Angel beats! 蒼紅の決意   作:零っち

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「いやでも真面目な話、多くないか?」

いきなりだけど、只今俺は土下座をしている最中である。

 

誠心誠意心を込めて、地べたに額を擦り付けて謝っている。

 

何故かって?

 

「お前は毎度毎度なんなんだ…?狙ってんのかこら…?」

 

またしても藤巻に泣きついていたひさ子を目撃してしまったからだ。

 

さっきまでしおらしかったひさ子姐さんが物凄い形相で俺に重圧を与えてきているからだ。

 

「滅相もございません!!」

 

「本当か?」

 

「もちろんです!!」

 

「…本当だな?」

 

「命に誓って違います!!」

 

「…またあの姿のあたしを見てどう思った?」

 

「うわ~、またしおらしくなっちゃってまぁ~。ひさ子ちゃんは本当に藤巻が大好きなんでちゅね~」

 

「死ぬ覚悟は出来てんだろうなァ?ああン?!」

 

「しまったぁぁぁぁぁぁ!!口が滑ったぁぁ!!つーかなんか覚醒してるぅ?!」

 

具体的にはどっかの第一位が降臨しちゃってる!!?

 

なんだか心なしか背後に黒い羽根が見えてきた!!!

 

「ihbf殺wq」

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで懲りたか?」

 

「はい…ずみまぜんでじた…」

 

ボコボコに殴られて顔がぶどうみたいに腫れてしまってる。

 

そしてその状態で正座だ。

 

懲りないわけがない。

 

「はぁ…ったくお前は奇跡的なタイミングでいつも来やがって…」

 

「いやお前の泣きつく頻度が高いからだろ」

 

「ああン?」

 

「ひぃっ!ごめんなさい!」

 

またさっきの惨劇は嫌だ!!

 

次こそ星の藻くずになっちまう!!!

 

「いやでも真面目な話、多くないか?」

 

「う…むぅ。しょ、しょうがないだろうが!…会いたくなるんだよ」

 

自慢のポニーテールを指先で弄りながら声が尻すぼんでいく。

 

初々しいやつよ。

 

「でもそれってまずくね?」

 

「は?何がだよ?」

 

「だってよ、何かある度に泣きついてくる女って重くね?しかも彼女でも無いんだし」

 

「…………………」

 

固まった。

 

目を見開いて指はポニーテールを弄った状態を保ったままに静止した。

 

「…………ど」

 

しばしそのまま時間が止まったような状態が続いたのだが唐突にひさ子の口からなにかの音が発せられた。

 

「どうしよぉ~…」

 

続けて頭を両手で抱えてしゃがみこんでしまった。

 

まさか軽い気持ちで言った言葉がここまで深刻な傷を負わせてしまうとは…

 

「いや、今の嘘!無し!ノーカンで!!」

 

「無理に決まってんだろバカやろう…きっちり重い女って自覚しちまったよ」

 

「その、なんだ…これはそう思うやつも居るかもってだけでだな…俺は岩沢からそんなことされたって重いだなんて思わねえよ?!」

 

膝にすっぽりと顔を埋め込んでしまったひさ子にせめて顔だけでもあげてもらおうと必死の弁解を試みる。

 

「そんなの好きだからだろ?藤巻は別にあたしのこと好きなわけじゃ………」

 

そこで言葉は途切れてしまい、顔もあげてはもらえない。

 

「いやいやまだわかんねえだろ!むしろ逆に捉えようぜ!普通なら重いって思われる行為に未だに付き合ってくれるってのはかなり好意があるってことなんじゃねえの?!」

 

「やっぱ重いんじゃん…」

 

駄目だ…折角ポジティブな材料を提示してもまるで響かない。

 

今はどんな励ましをしても逆効果になるのかもしれない。

 

なら励ますのは一旦諦めるか。

 

「えっとさ、1つ訊きたいんだけど、何で藤巻が好きになったんだ?」

 

「…何であんたなんかにそんな話しなきゃいけないんだよ?」

 

もう完璧にやさぐれモードに突入しててなんだか目も座ってしまってる。

 

「しなきゃいけないってことはねえけどよ、なんか気になってな。それにここまでお前らの逢い引きにかち合ったのも何かの縁だと思うしさ」

 

