Angel beats! 蒼紅の決意   作:零っち

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「言って欲しかった…」

「ついにこの時期が来たわ…!」

 

いつも通りゆりによって校長室に集合し、カーテンを閉めたり電気を消したりとやたらと雰囲気を作ってから静かに、しかし力強く言葉を発するゆり。

その様子から今回はとても重要な作戦が行われることが予想される。

 

「何が始まるんだ?」

 

他のメンバーはおおよそ見当がついているのか、誰も質問せず話が進んでしまいそうなところを音無が挙手して回避する。

 

「天使の猛攻よ…!」

 

「天使の…猛攻…?」

 

衝撃的なフレーズを聞かされ思わずオウム返しをしてしまう。

 

しかし、天使の猛攻って一体…?

 

「テストよ…!」

 

尚も真剣な空気を纏いながらゆりはそう言った。

 

「………は?」

 

「だから、テストよ!」

 

聞き間違えのかと思い聞き返すとやはり同じ答えが返ってきた。

 

テスト…って、あの所謂学生が普段の勉学の成果を発揮する勝負の場とも言えるあのテストのことか?

 

「それが何で猛攻?」

 

音無も納得がいってないようで、更に問いを重ねる。

 

「考えてみれば分かるでしょう。天使の役目は私たちを普通の学園生活を送らせること。ならば当然テストを受けさせることも必要なのです」

 

理解が出来ていない俺達に高松が少しトゲのある言い方ではあるが分かりやすく説明してくれる。

 

「ま、そういうこと。そして今回あたしたちはある作戦を決行する」

 

「作戦?」

 

言い終わり、ニヤリと不敵な笑いを浮かべるゆり。

 

「ええ。この作戦が成功すれば天使の立場は失墜する…!」

 

「そ、そんな作戦が?!」

 

自信にみなぎっているゆりの台詞に皆のボルテージも徐々に上がっていく。

 

「天使の答案に細工して全教科0点を取らせる!」

 

今までの期待感を利子をつけて返してほしいくらいセコい作戦だった。

 

そもそもそんな作戦が出来るんならもっと早くやっておけよ。

 

「既に天使と同じ教室でテストを受けられるように根回しも済んでるわ」

 

俺の心の中のツッコミなんていざ知らず、未だに自信満々に話を進めていく。

 

「なら全員戦線で固めちまえばいいんじゃねえか?」

 

「じゃねえか?じゃないわよ!この作戦は失敗が許されないのよ!」

 

いや、どの作戦も失敗したらダメだろう。

 

「いや、そもそも答案に細工なんてどうやってもバレるんじゃ?」

 

「そ・こ・は任せておきなさい!ちゃーんと秘策を用意してあるわよ」

 

またもニヤリと張り付いたような笑みを浮かべるゆり。

 

嫌な予感しか漂って来ない…

 

「ということで今回のメンバーを発表するわよ」

 

どうか俺だけは選ばないでくれ…!

 

俺に出来ることはただ願うことだけだった。

 

「日向くん」

 

「あいよ」

 

セーフ

 

「大山くん」

 

「僕ぅ?!」

 

スマン大山、生け贄になってくれ!

 

「高松くん」

 

「私ですか」

 

いい調子だ

 

「竹山くん」

 

「クライストとお呼びください」

 

このまま終わってくれ…!

 

「音無くん」

 

「また俺か?」

 

頼む…!

 

「最後に柴崎くん」

 

「ちくしょう!」

 

俺の願いは叶うことなく、作戦のメンバーに選ばれてしまった。

 

「なんで俺なんだよ!?」

 

「見た目が普通なのを選んだだけよ」

 

「なら目付き悪いのに俺を入れるなよ…」

 

人選ミスだろ…ていうか自分で目付き悪いって言うのって意外とヘコむ…

 

「はいはい。終わったことにいつまでもグチグチ言わないの」

 

「くそ、俺ももっと個性が強ければ…」

 

ハルバートとか持っておくべきだったかな…

 

「若干1名がブツブツうるさいけど、まあそういうわけだから皆頼むわよ。

オペレーションスタート!」

 

 

 

 

 

 

 

「皆、あそこを見なさい」

 

テストを受けるため、もとい、天使の邪魔をするために教室に移動し、ゆりは天使が座る席を指さしながらそう言った。

 

