もしよければご意見頂ければ幸いです。
「さぁ、始めましょうか!」
こんな真っ昼間、グラウンドに動きやすいジャージ姿。頭にハチマキを着けされられ、スタートラインに立つ。
「なんでこんなことになるんだよ…」
事の発端は今朝行われた会合からだ。
「今日集まってもらったのは他でもないわ!ずばり、柴崎くんの身体能力テストよ!」
「はぁ?」
確かにこの前適性がどうのこうの言ってたけど。
「ちょっといいか?」
「どうぞ?」
質問の為に律儀に挙手をする音無。
「俺そんなのやってないんだけど」
おい、なんで俺だけやらせるんだよ。
「ああ。音無くんは入ってすぐにトルネードで天使とやりあったし、まぁ大丈夫かな~ってね」
「そんな適当な…」
「いいのよ、ある意味初っぱなで天使に傷をつけたのが実働部隊の適性とも言えるしね」
そんなもんなんだろうか…。
「というわけで、今日は柴崎くんの身体能力を測るわよ」
「うへー、じゃあ柴崎あれやるのか…」
辟易したように日向が言葉をもらした。
俺、何をしなきゃいけないんだろう…。
「うむ…正直あれは命がいくつあっても足りんからな…」
松下五段まで…。
「じゃ、遊佐さん。後はよろしく」
「了解です」
するっと俺の背後から姿を現したのは人形みたいに顔立ちの整った、しかし無表情な金髪をツインテールにした女の子だった。
…ていうか、いつから居たんだよ。
「とりあえず、動きやすい服を用意しましたのでこちらに着替えて下さい」
「あ、ああ」
「じゃああたしたちは先に行ってるわよ」
そういって、俺と遊佐を残してゆりたちは部屋を後にした。
「お似合いですよ」
「はは…ありがと」
ジャージがお似合いってのも微妙な気分だな。
「では、場所はグラウンドですのでご案内します」
無表情で淡々と説明を行って、案内をしてくれる遊佐。
「なぁ、テストって何をやるんだ?」
「それはひ・み・つ、です」
「…………………」
それを無表情で、さらに平淡な口調じゃなければもっと良かったんだが………。
「…外しましたか?」
「そういう問題なのかよ…」
ギャグならもっと分かりやすくしてくれ。ツッコミずらいし、無表情でやられたら笑えるものも笑えねえよ…。
「まあ、冗談半分はさておき」
「冗談半分ってなんだよ?!」
もう半分は一体なんだ?!茶目っ気アピールか?!
「このテストは瞬時の判断力も同時に見ますので、言うことは出来ません」
「スルーかよ…」
なんでここのやつらはスルーばかりするんだ…。
グラウンドに着くと遊佐から、では精々頑張ってください、とエール?をもらった。
…俺はあいつに何かしたのだろうか?
「よく来たわね柴崎くん!」
「そりゃ来いって言われたら来るだろ」
何故仁王立ちをしている。敵か?ラスボスなのか?
「いいのよ、細かいことは。早く位置につきなさい」
顎で促され、白線で引かれたスタートラインに立たされる。
「頑張れよぉ~」
「精々死なねえようにしろや~」
なんだろう、応援は嬉しいが…ものすごく恥ずかしい。
「とりあえず持久力を試させてもらうわよ」
ルールは単純なものだった。このグラウンドのトラックは一周500m。それを10周するというものだった。
といっても、ルールが簡単なだけでそれが楽かは別問題なんだが。
「5キロか…」
正直めんどくさい。こんな体育みたいなことやる意味あるのか?
「はーい、行くわよー」
スタートの合図の為、ゆりが銃を空に向け、耳を野田に塞がせている。
「位置について、よーい…」
ドン、と構えていた銃がなる。
って、なんで実弾なんだよ!火薬だけにしろよ!
野田は至近距離で銃声が鳴ったため、気絶してしまっている。
「は、は、は、…」
まぁ、順調といっていいペースで半分を走り終えていた。
このままなら無難な結果で終えられそうだ。
「ふんっ」
「え?って、うおおぉ!」
いきなり声が聞こえたかと思うとクナイが俺の首目掛けて飛んできやがった。
「な、なにしやがる!」
「ごっめーん、いい忘れてたけど、半分切ったら椎名さんから妨害があるからねー」
「さ、き、に、言え!」
ゆりの話の最中もずっとクナイが俺目掛けて飛んでくる。
くそ!こうなったら意地でも避けきってやる!
