Angel beats! 蒼紅の決意   作:零っち

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「はじめまして。僕は千里 悠」

――ジリリリリリリッ

 

特に早起きをしなければならない理由があるわけじゃないが、なんとなくいつもかけている目覚まし時計。今日もまたけたたましく鳴っている。

 

…起きるか。

 

カチッ

 

あれ?俺はまだ目覚まし時計に触れていないのに、音が止まった。

 

「起きてください。朝です」

 

寝ぼけ眼をゆっくり開けると、目覚まし時計を手にし、無表情でこちらをみる遊佐がいた。

 

「遊佐っ?!」

 

―――ガンッ。

 

「…大丈夫ですか?」

 

驚きで身を起こした時に頭をぶつけてしまった。

 

2段ベッドなの忘れてた…。

 

「大丈夫…って、そうじゃなくてだな!なんでお前がいる!?」

 

「起こしにきてみました」

 

「みました。じゃねえよ…ここ、男子寮なんだけど?」

 

ヒートアップした頭を冷やすため、なんとか普通のテンションに戻す。

近所迷惑だし、なにより見つかったらめんどくさそうだ。

 

「割りとあっさり入れますよ」

 

「入れるのと実際に入るのは別だろ、普通…」

 

「まぁ、いいじゃないですか。朝から女の子に起こしてもらえるなんて幸せ者ですよ。ヒューヒュー」

 

全く表情を変えずに冷やかしてくる。なにこれ?罰ゲームですか?

 

「いえ、人によってはご褒美かと」

 

「俺にそっちの気はねえよ…って、なんで心読めるんだよ!?」

 

「女子の必須科目です。学校で習いますよ」

 

女子って怖え…。

 

「そんなことはどうでもいいですから、とりあえず場所変えましょう。ここ狭いですし」

 

「いきなり来といて随分な言いぐさだな…」

 

ていうかそもそも女子寮と男子寮って部屋の大きさ違うのか?

 

「いえ、あまり変わりません」

 

「うん。心読むのやめてくれ…」

 

 

 

場所を移した先は屋上。

なんかここにはなにかと縁があるな。

 

「では、とりあえずこれを」

 

手渡されたものは遊佐がつけているものと同じインカムだった。

 

「私の役割は通信士。通信士にはインカムが必須なので」

 

「ふーん。これ使えば遠くにいても話せるんだな」

 

「ええ。ですが、私用で使うのはめっ、ですよ」

 

人差し指をこちらに向けそう言った。

 

「…はずしましたか?」

 

「お前は一体なにを狙ってるんだ?」

 

昨日から謎過ぎだ…。

 

「閑話休題」

 

「いや、口に出すなよ」

 

せめて心の中で思うだけにしとけよ。

 

「通信士の仕事は主に戦線の皆さんを監視…見守ることです」

 

「監視って聞こえたぞ…」

 

「気のせいでしょう。そして、監視している時に問題がありしだいゆりっぺさんに報告、というのが普段の役割ですね」

 

もう隠そうともしないとは…。

 

「私は監視する時に双眼鏡を使いますが、柴崎さんは必要なさそうですね」

 

「いや一応くれよ」

 

裸眼で見えなかったらどうするんだ。

 

「しょうがないですね。

タッタラタッタ~、双眼鏡~」

 

どこに隠していたのか双眼鏡を取り出した。

 

「…はずしましたか?」

 

「もうそれいいから」

 

この短期間で何回言うんだよ。

 

 

 

 

「どうだったかしら?初出勤…ていうのはちょっと変かしら」

 

「なんていうか、根気のいる作業だったよ。よくやってるな遊佐のやつ」

 

あのあと一通り作業をこなした。すると、インカムからゆりに呼び出され今に至る。

 

「そうね…遊佐さんには本当助けられてるわ」

 

ふふ、と微笑みを浮かべるゆり。

 

「まあ喋り過ぎだけどな…」

 

「あはは…彼女あんな感じなのに妙なポテンシャル持ってるのよねぇ」

 

微妙なフォローだ…。

 

「でも、打ち解けれたみたいで良かったわ」

 

「一方的にボケまくられただけだよ」

 

「あら、それがなによりの証拠じゃないかしら?」

 

そう…なのか…?