天使の席は右端の前から2番目で、密かに細工をするには適していると言えるだろう。

 

「ここのテストは席をくじ引きで決めるの。だから天使の前後左右、どこでもいいから近くの席を引きなさい」

 

相変わらず俺達ではどうしようもない事を強制してくる。

 

無茶ばっか言うなよな…

 

「だぁー駄目だ」

 

「あはは、僕も」

 

「俺もだ」

 

「同じく」

 

「私もですね」

 

案の定ことごとく天使から離れた席ばかりを引き当てていく。

 

「なにやってんのよ!まったく…!見ておきなさい!」

 

不甲斐ない俺達に憤慨しながらドカドカとくじ引きの箱に近づいていくゆり。

 

そして荒々しくくじを引くと

 

「やったぁー!一番よぉー!って何でよ!このっこのっ!」

 

一番と書かれたくじを高らかに掲げて見事な笑顔を見せたかと思うと、鮮やかにノりツッコミを決めてくじを床に叩きつける。

 

「もうっ!誰か居ないの?!せめて斜めでもいいのよ?!」

 

「天使の前です」

 

半ば諦めかけていたその時、何時の間にやらくじを引いていたらしい竹山がさらりと前の席という絶好のポジションを手に入れていた。

 

「本当に?!よくやったわ竹山くん!」

 

「僕の事はクラ「さぁ、じゃあ作戦を説明するわよ!」

 

ドンマイ。クラ…竹山よ。

 

「ここのテストは答案用紙を後ろから前に流していく方式になっている。

そこで、竹山くんにはあらかじめ答案用紙を2枚持ってもらうわ。そして、適当な答えを書いたその用紙と天使の物とすり替えて提出する」

 

「それは流石にバレるんじゃ?」

 

テストということは当然教官役の教師が見張っているのだから、答案をすり替えるのは容易ではないはずだ。

 

「そう。だから誰かに気を引いてもらう囮を行ってもらう」

 

ゆりは自信有り気に人差し指をピンと立てて笑顔を浮かべる。

 

嫌な予感が再度沸き上がってくる。

 

「それってどんな風に?」

 

「そりゃもちろんクラス全員と教師が思わず目を引かれるようなものをしてもらうわ。それは一発芸だろうがなんだろうが構わないわ」

 

それは要するに自分で考えろということだろう。

 

無茶ブリが過ぎるだろう…

 

「そうねぇ、一発目は日向くん!あなたよ!」

 

「えええぇぇぇ!?なんで俺ぇ!?」

 

指名されてしまった日向は頭を抱えて抗議する。

 

「昔から居るしこういうのにも慣れてるでしょ?」

 

「なんでそんな当たり前でしょ?みたいな言い方なの?Why?!」

 

「え、なにそれ?流行らせたいの?流行ってないわよ?」

 

「だからただの口癖だよ!!」

 

日向の必死の抗議も、ゆりには響かずサラリと話題をすり替えられている。

 

ていうかだからって、もう何回もこのくだりをやってるのかよ…

 

「あの、天使の答案には何と書いておけば?」

 

「んー。教科は?」

 

「化学です」

 

「なら将来の夢を適当に書いておいて。イルカの飼育員ーとか飛行機のパイロットーとか」

 

そ、それはとんでもない珍解答になってしまうのでは…

 

「名前の欄には何と?」

 

「…しまったぁぁぁ!天使の名前がわからない!」

 

「何で敵の名前を知らないんだよ!?」

 

「しょうがないでしょ知る機会がなかったんだから!」

 

致命的なミスを犯しているリーダーにツッコミを入れると凄い勢いで逆ギレが返ってきた。

 

「天使でいいんじゃない?」

 

「いやダメだろう…」

 

「ああもう!音無くん!ちょっと職員室まで行って名簿見てきて!」

 

「はぁ?!何で俺が?!」

 

「会話に参加してないからよ!」

 

らちが明かない状況になり、ゆりは途轍もなく理不尽な理由で音無に命令する。

 

音無は、ったくと納得がいってはいないが渋々早足で職員室に向かい始めた。

 

すると、扉を開けて教室を出ようとした時に天使に呼び止められてしまった。

 

予想外の展開に音無もギョッとして狼狽えている。

 