「…まあいいか。ここまで見られてて今更恥ずかしくもないし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしはわりと戦線の中で古株な方で結成した初めの頃から所属してたんだ。

 

その頃はガルデモとかそんな名前も無くて、ただただ岩沢と二人で曲を作ってはゆりの命令が出たときに演奏していた。

 

そんな生活を続けていたある日、チャーのところから半ば戦力外として実働部隊に入ることになったやつが来たという話を聞いた。

 

特にその時にはなんとも感じなかった。

 

ふーん。また変なのが入ったのか。

 

そのくらい。

 

そしてその噂を聞いた数日後に、あたしは藤巻と出会った。

 

最初の印象は正直良くなかった。

 

何せ目付きも悪いしガラも悪い。

 

しかもあたしを見た第一声が

 

『お前胸でけえな』

 

だった。

 

もちろんその場で殴り倒した。

 

思いの外あっさりとのされてしまった藤巻を見て申し訳なくなったあたしは目が覚めるまで側についていた。

 

そして数分経って起き上がった藤巻は今度はこんなことを言いやがった。

 

『なんつー惚れ惚れする右ストレートだ!気に入ったぜてめえ!』

 

頭の打ち所が悪かったのかと思ったけど、よく考えたら此処じゃすぐに治るからこれが素なんだなと思った。

 

そして率直にこいつに気に入られるのは御免被りたかった。

 

でも藤巻はその後、あたしを見かける度に話しかけてくるようになった。

 

そうしてる内にそこまで悪いやつでは無いことが分かったし、麻雀っていう共通の趣味もあったことで二人でいることも多くなった。

 

そんな時間を過ごす内にいつの間にか藤巻が隣にいるのは当たり前になっていた。

 

けど、時が経つにつれて、戦線のメンバーは増えていって二人でいる時間どころか、話す時間さえ少なくなっていった。

 

実働部隊は人数が増えるにつれて作戦も大きくなって割かれる時間も多くなる。

 

あたしたちはちょうどその頃に関根と入江が入ってきてバンドの形を作るのに必死になっていた。

 

そうして別々にいることが増えていった。

 

その時ぐらいからだろうと思う。

 

あたしが自分の知らない内に藤巻を目で追っていたのは。

 

目で追って、見えなくなってからハッとする。

 

あれ?あたしなんで見てたんだろう?

 

そんなことを何回も繰り返していた。

 

そしてある日、その行動のわけをあたしは決定的に自覚する。

 

中々バンドとして上手くいかない時期が訪れた。

 

岩沢と二人でやっている時にはそう無かったことだった。

 

四人体制になって今までとの違いにあたしの中でフラストレーションが溜まっていった。

 

そしてもうどんなのだったかも忘れるほどの些細なミスを巡ってあたしと岩沢が口論になった。

 

自分でも何でこんなに怒ってるのか分からないくらいに怒鳴っていた。そしてそれは恐らく岩沢も一緒だったように思う。

 

その口論の末、あたしは衝動的に部屋を飛び出していた。

 

何のあてもなくムシャクシャしてる気を紛らわすためだけに走っていた。

 

そこで声をかけられた。

 

『おい!どうしたんだひさ子?!』

 

懐かしい感覚だった。

 

藤巻も藤巻で忙しかったはずなのに、様子のおかしいあたしを見かけて走って追いかけてきてくれたらしかった。

 

それだけで、あたしの涙腺は見事に崩壊してしまった。

 

急に泣き出したあたしを見てオロオロと狼狽えながら、泣き止むまで側に居てくれた。

 

そして泣き止んでからはとにかく訳を話せと言われてつっかえながらも全部話した。

 

もちろん藤巻に話しかけられて最後のたかが外れたのは省いてだけど。

 

『何くだらねえことでもめてんだこのバカ!つーか泣くなよそんなので!!』

 

ひとしきり聞き終わってから言った言葉がこれだった。

 

面食らったよ。てっきり優しい言葉をかけてもらえると思ってたから。

 

でも藤巻はそんなあたしのことなんてお構い無しに続けた。

 

