Angel beats! 蒼紅の決意   作:零っち

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先日、ひといずのUAが10000を突破していました!読んで下さった方々、本当にありがとうございます!!


「最高の歌、聴かせてやるからさ」

「…いただきます…」

 

「ん、いただきます」

 

今俺の目の前には岩沢が箸を持ちながら合掌している。

 

なぜこうなったかというと

 

――――――――――――――

 

「あ、俺金ないじゃん」

 

しまった。これじゃ何にも食えないんじゃないか?いや、死後の世界だしそもそも食べる必要があるのか?

 

「どうしたの?」

 

後ろから声をかけられ振り向くと岩沢だった。

 

「いや、腹が空いたから何か食べようかと思ったんだけどな…」

 

「あー、金ないんだ」

 

あっさりと正解されコクリと頷く。

 

「じゃあとりあえず今日のところは奢るよ。食堂行こうか」

 

「奢るって、悪いからいいよ」

 

奢ってもらうという行為が恥ずかしくなんとか抵抗するが

 

「あたしたちはそうそう食券には困らないからいいんだって。行くよ」

 

「ま、ちょっ…!」

 

唐突に手を引かれそのまま食堂まで連れていかれ

 

――――――――――――――

 

今に至るわけだった。

 

結局素うどんを奢ってもらってしまった…(というか、アイツの持ってる食券全部がうどん系だったんだが)

 

「さっきのあれってどういうことだ?」

 

「さっきの?」

 

首を傾げながら問い返してくる。

 

「食券には困らないとかなんとかって言ってたろ?」

 

「ああ。あたしたちはライブをした時にNPCから食券を巻き上げてるから」

 

巻き上げてる…?

 

「カツアゲでもやってんのか?」

 

「違うよ」

 

苦笑しながら手を横に振る岩沢。

 

「ライブが一番盛り上がった時にデカイ扇風機回すんだ。そしたらNPC達がおひねり代わりに手に持ってる食券を風で巻き上げる。それをオペレーション・トルネードってあたしたちは呼んでる」

 

「ああ…」

 

あの時のすごい風はそれか。

 

一人納得しているとチラッとこちらに視線をよこした。

 

「柴崎、もしかしてライブ見てた?」

 

「ん、ああ。人捜してたらな」

 

「どうだった?」

 

なんだよその自信満々ですって顔は。…まあ、そりゃそうか。あれだけ実力あればな。

 

「…凄かった」

 

「凄かったって…どういう風に」

 

抽象的な感想が気にくわなかったようだ。

 

「お前の歌…力強いしめちゃくちゃ上手いし、なんていうか…」

 

「なんだよ?」

 

急に言葉に詰まった俺を不思議そうに見つめてくる。

見惚れてた、とは言えないしな…。

 

「とにかく、凄かったんだよ!以上!」

 

言い逃げの形になってそっぽを向く俺を見てクスクスと笑っている岩沢。

くそ、自分の語彙の少なさに悲しくなる。

 

「じゃあさ、他のメンバーにも会っとく?」

 

「ガルデモのか?」

 

「そう」

 

「そうだな。ちょっと会ってみたい」

 

「なら行こうか」

 

ごちそうさまと言い席を立った岩沢を追いかけるように俺もごちそうさまと言い残し席を立った。

 

 

 

「あ、岩沢さーん。あれ、そっちの人誰ですかー?」

 

ガルデモのメンバーに会わせるということで、いつも練習しているらしい空き教室に案内され、岩沢の先導で入っていくと金髪で活発そうな女の子がいた。

 

「コイツは柴崎。新しく入隊したから連れてきた」

 

「そうなんですかー!やあやあ新入り君!あたし関根しおり。ガルデモじゃベースやってるんだ。よろしくね!」

 

「よろしく、関根」

 

テンション高いな。ゆりも入隊決めた時は高かったがそれとは違うベクトルで高い。

 

「ふーん。コイツが新入りか。珍しいね、岩沢がわざわざ連れてくるなんて」

 

今度は茶色の髪をしたポニーテールの少女が話に加わってきた。

 

