スーパーロボット大戦OG ~求める存在~   作:ショウマ

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うずまく悪意――悪魔、牙剥きし時

 

 

「――ハァアアアッ!!」

 

 気迫のこもったエルミアの雄叫びが、広くはないコクピットの中に響き渡る。

 

 それに呼応するかのように〔ライグ=ゲイオス ゼフィリーア〕はグングン加速し、まるで流星の如く宇宙を駆け抜けていく。

 

 背面にある全てのバーニアに火が灯り、一層激しく吹き出していた。

 

 フルブースト状態からのレーザーソードによる大上段の一撃。

 

 その鈍重そうな外見からは考えられない程の速度と勢いから放たれる一撃は、ゼフィリーアの基となっている〔ライグ=ゲイオス〕すら断ち切ることが可能であろう。

 

 ただし、当たれば。

 

 並の機体を凌駕するその速度にしても、障害物が無いここだからこそ出せるのであって、他の場所であればとてもではないが無理な話である。

 

 しかし――。

 

「これも駄目か……!」

 

 それらの条件が揃っていてなお、渾身の一撃すら、目の前の相手には僅かな手傷を負わせることしか出来ない。

 

 斬りつけた刀身越しに伝わってくる手応えと、メインモニターに表示されている敵機の情報。

 

 それらを瞬時に判断したエルミアが鋭く舌打ちし、攻撃を終えた愛機はすでに離脱行動に入っている。

 

 モタモタしていては、すぐに捕獲されてしまうからだ。

 

 今つけたばかりの相手の傷は、すでに“再生”し始めている。

 

「なんという機体だ。似たコンセプトだというのに、使い方次第でこうも『化ける』とは……」

 

 現れた当初こそ、『共和連合』で使用している大型砲撃艦ウユダーロ級と変わらぬサイズであったソレ。

 

『姉御ー!!』

 

「来るな!」

 

『……ッ!』

 

『オカシラ、せめて支援砲撃だけでも――』

 

「いかん!」

 

 戦域からの一時離脱をエルミアに命じられている二人が、彼女からの一喝を伴う命令に、ギリ……と奥歯を噛み締める。

 

 喋り方は違っても、彼女である限りその命令は絶対であった。

 

 ゾヴォーク艦隊のコントロールを掌握していた〔タウォーム〕から解放されたことで、生き残っていた部隊ともどもこの二人も自由を取り戻していた……が。

 

「お前達まで、奴に“喰われる”必要はない!」

 

 先に捕獲されたタウォーム同様、解放された部隊の大半は周囲に散らばっていた残骸諸共、敵に“喰われて”しまったのである。

 

 もちろん反撃を試みる者もいたが、その全ては無駄に終わっていた。

 

 ゼフィリーアを捕まえようと、数え切れないほどの触手が伸びてくる。

 

 上半身こそ彼女が設計した〔グラン=シュナイル〕の面影が残っているが、下半身は取り込んだモノと触手により完全に異形と化していた。

 

 おかげで、機動兵器としては只でさえ規格外な大きさだったものが、さらに数倍……戦艦も取り込んだためか十倍以上に膨れ上がっている。

 

 それは第四世代型超弩級戦艦エクセリオン級を軽く凌駕し、第五世代型に迫るほどであった。

 

 背後から迫る触手に、ゼフィリーアは振り向き様に左腕を向ける。

 

「剣の舞い。踊れ、プラネイト・ガン・ソード」

 

 左腕の盾が外れると同時に分離、背面から飛び出した二基のソレと合わせて六基の無人誘導武装端末が、触手を迎撃に向かう。

 

 先程までの、威力に優れる円盤(ソーサー)型ではなく通常形態での使用なのは、単純にその数に対応させるためである。

 

 乱れ飛ぶ光の剣が、迫る触手を次々と斬り裂いていく。

 

 分断された触手が黒い塵となって消滅していく傍らで、剣を潜り抜けてゼフィリーアに迫るモノもあったがレーザーソードによって薙ぎ払われていった。

 

 他にも数本を同様に片付けると、ゼフィリーアの左肩にあるレンズが開き、六枚の翼には無数の小さなレンズが展開する。

 

「我が裁き、受けよ」

 

 深紅の悪魔に狙いを定めると、一気にトリガーを引く。

 

 左肩より射出された三角柱状のミサイルポッドが、触手を避けながら一定距離を飛び――その三面ある側面をオープン。内蔵していた六十発のミサイルを、一斉に解き放った。

 

 そして、そのミサイル群をエメラルドグリーンに輝く光の雨が、触手を撃ち抜きながら追い抜いていく。

 

