スーパーロボット大戦OG ~求める存在~   作:ショウマ

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One day in front of a storm

 

 

「あーーっ、もうっ!」

 

 小部屋の中で、苛立たしげな薄着の少女の絶叫が響き渡った。

 

 その叫び声に、狭さを有効活用すべくあちこちに設けられた小棚が、微かに振動する。

 

〔ゼフィリーア〕の初陣から帰還して、二週間。

 

 半袖の黒いシャツにショートパンツというラフ過ぎる姿のエルミアは、あれから家とここ……研究室を往復する日々を過ごしていた。

 

 戦場で刃を交えた敵の新型機体と、そのパイロットらしい二人の少女(予想)のことを考える度に、エルミアはイライラとした気分にさせられる。

 

「散々好き放題やって、言いたいことを言った挙げ句に、最後は爆散! 普通なら、悪役は必要以上にあれこれ説明してから逝くものでしょう!」

 

 エルミアの小隊と交戦した、バルマー帝国の新型機部隊。

 

 隊長機と部下の二種四機の機体は、その全てが欠片一つ残さず宇宙の塵となっていた。

 

 もちろん、パイロットの脱出も確認されていない。

 

 よって物的資料は何も得られなかった……が。

 

 一度深呼吸をして、苛立ちから来る高揚した気分を落ち着かせたエルミアは、端末に指を走らせるとゼフィリーアのシステムに繋げる。

 

 パスワードを入力してロックを解除、呼び出したデータを目の前のモニターに映し出した。

 

 そこに表示されているのは、オレンジと黒の二種類の機体。

 

「結局、手に入ったデータはこれだけかー。無いよりは良いけど」

 

 小隊員機のオレンジの機体も、こちらの一般機の中では上位に位置する〔ゲイオス=グルード〕に、勝るとも劣らぬ性能を持っていた。

 

 装甲や耐久性、武装面はこちらに分があるが、その機動性とジャミング能力は厄介である。

 

 そして、厄介さはその上を行く黒い隊長機。

 

 ゾヴォークの保有する高機動型の機体をも上回る機動性と、文字通りに全身に仕込んだ武装という突き抜けた設計がされていた。

 

 そして、この機体にも搭載されていたジャミング能力。

 

 隊員機との相乗作用により、こちらへの影響はさらに大きくなる。

 

 高速機動による敵陣侵入と出鼻を挫く広範囲への攻撃、そしてジャミング能力での妨害。

 

 このコンセプトだけであるならば、彼女の姉貴分の〔ビュードリファー改 イロズィオンヴィント〕と同じであるが、両者には決定的な違いがあった。

 

 黒い機体の武装が、コクピット……つまりはパイロットの命が全く考慮されていないことだ。

 

「あちらにも事情があるんだろうし、あたしがとやかく言うこともあれだけど。それでも、命を散らすのを前提にするのは間違ってるわ。それが、後に繋げるためであっても」

 

 なまじ言葉を交わしていたために、目の前で死なれたのは後味が悪かった。

 

 そこが戦場であって、この感傷を持つこと自体が自身の弱さであると理解していても。

 

 そしてエルミアは、相手に聞きたいことがあった。

 

 爆発の直前、相手が言った言葉。

 

『あなたこそ、早くあるべき場所に帰れば?』

 

 彼女達は、ここに来る以前の記憶が無い自分のことを知っていた節がある。

 

 出来ればそれを教えてほしかった。

 

 何をしていたのか、自分はいったい何なのか。

 

 身の回りで起きた不可思議な出来事や、様々な技術の記憶。それらも、過去と関係があるのかを。

 

「――ああ、もう! やめよやめやめ。考えても仕方ないわ」

 

 お手上げとばかりに大きく頭を振ると、椅子の背もたれに身体を預ける。

 

 頭もそのまま後ろに倒すと、天井を見上げた。

 

 そのままの姿勢で、しばらくボーッとする。

 

 頭の後ろに両手を回すと指を組むと、隣の空席に視線を向ける。

 

「ゼブもセティ姉もロフさんも、最近特に忙しいみたいだし。三人共ということは、近々大規模な遠征でもあるのかな?」

 

 現在セティの家で生活しているエルミアだが、姉貴分の彼女とは、最近家でも顔を合わせていなかった。

 

 深夜に帰り、早朝に出ていく。

 

 家に帰らないこともしばしばである。

 

