Angel beats! 蒼紅の決意   作:零っち

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また長くなってしまいました…
あと数話、お付き合いください。


「理不尽っ!?」

今日はいつものように遊佐に起こされることはなかった。

 

遊佐には遊佐のやるべきことがあるから、今日はさすがに起こしにくることはなかったようだ。

 

そして身仕度を終えていつもは俺を寮の前で待ってくれる岩沢を女子寮まで迎えにいく。

 

俺を待っている間に影に襲われでもしたら事だからだ。

 

そして岩沢と合流し、空き教室に向かう。

 

俺たちが着いた時にはもう皆集まっていた。

 

と言っても日向、ユイ、直井、関根は音無と既に合流していて居ないのだが。

 

「皆ちゃんと眠れたか?」

 

そう訊くと皆一様に頷いたり返事をくれたりと答えてくれた。

 

体調はバッチリのようだ。

 

「じゃあ装備の確認だ。まず男子、全員ハンドガンは持ってるな?」

 

確認すると、皆返事の代わりに懐から銃を取り出して見せる。

 

「次にガルデモたち。これは女性用の拳銃だ。護身用に一応持っておけ」

 

そう言って、昨日遊佐から貰っていた拳銃を渡していく。

 

関根とユイにも既に渡してある。

 

「撃ち方は分かるな?」

 

「一応、最初に教わってはいるよ」

 

「そうか。不安なら後で訊いてくれよ」

 

ガルデモたちはその言葉に首肯で答えてくる。

 

その後、弾薬やらなんやらもろもろの確認を済ます。

 

「よし。揃ってるな。次に配置だな。とりあえず音無たちに合流する。俺と岩沢、藤巻とひさ子は音無たちと一緒に行動。大山は校舎に上がってライフルで狙撃。入江が大山の背後を警戒。これでいいな?」

 

これにも皆首肯で答える。

 

「ていうか、本当に狙撃で良いのか大山?いくら入江が背後を見てくれるって言っても、やっぱり危険だと思うぞ」

 

もちろんだからといって普通に地上で戦うのが安全なわけではないが、やはり狙撃をするような場所だと影に虚をつかれた時に逃げ場が少ない。

 

なのに大山は自分は狙撃に回ると言った。

 

「うん。僕も柴崎くんみたいにライフルだけじゃなくて普通の戦闘も得意ならそうしたんだけど…僕弱いからね。これくらいしか出来ないと思うんだ」

 

確かに大山の拳銃などを使った戦闘はお世辞にも上手いとは言えないものだった。

 

けど、やはりこの状況で狙撃は…

 

「大丈夫です!私が大山さんの目になりますから!」

 

「入江さん…そうだよ柴崎くん。僕たちは大丈夫だから」

 

どうにも決心が固いようだ。

 

はぁ、と1度ため息を吐く。

 

「分かった。でも、こまめに移動するのは忘れるなよ」

 

「任せてよ。僕もこれでも長い間戦線に居たんだから」

 

「そうだな」

 

よく考えれば俺なんかよりもよっぽど経験値があるんだ。

 

心配する方がおこがましかったか。

 

「そういえば他の皆はどうしたのかな?」

 

急に思い付いたかのように話題を変える大山。

 

「さあな。でもまあ危険だからっつって消えるようなタマじゃねえだろ。アイツらは」

 

大山の問いに面倒くさそうにしながらもきっちり答えている藤巻。

 

「だな。多分皆俺たちと同じこと考えてるよ」

 

そしてそれについては俺も同意だ。

 

アイツらもきっとやってくる。

 

そして戦うんだ。この最後の争いを。

 

「じゃあ行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして俺たちは教室を出て、現在遊佐のナビゲートで音無の下に向かっている。

 

遊佐の情報によるとどうも只今絶賛影に追い回されている途中らしく、早く合流しないといけない。

 

「そういえばゆりっぺはどうしてるのかな?」

 

駆け足で向かっている最中唐突に大山がそう言った。

 

「いやだからさっき言っただろーが。そんな消えるようなタマかって」

 

「そうじゃなくてさ、ゆりっぺは消えるつもりがないのは分かってるけど、なら消えずに何してるのかなって」

 

確かに、ゆりは誰かが自分の意見についてくることを嫌ってあえて何も言わなかった。

 

ゆりのことだ、消えることはまずない。

 

だが同時にアイツのことだし、おそらく俺たちみたいに考えなひに真正面から衝突していくつもりもないだろう。

 

「そ、そう言われりゃそうだな…」

 

そうこうしてる内に俺の視界に音無たちが映った。かなりの数の影にも囲まれている。

 

「おい、話してる最中で悪いがもう音無たちはすぐそこだ!大山はあそこの校舎に上がれ!」

 

「分かったよ!」

 

こうして最後の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音無たちの下に俺たちが着くよりも先に野田が早く加勢に現れた。

 

「野田もいる!」

 

「へっ、アイツ今回は真っ先にやられたりしねえだろうな!?」

 

「なりそうだな」

 

そう厳しいことを言ってやらんでください岩沢さん。

 

