Angel beats! 蒼紅の決意   作:零っち

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岩沢さん視点のお話です


「この歌の名前は、My song」

最近、少し変わったやつがあたし達…あれ?今はなんて名前だっけ?…絶対絶命戦線か?

まあいい。とりあえずあたしたちの戦線に入隊してきた。

 

今までの奴らもなかなかに頭のネジが飛んでるような奴らが入ってきたけど、アイツはそいつらとも少し違っていた。

 

そいつの名前は柴崎蒼。

まずはコイツとの出会いから振り返ろう。

 

―――――――――――――――

 

「――――――♪」

 

その日あたしはいつものようにトルネードを終えて夕飯を食べた後に現在製作中の新曲の為に屋上でギターを弾いていた。まさか誰かいるなんて考えもせず、ハミングをつけながら。

 

「あっ…」

 

そいつはなぜかこんな晩に学校の屋上で寝ていたらしい。入口の所を風避けにしていたようでまるで気づかなかったが、あたしがうるさくしすぎたようでひょっこり顔を出していた。

 

男にしてはやや長めの桔梗色の艶やかな髪。

髪と同じく桔梗色をした少し目付きの悪い瞳。

そいつは驚いたような顔をしてこちらをじっと見つめていた。

 

「なに、あんた」

 

じっと見られ居心地が悪くなったのでとりあえずその場しのぎに質問してみた。

 

「え、いや、なんていうか…」

 

なんだかはっきりしない態度だったのでこちらからあたりをつけてみる。

 

「もしかして、新入り?」

 

この雰囲気からして人間だろうからきっと新入りなんだろう。

 

「目付き悪いね」

 

「あんたには言われたくない」

 

「ん?そうか?」

 

あたしって目付き悪いのか?今度ひさ子に訊いてみよう

 

「まあいいや。あんた名前は?」

 

「柴崎…蒼」

 

名前まで蒼いんだな。

 

「ふーん、よろしくね」

 

柴崎は挨拶を返さずに何故か呆れたような顔をしていた。

 

「なあ、そもそも入隊ってなんのことだよ?」

 

「………………?」

 

すぐに質問の意味を理解することは出来なかった。

が、よく見ると柴崎は戦線の制服を着ていないことに気がついた。

 

「あー、そっか。あんたまだ入隊してないのか」

 

だから入隊ってなんのことだ?という質問に繋がったんだ。

 

「入隊って、なんのことだ」

 

「んー」

 

―――と、その時。あたしの頭に突然神が降りてきた。

 

「あ、いいフレーズが降りてきた!」

 

その時はまだ歌いだしの歌詞も出来ていなかったその歌の歌詞が唐突に頭に沸いてきた。

 

忘れないうちに持ってきていたノートにその言葉たちを書き連ねていく。

 

「うん。いい。これを待ってたんだよ」

 

この歌はあたしの最高傑作になる。妙な確信があたしのなかに生まれていた。

 

「よし。あ、柴崎」

 

「あ?!ああ」

 

「なんだ?変な声出して」

 

一段落がついたから声をかけると、素っ頓狂な声を出す柴崎。

…寝てたのか?

 

「なんでもない」

 

すぐに何もなかったように表情を戻した柴崎。やはり、寝てただけだったのかもしれない。

 

そのあとは、明日校長室に来て欲しいという会話や、寮はどこだ、ということなどを一通り説明した。

 

とりあえず納得したようで、寮に向かおうとする柴崎。

入口のドアを開けてから立ち止まり、一言

 

「じゃあ、またな岩沢」

 

「ん、ああ」

 

あたしは柴崎の言葉に違和感を覚えた。

 

「なんであたしの名前知ってるんだ?」

 

あたし、確か自己紹介はしてなかったのに。

 

「変な奴だったな」

 

思わずクスリと、笑いがもれた。

 

 

次の日、そいつはきっちりと校長室に訪れていた。

…ボロボロの姿だったけど。

なんでコイツボロボロになってるんだろう?

