Angel beats! 蒼紅の決意   作:零っち

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「えっと…すごく頑張れ」

――――ジリリリリリッ!

 

けたたましく鳴り響く目覚まし時計で、眠っていた意識が無理矢理起こされる。

 

当然鳴っているそれを止めるのだが、止めてからふと思う。

 

あれ?目覚ましが鳴ってる…いつもなら遊佐が目覚ましよりも先に起こすのに…寝坊したのか?

 

「柴崎さん」

 

そこまで考えてから唐突に後ろから声をかけられる。

 

ああ、なんだやっぱり居たのか。

 

そう思ったが、どこか違和感を感じた。やけに声が近いのだ。

 

まるですぐ後ろから声が聞こえたような…

 

「正解ですよ」

 

「な、何やってんだ遊佐?!」

 

後ろを振り返ると俺の布団に潜り込んでいる遊佐の姿があった。

 

しかもかなりの密着度。

 

「すみません。寒かったもので」

 

「暖房入ってるはずなんだけど」

 

「いえ心が」

 

「それ物理的に引っ付いて解決出来る事じゃなくね!?」

 

ていうか心が寒いって昨日の今日で何があったんだよ!?

 

「こうしていると心が暖かくなるので大丈夫です」

 

そう言ってさらにすり寄ってくる。

 

いやいや、つーかなんで俺に引っ付いてたら心暖まるの?意味分からねえんだけど?

 

いや…それよりももっと深刻な問題が1つ出てきてしまった。

 

む、胸が当たってる…!

 

しかもコイツは着痩せするタイプなのか分からないが、見た目以上に…デカイ…!

 

あまりにも心地いい2つの感触が背中を覆っていて動けない!

 

まあ、生理的なものも起因しているのだけど…

 

「ゆ、遊佐さん?」

 

「なんでしょう?」

 

ずいっと更に押し付けられる双丘。

 

「離れてくれると嬉しいんだけど…」

 

「なぜでしょう?」

 

更に更に強く押し付けられる。

 

こ、コイツわざと…!

 

「当たってる…というか…」

 

「何がでしょう?」

 

何なのコイツ5W1Hしか喋らないようになってるの?

 

「む、胸…」

 

「はい?」

 

どうやらつくづく羞恥プレイがお好みのようだ。

 

「む・ね・が当たってんだよ!!」

 

俺はヤケクソになって叫ぶ。

 

しかしすぐに返事は返ってこず、妙な間が空いた。

 

はっ…ヤバイ…!

コイツの事だからセクハラですとか言ってまた職員室行きにされる…!

 

「…当ててるんですよ?」

 

薄っすらと顔を紅色に染めながらそう言うとすぐに離れてベットから出ていく。

 

「では待ってますので早く御仕度を」

 

そしてそのまま部屋を跡にした。

 

…え?

 

いやいや、何?今の。

 

また何か企んでるとか?あーそうだなきっとそうに違いない。

 

やけにすんなり止めたのだって後々の為の布石だろ。

 

俺も学習してるんだぜ?ったく、いつまでも昔のままの俺だと思うなよな。

 

ふぅ、危うくまた騙されるところだったぜ。

さあ、さっさと着替えるとするかぁ。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は天使のテストが0点という噂が流れてる件についての集合なんですよ」

 

「そ、そうか」

 

あの後すぐに支度して寮を出て遊佐と二人で校舎に向かっているんだが……やけに距離が近いような…

 

気のせいなのか?

いやでも今まではバリアでも張っているかのように一定の距離をとっていたんだけどなぁ。

 

もしかして何か仕掛けてくるかと思って身構えていたのに、未だにそれらしき動きは無いし…

 

「あの、話聞いてますか?」

 

「あ、ああ聞いてるとも。日経株価の話だったか?」

 

「この世界に株なんてありませんよ」

 

「そ、そうだよな。何の話だったっけ?」

 

い、いかん。全く集中出来てない…

 

誰かこの状況を壊してくれる奴は居ないのか…?

 

「柴崎!…と遊佐?」

 

神は俺に味方してくれたようで、声の方向を見やると…何故か少し不機嫌そうな目付きをした岩沢が。

 

あれ?何で怒ってるんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

「「「…………………」」」

 

…気まずっ!!