 深夜に帰ってきてそれに気付けた時は、それとなく日保ちする材料で食事を作って、分かるところに置いておくということをしていた。

 

 そして傭兵部隊であるロフは別にしても、ゼブやセティの状態から推察されるのは、一つだけである。

 

「狙いは、ウォルガの連中が撃退されたという星か、バルマーの連中ね」

 

 彼女達のゾヴォークと共に、共和連合を構成している勢力ウォルガ。

 

 そこがある星に部隊を派遣し、ほぼ全滅という憂き目にあったことを知る者は多い。

 

 彼女が過激派と揶揄される、ゾガルという派閥に所属している関係もあるかもしれないが、そういった情報はすぐに出回る。

 

 他の敵対国家の可能性もあるが、有力候補はその二ヶ所とエルミアは目星をつけていた。

 

 現在、親衛隊と技術士官、ゼブの部隊員という三足の草鞋(わらじ)状態のエルミア。

 

 大規模な遠征となった場合、自分も従軍する可能性はある。

 

 もっとも、定期検査が必要なエルミアが呼ばれるかは、微妙なラインだが。

 

「ゼフィリーアの更なる改良に、個人的な戦艦……は難しいわねー」

 

 前者の愛機の改良も、黒い機体以上の機動にしようとすれば、今の状態から多くのものを犠牲にする必要があった。

 

 戦いの中で見せた変速的な動きを計測して、そこから推測されたあの機体の最大機動力は、決して遅い方ではないゼフィリーアの三倍以上。

 

 強力な慣性中和システムを積んでいるゼフィリーアも、急停止だけであれば可能ではある。

 

 しかし、その場からのタイムラグ無しのマックススピードでの加速や、方向転換といったことは不可能であった。

 

「星間航宙船や風の精霊じゃあるまいし。かといって、ゼフィリーアの……ライグの形を壊してまでの改良なんて、そんなものは全く意味が無い」

 

 少なくとも、彼女にとっては。

 

 大事なのは、造形を保った上での更なる改良。

 

 そしてあの機体が、こちらのゲイオスシリーズのように、大量に生産された時のことも考えておかねばならなかった。

 

「あー……頭痛い」

 

 結局、現在の悩みの種に戻ってきてしまう。

 

「こういう煮詰まったときは、閉じこもっていたら逆効果ね」

 

 閃きに、その紅い目は爛々と輝き始める。

 

 背もたれから身体を起こすと、横着な姿勢で腕を伸ばして端末を落とすと、背伸びして席から立ち上がる。

 

 壁のフックに引っ掛けていた親衛隊の制服を手に取ると、今の服の上からしっかりと着込む。

 

 冷房を切り、最後に部屋の電気を落とそうとして……その動きが止まる。

 

「どうせなら」

 

 部屋の入り口に手を伸ばそうとしていた彼女だが、不意に自分のデスクへと振り返った。

 

「徹底的に、気分を変えないとね」

 

 そう楽しそうに話す彼女の顔には、小悪魔めいた表情が浮かんでいた。

 

 その視線は、デスクの引き出しに向けられている。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 二機のゲイオス=グルードが、宙間戦闘を行っている。

 

 相対して五分。

 

 しかし、早くもはっきりと分かる形で結果は表れていた。

 

 片方は執拗に接近戦(クロスレンジ)に持ち込もうとし、その相手は、それから必死に距離を取ろうとしている。

 

 バーニアを吹かせて逃げ回っている機体は、既に中破と言っていい損壊状態。

 

 そのかろうじて残っていた両肩の砲門に、にわかにエネルギーが集束していく。

 

『お、俺だってこのままやられてたまるか! やってやる……やってやるぞ!』

 

 一矢報いようと、振り向き様に放たれた二発のドライバーキャノン。

 

 近距離から放たれたエネルギー弾を、しかしそれ以前から回避行動を取っていた追手は、難なくかわしてしまう。

 

 砲門を残した状態で追い詰めれば、一か八かで狙ってくると予想してあったために。

 

「……それにしても、狙いが雑ですね」

 

 追手のバーニアが、更に勢いよく噴射する。

 

 両手のひらから伸びたエネルギーの刃が、変な姿勢で射撃をしたせいでバランスを崩している相手に、容赦無く突き刺さった。

 

「これで終わりです」

 

 穴が開いた場所に、小手に装備されているダブルキャノンが、続けざまに撃ち込まれていく。

 

『うわっ!? うわぁぁぁぁぁっ!?』

 