そして俺たちが着く頃にはさらに大山も狙撃を始めていた。

 

「俺も負けてらんねぇ!行くぜひさ子!」

 

「あいよ!」

 

それに感化されたのか息巻いて藤巻が飛び出し、それにひさ子も付いていく。

 

「おらぁ!」

 

バッサリと影を切り払いさらにそれに鉛弾までお見舞いして霧消させる。

 

「俺たちも行こう!」

 

「ああ!派手にやろうぜ!」

 

これはライブじゃねえよと思いながら岩沢の手を取って、さらに駆け出す。

 

「待たせたな!」

 

音無たちの下に行くのに邪魔な影どもに発砲する。

 

2、3発喰らわせるごとに消えていく。

 

「待ちくたびれたぜ柴崎!」

 

「そーだ遅えぞぼげぇぇぇぇぇぇ!」

 

「こんな時まで仲良く手を繋いでるとは…やれやれ、あたしたちも繋ごうか直井くん!」

 

「うるさい!そんなことしてたら戦いにくいだろうが!」

 

先に戦っていた日向たちが好き勝手に喋っている。

 

恐ろしいほどにいつも通りだ。

 

それが少し嬉しくて笑みが洩れる。

 

「お前も残ったんだな」

 

「ああ。分かってたことだろ?」

 

「そりゃ違いないな。なら頼む、力を貸してくれ」

 

「言われるまでもなくそのつもりだよ!皆な!」

 

そう言った直後にどこからかFoooooo!!という奇声が聴こえてきた。

 

変則的な動きで影を次々と消していくそいつは

 

「TK!」

 

「That's a wild heaven」

 

何を意図しての発言かは相変わらず分からないが、不思議と安心感がある。

 

「ぬおぉぉりやあぁぁ!」

 

「うお?!」

 

TKの方に気を取られていると、すぐそばに影が落ちてきた。

 

ぐしゃりと地面に叩きつけられて消滅する。

 

「な、なんだ?」

 

「一体この世界で何が起きているのだ?」

 

そこに居たのはすらりとした体型の美丈夫と言ってもいい雰囲気の男だった。

 

「いやお前になにがあった」

 

藤巻が即座にその美丈夫(仮)にツッコむ。

 

「え、藤巻知り合いなのか?」

 

「あん?何言ってやがんだ?五段だよ。松下五段」

 

「しばらくだな」

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」」

 

音無も驚いたようで、叫び声がシンクロする。

 

「あ、良いハーモニーだな今の」

 

「ごめん今それにツッコんでいられない!」

 

松下五段?松下五段ってあの肉うどんが好物で戦線一恰幅の良いあの松下五段?!

 

「なんでこんなに痩せちまってるのに分かったんだよ!?」

 

「最初に此処に来たときはこんな感じだったからなぁ」

 

日向にあっさりと言われてしまうが、1つ疑問に思う。

 

「この世界って太ったりするのか?!」

 

ケガもすぐに治るような世界なのにそんなことはあり得るのか?

 

「この世界ではプラスに働く身体的変化は起きるのだ。だから筋肉も付くし体力も付く」

 

「太ることはマイナスにはならないのか…?」

 

「太るって言ったらマイナスに聞こえるけど、ようは増えるイコールプラスみたいな法則があんだろ。多分な」

 

「そう言われればそうのか…?」

 

無理矢理理屈付ければ納得出来なくもない。

 

しかしこんな最終決戦のような時にきて新たな発見があるとは…この世界の謎ってのはやはり深いな…

 

「おい!それよりいつまでもここにいられねえだろ!進もうぜ!」

 

「あ、ああ!」

 

藤巻の言葉で困惑していた思考がとりあえず元に戻る。

 

「行くぞ!絶対に皆生き残ろう!」

 

音無の台詞に皆がそれぞれ、おうだとかイエイと返事をする。

 

「進むぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆で銃や斬撃、時には打撃で影たちを振り払いながら歩を進めていく。

 

とはいえ、目的地があるわけでもなく、ただただ影を消していく作業だ。

 

そうしていく内に、大きな橋にたどり着く。

 

「音無さんあれを見てください!」

 

「おいおい…」

 

直井が指差す方向を見るとそこには橋から地上に繋がる階段があった。

 

そしてその階段に大量の影が押し寄せて渋滞を引き起こしている。

 

「こんなのキリがねえぞ…」

 

「やっぱ影が出てくる元凶を叩かなきゃダメなんじゃねえか?」

 

「そりゃそれが出来れば一番だが、その元凶がどこか分からないとどうしようもねえぞ」

 

「だよなぁ…」

 

階段の方を覗きこみながら日向と会話を交わす。

 

どうする?と音無に目配せを送ったその時、音無の背後に比喩ではなく、影が忍び寄っていた。

 

「音無!後ろだ!」

 

「え?」

 

俺が声を張り上げて音無が振り向いた時に、ブォッと凄まじい風が吹いた。

 

その風の正体は椎名の攻撃によるものだった。

 

「百人だ」

 