『そんなくだらねえことならとっとと謝っちまえよ。それが嫌なら殴って黙らせろ。お前の得意分野だろ』

 

なんていうか、相談の答えとしては最低なはずなのに、妙におかしくなって、それに妙に落ち着いてしまった。

 

そして何だかさっきまでのムシャクシャとかが全部どうでも良く思えて、大笑いした。

 

そんなあたしを見て藤巻は一瞬ギョッとしてたけど、つられるように一緒に笑っていた。

 

とうとう笑い疲れて笑うのをやめると、藤巻は唐突にあたしの頭を2、3回ポンポンと叩いてこう言った。

 

『じゃあ俺もう行くわ。お前もさっさと戻れよな。うじうじしてっと襲うぞバーカ』

 

もちろん離れていく藤巻に向かって『最低!』って言ったよ。

 

けど叩かれた頭と、それに次いで顔がものすごく熱くなって、おまけに心臓までドクンドクン鳴っていた。

 

そこでさすがにあたしは自覚した。

 

ああ、あたしは藤巻が好きだったんだ、って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、感じだったな」

 

「なるほど…1ついいか?」

 

「ん?なんだよ?」

 

ひさ子は何の気なしに話していたみたいだが、俺には聞いた瞬間から気になって仕方がないことがあった。

 

「お前まさか岩沢を殴ったりして――「ねえよ!!」――ごぼはっ!」

 

食いぎみで返答された。

 

しかも鉄拳まで添えて。

 

「いや、念のために訊いただけなんですけどね…」

 

「いらねえところで用心してんじゃねえ!…ったく、何か気づいたことがあったのかと思ってみればこれかよ…」

 

「いや、1つあるぞ」

 

「また岩沢のことじゃねえだろうな?」

 

どうも俺の信用はかなり落ちてしまったようだ。

 

ここは1つ信頼回復しておかないと。

 

「ひさ子が乙女だってことがわかった」

 

「ほぅ…!そんなに生き地獄ってのを味わいたいんだとは知らなかったよ。腕がなるなぁ…!」

 

指をボキボキと鳴らしながらとても良い笑顔で歩み寄ってくる。

 

そんな!褒めて機嫌を取る作戦が失敗した?!

 

「お、落ち着け落ち着け!ちょっとした冗談だから!それよりも1つ作戦を思いついたんだ!」

 

「作戦?」

 

「そう。あんまり気の進まない作戦だけどな」

 

「なんだよ言ってみろ」

 

「それじゃあ…」

 

そして俺はひさ子の顔を引き寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、ダリぃ~」

 

もう時間も夕方に差し掛かろうという頃になった。

 

特にオペレーションのない今日みたいな日はこの時間帯が一番暇でやることがねえ。

 

晩飯を食うには早いし、何かするにしてもやっぱ微妙な時間だ。

 

今日は昼間にひさ子に捕まって話を聞いていたから他のやつらはもう何かしていたし、今さら混ざるのもなんだかめんどくさかった。

 

「ちくしょ~」

 

今暇なのはひさ子のせいだ。ぜってえそうだ。

 

大体いつもいつも都合の良いときに泣きついて来やがって、俺はアッシー君か何かかっつーの。

 

「藤巻…」

 

そんなことを考えていたから、後ろから声をかけられてもすぐに誰だか分かった。

 

いや、そんなのは考えてなくても分かるか。

 

もう聞き飽きるほど聴いてきた声だ。

 

ったく、人の気も知らねえでいつもいつもそんな声で呼びやがって。

 

「んだよひさ子…またなんかあったのかよ」

 

つっても1日に2回はさすがに珍しいな。

 

「…さきが…」

 

「あん?」

 

ボソッと呟かれた言葉は聞き取れなかった。

 

よく泣きついては来るがこんなに声が聞こえづらいことはなかった。

 

いつもと違う…

 

「柴崎が―――」

 

俺はその台詞を最後まで聞いた瞬間に走り出した。

 

あのクソ野郎…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は授業が終わってもぬけの殻になっている教室で外を眺めていた。

 

もう時刻も夕方になって日もオレンジ色に風景を染め上げていた。

 

こんなに穏やかな時間はそうは無い。特に此処では物騒な事が多かった。

 