 通信機から、対戦相手の悲鳴が聞こえてくる。

 

 相手の機体の動力部を撃ち抜くと、モニターには相手の撃破が示された。

 

「これで、九人」

 

 筐体の中で、エルミアが静かに呟いた。

 

 今の彼女は、肩までの紫の髪を髪留めで小さな尻尾のようにまとめ、銀縁の伊達眼鏡をかけた研究者然とした姿である。

 

 本当なら実機を動かしたいところであるが、良くも悪くもあれは目立ちすぎるために断念し、シミュレーターで我慢していた。

 

 ゼフィリーアの性能に胡座をかいて、それに頼った戦いをするような行為を彼女は忌避する。

 

「ゼフィリーアの改良も良いでしょう。しかし、パイロットが性能を引き出せなければ意味がありません。私自身が、強くならなければ」

 

 敬遠されやすいライグを使用せず、多くの相手と戦いやすいグルードを使っているのはそういう理由であり、他意は無い。

 

 呟いた少女は、眼鏡のブリッジを指の腹で押し上げると、操縦桿を握り直す。

 

 その足が、力強くペダルを踏み込んだ。

 

 モニターに表示された新たな“敵影”に、彼女が駆るグルードの背部にあるバーニアが、徐々に鎌首をもたげながら噴射を始める。

 

「距離ニ千……千……射程内……ミドルレンジ、ターゲットロック」

 

 敵に向けた両手から、牽制に放つダブルキャノン。

 

 その後を追うように、両の手から再び刃を伸ばしたグルードが飛ぶ。

 

 今回の相手もグルードだが、向かってくる非実体の弾丸をレーザーソードで無造作に受け止めた後に弾き飛ばすと、そのまま逆にエルミア機へと突っ込んでくる。

 

「この動き……というよりは非常識な操作は……」

 

 小細工無しで、正面からぶつかりあった両機。

 

 互いの刃――四条の光の刃が交錯し、眼前で激しく火花を散らす。

 

 切り結んでいたかと思うと、互いの鋭い突きを受け流し、再び剣を交わせて鍔迫り合いに。

 

『いーないと思ったら、やっぱりここか』

 

 通信機から聞こえてきた声は、彼女の予想通りのよく知る人物の声だった。

 

「ゼブ、忙しいのでは?」

 

『まーだまだな。だが、まあ概要は決まったからな、そーれを伝えに来た……んだが』

 

「……だが? どうしましたか?」

 

 通信機越しに会話をしながらも、双方の装甲には浅く深く剣戟による傷が刻まれていく。

 

『仕事はもちろんだが、こーっちのケアも必要なんでね』

 

 エルミアがどうにも塞ぎこんでいるらしいことはセティから、その原因らしきことはロフから彼へと話は伝わってきている。

 

 が、しかしかといって何をどうすれば良いかといえば、さしもの彼にも分からなかった。

 

 ライグ関係以外で、今すぐに彼に出来そうなことといえば……。

 

「ケア……ですか?」

 

 言っている意味が分からないと、エルミアが訝しげに答える。

 

 それを合図に、同時に刃を離した両機は距離を取って向かい合う。

 

『とーりあえず、エルちゃん』

 

「何でしょう? 次の作戦の指示でしたらここを出た後で――」

 

『ちょーっと眼鏡をはーずしてくれないか?』

 

「外すと言っても、これはレンズも入っていませんが……そもそも、映像通信でもありませんし」

 

『それは知ってるけれどもな、そっち(真面目仕事モード)だとどーにも調子が出ないんだわ』

 

「今一つよく分かりませんが」

 

 ゼブの発言の意図が読めず、エルミアは困惑していた。

 

 それでも言われた通りに眼鏡を外すと、制服のポケットの中に仕舞う。

 

 髪留めにも手を伸ばしかけたが、言われてないから良いかとそのままにしておいた。

 

 シートベルトで身体を固定したままだが、気持ちシートに座り直すと操縦桿を握る。

 

「外した……けど?」

 

 彼の意図が分からないままのため、エルミアの声には僅かに困惑が含まれていた。

 

『んーじゃ、続きといこうか? エルちゃん』

 

「だから、エルちゃん言うな!」

 

 言葉と同時に、刃を引っ込めた左手の小手に備えられた砲口が唸りを上げる。

 

 ゼブ機はそれを受け止めずに、上に飛ぶことで避ける。

 

「逃がさない!」

 