「なにが?」

 

「百人戦力が増えたと思え。お前の意志は引き継ぐ。行け!」

 

どこに、と問うこともせずに駆け出す音無。

 

「日向!柴崎!付いてこい!!」

 

「お、おおう!行くぞユイ!」

 

「了解でっす!」

 

「俺たちも行こう!」

 

「OK!」

 

音無の呼び掛けに答え俺たちも後に続く。

 

「ちょっと待って下さいよぅ!僕たちも行きますからぁ!」

 

「わ、わわわ!ちょっと置いてかないでよ!」

 

そしてその後ろから直井たちも追ってきているようだ。

 

「っつっても、どこにいく気だ?!」

 

後ろに付きながら音無に問いかける日向。

 

「分からないけど、とにかく元を叩くしかない!」

 

「だからその元ってどこだよ!?」

 

「それを今から探す!」

 

そんな無茶な…と日向が言いかけたところで上空から何かが降ってきた。

 

影かと思い銃を向ける。

 

「結弦」

 

「奏!」

 

しかしそれは天使だった。

 

「お前は影の殲滅に行ってたんじゃ?」

 

「あの娘の感情が爆発してる」

 

「あの娘?爆発?」

 

言葉足らずな天使の発言に音無も困っている。

 

「ゆりのことか?」

 

と、困り果てていたとこで岩沢が俺の後ろからひょいと顔を出して訊くと、コクリと頷く。

 

いやよく分かったな岩沢…

 

「ゆりの感情が爆発って、何が起こってるんだ!?」

 

「多分影に呑まれかけてる」

 

「なら助けないと!どこにゆりは居るんだ?!」

 

「下」

 

と、指を地面に向けて差す。

 

「下って…おいおいまさかギルドか?」

 

日向がうんざりとした調子で呟く。

 

「ていうか、こんな影がいつ出てくるか分かんねえ状況でどうやってあの体育館の入口から入ろうとしたんだよ?」

 

確かにそうだ。なにか根拠が無ければ入口を出すために重労働をしなきゃいけないギルドになんか行くわけがない。

 

そんな根拠をあの状況でどうやって見つけた?

 

『それなら少し聞いています』

 

「遊佐?!」

 

俺たちの会話が流れていたようで唐突に会話に入ってくる。

 

「訊いてるって何を?」

 

とりあえず無線機を持つ俺が代表して質問する。

 

『ゆりっぺさんから元凶について少し聞いています』

 

「本当か?!」

 

『はい。コンピューター室が怪しいと』

 

「コンピューター室?それがなんでギルドに?」

 

というか、ギルドにコンピューター室…この二つはどこかで聞いたことがあるような気がする…

 

『詳しい事情は分かりません。が、コンピューター室が怪しい、そしてそのコンピューター室に行ってから通信は繋がらなくなりました』

 

なんとか記憶を探りだそうとしたが、その間にも遊佐の情報が伝え終えられていた。

 

とにかくこれは後回しにしておこう。

 

「サンキュ遊佐」

 

『いえ。仕事なので』

 

そしてブツリと無線が途切れる。

 

「まずはコンピューター室に急ごう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか」

 

コンピューター室というのは図書室内にあったようだ。

 

「ここになにかあるはずだ」

 

そう言って即座になにか痕跡が無いか探し出す。

 

「なんか変な穴があったよ!」

 

そしてそれはすぐに見つかった。

 

俺と反対側を探していた関根が皆に知らせるため大声で叫んでいた。

 

すぐさまそこに全員が集まる。

 

そこには床のタイルがいくつか剥がされ、そしてそこに大きな穴が空いていた。

 

「なんだこりゃあ?こんな穴があったのかよ?」

 

創設メンバーであるらしい日向でもこんなものは知らなかったらしい。

 

「今は考えてる暇はない。ここからギルドに向かおう!」

 

そう言って率先して穴に潜っていく音無。

 

それに続いて天使も入っていき、そこから全員順番に入っていく。

 

俺と岩沢は最後に入っていく。

 

俺が先に降りて岩沢の補助をして無事に降り終わった時に声をかけられる。

 

「全員降りたか?」

 

「ああ、俺たちで最後だ」

 

簡潔に答えると、音無は頷いてからすぐに前進し始めた。

 

天使を先頭に置いて男達で円形になり岩沢、ユイ、関根をその円の中に配置して守る陣形をとる。

 

天使の力で進行方向の影は軒並み蹴散らし、周りからうじゃうじゃと湧いてくるやつらを俺たちで消していく。

 

この陣形のおかげでさして苦もなく進んでいく。

 

「近いわ」

 

天使がそう呟いた。

 

「この近くってことはゆりっぺはオールドギルドにいるんじゃねえか?」

 

「ああ。その可能性が高いな。急ごう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピッチを上げて進んでいき、ようやくオールドギルドに到着する。

 

「あそこ」

 

オールドギルドに入るとほぼ同時に天使が指を差す。

 

その方向に目をやると、黒い霧のようなものに全身を包まれているゆりがいた。

 

「ゆり!」

 

「ゆりっぺ!」

 

音無と日向が真っ先に駆け寄る。

 

数瞬遅れて俺たちも駆け出す。

 

「おいゆりっぺ!しっかりしろ!」

 

全身が黒に包まれているゆりの肩を掴んでガクガクと揺さぶる日向。

 

「くそっ!反応しねえ!」

 

「奏!どうにか出来ないのか?!」

 

「分からない…」

 

ずっと此処にいる天使でも分からない存在。

 

じゃあどうしたらいいんだよこんなの…!