 

とりあえず、自分で話すことは出来なさそうだったから、ゆりに柴崎を紹介していると、ようやく目を覚ました。

 

「誰が変な奴だよ」

 

いや、まだそこまでは言ってなかったんだけど。

 

そこからはゆりの独壇場、つまり勧誘が始まった。

あたしが会話に入る余地はなさそうだったから爪をいじりながら、ゆりも毎回こんな説明よくやるなぁとか、考えていた。

 

時折、柴崎があたしに話を振ってきたりしたから思ってる事を口にすると、なんでだか皆が沈黙して呆れられる。なんでだろう?

 

まあ、紆余曲折あったが、とりあえず入隊することを決めたらしい柴崎。なぜか決める直前にあたしの方を見てたけど。

 

 

ゆりの号令で解散することになり、皆が部屋から出ていっている中、柴崎は扉の前で立ち止まり

 

「あ、俺金ないじゃん」

 

思わず、昨日の夜と同じように笑みがこぼれた。

 

「どうしたの?」

 

白々しいと思ったが、知らないふりをして訊いてみた。

 

「いや、腹が空いたから何か食べようと思ったんだけどな…」

 

少しばつの悪そうな表情で言う柴崎を見てまた笑いそうになるのをこらえ

 

「あー、金がないんだ?」

 

あくまで知らないふりを通して訊いてみる。

 

するとまたまたばつの悪そうな顔でコクリと頷いた。

 

「じゃあとりあえず今日のところは奢るよ。食堂行こうか」

 

さすがに少し意地が悪かったかなと思い、謝罪の意味も込めて提案した。

 

「奢るって、悪いからいいよ」

 

「あたしたちはそうそう食券に困らないからいいんだって。ほら行くよ」

 

「ま、ちょっ…!」

 

少し強引だけど、柴崎の手を引いて食堂に向かった。

 

「…いただきます…」

 

「ん、いただきます」

 

うどんを前に礼儀欠くわけにはいかないのでとりあえず柴崎の仏頂面をスルーしつつ合掌する。

 

「さっきのあれって、どういうことだ?」

 

「さっきの?」

 

話を聞くと、どうやら食券に困らないというところが引っ掛かったらしい。

なのでとりあえずトルネードの説明をすると、なんだか納得していたみたいだったからライブを見てたのかと質問してみた。

 

「柴崎、もしかしてライブ見てた?」

 

「ん、ああ。人捜してたからな」

 

やっぱりか。じゃああたしの名前はその時誰かに訊いたのかもな。

 

 

「どうだった?」

 

ニヤリと笑う今のあたしは相当自信家に見えるだろうな。

ただ、ひとつ言い訳するとするならこれは“あたし”への自信じゃなく、“あたしたち”への自信だっていうことだ。

 

「…凄かった」

 

あまりにも抽象的な答えが返ってきた。

 

「凄かったって…どんな風に」

 

「お前の歌…すごい力強いし、めちゃくちゃ上手いし…なんていうか…」

 

もう一度問い返すと今度は言葉に詰まりながらもいくつか理由を挙げてくれた。

だがまた続きが出なくなる。

 

「なんだよ?」

 

「とにかく凄かったんだよ!以上!」

 

なんで怒ってるんだよ…。

いい逃げしてそっぽを向く柴崎を見てまた笑ってしまう。

 

「じゃあさ、他のメンバーにも会っとく?」

 

なんでだろう、コイツを皆に紹介したくなった。

 

「ガルデモのか?」

 

「そう」

 

「そうだな。会ってみたいな」

 

「なら行こうか」

 

既にうどんを完食済みだったあたしはご馳走さまといい席を立った。

 

 

 

「あ、岩沢さーん。あれ、そっちの人誰ですか?」

 

いつもの空き教室の扉を開けると真っ先に関根がこちらに気づいた。

 

「コイツは柴崎。新しく入隊したから連れてきた」

 

そうなんですかー!とやはり関根はいつも通りにハイテンションで挨拶していた。

 

その次にひさ子、最後に入江と挨拶を交わした柴崎。

しかしあたしが人連れてくるのってそんなに珍しいのか?

