Angel beats! 蒼紅の決意   作:零っち

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「いいんだよ。そのおかげで此処でお前に会えた」

「いよいよなんだな…」

 

「おいおい、もう何回目だよその台詞」

 

皆が校長室に集まって雑談をしている中、俺と岩沢はかなり異質な雰囲気を醸し出していた。

 

具体的に言うと、ソワソワしている。

 

実際は俺と岩沢、というよりも岩沢だけという方が的を射ているのだが、元々の原因が俺なのでここは俺と岩沢というのがやはり正しいのかもしれない。

 

原因というのは、俺の記憶がついに戻るらしい。

 

らしいと言うと、何だか他人事のようなのだけど、自分自身に実感がないのだからしょうがない。

 

もう最近は記憶が無いことが当たり前のようになっていたからな。

 

しかし、当たり前になっていたとしても俺と岩沢が待ち焦がれていたことには間違いないのだ。

 

何故俺だけでなく岩沢まで待ち焦がれていたかというと、告白の返事をするのが記憶が戻ったらという変な条件があったからだ。

 

まあ、その変な条件を出したのは俺なんだけど…

 

岩沢の方がソワソワしているのはそこら辺が主な原因なのだろう。

 

恋する乙女なのだ。

 

自分で言っていて恥ずかしくなってきた…まるでこれじゃナルシストだ。

 

「分かってるけどさ、どうにも落ち着かないんだ。逆に何で柴崎がそんなにいつも通りなのか教えてほしいよ」

 

「何でって…」

 

何でだろう?

 

此処に来る奴らは何故か総じて悲惨な、ともすれば凄惨な人生を送ってきている。

 

それを今日思い出すのだ。

 

なのに不思議と落ち着いている。

 

柴崎蒼、非常に平常運転だ。

 

実感がないのはそうなのだが、しかしそれにしたってもう少しソワソワとは言わなくともドギマギくらいはしていておかしくはないはずだ。

 

本当、何故だろう?

 

「分からねぇ」

 

「考えた割りに適当な答えだな」

 

「うるせえ。世の中何でもかんでも回答が出るわけじゃねえんだよ」

 

と、やはりいつも通りのテンションで会話をしていると、ガチャリと扉の開く音がした。

 

まあ見るまでもなく今ここにいるメンバーを見れば誰が来たのか分かるのだが、とりあえず振り返ると案の定そこにはゆりの姿があった。

 

いよいよか、と思いつつもやはり心が波立つことはなかった。

 

「音無くんと柴崎くん、それと直井くん。来てちょうだい」

 

ゆりのご指名を受け席を立つ。

 

と同時に隣からも席を立った気配を感じた。

 

「岩沢さん。あなたは来ちゃダメよ」

 

「えぇ?!なんで?!」

 

当然、そこは止められてしまう。

 

これが俺だけが記憶を取り戻すというのならば、そこをなんとかと言って説得を試みるところなのだが、音無も俺と同じく記憶を取り戻すのだ。

 

なら、あまり駄々をこねるわけにはいかないだろう。

 

「岩沢。記憶戻ったら真っ先に教えるから、ここは我慢してくれ。な?」

 

「本当か?絶対か?」

 

そんなに疑わなくても、こんな嘘つくわけないのに。

 

必死に問いかけてくる岩沢の姿が、なんだか可愛く見えて苦笑いを浮かべてしまう。

 

少しでも心配を解消するために岩沢の頭に手を置いて約束を交わす。

 

「ああ。1時間後、いつもの屋上でな」

 

「…分かった。待ってるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆりの後を付いていき、連れていかれた場所は数ある空き教室の中の1つだった。

 

特になんの変鉄もない、強いて変わっている所を上げるのならば長机が置かれているくらいだ。

 

「じゃあまず音無くんから」

 

扉を開けて手で入室を促すゆり。

 

「わ、わかった」

 

「音無さん。緊張しなくて大丈夫ですよ。すぐに済みますから」

 

直井が言うことによって、普通に緊張を解すための台詞がなんだか危ない意味に聞こえてくるのは俺だけなのだろうか?