 

「嫌だぜ…俺は!ゆりっぺとはずっと一緒に過ごしてきたんだ!それこそ家族みたいに!」

 

「先輩…」

 

「目ぇ開けろよ!そんなわけわかんねえやつに負けんな!ゆりっぺ!!」

 

一心不乱にゆりの身体を揺らし続ける。

 

すると、ゆりから、う…とうめき声が上げられた。

 

さすがに身体に負担がかかりすぎたのかと思い、止めさせようとする。

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

すると突然大声で叫び出す。

 

そして日向の手を弾くほど暴れだす。

 

「どうなってんだ!?」

 

「爆発が大きくなってる…」

 

「どういうことだ?!マズイ状態なのか!?」

 

ぼそりと呟いた天使の言葉に反応して問う。

 

天使は首を横に振った。

 

「助けるなら今。なにか呼び掛けて連れ戻せるかも」

 

「ゆりっぺ!」

 

「ゆり!手を伸ばせ!!」

 

音無が必死に手を伸ばす。

 

そして、ゆりはそれを取った。

 

それと同時にゆりを蝕んでいた影が弾け飛んでいく。

 

そして思わずぎょっとする。

 

「…音無くんに、日向くん?…それに天使まで」

 

うっすらと目を開けたゆりは、ぼんやりとした様子でそう言った。

 

うん…目覚めたのは良いんだけど、これは…

 

と思った瞬間足の親指を踏み抜かれる。

 

「いっでぇぇぇぇ?!」

 

「ジロジロ見るな!」

 

「ジロジロなんて見てねえって…」

 

嘘つけ、と言ってそっぽを向いてしまう岩沢。

 

親指を押さえながら周りを見てみるとどうやら音無以外の男は全員俺と似たような目にあっているようだ。

 

日向は後頭部に蹴りを入れられ、直井は顔を引っ掻かれてる。

 

「な、なに?どうしたの?」

 

突然の仲間割れに混乱して訊ねてくるゆり。

 

「服がはだけてる。早く直した方がいいわ」

 

「そしてそれを見てた彼氏陣が焼きもちという名の暴力にあってる」

 

「ち、ちょっと待ってください音無さん!?僕は別に彼氏では…?!」

 

「直井くんのバカァー!!」

 

「ぐへうっ!」

 

それに答えた天使と音無にわざわざ反論してさらに傷を負ってしまった直井。

 

「へ?う、うわわわわわわわ!??」

 

そしてようやく自分があられもない姿になっていることに気づいたゆりは目にも止まらぬ速さで服装を整える。

 

そしてこれまたかなりの速度で立ち上がる。

 

「さあ、急ぐわよ!」

 

リーダーの尊厳のためか、顔を紅くしながら威張ってみせ、歩き出す。

 

皆その様子に苦笑しながら、了解と答えて付いていく。

 

リーダーの後ろを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し進んだ所で足を止めて、ゆりに何をしていたのか詳しく訊いてみることにした。

 

ゆりが言うには今回のこの影の出現にはコンピューターが大量に必要らしく、そのためにコンピューター室に行ったがそこには何もなく、代わりに地下への入り口があったらしい。

 

「じゃあここに元凶に関係してる何かがあるってことなんだな?」

 

「ええ。あたしの予想ではコンピューターが大量に置いてあるそれこそコンピューター室のような場所があるはずよ」

 

その言葉を聞いて、またも頭に何かがよぎる。

 

コンピューター室…ギルド…

 

どこかでそんなことを聞いた…いつだ?そして誰に?

 

『第2コンピューター室とか―――』

 

そうだ…第2コンピューター室。そんなことを誰かが言っていた。誰だったっけ…

 

その時はギルドについて話してたはずだ…ならギルド降下作戦の日に話していたはず…ならそれは作戦が終わった後…

 

ギルド降下作戦が終わった後は確か、遊佐に謝って、食堂で飯を…

 

そうだ…飯を千里と食べたんだ。

 

その時に言っていたんだ。

 

『第2コンピューター室とか書いてある小さな建物がありました』

 

「第2コンピューター室…」

 

「は?なに?」

 

「第2コンピューター室ってのがあるって聞いた」

 

「え?!誰に!?」

 

「言っても分からない奴だよ。とにかくそれを探そう」

 

そっけなく答えた俺に、え、ええ。と戸惑いながら同意して止めていた足を再度動かし出す。

 

千里…お前は何者なんだよ…

 

「柴崎、どうかした?顔が怖いぞ」

 

そっけない態度を取った俺をおかしく思ったようで、岩沢が隊列を崩して近寄ってくる。

 

「顔が怖いのはいつもだろ」

 

「柴崎は目付きが悪いだけだよ。それにあたしはそういう所も好き…だし」

 

やだ何この生き物可愛い。

 

「って、何言わせるんだ!」

 

「理不尽っ!?」

 

和んでいた俺の土手っ腹に深々と拳がめり込まれる。

 

ていうか、進まなきゃいけない時にこれはキツい…!