 

「で、岩沢?まさか挨拶するためだけにここに連れてきたわけじゃあないんだろ?」

 

「ふふ、さすがひさ子。わかってるじゃないか」

 

伊達に此処に来てからずっと組んでるわけじゃないらしい。

 

「さあ、派手にやろうぜ!」

 

 

 

いつもの掛け声から始めたガルデモでも屈指の人気を誇るAlchemy。

前のトルネードじゃやってなかったからまず間違いなく聴いたことがないだろう。

 

「どうだ?Alchemyって言うんだ今のは」

 

「いやなんていうか、凄かった…」

 

「また凄かったかよ…」

 

手に口をやりクスクス笑いながら茶化してやると、やっぱりまたぶっきらぼうになってうるせえよと言ってきた。

 

「つーか柴崎、お前岩沢見すぎだ」

 

「はぁっ?!」

 

なんでそんなに驚いているんだろう?ボーカルを見るのなんて当たり前だろうに?

 

「なんだ?何かミスってたか?もしかして音外してたか?」

 

「いやいやそりゃないっすわ岩沢さん…」

 

なんで関根にまで呆れられなきゃいけないんだ…。

 

その後も柴崎とひさ子は言い合いを、あたしは関根に呆れられ続けた。

はぁ、地味にショックだ…。

 

「なんだかよくわからないけど、とりあえずあたしたちのことは気に入ってくれたみたいでよかったよ」

 

「ああ、お前たちの歌、すげえ好きだよ。昨日のも、今日のも」

 

「サンキュ。連れてきた甲斐があったよ」

 

やっぱり。コイツならあたしたちの歌を好きになる。そんな気がしてたんだ。

あ、そういえば…

 

「そうだ関根、ちょっとうやむやになってたけどアドリブひどすぎ」

 

「あ~、ホントだぜ。振り回されるこっちの身にもなれってんだよ」

 

「え~そんな~。練習の時くらい試してみたっていいじゃないっすか~。ね、みゆきち?」

 

「いや、ダメだよしおりん。しおりん本番でもやるじゃない」

 

やっぱり皆気にしてたんだな。

 

「がーん!うう~!あたしに合わせられないひさ子さんが悪いんじゃ~!!」

 

「んだと関根!待てこら!」

 

「しおりん、ちょっと待ってよ~」

 

うん、またか。こうなるのが分かってるのになんでいつも関根は懲りずにアドリブするんだ?

 

「お前は行かなくていいのか?」

 

「いつもの事だからね。ああいうのはひさ子に任せとけば大丈夫」

 

柴崎と話している時とはまた違った笑みがこぼれる。

 

「また…来てもいいか?」

 

「何を言ってるんだ?」

 

なんでコイツは分かりきってる質問をするんだ?

 

「いいに決まってるだろ。いつでも来な、最高の歌、聴かせてやるからさ」

 

「おう。楽しみにしてる」

 

コイツって、こういう顔、するんだな…。

柴崎の笑顔を見て、そんなことを考えていた。

 

 

 

ひさ子達が帰ってきてからもしばらく下らない話をしていた。

柴崎も違和感なく馴染めていて少しホッとした。

 

そうしているうちに辺りは暗くなっていた。

すると、柴崎がゆりがまた集まるように言っていたことを思い出した。

正直行きたくなかったが、皆に宥められとりあえず校長室に向かうことにした。

 

 

「神も仏も天使もなし」

 

「なんだそれ?何かの暗号か?」

 

今さらコイツは何を言ってるんだ…?