 

「あ、ああ…」

 

いや、音無も危機感を覚えているみたいだ。

 

「じゃあ、柴崎くんは少し待っててね」

 

ゆりはそう言い残して扉を閉めた。

 

そして訪れる静寂。

 

シーンと、無人の廊下は物音1つ聞こえない。

 

そしてその静寂によって、先ほどから薄々と感じている感情が一層色濃く感じるようになる。

 

それは不安。そして恐れ。

 

岩沢と約束を交わし、ここに向かって歩を進めていくと、進めれば進めるほど、まるで比例していくかのようにその感情が胸の中で大きくなっていった。

 

それが唐突な静寂と一人になったということでより際立ったのだ。

 

「くそ…さっきまで平気だったってのに、なんで…?」

 

岩沢が不思議に思うくらい、平然と、超然としていたのに。

 

実際に時間が近づけばこんなもんかよ。どんだけ臆病者だ、俺は。

 

「岩沢を連れてこなくて良かったかもな」

 

こんな情けない姿は、出来ることなら見せたくはない。ごくごく普通の自然体で接したい。

 

いや、これはただ単にカッコ悪い所を見られたくない男の子としての心理かもしれないけれど。

 

しかし、そう思っていながらも今俺はとても、喉から手が出るほど岩沢と話したいと思っている。

 

見られたくないから居てくれなくて良かったけれど、岩沢が居てくれたなら、と思ってしまっている。

 

「矛盾してるな…」

 

と、思わず呟いてしまう。

 

何で自分がこんな矛盾を抱えているのか、分からないように。まるで目を逸らすかのように。

 

そう。まだ答えは早いんだ。

 

「柴崎くん。次はあなたの番よ」

 

事を終え、教室から出てきたゆりが俺に声をかける。

 

その答えを出すのは、これを終えてからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして場所を移すためにまたしばらく歩く。

 

「音無は?」

 

「心の整理中よ」

 

ゆりは端的に答えたが、それだけで充分だった。

 

すぐには受け止め難いものだったのだろう。

 

今、音無は何を思っているんだろうか。

 

「大丈夫ですよ。僕がついてますから!」

 

「あはは…そうかもな」

 

胸を張ってドンと叩く直井。

 

なんとも反応しにくい。

 

「着いたわよ。さ、入って」

 

「…ああ」

 

入ってみると、そこはやはりさっきと同じような長机しか特色のない教室だった。

 

「では、そこに腰かけて下さい」

 

直井に促され、指定された椅子に座る。

 

直井はその真正面に陣取り、俺と目をバッチリと合わせてくる。

 

「では、始めます」

 

「…頼む」

 

緊張で手が震え、喉も渇き、声が掠れる。

 

「大丈夫です。すぐに済みますから」

 

だから、お前言うとなんだか危なく聴こえるって…

 

と思っていると、直井の目が紅く変色していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――物心をついた時から逃げ回っていた気がする。

 

理由は、父親の借金。

 

どうしようもない父親だった。

ギャンブルに溺れ、酒に溺れ、そうとう悪質な所から金を借りていた。

 

母親は、そんな父親を見限って出ていったらしい。俺を残して。

 

家を無くし、その日の食事さえ危うい、そんな暮らしだった。

 

当然そんな暮らしで学校には通えず、文字や言葉は最低限だけ父親に教わって、そこからは借金取りから逃げ回っている間の安全な時間に立ち寄るコンビニや、古本屋等から学んでいた。

 

毎日毎日、朝から晩まで借金取りが居ないかどうかを警戒する生活をしていた。

 

そんな生活をしている内に、生き物としての生存本能なのか、俺は尋常ではない視力を手に入れていた。

 

生き残るため、逃げ回るため。

 

この目を使って、俺は父親と共に逃げ続けていた。どうしようもない父親と。

 

今考えると、何故見捨てなかったのか不思議だった。もはや父親としての役割など果たしていないこんなろくでなしなのに。

 

あの日もそうだった。

 

「父さん!アイツらまだ追ってきてる!」

 

いつものように借金取りから逃げていた。

 

夜になって、いつもならもう諦めてもおかしくないほど暗くなっていた。

 