 

岩沢は俺と遊佐を見るなり遊佐と同じかそれ以上に近い距離にポジションを取っている。

 

端から見ればまさに両手に花状態で羨望と憎悪の対象なのだろうが、その中心にいる者から言わせて貰えれば只々気まずい。

 

なぜなら二人はお互いがお互いを牽制しながら火花を散らしているのだ。間に挟まれた俺はいつこんがり焼かれるかと冷や冷やしている。

 

コイツらってこんなに仲悪かったっけか?確か遊佐はガルデモのファンだったはずだけど…

 

「遊佐はそろそろいつも通り屋上にでも行って監視してたらどうだ?」

 

「いえいえ、せっかくですから今日は校長室までお見送りさせてもらいますよ」

 

表面上は何気ない会話なのに何故だろう、嫌な汗が止まらない。

 

「大丈夫ですか柴崎さん?汗がひどいですけど」

 

そう言って遊佐はポケットからハンカチを取りだし俺の額の汗を拭ってくれた。

 

「あ、ああ悪いありがとな」

 

「いえ、こちらこそごちそうさまです」

 

「え?何が?」

 

「こちらの話です」

 

俺は何もごちそうしてないんだが…

 

「柴崎、何デレデレしてんの」

 

「へ?し、してないだろ!デレデレなんて!」

 

俺としてはただ戸惑っていただけだったんだけど…

 

何もしていないのに片や感謝され、片や怒られ意気消沈しかけたその時、前方に大山が一人で歩いている姿があった。

 

「あ、あーー!大山!そうだ俺は大山と大事な話をしなければならないんだった!それじゃあ二人ともまた後でな!」

 

我ながら下手クソすぎる言い訳だった。

 

「よう大山」

 

「あ、柴崎くんおはよう…って、何あれ!?後ろの二人からただならぬ殺気が見えるよ!」

 

「それが俺にも分からなくて困ってんだよ…」

 

俺が何をしたってんだよ神様…

 

 

 

 

 

 

 

「ついに流れ始めたわ」

 

いつものメンバーが集まると唐突に話始めるゆり。

 

「何が?」

 

俺は先に遊佐から天使のテストの件だと教えて貰っていたので理解出来たが、他のメンバーはもちろん知らないので聞き返す。

 

「天使のテストが0点の噂が」

 

「なにぃ!?」

 

「それも解答全てが教師をバカにしたようなものだってね」

 

その言葉を聞いた時、昨日の悟ったような悲しげな天使の表情が浮かんだが頭を振ってそれを打ち消す。

 

ったく、敵に同情してどうする…第一相手は人間ですらないってのに。

 

「バカにしたって…お前ら一体何やってたんだ?」

 

「飛んだり錐揉み飛行したり、しまいには窓から飛び去ったさ」

 

俺が居なくなってからもまだ飛びまくってたのかコイツら…

 

「まあ、若干1名逃げたした人も居たけれどね」

 

他人事のようにそんなことを思っていたらキッチリゆりから非難の視線が飛んできた。

 

もちろん反省はしてます。ただし同じことが起きたらきっともう一度同じをするけどね。

 

「話が逸れたけど、今日はその件について全校集会があるから見に行くわよ」

 

 

 

 

 

 

 

ゆりに連れられて体育館に着くと既に集会は始まっていた。

 

舞台上には校長や教頭を筆頭に数名の教師と、天使の姿があった。

 

『えー、この件によって、立華くんの生徒会長の辞任を発表させてもらいます』

 

「そう来たか」

 

名前も知らない教師がタイミング良く天使の去就を語ってくれていた。

 

しかし、辞任ってちょっと重すぎないか…?