 

「?これは合い言葉だけど?これ言わないとトラップにかかるよ?」

 

「先に言っとけよ!」

 

…言ってなかったか。だからボロボロだったんだ、今日。

 

「…行こうか」

 

「スルーかよ!」

 

うん。ごめんね。

 

 

 

ドアを開けるとゆりが遅かったわねと出迎えてくれたから、忘れてたと本当の事を言うとため息をつかれた。まあいいんだけどね。

 

結局、集めた理由は柴崎に銃を渡す為だった。

これ皆を集める意味あるの?

 

ようやく説明やらが終わって解散になる。

扉を開けてからまだ部屋を出ていない柴崎を見つけて声をかける。

 

「柴崎、ちょっと付き合わない?」

 

「そりゃまあいいけど」

 

「じゃ、行こうか」

 

 

 

行き先は昨日会った屋上。

理由は昨日ここで柴崎と話してる時にいい詩が降りてきたから。

 

「で?なにするんだよ?」

 

「なにって、ギター弾くんだけど?」

 

ここに来たら当然でしょ?

 

「それって俺必要なのか?」

 

「客がいた方が気分が乗るだろ?」

 

他にもあわよくばまた詩が沸いてこないかとかあるにはあるけどね。

 

「丁度今歌作ってるし感想が欲しかったんだ。まだ一番しか出来てないけどね」

 

あはは、と完成してないことを笑いでごまかす。

 

「……まあ、別にいいけど。…お前の歌好きだしな」

 

なんでそんなに間を空けて話すんだ?

 

「そっか。なら聴いてくれ、名前はまだないけどな」

 

「猫みたいだな」

 

夏目漱石じゃないっての。

 

「これはあたしだよ。あたしの歌」

 

あたしの、人生の全てを込めた歌。あたし自身への――人生賛歌。

 

 

 

「どうだ…って、柴崎どうした?」

 

「えっ…」

 

夜中なのも忘れるほど全力で歌いきって話しかけようと目を向けると―――泣いていた。

 

―――――なんで?あたしの過去を知っているわけでもない。特別付き合いが長いわけでもない、どころか、まだ会って2日目。

――――――なのに、どうして?

 

「な、なんだよ柴崎…泣くことないだろ?」

 

何か喋ろうとしてるのはわかるけど、結局それは全て言葉にならなかった。

 

 

 

しばらくしてようやく涙も止まったようだ。

 

「落ち着いたか?」

 

本当に、なんで泣いたんだろう?あたしの生前を知らないと伝わらない歌詞なのに。

 

「ああ。…なんか、悪いな。恥ずかしい所見せて」

 

「気にするなよ。あたしの歌を聴いて泣いてくれたんだろ?ならそれほど歌手冥利に尽きることはないしな」

 

恥ずかしい奴だなんてこれっぽっちも思ってはいない。ただただ、不思議だっただけで。

 

「…おかしいよな。まだ会って2日しか経ってないのに、お前の歌聴いて、表情を見たらどうしようもなく哀しくなって泣くなんてな」

 

その後の消え入りそうな呟きは小さすぎて聞こえなかった。

 

あたしは、一体どんな表情で歌っていたんだ?そんなに、泣くほどに哀しそうに歌ってしまっていたのだろうか?

 

でも、コイツはそれを見て、歌を聴いて、涙を流してくれたんだな…。

そう思うと、泣きたくなるような、でもそれ以上に嬉しい気持ちが溢れてくる。

 

「…やっぱり、あんたを連れてきて正解だったかもな」

 

今、降りてきた。

 

「え?」

 

「帰ろうか。もう夜中だし。…それに、いいフレーズが浮かんできたよ」

 

それに、曲名もね。

 

「待てよ、俺も行くって」

 

後ろの慌てた声に、また笑みがこぼれる。

 

 

 

「ふぅ、本当、変な奴」

 

部屋に戻って、今までの事を思い返すと、やはりそう思う。

 

ただ、コイツのお陰で決まった。

 

「この歌の名前は、My song」

 

あんたのお陰で気づけた名前だよ?柴崎。




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