 すぐさまエルミア機もその後を追撃し始める。

 

 射的ポイントをずらしながら、 ゼブ機の予想回避ポイントに弾をばらまくエルミア機。

 

 その両肩に装備されたドライバーキャノンにも光が灯る。

 

『こーっちじゃないと、俺にゃわーからねぇんだわ』

 

「何をわけの分からないことを、しかもリラックスして言ってるのよ! ……良いわ、すぐにその余裕を無くしてあげようじゃない!」

 

 ゼブ機の回避行動を徐々に狭めながら、エルミアはドライバーキャノンの発射タイミングを計っていた。

 

「あ、そうだ。ゼブ、あたしが勝ったらちょっとお願いがあるんだけど」

 

 絶えず牽制射撃を仕掛けながら、猫撫で声で話しかける。

 

『今度はなんだ? ライグの二機目か?』

 

「う……それはそれで惹かれるけど、また別よ」

 

『内容によーるけどな。この間みたいなのじゃなく、実力なら考えてやってもいいぜ』

 

 それを聞いたエルミアの顔に、不敵な笑みが浮かんだ。

 

 自然と、彼女のやる気にも火が点く。

 

「言質とったわよ! あたしの戦艦のために、勝たせてもらうわ!」

 

『こりゃまたおかしなものをほーしがってるな、エルちゃん』

 

 ターゲットをロック。

 

「だから、エルちゃん言うなーっ!」

 

 咆哮と共に、逃げ場を塞いだ上でのドライバーキャノン。

 

 さらに、エルミア機の胸部が展開。

 

 そこに搭載されたビーム砲が姿を見せる。

 

「狙いはもう、付いてるわ!」

 

 ドライバーキャノンと時間をずらして、高出力のビームが放たれる。

 

 ゼブの腕を決して過小評価しない彼女は、三発の内の一発でも当たれば良い! くらいのつもりだった。

 

 少なくとも、ゼブ機の動きが止まれば良い。

 

 左手からの射撃を続けながら、確実なトドメを狙うエルミア機は右手の光の刃を振りかぶった――

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 シミュレーター室から出てきたゼブとエルミアが、並んで通路を歩いていく。

 

「なんで、あの状況からあたしが負けるのよ」

 

「いやぁ、かなり惜しかったが、詰ーめがあーまかったな」

 

 結果は、エルミア機の撃墜による敗北。

 

 筐体の中では、信じられないとばかりにエルミアの絶叫が響き渡ったのだが、幸い外に声が漏れることは無かった。

 

「まさか、ドライバーキャノンをレーザーソードで斬り離してぶつけるなんて。あと、左腕も」

 

「〔オーグバリュー〕のはパージ出来るからな。そーれを応用しただけなんだけんども」

 

 エネルギーを少し蓄積させたキャノン砲を斬り離したゼブは、飛んでくる弾にぶつけることで爆発を誘った。

 

 その後はダブルキャノンによる攻撃は多少受けたものの、身軽になった機体でその場を離れることでビームを回避。

 

 先に起きた爆発のせいでゼブ機の動きを一瞬見失ったエルミアを、今度はゼブが強襲した。

 

 その際に、追加で斬り離した左腕を囮に使ってエルミアの注意を逸らすという徹底振りで、エルミア機を撃墜したのである。

 

「オーグバリューの機能は当然知ってたけど、グルードで無理矢理使うなんて思わなかったわよ。そこまでして勝ちたいわけ?」

 

 恨めしそうに言うエルミアに、ゼブは深く溜め息を吐いた。

 

「エルちゃんにだけは言われたくない台詞だーね」

 

「む……あたしはただ純粋に、そう純粋に勝ちたいだけよ? ほら、あたしの澄んだ目を見て」

 

「欲望でギラつき過ぎてるだけなーんじゃね」

 

「見向きもしないで失礼なことを……あ、外で実機でやらない? ゼブと一緒なら何も言われないし、ついでに〔スカウリングリヒト〕の状態も確認したいし」

 

「馬鹿なこと言ってないでメシ行くぞ」

 

「あ、行く行く!」

 

 疲れたように話すゼブの後に、楽しそうなエルミアが続く。

 

 少なくとも、今の少女からは暗い影は消えていた。

 

 

    【おまけ】

 

 

「そういや、部下の二人はどうした?」

 

「チームプレーの考案」

 

「むしろ、そーっちを見てやれよ」

 

 


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