この場で報告させていただきます。
では本編をどうぞ。
「皆ぁ!!」
気を失ってるゆりを音無がおぶりながら、皆の待つ地上まで戻ると、俺達に気づいた大山が大きく手を振って出迎えてくれた。
大山の声でそのすぐ側にいる他の皆も俺達に気づいて手を振ってくる。
俺達もそれに応えて大きく手を振り返す。
ざっと見たところ犠牲者は出ていないようだ。
良かった…
「おい!何故ゆりっぺが気絶している?!」
皆の下に着くと早々に野田が絡んでくる。
「ちょっと色々あってな。疲れたみたいだ」
「色々ぉ?…そうか。おい音無、代われ。俺がおぶる」
「良いけど、変なことすんなよ?」
音無のまるで信用してない台詞に誰がするか!と律儀に噛みついてからゆりを背負う。
その表情は今までに見たことがないくらい、優しくて穏やかだった。
「柴崎くん!やったんだね!」
「おう。って言ってもゆりが全部終わらせたんだけどな」
あのNPCと会話をしていたのもほとんどゆりだし、誘惑に打ち勝って影を消滅させたのもゆりだ。
俺はただあの場所に居ただけにすぎない。
「そりゃなんせゆりっぺだからなぁ。ま、新人にしてはよくやった方だろ。てめえも、音無もよ」
「はは、そうかもな」
「岩沢も無事に守ってくれたみたいだしな」
「当然だ。柴崎は強いんだぞ」
ひさ子は俺に言っていたんだろうが、代わりに岩沢が胸を張ってそんなことを言う。
だから俺は何もしてないってのに。
「とにかくまずはゆりを保健室に連れていこう。寝かしといてやらないとな」
「そーだな」
皆が戦いを終えて和みムードに入ってしまっているところを音無が声をかけて仕切る。
そりゃそうだと思い会話を切り上げて保健室のある校舎に向かおうとした時。
「…っ」
視線を感じた。
この感じはアイツしかいない。
「どうした柴崎?」
さあ行こうという時に急に動きを止めた俺を不審に思ったようで、藤巻が訝しそうに訊いてくる。
「いや、何でもない。ちょっと先に行っててくれないか?」
「良いけど…どーしたんだよ?」
「野暮用があるんだ」
「あっそ。まあ好きにしろよ」
こんな時に野暮用が出来るなんておかしいだろうけど、藤巻は何も訊かないでくれた。
その厚意に感謝しつつ、視線の方に向かおうとすると、袖を引っ張られる。
「あたしも行く」
引っ張っている主は岩沢だった。
こちらの目を真っ直ぐにある種睨み付けるくらいの勢いで見つめてくる。
「さっき言ってた千里とかいう奴だろ?あたしも行く」
「なんで?」
「柴崎が行くから」
即答されるも、答えとしてはあまりにも不充分だった。
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、今回はダメだ」
「なんで!?」
「二人で話したいんだよ。アイツとは」
「…なんで?」
「ずっとそうして来たからな。最後もそうしたいんだよ」
本当は一度岩沢たちがいる時に話しているけど、覚えていないからノーカンだ。
「心配すんなよ。別に危険なことするわけでもないし、すぐに追い付くから」
「でも…」
まだ何か不満があるのか、俯いて口ごもってしまう。
「今だけ我慢してくれ。そしたら、それから先はずっと一緒だ。な?」
俯いた顔を上げさせ、目を合わせる。
「…分かった。絶対、絶対すぐ戻ってこいよ」
「ああ。ほら、早く行かないともう皆先に行っちまってるぞ」
まだ何か言いたそうにしていたが、ぐるりと体を反転させて背中を押す。
そうしたら、少し後ろ髪を引かれているみたいだったが走って皆の下に向かっていった。
「さてと」
ふぅ、と息を吐いてさっき視線を感じた方に向かう。
その場所はグラウンドの脇にある小休憩場のような場所だった。
自販機やベンチが置いてある。
そこにいた。
見たことのないやつが。
「人違いか…」
「ああ待って待って。合ってるから。千里で合ってるよ柴崎さん」
さっきの視線は勘違いかと思って引き返そうとしたが呼び止められる。
そして一人でうーん、やっぱりさんは他人行儀すぎるかな?等と言っている。
「いや合ってるって言われても…」
俺の知ってる千里というやつはとにかく平凡な見た目で、あまりの平凡さのせいで顔すら薄ぼんやりとしか思い出せないようなやつのはずだ。
それが、今目の前にいるこの自称千里は、背が少し低く、童顔でいてその表情は大人びて少しちぐはぐな感じが印象的な美少年と言っても過言じゃない見た目をしている。
印象的、なんて言葉は千里とは真逆だ。
それが同一人物?
