、ちょっかいを仕掛けてきてる“誰かさん”の情報が一件も無いことよ」

 

 エルミアは端末を操作していた手を止める。

 

 艦の設計図らしきものが描かれたその画面を保存すると、伸びをする。

 

『何が変なんすか?』

 

「艦もたくさんいるし、機動兵器に至っては膨大な数よ? それなのに、肝心の敵については何の報告も無し。おかしいでしょうが」

 

『あー……確かに』

 

『そうですね』

 

 ゾヴォークの強みは、機体性能もさることながらその保有数もである。

 

 一艦隊としても、その兵力は馬鹿には出来ないものがあった。

 

「地球には、もっと常識外な一艦隊があるらしいけどね……見てみたかったな」

 

 それはウォルガから伝わってきた情報。

 

 規格外な機体ばかりが集められた少数の部隊によって、彼らは敗北を喫したらしい。

 

『姉御? 何か言ったっすか?』

 

「何でもない。それより二人とも、機体のチェックは入念にね? 何が出てくるか分からないんだから」

 

『了解!』

 

『了解です。……ところでオカシラ、一つ質問があるのですが』

 

「オカシラはもっとやめなさいってのに……どうかしたの、モベ?」

 

 訝しげな隊長に、モベは至って真面目に自機のそれを訊ねた。

 

『自分とハイの機体の、この大きく書かれたAとBは何でしょうか?』

 

「そのうち弄ろうと思ったから、分かりやすく目印」

 

『そのうちというのは、まだ時期は決まっていないのですか?』

 

「まあ、なんとなく思っただけだしね。識別信号が出せないときの、判別にも良いでしょ?」

 

 つまりは、当分このままということ。

 

『今すぐに外し――』

 

 艦内に、けたたましく警報が響き渡った。

 

『先遣艦隊が戦闘状態に入っています!』

 

「入って……“います”なの? 移行しました、じゃなく?」

 

 伝えられる情報に、エルミアは小首を傾げる。

 

『情報網が封鎖されているため、戦闘光による確認のみ。各隊出撃し、先遣艦隊を援護せよ』

 

 にわかに、格納庫が慌ただしくなる。

 

「おかしい……。これは何かあるわね」

 

 半起動状態だったゼフィリーアを戦闘モードに移行させながら、エルミアが呟いた。

 

『姉御。どういう意味っすか?』

 

 その言葉に不穏な何かを感じ取ったハイが、自分よりも年下の隊長に訊ねる。

 

「さっき言ったように、今までずっと隠れ続けていた“誰かさん”が、ここにきていきなり姿を見せたからよ。単にこっちの人数が多いから、って線もあるけどね。かくれんぼをやめて牙を剥き出しにした、そこには理由があると思うわ」

 

『なるほど。余程の相手というわけですね』

 

 モベと共に、ハイも表情を引き締めた。

 

「二人とも、絶対に油断しないでね。……エルミア小隊、出るわ!」

 

『『了解!』』

 

 エルミア達の他にも、他の艦からも次々と友軍機が発進してくる。

 

 前方に広がっていた戦闘光は、僅かな時間で随分と少なくなっていた。

 

『あ、姉御!? これ、どういうことっすか!?』

 

『バカな……』

 

 その場で行われていたことを視認し、二人が絶句する。

 

 ゼラニオに襲いかかる[ゲイオス=クルード]。

 

 砲撃機の[グラシドゥ=リュ]が恐竜みたいな[レストレイル]を撃墜すれば、[レストグランシュ]がそこにドライバーキャノンを撃ち込む。

 

 ライグ=ゲイオスの最強兵器が、[ガロイカ]や[カレイツェド]を飲み込んでいった。

 

 凄惨な同士討ち。

 

『今……のコン……が……』

 

 サブモニターが乱れ、ハイの声もよく聴こえなくなってしまう。

 

「強力な通信障害!? ……って本隊が!」

 

 メインモニターに、背後で戦闘が勃発したことが表示される。

 

 戦闘といっても、起きているのはおそらくここと同じだろう。

 

 エルミアは、ゼフィリーアを動かなくなった二機から離して、近くで戦闘している機体に近付いていく。

 

「通信は……無理ね。これだけ大規模に仕掛けているなら、どこかに潜んでるはず……だけどね!」

 

 それを探し出してどうにかしない限り、この状況をどうにかする手は無かった。

 

 ゼフィリーアに、“艦隊を含めた”周囲の機体から一斉に砲撃が放たれた――。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 ――五時間。

 

 朦朧とし始めた意識を振り絞って、エルミアはゼフィリーアを操る。

 

 無人機は破壊し、有人機は可能な限り無力化してきた。

 

 腕やドライバーキャノンと兵装を壊しても、今度はその機体をぶつけてくる。

 

 艦隊は、そのほとんどが内部からの攻撃で撃沈されてしまっていた。

 

 ゼフィリーアにもいくらか損傷があるが、機体に使われているクリスタルによって、随時修復機能が働いている。

 

 機体より先に、操手の方が限界に近かった。

 

 周りには、信念により傷一つ付いていないライグ=ゲイオスを始めとして、多くの機体が残っていた。

 

「……はぁはぁ、っく……ちょっと……どころじゃ、無くなって……きたわね」

 

 目眩もするし、頭もズキズキする。

 

 しかし、それでもエルミアは操縦桿を手放さない。

 

 メインモニターに、小さく「hit」の文字が表示された。

 

「――そこぉっ!」

 

 ゼフィリーアが背後に振り返りながら、レーザーソードを振るう。

 

『――――……あは』

 

 確かな手応えと共に、刃が何もない空間で止まる。

 

『とうとう見つかっちゃったね?』

 

『ようやく見つけられたんだね』

 

 聞き覚えのある少女達の無邪気な声。

 

 レーザーソードを鎌で受け止めながら、いつかの黒い機体が空間からその姿を現した。

 

「あんた達……本当に、ろくで……もないこと、ばっかり……」

 

 息も絶え絶えというエルミアに、通信機の向こうから二人の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 

『なかなか外に出てこないから、待つだけというのも暇なんだよ?』

 

『だから、遊びながら待ってたよ? それに、こんなのは序の口』

 

 鎌でレーザーソードを払い除けると、禍々しい黒い死神は歓迎するかのように、その両腕を広げる。

 

『『さあ、遊ぼう?』』

 

 


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