「そう?」

 

「そうだよ。あんたいっつも音楽以外興味持たないじゃん。

コイツ、何か音楽でも出来んの?」

 

「さぁ、記憶ないみたいだし無理なんじゃない?」

 

確かに俺は何か音楽をやっていたのかなんてまるで覚えていない。

そしておそらく出来ないだろう。なんとなくだけどそんな気がする。

 

「そりゃいよいよもって珍しいな…音楽キチの岩沢が…」

 

「音楽キチ…」

 

なるほど…天然じゃなく音楽キチだったのか…なんだか今すごく納得した。

 

「ふーん…」

 

「な、なんだよ?」

 

俺を値踏みするようにじろじろと視線を送ってくる。つか、胸デカイなおい…。

 

「いやー、別にー?

あたしはひさ子。ガルデモのリードギターやってる。よろしくな新入り」

 

「お、おう…」

 

なんなんだ…?ニヤニヤして…。

 

「おい入江ー。お前も挨拶しろよー」

 

ひさ子が後ろを振り返り声をかけると、ドラムに隠れていた人影がビクッと反応した。

 

「みゆきちー!人見知りも程々にしないとー!ほらこっち!」

 

「しおりん~、わかったから引きずらないでよ~」

 

薄めの紫色のような髪の少女が関根に引きずられながら連れてこられた。

他の3人と打ってかわって内気そうでどことなく小動物を彷彿とさせる。

 

「あの、その…入江…みゆきです」

 

「よ、よろしく…」

 

まっっったく目を合わせようとしてくれない…。

 

「柴崎くんゴメンね~。みゆきちすっごく人見知りなんだ~」

 

「これ、その内馴れてくれるのか…?目すら合わないんだが…」

 

「大丈夫大丈夫~、いつもの事だから」

 

あはは~、と笑いながら関根がフォローしてくれるが、打ち解けれるのかこれ…。

 

「で、岩沢?まさか挨拶するためだけに柴崎をここに呼んだわけじゃあないんだろ?」

 

「ふふ、さすがひさ子。よくわかってるじゃないか」

 

岩沢は言いながら、立て掛けてあった、エレキギターを手に取り、構える。

それに続くようにひさ子はギターを、関根はベースを構え、入江はドラムを前に腰掛け、スティックを構える。

 

「さぁ、派手にやろうぜ!」

 

 

 

「すげぇ…」

 

演奏が始まり数分、俺は呆気にとられ呆然としていた。

前に見た時は只々岩沢の迫力というか、存在感のようなものに見惚れていたから気づかなかったが、他の3人もかなりの腕前なのが素人目にもわかる。

 

入江なんてさっきの人見知りしていた女の子と本当に同一人物なのか疑いたくなるほどだ。

 

ひさ子はもう指の動きかたが尋常じゃない。どうしたらそんな動きが可能なんだと思うくらいだ。

 

関根もかなり上手いことは見ていてわかるんだが…先ほどから何度も何度もひさ子から睨まれている。…何をやっているんだろう?

 

そして、それら全てが岩沢というボーカルを引き立たせているのがわかった。

 

「これが、ガルデモ…」

 

この4人のチームワーク、NPCがあれだけ騒ぐ気持ちがよくわかった。

 

 

 

「どうだ?Alchemyって言うんだ今のは」

 

「いやなんていうか、凄かった…」

 

「また凄かったかよ」

 

口に手を当ててクスクス笑う岩沢にうるせえよ、とぶっきらぼうに言う。

 

「つーか柴崎、お前岩沢見すぎだ」

 

「はぁっ?!」

 

ひさ子の爆弾発言に俺はかなり大きなリアクションをとってしまう。関根はそれをみてきゃーとか言ってるが気にしてられない。

 

「バカか?!ちゃんと皆見てたろうが!」

 

 

「いーや、お前ずーっと岩沢に見惚れてたって」

 

「くっ…」

 

「なんだ?あたしなにかミスってたか?もしかして音外してたか?」

 

「いやいや岩沢さん。そりゃないっすわ…」

 

いや、確かに昨日のライブの時は岩沢以外目に入ってなかったけど…。今回はそんなことはないはずだ。

ていうか岩沢、音楽キチにも限度があるぞ。

 

「そりゃ岩沢はボーカルなんだから一番視線がいくだろ」

 

「わかったわかった。そういうことにしておいてやるよ」

 

そう言ったひさ子の表情には勝った、と書いてある、が、俺は本当の事を言ってるのに何故負けてるみたいになってるんだ?