「あり得ないだろ」
「まあそうだよね。確かに急に見た目が変わったんじゃ分からないか」
いやそれに話し方も違うし…とツッコもうかと思った時に、ぶぃんという音がして、一瞬にして自称千里が千里に姿形を変えてしまった。
「…千里?」
「だからそう言ってるじゃん」
話し方はさっきの自称千里と同じ。
「マジかよ…」
「やっと納得してくれた?」
ようやく自称千里が千里だと認めてもらい気がすんだのか、またもぶぃんと音がなったかと思うとさっきの自称千里状態に戻った。
「どうなってんだそりゃ…?つか、どっちが本物なんだ…?」
「もちろん今の僕だよ。あんな記憶にも残らないくらい平凡なやついないでしょ?」
「そりゃ確かにそうだけどよ…」
いくら特徴がないと言ってもしっかりと思い出せないほど平凡なやつなんておかしいとは思っていた。
しかし、誰がそれだけで姿形を変えてるなんて思える。
「静かに暮らしたかったからね。気づかれにくいように姿を変えてたんだ」
「姿を変えるって…なんでそんなの出来るんだよ?」
「まあ原理はあの立華っていう子の能力と同じだよ」
「立華って、天使のことか?」
それはつまりハンドソニックとかディストーションと同じAngel Playerってので作った能力ってことか。
「なんでお前がそんなのを使えるんだ?」
「…勘違いしてるみたいだけどまあいっか」
勘違い、という言葉が何にたいしてなのか疑問に思ったが、千里の次の台詞でそんなのは綺麗さっぱり消し飛ばされる。
「とりあえず質問に答えると、彼女にAngel Playerを渡したのは僕だからだよ」
「はぁぁぁぁぁぁ?!」
「ていうか、そもそもAngel Playerを作ったのも僕」
「ちょっと待て!色々待て!!」
衝撃の事実が多すぎて頭の容量を遥かに越えてしまっている。
「ていうかさ、地下で話聞いてなかったの?多分色々話してくれたでしょ?」
「いや、聞いてたよ…お前があのNPCをプログラミングしたとか…お前が自分をNPCにしたとか…」
「そこまで聞いててなんで分かんないの?」
ケラケラも人をバカにしたように笑っている。ていうか絶対バカにしてる。
さらに、じゃあ頭の悪い子にも分かるように最初から説明していってあげるよ。などと言ってくる。
悪かったな頭悪くて…
「じゃあ説明を始めようか。
「あのAngel Playerがこの世界に干渉出来るソフトだっていうのはさすがに理解してるよね?…ん?バカにするな?あはは、ごめんごめん。一応確認しただけだよ
「まあそのソフトは一応僕が作ったものなんだ。…一応ってどういうこと?焦らないでよ。ゆっくり説明していくから
「まず僕が此処に来た時からあのNPCは存在していた。
「それについては初めは気にしていなかった。気持ち悪いと思ったくらいだったね。
「その気持ち悪いものに関わらないでいたら当然、自分と同じ人間がそれを見つけて話しかけてきた。
「何人かいたそういう人間の内の一人と僕は恋に落ちた。これも多分聞いたよね?