 

「遊佐さんとより仲良くなりたいならガルデモの話すれば?あの子もファンだしね」

 

「そうなのか?」

 

「ええ。本人は隠してるつもりなんだけどね…すっごいバレバレなのよ…」

 

笑いを堪えながら話すゆり。

こいつら仲良いんだな…。

 

「まあ、今日はお疲れ様。もう帰っていいわよ。お腹も空いたでしょう」

 

言われて気がついたけど、よく考えたら昼飯も遊佐からもらったウイダー的なチャージをするゼリーだけだった。

 

「そうさせてもらうよ」

 

 

 

食堂に着き、頼んだ肉うどんを水と一緒にトレイに乗せて、空いてる席を探す。

こういうとき、この目が役に立つな。

 

キョロキョロ見渡すと、見たことはないが、戦線の制服を着ている青年を見つけた。

NPCと相席になるよりいいかとその青年の所へ向かった。

 

「ここ、いいか?」

 

「ええ…どうぞ…」

 

声をかけるとそいつは珍しいものを見るように目線を送ってきた。

 

「悪い。俺は柴崎 蒼。つい最近入ったばかりなんだ」

 

「ああ、そうなんですか」

 

…新入りが声をかけるのは珍しいのかな?

 

「はじめまして。僕は千里 悠(せんり ゆう)」

 

千里と名乗った青年。第一印象は、失礼なのはわかるけど、なんというか平凡とか凡庸等の言葉が似合う奴だ。

大山も特長がないと感じたがこいつはそれ以上に普通。顔も目や鼻、口など全てにおいてまるで絵に書いたように特長がない。体つきも中肉中背。戦線の制服を着ていてもNPCなんじゃないかと思う。

 

「大変でしょう?此処は」

 

「ああそうだな、正直慣れれる自信がない…」

 

「あはは、その気持ち分かりますよ」

 

そんな会話を皮切りに、俺の記憶が無いことや、通信士になったことを話したが、やはり、これといった特長が見当たらなかった。

 

…まあ、他のやつらが個性的すぎるのかもしれないな。

 

 

「では、僕はお先に帰りますね」

 

「ああ。付き合ってくれてありがとな。また話そう」

 

「はい。喜んで」

 

微笑みを残して去っていった千里。

 

あんなやつもいるんだな。

 

「あ、柴崎」

 

ん?と振り向くと指をこちらに向ける岩沢がいた。

 

「よう」

 

「もう食べ終わりそうだし、また屋上行こうか」

 

いきなりだな…。まあいつものことだからいいけど。

 

「ちょっと待ってろ」

 

残っていた数本の麺をすすって席を立った。

 

 

 

「そういやあんた何時からあそこ居たの?」

 

屋上に上がりギターを弾き始めるとすぐにそう訊いてきた。

 

「何時って…6時くらいだと思うけど、なんでだ?」

 

「いや、あんたみたいな髪の色のやつならすぐ見つかるのになぁと思って」

 

確かにそうだろうけど、もう少し言い方があるんじゃないか?

と、考えてから思う。

…なら何故俺を見つけられなかったんだろう?

 

俺のほうが後に来たなら見つけられないのは当たり前だ。

しかし、俺のほうが遅かったのならまず真っ先にこの目が岩沢を見つけるはずだ。

 

…なにかがおかしい…。

 

「柴崎?」

 

「あ、ああ。悪い。ちょっとぼーっとしてた」

 

変な奴、と呟いてからまたギターを弾く事に集中する。

 

それを見てからまた少し意識をさっきの疑問に戻す。

 

まぁ、岩沢は俺ほど目がいいっていうわけじゃないから人だかりでわからなかった、というのが一番正しい結論のような気がした。

 

なのに、この言い様のない違和感。

 

…駄目だ。考え過ぎて疲れた。

とりあえず今日はもう考えるのはよそう…。

 

そう決めてまた岩沢のギターに集中する。

 

そういや、あと少ししたら完成するんだな新曲。

 

「楽しみだ」

 

呟いた言葉はギターに阻まれて岩沢に届かず夜空に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 




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