「おいおい大丈夫なのかよ?」

 

「大丈夫よ。天使は何か問題を起こさない限り安全だから」

 

その言葉の通り音無はしばらく天使と会話を交わしている。その表情は心なしか少し柔らかいものに変わっている。

 

「立華奏」

 

会話を終えて戻ってきて早々にそう告げる音無。

 

「ああ、そんな名前だったわね」

 

「知ってたんじゃねえか!」

 

「忘れてただけよ!」

 

口論を始めた二人をなんとか鎮めた時にはもうテスト開始の時間だった。

 

 

 

 

 

 

もうあと数分でテスト終了のチャイムがなる時間だ。

 

問題?解こうとしたってまるで解けませんでしたけどなにか?

 

しかし、日向はどうするつもりなんだ?

 

教師にバレないように日向の方を窺うと、深刻な面持ちで俯いている。

 

そして、日向の運命を決める鐘が響いた。

 

「よーし、それじゃあ答案を前に送れー」

 

教師の指示にNPC達が答案を前に送り出す。

 

すると、ガタッと椅子が動く音が響き

 

「あぁぁぁ!校庭にもの凄い勢いで伸びるタケノコがぁぁ!!」

 

唐突に立ち上がり窓の外を指差して叫ぶ日向(アホ)の姿が。

 

「アホ日向」

 

シーンと静まりかえった教室には音無の辛辣な一言だけが聞こえた。

 

「いいから座れ」

 

「…ハイ」

 

教師も頭の痛い子を見る目で日向(痛)を着席させる。

 

「チッ」

 

その時、やたらと鼓膜に響く苛立たしげな舌打ちが聞こえた気がした。

 

そして次の瞬間

 

「う、うおぉぉわぁぁぁ!!?」

 

ゴオォォォォォ!と日向の椅子がロケットのような唸りをあげて宙を舞った。

 

「ごべらっ!」

 

ただしここは教室。

当然、すぐに天井に到達し激しく頭を打ち付け地に落ちる。

 

その日向(故)の勇姿にNPC達はもちろん、俺達でさえ釘付けになっていた。

 

 

 

 

 

 

「おいおいおいおい!なぁんだ今のは?!」

 

答案回収を終えて休み時間に入るとすぐに日向はゆりに詰め寄っていく。

 

「何よ?あなたの失敗の尻拭いをしてあげたのよ?」

 

「だからってもうちょっとやり方があんだろ?!大体なんなんだよあれは?!」

 

「ロケット推進エンジンよ」

 

「よく作れたなぁんなもん!」

 

確かに知識が無いと作れないのによく作れたな。チャー達は万能なのだろうか?

 

「そんな事より竹山くん、首尾は?」

 

日向の抗議はそんな事扱いで済まされてしまった。

 

強く生きろよ日向。

 

「完璧です。それよりもクラ「じゃあ次は高松くん何かアクションをお願いね」

 

「そ、それは日向さんの役目なのでは?!」

 

急なゆりの指名に高松は動揺を隠せていなかった。

 

「高松くん。オオカミ少年の話知ってる?」

 

「繰り返される嘘は信頼を失う…」

 

「そういう事」

 

語尾にハートマークが付きそうなほど上機嫌に頷くゆり。

 

「大人しく諦めろ。そして翔べ」

 

日向もまた上機嫌に高松の肩をポンと叩く。

 

「な、何か考えなければ…!」

 

次なる犠牲者の高松はもう頭を抱えていた。

 

「次はどうすれば?」

 

「教科は?」

 

「歴史です」

 

なんで竹山はどうせ受けないテストの教科を覚えているんだろう。

 

まあどうでもいいんだけど。

 

「なら宇宙人が侵略しているってことにして書いておいて」

 

「はあ」

 

意外とこちらも無茶なことをやらされていた。

 

それが出来たら小説が1つくらい書けるんじゃないだろうか?