「じゃあここの話は一気に省こう。色々あって彼女は消えた。そして僕の心は壊れていった。
「でも僕は完全に壊れる前にふらふらとコンピューター室で地下への入口を見つけた。
「特に何か考えがあって入ったわけじゃない。本当にふらふら漂っている一貫でその地下に入っていった。
「そしてあの第2コンピューター室を見つけた。そこに入ってみると中はコンピューターでいっぱいで、その部屋の中央に、あるマニュアルが置いてあった。
「そう、Angel Playerの作成についてのマニュアルだ。僕は何故か分からないけどそのマニュアルに目を通していた。
「そのマニュアルにはこれを完成させれば世界に干渉出来ると書いていた。色んな例も載ってたね。NPCを作り出せるとか
「まあそれはいいか。とにかくそのマニュアルを見た僕は考えた。これを使えば僕はもう苦しい思いをしなくて済むんじゃないかと。
「例には自分に特殊な能力をつけることが出来るとも書いていたからね。自分をいじれるのなら色々とやれることがあるからね。
「そしてそのために一心不乱に僕はそれを完成させた。
「それで自分をNPCにしたのかって?ちょっと違うかな。僕は苦しい思いをしたくないだけで彼女を忘れたいわけじゃない。
「つまり感情だけを自分の中から取り除いた。
「そんなことが出来るかって?戦線にも似た人がいるでしょ?まあ不完全な上僕と違って記憶を消したみたいだけど。
「遊佐…そうそう、そんな名前だったね。ああ、なんか的外れな同情してるみたいだから言っておくけど、それは彼女が望んだことだよ。
「まあそれは今は置いておこうよ。とにかく僕はそれで感情を消して、あのNPCに影の管理を任せて学校に紛れた。わざわざ他人から認識されにくくなる能力までつけてね。
「全てはひっそりと彼女が来るのを待つために。
「なのにある日変な人に話しかけられちゃったんだよ。
「変って言うな?あはは、これくらいご愛敬で許してよ。
「ああ、認識しにくくなっていたのになんで僕を見つけられたかって?そりゃあ自分の眼の力を思い出してよ。その尋常じゃない視力の前では認識をしにくくするくらいじゃ無駄だったんだろうね。
「じゃあ透明人間になれば良かったじゃないかって?よく考えてよ。透明人間って他人から見えないから意外と生活するのは大変なんだよ。見えないからぶつかるし食堂でも気づいてもらえないからご飯をもらえないしね。
「話を戻すよ。しかもその人はこの世界で一番ひっそりだとか穏やかだとかとは縁遠い集団の制服を着てた。これは平穏に暮らしていたい僕にとって問題だ。
「お前もこっちの制服を着てたじゃないか、ねぇ。しょうがないじゃん僕学ラン嫌いだもん。理由なんてそんなもんだよ。
「さぁ、まあここから先はご存知の通りだよ。特に説明することもない。質問が他にないなら、話はこれで終わりだよ。
千里の長い一人語りを聴き終わり、まず覚えた疑問。
「なんでお前は俺を助けるようなことをしてくれたんだ?静かに暮らしたくて、騒がしい俺達とは関わりたくないのに」
「見つけられちゃったからねぇ。せっかくだから暇潰しになるかと思って」
確かにそれもあるんだろう。
見つけられて、関わってしまって、ならついでに遊んでみるか。
そんなことを考えたのもあるんだと思う。
けど、そんな答えじゃ納得出来なかった。
「思えば初めは岩沢が消えそうだって言ってくれたことからお前の助言は始まってた。あれは岩沢が消えないようにするチャンスを俺にくれたんだろ?」
「さぁ、なんとでも受け取ってもらってもいいけど?」
「それに、おかしいよな。愛が生まれたら影が出てくる。それなら俺と岩沢が…違うな。もっと前、入江と大山が付き合った時に出てくるはずだ。なのになんで影は出てこなかった?…お前が何かしてくれたんじゃないのか?」
ほんの一瞬、間が空いた。
「なんでだろうね?」
そして千里はそう口にした。
やっぱり今回もはぐらかして、煙に巻くつもりなのかと思った。
けど違った。
「まあ大体合ってるよ。君達二人が一緒にいられる可能性を残したのも、Angel Playerをいじって君の周りの愛が芽生えそうな人達に対して影の出現を止めたのも。まあ、結局他の人に愛が生まれたせいで影は出たけどね」
「やっぱりそうなのか。でも、なんでそんなことを?此処は卒業しなきゃいけない場所で、永遠の楽園にしちゃダメだって考えたのはお前なんだろ?」
また少し間が空く。
そしてポツリと分からないんだよ。と呟いた。
「ちゃんと考えていれば絶対そんなことはしない。でも勝手に体が動いたんだよね」
なんでかなぁ。ともう一度今度は独り言のように空を見て呟く。
「なあお前ってさ、いつから俺が岩沢のこと好きだって気づいてた?」
「え?その質問何か関係あるの?」
いきなり話を変えた俺を訝しそうに見てくる。
正直まだ関係あるのかははっきりとは分からないけど、とりあえず、あるよ。と言っておく。
「いつって、まあそれはすぐに気づいたよ。何かと岩沢さんの話はしてたし、分かりやすかったから」
それを聞いて、やっぱりと思う。
「お前、無意識に重ねてたんじゃないか?俺達とお前たちのことを」
千里がどんな風に彼女と出逢って、そして別れたのかは全く知らない。