 

そう感じていると後ろから思わず溢れたというような小さな声で音無がそんな…と言っている声が聞こえてきた。

 

音無は正義感の強い奴だから自分達のした行為で貶めてしまったことがショックだったのかも知れない。

 

『えー、そして今後はこの副会長の直井くんが生徒会長代理として活躍してもらいます』

 

舞台上では教師に紹介された生徒が丁寧にお辞儀をしているところだった。

 

「さあ、生徒会長という大義名分を失った天使に何が出来るかしら?今夜一九⭕⭕、オペレーション・トルネード決行よ!」

 

 

 

 

 

 

 

そして時間が流れ現在19時少し前。

 

「うぅぅ~、緊張しますよ先輩~!」

 

あと少しでライブが始まる時間に差し掛かると流石にプレッシャーを感じ出したらしいユイが泣きついてきた。

 

「おいおい、俺に言われたって何も出来ねえぞ」

 

ライブなんてしたことがないはずの俺に緊張の解し方なんて分かるはずもない。

 

「そこは何か良い感じの台詞をくださいよぉ~!ユイにゃん心臓が破裂しちゃいそうなんですからぁ!」

 

そう言われても…

 

このままバックレてしまおうかと考えた所で良い事を思い出した。

 

「わかった。日向にユイの勇姿をちゃんと見とくよう言っといてやるよ」

 

「ちょ、ちょちょちょちょっとぉ!何でひなっち先輩が出てくるんですか!?」

 

俺の言葉を聞いた途端顔から火が出るという言葉通りに顔を真っ赤にするユイ。

 

ていうかバレてないと思ってたんだな。バレバレだっつーのに。

 

「別にぃ~?仲が良いから言っただけだけどぉ~?何かやましいことでもあるのかね~?」

 

「な、無いに決まってんだろぅがボゲェェェ!!」

 

「ぐほっ!」

 

どうなら弄りすぎたようで、顔を真っ赤にしたまま俺の脇腹に回し蹴りを喰らわしてどこかに走っていってしまった。

 

まあでもこれで緊張も解けただろ。うん。

 

「あんまりいじめてやるなよ柴崎。初めてで緊張してるのに」

 

俺とユイのやりとりを見てたようでクツクツ笑いながら踞る俺に岩沢が話しかけてくる。

 

「逆だろ。緊張してたから解してやったんだ」

 

「物は言い様だね」

 

首を竦めてやれやれといった表情を浮かべている。

 

「…あたしも緊張してるんだけど、解してくれる?」

 

「ほ、解す…?」

 

何故だろう…岩沢に言われると急に何だかイケない意味に聞こえてきた!

 

「が、頑張れ」

 

「それだけか…?」

 

「えっと…すごく頑張れ」

 

「ちょっと、語彙が少なすぎない?」

 

まさかあの岩沢にそんなことを言われてしまうとは…

 

違うよ?咄嗟に出てこなかっただけで本当はもっとバリエーション豊富だから。いやマジで。

 

「まあいいよ。すごく頑張るさ。そろそろ時間でしょ?行かなくていいの?」

 

「ああ、そうだったな。行ってくる」

 

今日は戦闘部隊の面子に入れられていて、日向達に合流しなきゃいけないんだったな。

 

ずっとライブを見てられないのは残念だけど、まあしょうがないよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おせーぞ柴崎ぃ」

 

「悪い悪いちょっと話し込んでて」

 

結局見張り場所である屋上に着いた時には時間を少し過ぎてしまっていた。

 

「ったーく、また岩沢か?」

 

「あー、まあ岩沢もだけど、ユイともちょっとな」

 

「ユイ?あー、そういや今日デビューなんだっけ?」

 

「なんだユイから聞いてたのか?」

 

だったらあんなに慌てなくて良かったんじゃねえか?ユイのやつ。

 

「いや、噂で聞いただけだよ。アイツ大事な事はちっとも話さねえからなぁ。いらん事はやたら言ってくるくせに」

 

なるほど。そりゃあのガルデモの新メンバーになるんだから噂くらい出るわな。

 

「恥ずかしいんだよ。分かってやれ」

 

日向のふて腐れたような言い方が少し面白くて笑いがこぼれる。

 

「わかってるよ」

 

俺の言い方が悪かったのか、さらにふて腐れた日向を見てまた笑ってしまった。

 

「まあ、幸いここでも歌は聴こえるんだ。しっかり聴いて感想でも言ってやれよ」

 

「だから分かってるっつーの。もう良いからちゃんと見張ろうぜ。天使に邪魔されたら何にもならねんだから」

 