岩沢はそれをみて頭の上にハテナマークを浮かべてるし。

 

「なんだ?何かミスがあったなら教えて欲しいんだけど。次のライブまでに出来る限りのことやりたいし」

 

「岩沢さ~ん。確かにあたしたち音楽キチな岩沢が好きですけど、さすがにそれは女子としてどうなんでしょう…」

 

「え、なに?あたし何かした?」

 

関根に呆れられているが全くその内容が理解できないようだ。

 

「ま、岩沢にその気はなさそうだしな~」

 

その様子を見ながらひさ子がうしし、と笑いながら言ってくる。

 

「別に俺にだってねえよ」

 

「なにもしかしてそれ本気で言ってんの?」

 

ようやく俺が本気で言ってる事が伝わってきたようだ。

 

「本気も何もないだろ?何でそんな不思議そうにしてるんだよ?」

 

「照れ隠しじゃなくてか?」

 

「そうだって言ってるだろ」

 

俺の言葉を聞いてひさ子は額に手を当ててコイツもかよとかなんとかぼやいている。

 

「第一、記憶がないのにそんなこと言ってられるか」

 

名前しかわからないのに愛とか恋とかがわかるわけないだろ。

 

「はぁ、どうやらマジで言ってるみたいだな…」

 

「やっとわかったのか」

 

「なんでお前がやれやれみたいになってんだよ…」

 

だって誤解してたのはひさ子だしな。

 

「なんだかよくわからないけど、とりあえずあたしたちのことは気に入ってもらえたみたいで良かったよ」

 

「ああ、お前たちの歌、すげえ好きだよ。昨日聴いたのも、今日のも」

 

「サンキュ。連れてきた甲斐があったよ」

 

やはり、岩沢は俺とひさ子の口論の内容はこれっぽっちも理解してないみたいだ。

結局“自分たちの音楽がどうだったか”それだけがコイツにとって大事なんだっていうことなんだろう。

 

「そうだ関根、ちょっとうやむやになってたけどアドリブひどすぎ」

 

「ホントだぜ。合わせるこっちの身にもなれってんだよ」

 

「え~そんな~。練習の時くらい試してみたっていいじゃないっすか~。ね、みゆきち?」

 

「いや、ダメだよしおりん。しおりん本番でもやるじゃない」

 

だからこんな風に、岩沢が音楽の方向に話を傾けると皆今までの話題そっちのけに話に熱中するんだろう。

 

「がーん!うう~!あたしに合わせられないひさ子さんが悪いんじゃ~!!」

 

「んだと関根!待てこら!」

 

「しおりん、ちょっと待ってよ~」

 

悪態をついて飛び出していく関根。それを追いかけるひさ子と入江。

 

「お前は行かなくていいのか?」

 

「いつもの事だからね。ああいうのはひさ子に任せとけば大丈夫」

 

ふ、と微笑んでいる岩沢は、昨日のライブとも、ましてや屋上の時とも違った表情をしていた。

きっと、どこよりも落ち着ける岩沢の居場所なんだろう。

 

「また…来てもいいか?」

 

何を言ってるんだ?みたいな表情で見てくる岩沢。

 

「何を言ってるんだ?」

 

いや、マジで言われたし。

そんなにダメだったか?

 

「いいに決まってるだろ。いつでも来な、最高の歌、聴かせてやるからさ」

 

そっちかよ…。

安堵と呆れの両方の感情が入り交じっているが、とりあえず出来る限りの笑顔を向け、その言葉に答える。

 

「おう。楽しみにしてる」

 


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