 ホーミングレーザーで穿った穴に、装甲を腐蝕させる特殊弾頭を用いたミサイルをぶつける。何らかの生体兵器であるなら、あわよくば他にも影響をもたらせられるかもしれないという狙いがあった。

 

 先んじたレーザーが深紅の悪魔に命中する。

 

 ――まさにその時。

 

「なに……!?」

 

 G=シュナイルの全面を覆うように展開されたバリアが、レーザーを阻んでいた。

 

 間髪置かずにミサイル群が次々と着弾していくが、その全てが受けきられてしまっている。

 

 本体への着弾は、ゼロ。

 

「あの二人の力か」

 

 忌々しそうに呟くエルミア。

 

 念動フィールド。

 

 念動力という力を用いることで発生させるエネルギーフィールド=バリアの一種である。

 

 彼女の知る限り、操手である男――ドクター・テスタネットにその力は無いはずであった。

 

 となれば、あれは補食された二人の力ということになる。

 

 バリアの強度は、扱う者の念動力次第。あの二人の力とするならば、その強度も推して知るべしである。

 

「……ハイ、モベ」

 

『あ、姉御!?』

 

『指示を』

 

「お前達は、今すぐ基地に戻れ」

 

 サブモニターに映っている二人に告げながら、近くに呼び戻した六基と共にしつこく迫る触手を斬り捨てる。

 

『ええっ!?』

 

『オカシラ。なぜ、そのような……』

 

「ゼブ達に、こやつのことを伝えよ。このまま野放しにしていては、何をするか知れたものではないぞ」

 

 地球にでも行ってくれれば、あの地の連中が勝手に倒してくれるかもしれないが。

 

(もっとも、我が“知っている地球”とは異なっているからな。この世界に、果たしてどれだけの戦力があるのか)

 

 胸中で、エルミアはそう一人ごちる。

 

 彼女の知る地球は数多の勢力が入り乱れ、群雄割拠が如くの世界であった。多くの文明・存在を巻き込みながら、やがて訪れる終末の黙次録――最後の審判にすら抗おうとする者達。

 

 その後、あの世界がどうなったのかは彼女にはもう知るよしもないことだが。

 

 

 それでも、一つの(地球)であれだけ多くの多彩な兵器が産み出された文明は、まさに驚嘆の一言。

 

 既にウォルガとバルマーの一部隊を退けていることから、この世界の地球にもある程度の力が備わっているのは確かであろう。

 

 もっとも、ゼブ達三人が本気で真面目にあの機体を使って任務をこなしていれば、今頃はかなりの被害が出ているはず。

 

『しかし、姉御!』

 

「命令だ。……行け!」

 

 モニターに映るハイ・カーエの顔には、いつもの彼らしくない苦渋が滲み出ていた。

 

『……ハイ、行くぞ』

 

『モベ!? てめえ!』

 

 相方のモベ・ビーシの発言に、殺気立った怒りの声を上げる。

 

『俺達がここにいても、オカ……隊長の足手まといになるだけだ。それなら、戦いやすく場を調えるのも、俺達の仕事だ。違うか?』

 

『……分かったよ』

 

 いつも以上に淡々と語るモベの様子から、彼もまた感情を押し殺していることを悟り、ハイは不承不承頷いた。

 

『隊長。ご命令、確かに賜りました。ですが、まだまだご指導授かりたくと思います』

 

『姉御! どんな手を使ってでも、必ず生き残ってて下さいよ!』

 

「転移装置があるといっても、基地までの往復にどれだけかかると思ってる」

 

 通信を切って移動を始めた二人へ、エルミアが呆れたように呟いた。

 

 通信機から、あの男の含み笑いが聞こえてくる。

 

「何がおかしい?」

 

『ククク。失礼、ずいぶん甘いものだと思っただけですよ? 本来のあなたであれば、そんなことは口にしなかったでしょうしね』

 

「ふ。言ってくれるな、ドクター? 我は我だ」

 

 眉をしかめ、不機嫌に吐き捨てる。

 

『ククク、そうですか。では――』

 

 巨体の前面部が蠢き、内から突き破るように砲塔が四つ現れた。

 

 僅かに機体の向きをずらす。

 

『邪魔なゴミは掃除しても構わないですね? 』

 

「貴様……!」

 

 この男が何をするつもりか分かり、初めてエルミアの顔色が変わる。

 

『弱者には死を……それが宇宙の原理ですから』

 

 四つの砲塔に、根元から先端に向かって赤く煌めいた光が集束していく。

 