それもそうだな、と言葉を返すと同時に、来た!とインカムから声が聞こえてきた。

 

「天使か!」

 

食堂の入口方向に視線を向けると、少し離れた所に天使が歩いている姿が見えた。

 

しかし、その姿はなんだか少しもの悲し気で、何か確固とした目的があって来たようには見えなかった。

 

「よーし、ガードスキルをやられる前に、と」

 

日向が未だ狙われている事に気がついていない雰囲気の天使にライフルの照準を合わせると

 

「待て!打つな!」

 

それを制止させる為に音無が叫んだ。

 

もしかして音無も何か感じ取ったのかも知れない。

 

「何で?!」

 

「分からない…けど、なんていうか、アイツはたまたまふらっとやって来た。そんな気がするんだ」

 

やっぱり音無も同じことを思ったみたいだ。

 

「日向、俺も音無と同じ意見だ」

 

「柴崎まで…はぁ、どうなっても知らねえぞ?」

 

「すまん。俺から遊佐に連絡しておくから。お前は先に降りてユイの晴れ舞台でも見てやってくれ」

 

一方的に巻き込んでしまった日向に謝罪を済ましてインカムを遊佐に繋ぐ。

 

『はい。あなたの心のアイドル遊佐です』

 

「間違えました」

 

どうやら繋ぐ相手を間違えたみたいだ。同姓同名だが気にしないでおこう。

 

さて、繋ぎ直し繋ぎ直し。

 

『間違えてませんよ。あなたの心のシンデレラ遊佐です』

 

「俺の心にシンデレラもアイドルも居ねえよ」

 

『岩沢さんは?』

 

「…ノーコメント」

 

『…ずるいです』

 

何と言われようが逃げも戦術の内。文句は言わせない。

 

何故岩沢の名前が出てきたかは置いておこうそれよりも本題だ。

 

「天使がそっちに向かった」

 

『…何故止めないのですか?』

 

一拍間が空いたのは、純粋な驚きからかそれとも先日の動揺を引きずってなのか、俺には分からなかった。

 

まあ、今は関係ないよな。

 

「敵意を感じなかった。多分手出しはしてこないけど念のため報告だ」

 

『…そうですか。了解です。その場で待機して、ライブ終了後、いつも通りこちらに合流してください』

 

「了解」

 

連絡を終えてインカムを切る。

 

「OKだ。とりあえず皆に合流しよう」

 

「分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達が下に降りると丁度ライブも終わって客も散っていているところだった。

 

「あー!柴崎先輩どうでしたどうでした!?あたしの初ライヴ!」

 

目敏く俺が居るのを見つけたユイがすっ飛んできた。

 

ブの発音うぜぇ…完璧に舞い上がってやがるな。

 

「俺よりも日向に訊いたらどうだ?きちんと見ててくれたみたいだぞ?」

 

日向のいる方を指差して言ってやると急に目が泳ぎだした。

 

「へ?い、いやいや~そんなひなっち先輩ごときの意見なんて別に…」

 

「おーい日向ぁ~ユイがお前に褒めてもらいたいってよ~」

 

「ちょぉっとぉ!何言っちゃってるんですかぁ?!」

 

素直じゃない奴には天罰を与えないとな。人為的にな。

 

「はぁー?…しゃあねえなぁ、こっちこいユイ」

 

俺の言葉を聞いて渋々といった体で手招きをしている。

 

「え?え?…あたし?」

 

「お前以外誰が居んだよ。早くこい」

 

「…はい」

 

見てるこっちが恥ずかしくなるような甘い雰囲気を残して二人は席を取りに行った。

 

ちっ…リア充め…羨ましい。

 

まあいいさ、さっさと俺も飯を食おう。

 

「柴崎、向こうが空いてるぞ」

 

「おう」

 

音無が空いてる席を見つけてくれたようだ。

 

さあ虚しさは食でカバーだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

音無を向かい合う形で席に座っているのだが、俺は今絶句することを禁じ得ない。

 

なぜなら本来音無の目の前に置かれている皿には思わず食欲をそそられる匂いと色をした麻婆豆腐が盛られているべきであるのだが、今俺達が目にしているのは余りにも禍々しい赤色と嗅ぐだけで涙目になるほどの刺激的な匂いを発している謎の物体だからだ。