 

「良いよなぁ、お前は答案すり替えるだけで。楽だよなぁ」

 

日向はまだ翔ばされたことを根に持っているようで、トゲのある言い方をする。

 

「なっ、こちらだってリスクを背負っているんです!」

 

「なら代わってください」

 

「嫌ですよ!」

 

「やっぱり嫌なんじゃねえか!」

 

「うるさぁぁぁぁぁい!!」

 

口論をし始めた3人にゆりはおもいっきり怒鳴った。

 

すると、ガタッと反対側の窓際の席に座っている天使が立つ音が。

 

「す、すすすすすまん!テストの答え合わせでヒートアップしてしまった!今日向が0点ということで決着がついた!」

 

かなり無理のある言い訳だったのだが、あっさりと信じたようで自分の席に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして二時限目のテストも既に終わりを迎えていた。

 

「それじゃあ答案送ってー」

 

チャイムが鳴ると同時に教師は指示を出す。

 

「先生!」

 

ガタッとまたも椅子を引く音がして、その方向を見ると

 

「実は、着痩せするタイプなんです…」

 

なんという事でしょう。

そこには服を着ている時には考えられないような肉体美が。

腹筋は見事にシックスパック。そして肩から背中に至るまで隅々を鍛え上げた、正に匠の業がそこにはありました。

 

「わかったから、座りなさい」

 

「…ハイ」

 

しかしそんなものは毛ほども気にかけず教師は淡々と高松を座らせるのだった。

 

そして、また聞こえる舌打ちの音。

 

「う、うおおぉぉぉ!!」

 

案の定、椅子は唸りをあげる。

 

なんと今度は回転付きだった。

 

「ぐばっ」

 

回転の加わった噴射は先程よりも威力が上がっていたようで、高松は天井に突き刺さっていた。

 

 

 

 

 

 

「よくあんな策を自信満々に実行出来たわね」

 

皆が集まって早々にゆりは高松に駄目だしを始めた。

 

「陰で鍛えていたので自信があったのですが…意外性というか…」

 

本当に自信があったんだろう。肩をガックリと落として落ち込んでいた。

 

「まあいいわ。じゃあ次は大山くんね」

 

「やっぱりかぁぁ!!」

 

次の被害者は大山か。

 

「僕、芸なんて何も出来ないよ!」

 

「なら告白するだけでいいわよ」

 

「なんだ告白…ってええええぇぇぇぇ?!」

 

余りにもサラッと爆弾発言をするもので大山も気づくのに一瞬遅れてしまった。

 

「ちょ、それはいくらなんでもやり過ぎだろ。大山は入江っていう彼女が居るんだぞ」

 

彼女持ちに告白させるのは俺もくっつける手伝いをした立場上心苦しいものがあるので割って入る。

 

「ならいいわ」

 

「よ、よかったぁ」

 

想像していたよりもあっさりと引き下がってくれたゆり。

 

流石のゆりもわかってくれたか。

 

「柴崎くんが代わりに告白してね」

 

次の標的を見つけたとばかりに上機嫌にウィンクをかましてくる。

 

「なっ、ふざっけんな!俺には…」

 

言いかけて、言葉に詰まる。

 

俺には…?俺には、なんだ?

 

「なに?どうしたの?誰か好きな子でも居るの?居るなら言ってみなさいよ!」

 

「あー!うるせえ!やってやるよ!やりゃいいんだろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

テストの静寂の中俺は深く深く、ありきたりな表現を使うとするならば海よりも深く後悔をしていた。

 

なんで俺はあんな安い挑発に乗ってしまったんだろうか…あんなの小学生レベルだろうに…

 

まあ大山を守ることが出来たのは良いけど、それにしても告白って…

 

どこかの誰かも一時のテンションに身を任せる奴は身を滅ぼすって言ってたなぁ…ああ、俺は身を滅ぼすのか…

 

ていうか待てよ。

告白するって、何て言えばいいんだ?そもそも天使と接点なんて女子寮で止められた時くらいのもんだし、向こうは俺の顔も知らないのにどう告白するんだ?

 

やっぱりあれか?男らしく明日から弁当を作ってこい、か?

いや、失敗の予感しかしないぞ…

 

ならここはロマンチックに愛について語らないか、とかだろうか?

…これも失敗しかしなさそうだ。

 

ていうかなんでこんなどっかで聞いたことのあるようなもんしか出てこないんだよ?!

 

あー、やべえよもうあと2分くらいしかねえよ?ていうかなんで50分もあって考えてなかったの?バカなの?死ぬの?いやどの道社会的には死ぬんだけども。

 

そんなまとまらない思考を止めるようにテスト終了と俺の社会的地位の終了を告げる鐘が鳴った。

 

「はい、もう解答を終えて用紙を送ってー」

 

教師の声にNPC達は反応し、答案が送られていく。

 

ええい、なるようになれ―――!