少し雨も降っていて、逃げにくい。

 

「くそ、しつこい…!はぁ、はぁ…うわぁぁ!」

 

父親を先行させて、後ろを確認しながら走っていると突然叫び声が聞こえて父親の方を見る。

 

雨で滑ったのか、倒れこんでいた。

 

「父さん!早く立って!アイツらに追い付かれる!」

 

「わ、分かってる!分かってるけど…」

 

何をモタモタしてるのかとよく見てみると、父親の足が、道路の溝に嵌まってしまっている。

 

ちょっとやそっとじゃ抜けないくらい嵌まってしまっている。

 

どうする…?このままじゃ、アイツらに捕まってしまう。

 

いっそ、ここで見捨ててしまえば…

 

「父さん捕まって!引っ張るから!」

 

「あ、ああ…」

 

俺は手を差しのべた。

 

どうしようもない父親に。

 

親らしいことなど何一つしなかった父親に。

 

どうしようもない父親だけど、どうしようもないくらい、この人は俺の父親なんだ。

 

「くっ…!抜けない…!」

 

見立て通り、嵌まっている足はなかなか抜けない。

 

「は、早く、早く!」

 

父親も焦り、急かしてくる。

 

でも、硬くて抜けやしない。

 

徐々に複数の足音が聞こえてきた。

 

「居たぞ!」

 

後ろから叫び声がこだまする。

 

それに反応して振り返ると、借金取りが数人、ものすごい形相で向かってきている。

 

抜けてくれ…!

 

「捕まえろ!」

 

しかし、そんな祈りなど嘲笑うように俺達は捕らえられた。

 

そして、手足を縛られ、目を塞がれ、車に乗せられた。

 

そしてそのまま暗闇のままにどこかに連れていかれた。

 

ようやく下ろされたと思えば、目を塞がれてふらつく俺を乱雑に引っ張ってどこかに誘導され、何か台のようなものに寝かされた。

 

そこでようやく、目隠しを外された。

 

そこはどこだか見当もつかない場所だった。

 

「じゃあ、払えねえ分をてめえらの身体で払ってもらおうか」

 

俺達を見下ろす、下卑た薄ら笑いを浮かべた男はそう言った。

 

「か、身体…?!」

 

父親は、狼狽えて男の言った言葉を繰り返す。

 

「そう。内蔵とか、使えるもんを頂こうってことだ」

 

さらにニヤリと顔を歪める男。

 

この状況が楽しくてたまらないというような表情をしていた。

 

「どっちからいく?」

 

そしてそう問いかけてくる。

 

どっちからかなんて、なんの意味も持たないというのに。

 

「コイツは、コイツの目なら高く売れますよ!コイツから先に!」

 

無言を貫こうとしたその時、横からそんな言葉が聞こえた。

 

「ほう?なんでた?」

 

「コイツは目が尋常じゃないくらい良いんです!この目は高く売れますから!だから先に!」

 

父親は、自分の命を少しでも先伸ばしするために息子を売っていた。

 

それを見ても、俺は何も感じなかった。

 

ああ、やっぱりか…

 

思ったとすれば、それくらいのものだろう。

 

「分かった。じゃあコイツからだ」

 

そして俺は何かで眠らされ、そこから意識が戻ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そっか」

 

過去を思い出して、初めに口をついたのはそんな言葉だった。

 

これが俺の人生か。最初から最後まで父親に振り回された人生だったか。

 

「あなたも、報われた人生だったとは言えそうもないわね」

 

俺の姿を見てゆりは目を逸らしていた。

 

「まあ、そうだな」

 

「しばらくここに居ていいわよ。それじゃあ」

 

そう言ってゆりは直井を連れて部屋を出ていった。

 

気を使ってくれたんだろう。

 

だが、恐らくゆりが思っている程、俺は傷ついていなかった。

 

思い出して、失望したが、どこか消失感を感じたが、心はとても穏やかだった。

 

そして、すぐに思う。

 

――――岩沢に会いたい。

 

早く会いたい、早く会いたいと身体中が叫んでいるようだった。

 

消失感で空いた穴を、岩沢に塞いでもらいたかった。

 