 四つの光はやがて輪を描き、さらに中心へと集束していく。

 

「くっ! ……転移完了には二秒、ギガブラスターによる迎撃には三秒、リベンジブラストにはチャージが足りん!」

 

 ゼフィリーアの搭載システムによる、一秒にも満たない予測計算の結果に、エルミアが再び舌打ちする。

 

 光の輪の中心には、すでに赤く禍々しい巨大な光球が生まれていた。

 

「やむを得んか」

 

 エルミアはゼフィリーアを動かすと、射線軸上で停めた。

 

「ドクター。お前の悪魔の一撃くらい、我が止めてみせよう」

 

『ククク。では、元になったモノにちなんで、DG(デビルグラン)=シュナイルとでも名称を変更しましょうか?』

 

 軽口で返しながら、男がそういえばと口にする。

 

『私は他の奴らや、ましてや地球の者達と戦うつもりはありません』

 

「む?」

 

 男の言っている意味が分からず、エルミアが訝しげにする。

 

『私が求める存在は、あなただけですから』

 

「お前は何を――」

 

 言っている? という言葉が声になることはなかった。

 

 DG=シュナイルの顔にも見える下腹部――その巨大な口を開くと、中からは白く眩い光が溢れ出る。

 

『さあ、いきますよ? ビッグバン・レディファー』

 

 吐き出された白光が赤き光球と混ざりあい……ゼフィリーアを飲み込めるほどの光の柱が、螺旋状になって迫ってくる。

 

「させぬ!」

 

 ゼフィリーアがバリアシステム――イナーシャル(ディフレクト)シールドの出力を最大限にして展開する。

 

 さらに、背後には間違っても抜かせないように展開面をさらに拡大。

 

 その内側ではプラネイト・ガン・ソードを、ディフェンサーモードにして六基全てを使用する。

 

 飲み込まんと迫る光と遮り護るための光。

 

 相反する二色の光が激しく火花を散らす。

 

 シールドに沿って赤の光が迸っているが、その威力の大半は削ぎ取られているため、後方に影響が出るほどではない。

 

「……二、一、ゼロ」

 

 レーダーから二人の反応が消えると同時に、エルミアの口元に笑みが浮かび、そしてシールドが砕ける。

 

 続けて、内にあったプラネイトディフェンサーと接触……しかし、数秒もすれば六基全てが異常を示し始める。

 

 連続使用していたことに加え、過剰な力を受け止めているせいで負荷がかかってしまい、オーバーロードを引き起こしてしまったようだ。

 

 幸い、二人もいない今ならば回避することも簡単である。

 

 ――しかし。

 

「エネルギーチャージシステム、起動」

 

 エルミアは避けるどころか、リベンジブラスト用のシステムを起ち上げた。

 

 受けたビーム及びエネルギー兵器を転換・増幅して撃ち返すというこれは、自機だけでは使用できない兵器ではあるが、充分なチャージを終えたこれは相応の威力を誇っている。

 

 唯一の問題は……。

 

「堪えるのだ、ゼフィリーアよ」

 

 受けきった上で、システムが正常に作動していること。

 

 攻撃に転じる際、エネルギーの誘導にもし失敗すれば……良くて機能停止、悪ければそのまま宇宙ゴミだろう。

 

 プラネイトディフェンサーが完全に停止し、ゼフィリーアが螺旋の光の中に飲み込まれていく。

 

 

「ククク。無駄ですよ。その機体のデータはすでに私の中にあり、その上で全力を出しきってようやく機能停止する力で撃ったのですから」

 

 コクピットの中で、テスタネットは少女の下した判断を冷笑する。

 

 メインスクリーンは、発生した膨大なエネルギーの影響で一時的なシステムエラーを起こしており、攻撃は終えているため数秒もすれば正常に戻るだろう。

 

 ディフェンサーが機能不全を起こしたのであれば、それだけ予測よりも大きなダメージを受けたということであった。

 

 完全に消滅していたら彼の計画にも支障が出てしまうのだが、その時は多少手間になるが別の手段を講じるだけである。

 

 光の放射の影響は徐々に収まりつつあり、モニターも快復――

 

『ふ。ゼブのようにはいかんか』

 

 展開率を可能な限り拡げたレーザーソード。盾のように扱ったために耐久度の限界を越え、半ばから崩壊していくそれの陰から……蒼く輝くツインアイが光を放つ。

 

「な――!?」

 

『騙しあいは、我の勝ちのようだ』

 

 DG=シュナイルを、先とは逆に黒い光が飲み込んでいった――。

 


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