 

岩沢もそれに気づいたようで、あわあわと慌ててから俺に肩を貸して身体を支える。

 

「はぐらかすな。ずっと見てるんだからおかしいのは分かる。何かあったんだろ?」

 

いつも岩沢には見抜かれてる気がするな。

 

けど、それをすごく嬉しく思う。

 

それが此処で過ごした時間の証明のような気がして。

 

「実は今回のこの影…犯人は知り合いかもしれないんだ」

 

「知り合い?誰?」

 

「だから、言っても皆分からない奴なんだ。…ちょっと不思議な奴でな、俺以外の奴と会いたがらないんだ」

 

少し嘘をついてしまったが、仕方がない。

 

岩沢や関根は1度会っているが、そのすぐ後に記憶から千里のことが消えていた。

 

なら言ってもしょうがないし、ここはそれっぽいことを言っておくべきだろう。

 

それを聞いて岩沢は少し間を置いてふーん、そっか。と言った。

 

これはバレてるなぁ…

 

「そうなのか…じゃああたしは柴崎の力になれないのか?」

 

しかし岩沢はそれ以上追及はしないでくれた。

 

きっと嘘をつく理由があると分かってくれたんだと思う。

 

それがまた嬉しい。

 

「もう十分力になってくれてるよ。すっげぇ気が楽になった」

 

「?よく分かんないけど、また何かあったら今度は言ってくれよな」

 

「了解。それよりもう肩はいいから、元の位置に戻れ。危ないから」

 

分かったよ。と言ってスタスタと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あそこ怪しいな。まるで何か守ってるみたいだ」

 

「奇遇ね。あたしもそう思ったところよ」

 

捜索を進めていく内にやけに影が固まっている場所を見つける。

 

その量は膨大で影が影がを押し合い、溢れかえるほどだ。

 

確かにこれには何か意図を感じざるを得ない。

 

「でもあんなの突破するには絨毯爆撃くらいしねえと…」

 

「じゃあいくわ」

 

どうすればいいのかと頭を悩まそうとした途端に、すくっと立ち上がりそのまま影の塊に向かって飛びこんでいく。

 

そしてその塊の中に埋もれてしまった。

 

「お、おい…呑み込まれたぞ…」

 

と言った瞬間、黒の塊から光が溢れ、爆風が発生し消し飛ばされる。

 

そして天使がそこから姿を現した。

 

さらにこちらを向いてグッと親指を立てる。

 

「あれの戦闘能力は爆撃機並みか」

 

呆れたようなツッコミを入れる直井。

 

だがおかげで先に進める。

 

そう思い影が出てこない内に走って突っ切ろうと試みる。

 

が…

 

「くそっ!もう出てきやがった…!」

 

すぐさま大量の影が発生してくる。

 

これじゃ先に進めない…!

 

「ゆり!ここは俺たちが引き受ける!先にいけ!」

 

「音無くん…」

 

音無が銃を構えながらそう言った。

 

「そーだぜゆりっぺ!」

 

「とーぜんですよぉ!」

 

「ふん。まあ神にかかれば朝飯前だ」

 

「リーダーはおいしい所を持っていくのが仕事ですからね!」

 

それに皆も続いていく。

 

本来なら、ここで俺も皆に倣ってこの場を引き受けるべきだろう。

 

だが、俺はどうしても千里のことが引っ掛かっている。

 

アイツがなにをするつもりなのか、何者なのかを突き止めなきゃいけない気がする。

 

俺はどうすればいい…

 

「ゆり。あたしと柴崎は付いていってもいいか?」

 

「え?岩沢?」

 

何故岩沢がそんなことを言ったのか、一瞬理解出来なかった。

 

しかし、すぐに思い至る。

 

俺が悩んでいることも見抜いたんだ。

 

「すまんゆり!お願い出来るか?!」

 

「それは皆に訊きなさい」

 

「皆…」

 

ゆりのいる方から振り返って皆を見る。

 

「いけ!何かあるんだろ!」

 

「柴崎さんの分まで僕がやってみせます!!」

 

「こんだけ居るんだから、こっちは大丈夫だよ!!まああたしとユイは足引っ張ってるだけだけど…」

 

「えぇぇぇ?!あたし頑張ってますよ?!」

 

「そーいうこった!気にせずいけ!!」

 

皆快く引き受けてくれた。

 

そして1度岩沢の方を見る。

 

何も言わず1度首を縦に振る。

 

「行くわよ二人とも!」

 

ゆりがそう言って走り出す。

 

「行こう柴崎!」

 