「はぁ、はぁ、はぁ…………」
ゴールと同時に地面に倒れむ。
…死ぬところだった……。
「……………」
「どうしたんだ、ゆりっぺ」
そんな俺を見てなにやら考え込むゆりを見て怪訝そうにする日向。
「避けきったわね…」
「ん?ああ、そうだな。凄かったな」
「凄かったな、じゃないわよ!普通じゃないでしょ!椎名さんの攻撃全て避けきってゴールするなんて!」
「おお、そういやそうだ」
そ、そうなのか?無我夢中でよくわからなかった…。
「こいつ、反応が速い。身体能力は一般的だ。おそらく目がいいんだろう」
「し、椎名が喋ったぞ?!」
それは凄いことなのか?
「なるほど…動体視力が優れている、ってことね」
ふん、と息をもらして再び考え込む。
「あなた、視力はどうなのかしら?」
「では、これはどうですか?」
「右斜め下」
「あってます」
何故か白衣姿の遊佐が指し棒を視力検査の例のマークを指し、俺はそれを答えている、が……。
「す、凄いわね…」
「ああ…」
自分でも驚いている。
もう視力検査の限界では足りないという理由で既に一般的な距離よりも離れて行っている。
「これほどとはね…」
「ええ、マサイ族みたいです」
マサイ族って…。
「おっ前なんでそんな目ぇいいんだよ?!」
「いや、わかんねえよ…」
俺、生きてる頃なにやってたんだよ…。
「この目をどう生かすか、ね」
「…出来ればドンパチは避けたい所だな」
目が良いだけじゃ勝てる気しねえよ…。
「…そうね…。なら、しばらくは遊佐さんについてくれる?」
「遊佐に?」
目線を遊佐に送るとグッとサムズアップされた。
うん、可愛いよ。可愛いけどね。
「ま、ガルデモとも仲がいいみたいだし?しばらくはそっち方面に働いてもらいましょうか」
にっこり笑顔が何故か少し怖いが、とりあえず実戦は遠退いたと思い安堵する。
「改めてよろしくお願いします。柴崎さん」
「あ、ああ。よろしくな、遊佐」
しかし、どんな仕事をさせられるのだろうか。
「内容は後日知らせますので。…そんなに不安そうな顔をなさらないで下さい」
「え?あー、悪い」
そんな顔してたのかな?
ははは、と笑いながら頬を掻く。
「心配なさらずとも死ぬ確率は実働部隊よりよっぽど少ないですし、天使と戦うなんてこともそうそうありません」
「ああ、それをきいて安心したよ」
何かのフリのような気がしてならないけど…。
「さあ、じゃあ解散!」
「ふぅん。じゃあ、遊佐のところに配属されたわけか」
「ああ。なにするのかよくわからないけどな」
例によってまた屋上で岩沢とダラダラと話している。
「まあ、遊佐ならそう無茶は言わないさ。それに、あいつのところならあたしたちのライブ見られるだろうしね」
「ほんとか?!」
物凄い勢いで訊く俺にすこし面をくらっているが、ふ、と笑いああ、と返してきた。
そうか、ライブが見れるのか…なら全く問題なしだな。
「そんなに嬉しい?」
「当たり前だろ?新曲も楽しみにしてんだからな」
「…ああ。…任せとけ!」
まただ。
新曲のことになると、コイツは少し表情を曇らせる。
これはただまだ新曲が出来てないからというだけなのか…それとも…。
「楽しみにしてるから頼むぜ」
俺は…まだそこに触れていいのか、解らない。
コイツのことを知りたいと思う。その気持ちに嘘はない。…けど、触れることへの不安が心を覆っている。
…今は、まだ触れるべきじゃないのかもしれない…。
「ああ、ライブでまた泣かせてやるよ」
「そのことはもう忘れてくれ…」
黒歴史だ…。
まぁ、コイツが笑ってるなら、それも良いのかもな…。