 

「立華奏!!」

 

「……………」

 

無言?!振り向いてくれただけマシなのかもしれないけど無言?!

 

いや、気にするな。一気に畳み掛けろ!!

 

「I love you」

 

ど、どうだ…!この日本という枠内でまさかの英語での告白…これは前代未聞だろ!

 

でも、なんだろう?これもどこかで誰かがやっていたような…?

 

「………こよみおにいちゃん」

 

「ん?」

 

ボソリと何かを言ったが、よく意味はわからなかった。

気のせいかもしれないが、音無も後ろで、とれ、だとかなんだとかボソボソも言っていた。

 

「なんでもない…」

 

「は、はぁ…」

 

あれ?俺の告白って無視なんですかね?これ。

 

「気持ちは嬉しいのだけれど…」

 

天使がようやく返事らしい返事をくれそうになったその時

 

ガラガラッ!

 

と勢いよく扉が開けられる音が。

 

その音の方向を見てみると

 

「…岩、沢…」

 

やはりというかなんというか、岩沢が立っていて、もの凄い形相でこちらをお睨みしていらっしゃった。

 

「岩沢さんだ…」

 

「どうしたのかしら?」

 

「もしかして僕に告白?!」

 

「いいえ私よ!お姉さまは私に告白しに来たのよ!」

 

俺の内心の動揺なんて知らないであろうNPC 達は勝手な事を話出している。

 

つーか最後の二人、妄想が過ぎんぞ。

 

「柴崎…ちょっと着いてきて…」

 

「え、いやでもテストが…」

 

「いいから」

 

「…ハイ」

 

最後の頼みと教師に目線を送るも、フルフルと力無く首を横に振られてしまった。

 

為す術なしですか…

 

 

 

 

 

 

 

岩沢に連れられて着いた場所は人気の無い廊下の突き当たりだった。

 

ここに着いてからしばらく無言を貫いていたが、とうとう意を決したように口を開いた。

 

「いつから?!」

 

「え?な、なにが?」

 

ようやく重い口を開いたかと思えば言葉足らずでどういう意図なのかサッパリわからなかった。

 

「いつから…天使の事が好きだったんだ…?」

 

「え?…あぁっ!」

 

そうだった…俺、天使に告白したんだった…!

 

天使に告白って、端から聞いたらすごい響きだよな。

 

…うん。現実逃避してる場合じゃないよな…なんとか弁明を…

 

「言って欲しかった…」

 

「い、岩沢…?」

 

俯く岩沢から表情は読み取れなかったが、ポタリ、ポタリと頬から数滴の雫が落ちていった。

 

「好きなやつがいるなら、なんで言ってくれなかったんだ…?」

 

「いや、誤解だって…」

 

「誤解って、告白までしてたのに何を…!」

 

「あれ、ゆりの命令で言わされたんだけど…」

 

「え………」

 

先程までの勢いが一瞬で0になり、岩沢の顔が紅く染まりだす。

 

つーか耳まで紅い。

 

「え、ゆり…?でも、え、なんで…?」

 

「お、落ち着け岩沢。ほら、深呼吸だ深呼吸」

 

スーハースーハーと、岩沢の気を落ち着かせるために一緒に深呼吸する。

 

なんとか顔の血色も少し元に戻った。

 

「あ、あたしゆりから教室に来るようにって言われて…」

 

「あの野郎…!」

 

なにがしたいんだあのリーダーは?!

 

「とにかく!あれは嘘!俺は天使の事が好きじゃない!」

 

「そっか…良かったぁ…」

 

長い間緊張の中に立たされ不意に見せられた心の底からの安堵の表情。

 

思わず、胸が鳴っていた。

 

「…?柴崎?顔紅いぞ?」

 

「…ああ、今さらになって告ったの恥ずかしくなってきてな」

 

「ははっ、遅すぎるだろ」

 

「うるせえ。さっさと帰るぞ」

 

出来るだけ紅くなった顔を見られないようにそっぽを向きながら歩きだす。

 

コイツが鈍くて良かった…。

 

 




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