「おう!皆ありがとう!絶対無事でいろよ!」

 

岩沢の手を取って俺たちも走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

「ここね…」

 

「ああ…」

 

道なりに走っていった先に第2コンピューター室と書いてある場所に行き着いた。

 

ここが千里の言っていた場所…

 

「ふざけてるわね」

 

一言悪態をついてドアノブに手をかける。

 

千里は、ここにいるのだろうか…

 

「行くわよ。気を付けてね」

 

「ゆりもな」

 

そして意を決して扉を開いた。

 

「これは…」

 

「やっぱりね…」

 

中はゆりの読み通りコンピューターでいっぱいだった。

 

どれもこれも起動していてなにか変わった画面を映し出している。

 

「Angel Playerよ」

 

「それって天使が使ってるって言ってたやつか?」

 

「ええ」

 

天使エリア侵入作戦の時に見つけたというソフト。

 

天使はそれで能力を得ていたという。

 

「これはね、この世界に干渉することが出来るのよ」

 

「それってつまり、この世界を思い通りに出来るってことか?」

 

「乱暴な言い方をすればそういうこと」

 

そんなのめちゃくちゃだ…

 

でもそれなら天使があんな能力を得ているのも納得出来る。

 

「驚きました。そこまで気づいていたとは」

 

唐突に知らない声が乱入し、驚いて振り返る。

 

そこには知的な雰囲気を醸し出す青年が座っていた。

 

千里じゃない…

 

「アイツが柴崎の言ってた奴なのか?」

 

服の袖をくいくいと引っ張ってそう訊いてくる岩沢。

 

「いいや違う。あんなやつは知らない」

 

「あなたは?」

 

「僕はこの場所の管理を命じられている者です」

 

極めて事務的な答えが返ってくる。

 

「あなた、NPCね?」

 

「ええ」

 

ゆりの質問に、特に動揺もせず肯定する。

 

「誰があなたを作ったの?」

 

「名前を言ったって意味はないでしょう?遠い昔の人ですよ」

 

遠い昔の人と聞いて千里じゃないのか?と一瞬考えるが、この世界では時間なんて関係ない。

 

だから俺は言う。

 

「そいつの名前は千里 悠。違うか?」

 

「知っていたのですか。これまた驚きです」

 

青年は言葉では驚いているが特別動揺した様子もない。感情がないっていうのはこういうところでよく分かる。

 

にしても、やっぱり千里なのか…

 

「アイツがなんでそんなことを?!」

 

「落ち着きなさい柴崎くん」

 

「そうですよ。落ち着いて下さい。物事には順序というものがあります」

 

そう言われて頭に昇った血を下げるため深呼吸する。

 

岩沢はそんな俺の手を静かに握ってくれた。

 

「すまん。続けてくれ」

 

俺が落ち着いた所で青年は顎に手をやり、ふむ、と言った。

 

「どこから話したものですかね?」

 

「じゃあまずあなたはどんなプログラミングをされてるの?」

 

「その内容については知らされていません」

 

そう答えられて、少し嘘をついているんじゃないかと疑ったが、こいつにとってそれは利益があるわけでもなさそうだったのでやめた。

 

千里の名前を出されてもすぐに肯定したくらいだ。嘘をつくようには作られていないんだろう。

 

「なら質問を変えましょう。あなたにとってこの世界で何が起こったの?」

 

「世界に愛が芽生えました」

 

それは余りにもぶっ飛んだ答えだった。

 

ふざけてるのかこいつは、と思ったが表情は真剣そのものでとてもふざけてるとも嘘をついているとも思えなかった。

 

そして本気でそう言っているのだと分かってまず思ったのは、その愛というのは俺達のことじゃないのかということだ。

 

俺と岩沢は恋人同士だ。もちろんそこに愛がある。

 

さらに言えばガルデモの皆も恋人がいて愛が生まれている。

 

けど、だからといって

 

「それの何が問題なんだよ?」

 

「この世界で愛を知ってはいけません。そうなれば此処は永遠の楽園になってしまう。此処は本来卒業しなければいけない場所なのです」

 

「そう、千里が言っていたのか?」

 

「言われたわけではありませんがね」

 

でもそれはやっぱり千里がそうこいつにプログラミングしたということだ。

 

愛を知ってはいけない。

 

卒業しなければいけない。

 

千里がそう思っている。けど、ならなんでアイツはまだ此処にいる?

 

そんな俺の疑問等露知らず青年はさらに語り続ける。

 

「ただ極稀に生前人のために生き、悔いなく人生を送った人がこの世界に記憶喪失で迷いこんでくることがあります。そしてそういうときにそういうバグは生まれるのです」

 

俺はその言葉を聞いて音無の顔がすぐに浮かんだ。

 

まさに音無がそれに当てはまるからだ。

 

「そしてそれが柴崎くんの言うところの千里って人ってことね」

 

「え?!千里が?!」

 

「あなたは本当に察しが良いですね」

 

ってことは千里も音無と同じだった…?

 

そして千里は此処で愛を知った…

 

でもそれなら何で千里はこんなプログラムを作ったんだ?