しかし、そんな穏やかな時をぶち壊すくらいに荒々しい音が扉の方から聴こえてきた。

 

「おいこらてめえ…!」

 

猛烈な勢いで扉を開けたのは、肩で息をしながらこちらに射抜くような鋭い目線を送っている藤巻だった。

 

「どうしたんだ?そんな怖い顔して」

 

「どうしたじゃねえよ!てめえ…岩沢って彼女がいながらひさ子に手ぇ出したらしいな…?」

 

「手を出したって…ああ、キスしたことか?あれくらい別にいいだろ。そんな中学生とかじゃあるまいし」

 

どうにも怒りを抑えられないという風な藤巻に対して俺は精々底意地悪そうに笑う。

 

「っざけんな!」

 

「おっと」

 

とうとう我慢しきれなくなった藤巻は真正面から殴りかかってくる。

 

しかしさすがにそんな単調な攻撃は俺には当たらない。

 

「てめえは!ひさ子を!なんだと思ってやがる!?」

 

俺に避けられた後も続けて2発、3発と拳を振り回してくる。

 

もちろんそれもヒョイヒョイと上体を振って躱していく。

 

「いや何って…別になんにも?」

 

「いい加減にしやがれてめえ!!」

 

「ちょっと落ち着けって」

 

「がっ!」

 

さらに掴みかかろうとしてきた藤巻の腕を避け、バランスを崩しかけていたところを足払いする。

 

そして倒れたところで動けないようにマウントポジションを確保する。

 

「何でそんなに怒ってるわけ?」

 

「決まってんだろ!てめえがひさ子にキスしたからだろうが!!」

 

「別にいいじゃん。ひさ子は別にお前の彼女なわけでもないし」

 

「良くねえよ…良いわけあるか!」

 

俺の言葉でさらに怒りが増したようで動けない状態でもなんとか俺を振り落とそうともがく。

 

しかしそうそうこの状況から逆転出来るはずもなく、俺は淡々と質問する。

 

「なんで?俺に彼女がいるから?でもさ、キスくらい良いんじゃねえの?少なくとも部外者がどうこう言う事でもないだろ」

 

「部外者じゃねえよ!ひさ子は俺のダチだぞ!」

 

「それは部外者だよ。友達の好きなんてのはキスをしたされたの話に関係ない。大体そこまで怒るかよ友達がキスされたくらいで」

 

「…………だよ」

 

「なんだって?」

 

ボソリと、うつ伏せの状態でさらに声が小さくて聞き取れない呟きが洩れていた。

 

「好きなんだよ!俺はひさ子が好きなんだ!!友達じゃねえ!女としてな!だからひさ子に遊び感覚でキスしたてめえはぜってえに許さねえ!!」

 

そう言い切った藤巻は今まで以上に強い力で暴れだす。

 

さすがにここまで暴れられると抑えるのに必死にならざるを得ないが、俺は口をニヤリと歪ませて叫ぶ。

 

「ってことらしいぞひさ子!」

 

「あ?」

 

ひさ子の名前が出てピタリと動きを止める藤巻。

 

そしてそれと同時に扉の影からヒョイと姿を現すひさ子。

 

「…どう、なってんだ?」

 

呆然としてる藤巻の背中から身体をどかしてその質問に答える。

 

「平たく言えば、一芝居打たせてもらったってとこだ」

 

「そんなこと訊いてんじゃねえ!理由を言えって言ってんだよ!」

 

「それはあたしが話すよ」

 

そう申し出たひさ子に首肯して先を促す。

 

「柴崎にはあたしがあんたに泣いて相談してるところを何回か見られててさ、そこでちょっとした相談みたいなのをしてたんだ」

 

「相談…?」

 

「うん…あたしがあんたの事を好きなんだっていう相談」

 

「は、はぁ?!」

 

唐突に知らされた事実に一気に頬を上気させる藤巻。

 

「好きだけど告白は出来てなくて、ただただ好きだってことだけ言ってたんだ。そしたら柴崎が良い案があるって言ってこれを」

 

そう。要するに今回のこの騒動は藤巻の気持ちを確かめるために俺が悪役になって気持ちを吐き出させようという作戦だったのだ。

 