理由は、考えるまでもない。

 

そして俺は立ち上がって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「柴崎さん」

 

教室の扉を開けて、急かされてるように目的地に向かおうとすると、呼び止められて急ブレーキをかける。

 

「遊佐?どうした?」

 

声の主は遊佐だった。

 

いつも通りの無表情でこちらをジッと見据えている。

 

そこからは何の感情も読み取れない。

 

「記憶、戻ったようですね」

 

と、遊佐は言った。

 

直球だった。

 

だが、やはり依然としてあまり意図は読めない。

 

「どこをどう見てそう思ったのかは分からないけど、まあそうだよ。思い出した」

 

いつものようにボケを挟まない遊佐に戸惑い、少し茶化すような前置きをしてから答える。

 

しかしそれを聞いてもなお、ボケる素振りを見せず、そうですか、と頷いた。

 

そしてそのまま、でしたら、と前置いて

 

「過去をお聞きしてもよろしいですか?」

 

と、言った。無表情で。

 

やはり、何を思っての質問なのかは分からなかった。

 

いや、友人として、知りたがるのは分からなくはない。

 

だが、分からないのは何故こんなに待ち伏せのようなことをしてまで、すぐに聞きたがっているのかだった。

 

ただ知りたいだけなのなら、また会う機会が会った時でいいだろうに。

 

「駄目、でしょうか?」

 

なかなか返事をしない俺に痺れを切らしたのか、更に問い重ねる。

 

遊佐の意図は全く読めない。

 

でも、俺の答えは決まっていた。

 

「悪い。先約がいるんだ」

 

岩沢に真っ先に教えると約束したんだ。

 

俺の答えを聞いて、遊佐は1度目を閉じて、少し間を置いてから目を開いた。

 

「わかりました」

 

「悪いな。また今度話すよ」

 

「はい。楽しみにしておきます」

 

楽しい話にはならないと思うが。

 

そう思いながら、また走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

…行ってしまいましたか。

 

「…少し、遅かったですかね」

 

もう届かないであろう距離まで離れたのを確認してから呟く。

 

本当に、何もかもが遅かった。

 

好きになるのも、約束をするのも。

 

そしてなにより気持ちを伝えるのも。

 

「…好きでした」

 

もう伝えることも不可能になってしまった気持ちを、届かない背中に向けて言う。

 

その声は、震えていたように思う。

 

何故でしょうか…?

 

もう涙など、とうの昔に枯れ果てたはずなのに、視界がぼやけている。

 

それだけ本気だったのでしょうか。あなたのことを。

 

「本当に、好きでした…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急いで向かっている途中、時計を見てまだ約束の時間よりもかなり早いことを知って、道中の自販機でカイロ代わりにコーヒーを購入して、ついに目的地の屋上の扉の前に到着した。

 

それでもやはり、かなり約束の時間よりも早かった。

 

「まあいいか」

 

待っていればいずれ来るだろうと気を取り直して扉を開けた。

 

風がすごい勢いで肌を刺す。

 

あまりの勢いで閉じた目を開くと、そこに一人佇む少女の姿が見えた。

 

「岩沢?」

 

俺が名前を呼ぶと、岩沢は風で靡く髪を片手で押さえながら振り向いた。

 

「柴崎…早いな」

 

あまりに絵になる姿に見惚れて、ボーッとする俺にそう言う。

 

いや、早いなって…

 

「何やってんだよ?!約束した時間より大分早いだろう!こんなに寒いのに!」

 

此処にも季節が存在するようで、俺が来た当初はまだ少しポカポカしていたが、最近はめっきり冷え込んで来ている。

 

そんな状態で何も暖を取るものも持たずに待っていたのだ。

 

急いで岩沢に詰めよって手を握る。

 

「めちゃくちゃ冷たくなってんだろうが」

 

「だって、待ってられなかったんだ」

 

少し膨れながら目を逸らす。

 

とりあえずこの冷えきった手を暖めるために、買っておいたコーヒーを岩沢に手渡す。

 

「いつからここに?」

 

「柴崎が行ってからすぐに」

 