 

永遠の楽園になるんだとしたらそれは本人からすれば捨てるなんて出来ないような代物なのに。

 

「その人がこの世界のバグに気づいて修正した。それが影を使ってのNPC化…つまりリセット」

 

「はい」

 

「じゃあなに?NPCの中にはあたしたちみたいなのが他にもいるってこと?」

 

「はい。います。一人だけ」

 

高松みたいなのがまだいるってことなのか…それも、一人だけ…

 

「可哀想に…」

 

「これをプログラミングした方。つまり千里さんです」

 

「なっ…!?」

 

驚いてゆりの方を見ると、さすがのゆりもこれは予想外だったのか、目を見開いている。

 

でも、千里がNPC…?

 

確かに千里は印象に残らないほど普通で、ありふれていて、凡庸な雰囲気だった。

 

けど、あんな何か危険が起こる前に助言をしに来たり、会ったはずの岩沢たちの記憶から消えたり、そんなことが出来る奴がNPCだってのか?

 

NPCがあんな行動をするのか…?

 

「彼は待ち続けました。愛を知り、一人この世界から去っていった彼女を」

 

それを聞いて、千里の顔を思い浮かべる。

 

といっても、千里の顔は特徴がなさすぎて思い浮かべようとしても上手く思い出せないのだが。

 

何か顔の前にモヤがかかっている。

 

だが、とにかく千里を思い浮かべて想像する。

 

千里が彼女と幸せに暮らしていて、唐突に彼女が世界から消える光景を、そしてその彼女がもう一度この世界にやってくることを待ち続ける千里を思い浮かべる。

 

そして無意識に岩沢を見る。

 

もし、俺ならどうする?岩沢が先に消えて、残されたりしたら…俺は…

 

「そんな…もう一度此処に来る可能性なんて…」

 

「確かに天文学的確率です。が、0ではありません」

 

「千里は…その天文学的確率ってのをずっと待ってるのか?でもなんでNPCに?」

 

「考えてみてください。愛する人を永遠に待ち続けるのです。果たして正気でいられますか?」

 

「それは…」

 

正気ではいられないだろう。

 

この世界では精神も病まない。つまり狂ったりはしない。出来ない。

 

けど、だからといってそんな状況が長い間続けば、まともでいられるわけがない…

 

そして千里がまさにそうだった…っていうわけかよ…

 

「だから彼は自分をNPC化させるプログラムを組んだのです」

 

「もしかして、そっちが先なんじゃないの?そして同じことが起きないよう世界に適応させた」

 

つまり、自分と同じようなことが起きないようにするためのリセット機能…それは千里の優しさだったのかもしれない。

 

でもおかしくないだろうか?それなら俺と岩沢、もっと言えば俺達よりも早く付き合いだした大山と入江が付き合い始めた時に影が出てくるはずなんじゃないのか?

 

「可能性はあります」

 

未だ続いている会話を聞いて、とりあえずこの考えは置いておく。

 

「じゃあさ、千里はいつか報われる日が来るのか…?」

 

「分かりません」

 

分からないって…じゃあアイツは何のためにNPCにまでなって此処に居続けてるんだよ…

 

「何が正しいのか分からなくなるわね…」

 

「僕にも何が正しいのかは分かりません。けれど、ここに辿り着いたあなたたちならその答えを導き出せるかもしれません」

 

と、今まで事務的に質問に答えるだけだった青年が唐突にそう切り出してくる。

 

特にあなた、とゆりの方を指差す。

 

「何が言いたいの…?」

 

「あなた意思次第で此処を改変することが出来ます」

 

「ちょっ…それって…?」

 

「はい。彼の選ばなかった道を選ぶことも出来ます」

 

ニッコリと悪意など微塵も感じさせない笑顔でそう言う。

 

考えてみれば当然だ。コイツにゆりを嵌めようなどという考えはおそらく本当の意味で微塵も無いんだから。

 

コイツはNPC。きっと普通の人間ならそう提案するくらいのことしかしないんだ。

 

「それは…あたしが神にでもなれるというの?」

 

「言い換えれば」

 

「此処を永遠の楽園にすることも出来るの?」

 

「彼はそれを否定しましたが僕はそれを否定しません。いえ、否定する感情を持ちません」

 

「フッ…アハ…アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

ゆりは狂ったように笑いだす。

 

世界を手に入れたも同然の状況を楽しんでいるようだった。

 

「ゆり…」

 

「柴崎。心配ないゆりはあたしたちのリーダーだぜ?」

 

「…なんてこと、するわけないじゃない…」

 

え?と聞き返そうとした時、ゆりがボソリと呟いた。

 

「奏ちゃんにも、もうそんなことできない…だってあたしは…ここまで来たのは…!」

 

すると、周りにある大量のコンピューターが次々ににハートマークを映し出す。

 

これは…!?