そもそも俺が岩沢がいるのに他のやつにキスをするわけがない。

 

岩沢を泣かせたら舌を噛みきって死んでしまう自信があるからな。

 

「え、いや、ちょっと待てよ…じゃあひさ子は俺が…?」

 

信じられないという風に訊いてくる藤巻。

 

ひさ子はうん、と一言前置いて、息を吐く。

 

「あたしはあんたが好き。好きって聞いてからこんなこと言うのは卑怯だと思うけど、それくらい裏付けが無くちゃ怖くて言えないくらい好きだったんだ……こんな臆病者じゃダメか…?」

 

「ダメなわけあるかよ…こっちだってこんなことにならなきゃ言えないくらい好きだったっつーんだよ!」

 

「じゃあ…」

 

「…聞かなくてもわかんだろ」

 

「あたしは聞きたいんだ。ずっと待ってたんだから」

 

そっぽを向いて質問から逃れようとしてた藤巻の側にグイッと身体を寄せて上目遣いをする。

 

うわぁ、ズルいなひさ子…

 

「付き合おう…ぜ」

 

「おう!」

 

「うわ!」

 

渋々といった風情でそう言った藤巻に返事と同時にひさ子が飛び付いた。

 

バランスを崩してひさ子に押し倒される形になった藤巻。

 

「…では後は若い二人で」

 

「「お見合いじゃねえぞ!!」」

 

息ぴったりにツッコむ二人を置いて部屋を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったくアイツは…」

 

最後に変なボケを残して教室を出ていった柴崎に呆れて言葉を洩らす。

 

「ひさ子…退いてくんね?」

 

「ひぁっ!悪い!」

 

勢いで押し倒していた藤巻の上から急いで離れる。

 

ちょっと勿体無いなって思ってしまうあたしは変態なのかな?

 

「ごめん。ちょっと興奮しちゃって…」

 

「興奮って…」

 

「違う!そういう興奮じゃなくて感動してこう…!」

 

「わーってるって」

 

必死に弁解しようとしてるあたしが面白かったのかケラケラ笑う藤巻。

 

くそ、遊びやがって…!

 

あたしも何か反撃してやる。

 

「藤巻はあたしのこといつから好きだったんだよ?」

 

「ああ?いつでも良いだろそんなの。今好きだってのが大事なんだからよ」

 

むぅ…やけにカッコいいこと言いやがって…

 

でもそれじゃあたしの気が済まない。

 

「そうだけど知りたいんだよ!女はそういうのが気になるもんなんだ!」

 

「はぁ?…ったく、しゃーねえなぁ」

 

「良いのか?!」

 

「聞きたいんだろ?だったら別にいいよ。大して聞き応えもねえけどな」

 

照れ隠しなのかいつもより少しぶっきらぼうな口調になる藤巻。

 

「初対面で殴られたときあるだろ?あん時」

 

「ええぇ?!」

 

「つーか気づけよ。その時に気に入ったって言ったろうが」

 

「気づけるかバカ!いや、ていうか殴られて好きになるってあんたまさかドM…?」

 

だとするともしかしてあたしは藤巻が満足するまで殴ったり踏んだりしなきゃいけないのか…?

 

「違うわ!ただ単に女っぽい女が嫌いなだけだよ」

 

「何だよあたしは女らしくないってのか?」

 

「胸に関しちゃ女らしさ全開だけ…どぼぉ!?」

 

「そういうセクハラは例え彼氏でも許されねえんだぞ?」

 

「あ、あいあいさー…」

 

「よろしい」

 

ふん、と鼻から息を吐いてふんぞり返る。

 

しかしまだ殴られたお腹を押さえて苦しんでいる藤巻に若干の罪悪感が芽生えてくる。

 

「えっと、大丈夫か?」

 

「スキあり!」

 

心配になって屈み込んだ瞬間に藤巻は顔を上げてなにもなかったかのような素早い動きでキスをしてきた。

 

「な…な…なな…なにを…?」

 

「交際記念ってやつだ!まあ襲うのはまた今度にしてやるよ」

 

「ば、バカやろぉぉぉぉ!!」

 

「ちょ、タンマひさ子!じょうだんだからその拳はしまってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 




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