「バカ!風邪引いたらどうすんだよ!」

 

言ってから此処では風邪を引かないことに気づいたが、取り消すのもバカみたいなので無視する。

 

「でも、早く来てくれたじゃないか」

 

「それは…そうだけど」

 

でもそれは結果論だろうと思ったがあからさまに、信じてた、と言う表情を見ると何も言えなくなる。

 

「それよりも、どうだったんだ?その…お前の記憶は」

 

それよりもじゃないだろ。と思ったが、確かにそれが本題なので、さっき思い出した事を全て語った。

 

逃げ回る生活を送って、最後には父親に裏切られたことを。

 

語り終えると、岩沢は涙ぐみ始めた。

 

「なんでお前が泣くんだよ?」

 

「だって…なんで柴崎がそんな奴のために…」

 

ついに我慢が利かなくなって涙が溢れだした岩沢に笑いかけながら指で目元を拭う。

 

「いいんだよ。そのおかげで此処でお前に会えた」

 

「え?」

 

何を言ってるんだ?と言いたげにこちらを窺ってくる岩沢。

 

しかし、それに構わず話続ける。

 

「俺さ、今日お前と離れたら急に不安になって、怖くなったんだ。おかしいだろ?お前と居た時はあんなに平気だったのに」

 

見られなくてよかったと思っていたはずの事を、俺はあえて口にする。

 

俺の気持ちが、より伝わるように。

 

「それでいざ思い出したら、ちょっと空しくなっただけで、何とも思わなかった。…ただ、岩沢に会いたいって、それだけを思ったんだ」

 

俺の台詞を聞いて、岩沢が驚いたように目を見開く。

 

「何で…?」

 

意を決したように訊いてくる岩沢。

 

そして答える。

 

俺の正直な気持ちを。

 

「岩沢が好きだから」

 

やっと出た答えを伝えた。

 

告白されてから、ずっと考えていた答え。

 

本当は、少し前から気づいていた答え。

 

それでもやっぱり自分が何なのか、何者なのか分かるまではと思って口にしなかった答えを。

 

ようやく伝えられた。

 

「好きだから、思い出したらすぐに俺の事を知って欲しくなった。気がついたら走ってた」

 

堰を切った想いは、口にし出すと止まらなかった。

 

「すぐにでも会いたくて、気持ちを伝えたくて」

 

そこまで言って言葉を切った。

 

なぜかというと岩沢の反応がなかったからだ。

 

俯いたまま、黙りこくっている。

 

「岩沢?」

 

「…あたし、今日返事聞けると思ってなかった」

 

俯いたまま喋る声は震えていて、今にも泣き出しそうだった。

 

「柴崎は生きてる頃の事思い出して、それだけで精一杯になるかもって思ってたから…だから朝からずっと心配で…」

 

そうだったのか…ソワソワしてたのは、俺を心配してだったのか…

 

それを俺は、恋する乙女なのだとか、勝手なことを言っていたのか。最低だな、俺。

 

我慢出来なくなってきたのか、1度嗚咽をもらし、またすぐに口を開く。

 

「別れた後も心配で、居ても立ってもいられなくてここに来ちゃって…そしたら柴崎が来て、話聞いたら涙止まらなくて…そしたら次は告白されて…」

 

岩沢の中でも色んなことがぐちゃぐちゃになってしまっているようで、まとまりのない話し方になっている。

 

タイミングミスったな…と思っていると、でも、と1度話を区切り

 

「嬉しい…」

 

そう、言ってくれた。

 

嬉しいと。

 

こんな相手の気持ちも思いやれていなかった、自分のことで精一杯だった奴の告白を。

 

なら、それに応えなくてはいけないだろう。

 

「岩沢。付き合ってくれないか?…お前が好きだ」

 

「こちらこそに決まってるだろ…バカ…」

 

そして俺達は口付けを交わした。

 

 




悩んでいたタグについてですが、残すことにしようと思います。

なぜかというと、あのタグがキッカケで読もうと思ったと言って下さった方が居て、それがとても嬉しかったのです。

意見を下さった皆様、ありがとうごさいました!

感想や評価などお待ちしております。

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