もしかしたら重ねることなんて出来ないくらい何もかもが違っているかもしれない。
けど、それくらいしか思い付かなかった。
「だとしたらお前は優しいな」
「…本当にそう思う?」
「何が?」
「なんでそうしたのか僕にも分からない。だから百歩譲って僕が君達に自分のことを重ねたとしよう。じゃあ考えてみなよ、僕は自分と同じことになるのを見たいがために君達をわざと泳がしたとも取れるんじゃない?」
「……………………………」
千里の言い分も一理ある。
確かに、あのNPCに影の出現の理由を聞いた時にそれを優しい行為だと思った。
自分と同じことが起きないよう、それを未然に防ぐためにそうしたんだと思った。少しやり方が極端だったけど。
だからそれを俺達に対して解除するということは同じことを起こそうとしたという風にも取れる。
「けど、それはないな」
「…なんで?」
「勘」
思いっきり呆れた目で見られる。
さらにはぁ、とため息をつかれる。
「話にならないね」
「んじゃあこういうのはどうだ?同じ目に遭わせるだけなら影にどちらかが呑み込まれるだけで済む。なのにわざわざ解除した。それは二人が居られる可能性に賭けたから」
「感情のない僕に人の可能性に賭けるとかそんなロマンティックなこと出来ると思うのかい?」
「それを言うなら感情が無いのに悪意を持って同じ目に遭わせようなんて考えるか?」
しばし千里が沈黙する。
いつも言い負かされてた千里を黙らせて少し優越感に浸る。
「思うんだけどよ、お前って本当に感情を消したのか?」
「何を今さら」
そのまま馬鹿馬鹿しいとでも続けそうな口調だった。
やっぱりとても感情を捨てたようには見えない。
「無意識に動いたのは消したと思ってた感情が、なんつーか心の奥の方から出てきちまったからじゃねえのか?」
「…ふぅ、まあいいよ。僕にも真相は分からないんだ。好きに思っとけば?」
拗ねたようにそっぽを向いてしまう。
やっぱり、本当に消すことは出来てないんじゃないかと思う。
遊佐だってそうだ。
記憶を消したと千里は言っていた。けど、遊佐は丸々全部忘れてはいなかった。
それを千里は不完全だったからだと言っていたが、そうじゃないんじゃないかと思う。
記憶だとか、感情だとか、そういう大事なものは本当の意味で全部は消すことが出来ない。
Angel Playerにもそういう限度みたいなものがあったんじゃないか。
千里が言うんだから不完全は不完全なのかもしれない。
けど、それは記憶が消しきれてないから不完全という意味じゃなかったんじゃないかと思う。
遊佐は怒ろうとしても怒鳴ることが出来ていなかった。笑顔も、満面の笑みを浮かべることはなかった。精々微笑むくらいで。
つまり、記憶と一緒に感情を少しなくしてしまったことを不完全と称したんじゃないか。
これは全部根拠もない憶測だ。もしかしたらかすりもしていないかもしれない。
けど、何故かそう思った。
確認はしない。
多分訊いてもさっきと同じ答えが返ってくるだろうから。
「ああそうだ。あの影に呑まれたメガネの人のことだけど」
「高松か?」
「多分そう。彼は今ごろ影から解放されて人間に戻っていると思うよ。きっとどこかの教室で寝ている」
「本当か?!」
「嘘ついてどうするのさこんなこと」
それもそうか、と納得する。
高松を連れて帰ったら皆驚くだろうな。
「さぁ、そろそろお別れの時間かな」
「え、なんで?」
唐突にそう切り出され思わず聞き返してしまう。
「ずっと話しておくつもりだったの?それもいいけど、待たせてる人がいるんじゃないの?そろそろ切り上げないと可哀想だよ?」
言って、校舎に埋め込まれている時計を指差す。
確かに岩沢にすぐ戻ると言っていたのにかなり時間が経ってしまっている。
「…影を出現させるのを遅らせていた僕が言うのも少しおかしいと思うけど、1ついいかな?」
「なんだよ?」
そろそろお別れだと言っていたのに自分から話題を振ってきたこともそうだが、やけに神妙な表情をしていることがすごく気になった。
「もうこの世界からは卒業した方がいい。二人一緒に。いいや、皆で」
「それは…なんで?」
本当は訊かなくても理由なんて分かりきっていた。
けど、訊かずにはいられなかった。
「此処に残っていたら、必ずいつかどちらかが消える。そしたら残された方はきっと、僕と同じことになってしまう。それはやめた方がいい」
やはり、予想通りの言葉だった。
でも納得出来ない。したくない。
だから無駄な抵抗をする。
「けどさ、付き合っていても俺も岩沢も、他の皆も消えてないぜ?」
「最初は皆そうなんだよ。僕らもそうだった。付き合うことになってもまだ全然それらしいことをしていないから消えない。けどね、ずっと一緒に居ると、いつかふと満足しちゃうんだ。そしてなんの脈絡もなく消える」
「…………………」
黙ることしか出来なくなるほど重い言葉だ。
「それは辛いよ?後を追うことは到底出来ない。だって相手は満足したから消えたけど、自分は満足していないから消えられない。そしてその不完全燃焼のまま残されるんだからね」
「だから…卒業するのか?」
「そう。此処に残ってしまえば逢える可能性はほぼ潰える。だから来世を信じて二人で卒業することを僕はオススメする」
来世…そんなものあるのか?