 

ちなみに今日の俺のメニューはカツカレー。

 

「…おい、それ何だ?」

 

「いや、麻婆豆腐…だろ?きっと」

 

食堂のおばちゃんに渡すときに見た麻婆豆腐の食券は見間違いではなかったらしい。

 

「それ食べるのか?」

 

「しょうがないだろ。取っちまったんだから」

 

そうは言ってもとても食えたものじゃなさそうなんだけど…

 

「ええい南無三!」

 

「い、いきやがった!」

 

止める暇もない速度で謎の物体を頬張った音無。

 

「ぐぅぅぅ、一口で激辛…!し、舌がぁ…あれ?でも後から来るこの深い味わい…うまいぞこれ!」

 

「舌がどうにかなってるのにうまいか分かるのか?!」

 

舌がおかしくなって味覚があべこべになってるだけなんじゃないか?

 

「食ってみろよ柴崎も!」

 

「はぁ?!嫌だよ!」

 

一口で口が真っ赤になってる奴を見てから食うとかどんなドMだよ…

 

「結構上手いんだけどなぁ」

 

「その口じゃ説得力0だぞ」

 

たらこ唇になってるじゃないか。

 

「それ、天使のよ」

 

「え?」

 

俺達のすぐ後ろで食事をしていたらしいゆりが話しかけてきた。

 

「今日のライブの最中に買ってたの。まあ、巻き上げられてしまったのだけれど」

 

殊更に嫌味のような口調になっているのはきっとゆりが罪悪感を感じているからだろう。

 

「…好物、なのかな?」

 

音無がゆりの言った言葉を聞いてぼそっと呟いた。

 

きっとそれは正しいのだと思う。

生徒会長という職を貶められ、失意の中好物を食べるためにふらっと食堂にやって来た…そんなところなんだろう。

 

「そうかもね」

 

ゆりはそう言って振り返っていた体勢を元に戻した。

 

会話は終了ということだ。

 

ゆりにも色々と思うところがあるんだろう。

 

「アイツ、仲間になれないかな?」

 

「アイツって、天使か?」

 

「そうだよ。今のアイツは生徒会長でもなんでもない只の生徒だ。なら仲間になれるんじゃないか?」

 

そうか、それもありかも知れない。

 

そう思った瞬間

 

「はぁ?!冗談じゃねえよ!今までアイツに何人やられたと…いや、死んでねえんだけど…とにかく、どんな目に合わされてきたか!」

 

藤巻に猛反対され、更に周りの奴らにもそうだそうだと否定されてしまった。

 

こんな考えはやられた経験の少ない俺達だからなのかもしれない。他の皆はものすごく長い期間争ってきたのだから。

 

「ダメみたいだな?」

 

「ああ」

 

お互いに考え無しな発言だったなと苦笑し合うことしか出来なかった。

 

でも、いつかきっと分かり合えるような気がする。根拠はまるでないけど。

 

「何者だ貴様ぁ!」

 

食事を再開しようかとスプーンでカレーをつついた時、入口方面から怒声が聞こえてきた。

 

声の主はどうやら野田のようで、相手は…誰だ?

 

「貴様ら、何をしてる?」

 

「食事だけど?」

 

学生帽を被った少年の問いにゆりが返すと、少年は忌々しげな表情を浮かべだす。

 

「今は既に食事の時間は過ぎている。罰として反省室に来てもらおう」

 

「なっ?!滅茶苦茶だろそんなの!」

 

つい思ったことを言葉に出してしまうと、少年はこちらを思いきり睨んでくる。

 

やるか…?コイツ。

 

「柴崎くん。大人しく従いなさい」

 

「え?…わかった」

 

よく考えれば相手はNPC。手は出せない。

 

でも、コイツ本当にNPCなのか…?

 

「連れていけ」

 

そんな疑問など知る由もない少年は後ろからぞろぞろと現れたNPC達に顎で命令する。

 

くそ…どうなってんだ一体…

 

疑問や苛立ちを抑え、俺達は反省室に連れて行かれた。

 

 




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