 

「愛を感じとりました。ここまで大きいのは初めてです。恐ろしい速度で拡大を…」

 

ゆりは青年に銃口を向ける。

 

「何をするつもりですか?」

 

「だってここまであたしがやって来たのは、皆を守るためなんだから!」

 

そこまで言い切ってようやく分かった。

 

このハートマークの群れはゆりの愛だっていうことに。

 

それは多分、俺と岩沢のような恋人という類いの愛だけではないんだ。

 

リーダーとして、仲間を守りたいと思う愛。

 

岩沢の言う通り、ゆりは俺達のリーダーなんだ。

 

「ああ、発生源はあなたでしたか。そこのお二人なのかと思いましたが、今急速に増えるのはおかしいですしね。で?あなたは何をしようと言うのですか?」

 

「マシンを全部シャットアウトしなさい。今すぐに」

 

「本当に良いんですか?ちゃんとよく考えましたか?時間なら沢山あります。それこそ永遠に」

 

それは、ゆりにだけは言ってはならない言葉だ。

 

「あのね、教えてあげる。人間ってのはね…たったの10分だって我慢してくれないものなのよ!!」

 

10分につき一人の大切な妹弟を奪われたこの少女には、永遠なんて言葉は禁句なんだ。

 

「伏せろ岩沢!」

 

「きゃっ!」

 

ゆりが何をするのか予測出来たから岩沢に覆い被さるように地面に伏せる。

 

すると、それに一瞬遅れてものすごい量の銃声が聴こえてくる。

 

ここにある全てのコンピューターを破壊するつもりなんだ。

 

持っていた銃の弾薬が尽きればそれを捨て、次の銃を取りだし、また連射する。

 

銃を撃ちまくりコンピューターを破壊しまくるゆりの姿はまるで、生前の鬱憤をここで全て晴らしているかのようだった。

 

銃声が止み、顔を上げると、最後にゆりは青年の座る真後ろにあるコンピューターを撃ち抜いていた。

 

「…終わった、のか?」

 

そのコンピューターがあの青年を制御していたのか、彼の姿が消えていた。

 

それを確認するとゆりはゆっくりとその場にへたりこんだ。

 

「ゆり!?」

 

慌てて二人でゆりの下に駆け寄る。

 

俯いていて、表情は窺えない。

 

「ごめん…ちょっと一人にして…」

 

ゆっくりと掠れたか細い声でゆりはそう言った。

 

「…分かった。行こう岩沢」

 

「…ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

コンピューター室の外に出て、壁にもたれながら皆が来るのを待っていた。

 

少しするとすぐに皆はやって来た。

 

「柴崎!やったのか?!影が消えたけど!…あれ?つか、ゆりっぺは?」

 

やって来て早々捲し立てるように質問してくる日向。

 

「ああ。つっても、全部ゆりが一人でやったんだけどな。それで…一人にしてくれって言うから出てきた」

 

「一人に?」

 

「…もしかしたら消えてるかもしれない」

 

俺は最後にみたゆりの姿を思い浮かべてそう口にする。

 

「そんな…嘘だろ!?なんで?!」

 

「分かんねえよ。けど、なんか憑き物が落ちたみたいな雰囲気だったんだよ」

 

「なんで止めねえんだよ!?」

 

「おい日向!」

 

カッとなった日向が胸ぐらを掴んでくる。

 

「止めてどうすんだよ!お前たちは消えるってのを肯定してたんじゃねえのかよ!?」

 

「それは…」

 

「良いから早くその手を離せ愚民!」

 

言い淀んだ隙に直井が日向の手を胸ぐらから離してくれた。

 

「それにアイツは永遠ってのを拒んだ。じゃあそれを俺達が邪魔しちゃダメだろ」

 

きっとあの場に居なかった皆に全部は伝わらないけど、それでも少しでも伝われば良い。

 

もし中に入ったときに消えていたたしても、アイツの意志はこうだったんだって。

 

「…心配ないと思う」

 

「何がだ?奏」

 

「まだ消えてない。消えてもおかしくはないけど、多分消えてない」

 

相変わらず言葉足らずで何を言っているのかよく分からないが、今の状況から考えるに、ゆりが消えてないと言いたいことは分かった。

 

そうか…まだ残ってるんだな…ゆり。

 

「だったら多分気を失ってるんじゃないか?あたしが消えかけた時もすごく疲れて倒れちゃったし」

 

確かに岩沢が消えかけた時はもう上手く喋ることも出来ずに最後には気を失っていた。

 

「そうか…じゃあ入ろう。ゆりを連れて帰って皆と合流しなきゃな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中に入ると本当にゆりは気を失っていたが、確かにそこに居た。

 

泣いていたのか目元は赤く腫れていた。

 

すぅすぅと寝息を立てるゆりを音無がおぶって日向はゆりの頬ををうりうりと指で弄くっていた。

 

それを見てユイは焼きもちを焼いたのか、日向の指を逆に曲げたり、直井はうるさそうに顔をしかめて関根に宥められていた。

 

俺もそれを見て笑い、岩沢の手を繋ぐ。

 

とてもさっきまで決死の戦闘を行っていたようには思えない。

 

俺達の日常が帰ってきたんだ。

 

 

 




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