あったとしても人間になれるのか?もしそれ以外になってしまったら…
そんな俺の悩みはお見通しだったようだ。
「安心して。生まれ変わったら人間になれるよ」
「なんで言い切れるんだよ?」
「此処は人間の死後の世界だから」
まるで他の生き物の死後の世界もあるみたいな言い方だ。
「もし人間以外に生まれ変わるんだったら、この世界の意味はないと僕は思う」
「なんで?」
「もしそうなるんならこの世界で未練を晴らしたりする意味がないんだよ。また人間に生まれ変わるから、もう一度人生を生きたいと思えるようになってからじゃないとダメなんだ」
言い返せなかった。
多分長い時間一人でいる間考えていたんだろう。
この世界の意味。
彼女が消えた意味。
そんなあれこれを。
「…わかったよ」
「…そっか。じゃあ本当にお別れだ」
そう言って千里は踵を返す。
「あんまり心配しなくていいよ。上手くやっておくから」
「何をだよ?」
「それは秘密」
「なんだよそりゃ」
言いながら、1歩2歩とドンドン離れていく。
しかし急にその足を止めて振り返る。
まだ言い忘れていたことがあったのだろうか?
「バイバイ、蒼」
それはどんな意味を込めて言ったのか、俺には見当もつかない。
けど、分からないなりに返さなきゃいけない言葉を絞り出す。
再度俺に背を向ける千里に俺は言う。
「ああ、またな…悠」
千里は振り返らなかった。
「おー、やっと帰ってきたか柴崎…ってうぉぉぉぉ?!た、高松ぅ?!」
千里と別れ、言われた通りに教室をいくつか巡っていくと、まるで授業中に寝てしまったかのように見える体勢で気を失っている高松を見つけた。
そして動かない高松を肩で担いで皆が向かった保健室に行ったのだが、誰もおらず(かなり長い時間話していたから当然か)それならと校長室に行ってみると、やはりそこに皆が居た。
そして予想通りに驚かれる。
「気を失っているけど、多分元に戻ってる」
「いやいやなんで分かるんだよ!?」
「あー、影を操ってるコンピューターも全部壊したし、NPCは全員消えてたけど高松は残ってたからな」
適当に理由をでっち上げると皆あー、確かにな。と納得してくれる。
まさかそんな影を作ったやつがそう言っていたからとは言えないからな。
「驚いたけどちょうど良かった。今大事な話をしていた途中だったんだ」
「大事な話?」
「ああ、皆は今後どうするのか訊いてたら、大半は此処から消えるらしくてな。そしたら奏が卒業式をしたことがないからじゃあやろうかって」
「ん?天使だからそりゃ卒業式なんてしたことないだろ?なのにわざわざやるのか?」
「ああそのことなんだけど奏は天使じゃなくてただの人間なんだ」
「…えぇぇぇぇぇぇぇ?!」
俺の驚く様を見て他の皆はそりゃ驚くよなぁ、と頷いていた。
…もしかして千里が最初に言ってた勘違いってのはこれのことか?!
言っとけよ!!
「あー、まあ人間だってならそれはそれで納得だ。で、大半に入ってないやつらは?」
「まだ訊けていないゆりとまだ決めていないっていうやつらだよ。柴崎はどうするんだ?」
どうするか、か…
千里は卒業した方が良いと言っていた。あれは正真正銘の本音で、本当に俺たちのことを思っての言葉だった。
「そうだな。俺も此処から卒業しようかな」
「そっか。じゃあ岩沢も参加でいいか?」
なんだ、まだ岩沢は決めてない方グループだったのか。
俺がどうするか聞いてから決めるつもりだったのかな。
「………ああ」
やけに間を置いてから返事をした。
どうかしたのかだろうか?
「よし、じゃあまだ決めていないやつらはゆりが目を覚ますまでにどうするか決めておいてくれ。卒業式に出るやつらは明日から準備を手伝ってくれ。高松は俺と日向で保健室に運んでおく。それじゃあ解散!」
作者はご都合主義な展開が好きです。
正直この話を投稿するのは少し勇気がいりましたが、なんとか投稿出来ました。
それでは、感想、評価などお待ちしております。
…出来れば批評はお手柔らかにお願いします。