今日は最近色々とごちゃごちゃしていて先伸ばしになっていたユイの顔合わせだ。
ガルデモしか関係がないはずだけど、何故か俺と大山も参加している。
…上手くいったみたいで良かった。
「じゃ、関根と入江は野球の時に会ってるから大丈夫だろうけど紹介する。コイツが新しくあたしたち、ガルデモに加入するユイだ」
「ゆ、ゆゆ、ユイでっす!よろしくお願いしゃぁーす!」
岩沢に紹介されてガチガチのまま挨拶するユイ。
緊張しているのに何故か失礼に思えるという高等技術を早速披露してくれている。
「ユーイ、そんな固くなんないで楽にやろうよ楽に~。
つーことでヤキソバパン買ってこいやー」
「えぇぇ!」
「買ってこいやじゃねえよ」
「あたっ」
緊張を解こうとしていたはずなのにいつの間にかユイをパシらせようとする関根。
案の定ひさ子に頭を小突かれる。
「冗談ですよ~。ユイとはもうすっかり仲良くなってるんすから」
「の割にはマジで驚かれてたが…ってそうじゃなくて、あたしはまだコイツが入るのに納得してねえんだけど」
「え、そうなのか?」
「そうだよ!膝詰めで説教したの忘れたのかよ!」
もちろん岩沢も説教されたことについては覚えてるだろうが、恐らく頭の中で勝手に説教したから納得した、と都合よく変換されてたんだろう。
「まあまあ落ち着けって。それより、なんで反対なんだ?岩沢のお墨付きなんだし、そんな神経質になることないんじゃないか?」
なんとかその場をとりなしつつ、ひさ子に質問する。
「あたしたちは今まで四人でやってきた。それでNPC達から人気を勝ち得てきた。そこに新しくメンバーを入れる意味が感じられない」
そうひさ子はキッパリ言いきった。
ひさ子からすると、今までの四人でやってきた結果に誇りを感じているからこそ、わざわざ新入りを入れてバンドの空気感を変える事が気に入らないのかもしれない。
「……………」
「つまらないこと言うようになったなひさ子」
「あ?何だと?」
ひさ子の言葉を聞いて黙りこくってしまったユイを見て岩沢が挑発的な台詞をぶつける。
一瞬にして場の空気がピリッと緊張したものに変わる。
「だってそうじゃないか。今のままで問題が無いからこのまま行こうだなんてつまらないだろ?」
「あたしが言いたいのはそういうことじゃねえよ」
「ならどういうことだ?その言いたい事ってのは新しいものを手に入れようとしてるのを拒否するのに充分な事なんだろうな?」
岩沢が珍しく食って掛かっていく。
いや、ていうかこんなに噛みつく岩沢見るのは初めてなんじゃ?
「新しいものって、そんな奴があたしたちにそんな大層な物を持ってきてくれそうには見えねえんだけど?」
「ちょ、ちょっと落ち着いてくださいよ二人とも!」
「そうですよ!」
口論がヒートアップしていき、険悪なムードが濃くなってきたところで関根と入江が止めに入る。
「…わかった。なら、ユイの実力を見せられたら良いんだな?」
「は?」
関根と入江が間に入ったことで少し落ち着いたようで、岩沢が静かに提案する。
「ここにあたしが作曲だけした曲がある。これに、ユイが詩をつける」
「ええぇぇぇぇぇ!?あたしがぁ?!」
それも突拍子もない提案だった。ユイが驚くのも無理ない。
「三日後、それを披露して、納得させられたら新メンバーになるっていうのはどうだ?」
「ふん。良いよ、どうせそんなこと出来やしないだろうけど」
言い捨ててひさ子は足早に教室を出ていった。
「ちょっと待ってくださいよ!あたしが詩をつけるなんて無理ですよぉ!」
「なんで?」
必死に抗議するユイもなんのその、ケロッとした調子で問い返す。
「なんでって…」
「あれだけ路上ライブとかしてるんだから自分で曲作ってみたりしたことあるだろ?」
「あ、あるにはありますけど…人に聴かせられる程のものじゃ…」
「そんなのは聴く側が決めることだ。それに、これが出来なきゃ一緒に歌えないだろ?頑張ろうぜ」
「は、はい…!」
なんとかユイの説得は上手くいったみたいだ。
それにしても…
「僕達蚊帳の外感が半端ないね」
「言うな…」
まあガルデモの事だししょうがないんだけどな。
そんな会話をしている内に岩沢とユイは作詞を始めてしまっている。
「あんな風に口論しあうのは初めて見るな」
「そうだね。あの二人ってまさにコンビって感じのイメージだしね」
「そんなことないんですよ」
「そうなのか?」
俺と大山の会話を聞いて入江と関根もこちらにやってきた。
「はい。まだガルデモが出来てすぐの頃はどっちかが納得出来ないところがあるとよくこんな風に口論になってたんですよ」
「そんなことがあったんだね」
「二人とも息ぴったりって感じなのにな」
あの二人はアイコンタクトだけで会話出来そうなところがあるからな。
「いやー、実際息はぴったりなんだけどね?よく目線だけでお互い何が言いたいか分かるときあるし」
「マジでしてた!?」
冗談半分だったのに。
ていうかそれ以心伝心って言っても問題ないレベルじゃねえかよ。
…別に羨ましくねえよ。便利だとは思うけど。
「でもやっぱり考えが合わない時もあるんですよ。そしたら今日みたいになるんですよ」
「なるほど」
いつもお互いに考えが一致するだけに合わない時の反動が大きいのかもしれない。
ていうか
「もうひとつ気になることがあるんだけど」
「なんですか?」
「なんで敬語?」
初めから気になってた事を率直に訊いてみただけなんだがピシッと動きが止まってしまった。
「そ、それは…大山さんと話す時はいつも敬語だから…大山さんが居るとついクセで…」
少し頬を朱色に染めて俯きながら言う入江。
クセか…なるほど…ならやることはひとつだな…
関根もきちんと分かっているようで視線を交わし、頷く。
「みゆきち大山先輩と話す時敬語なのー?可っ愛いー!」
「しかもクセで出ちゃってたなんて彼氏冥利に尽きるな!さすが入江だ!」
「うう…へ、きゃ!」
阿吽の呼吸で冷やかし始めた俺達に入江が恥ずかしさで俯いていると大山が入江を庇うように抱き締めた。
「あんまり僕の彼女いじめないであげてよ」
「う、うぇぇ?!」
「ごちそうさまです!」
「ありがとうございます!」
はっ?!余りにもリア充力が高すぎてついお礼を言ってしまった!
「え、えっと大山先輩…」
「あ、ご、ごめんね…」
大山の胸の中で真っ赤になっている入江に気づいたようでパッと抱き締めていた腕を解く。
「みせつけてくれるよな~」
「ねー」
「もう二人ともうるさい!」
怒られてしまった。ちょっと長かったかな?
「それよりも岩沢さんとひさ子さんの事でしょ?脱線しすぎだよ!」
「そうだよね」
だったら今すぐ入江の頭を撫でてる手を止めるべきだと思うのは俺だけでしょうか?
「柴崎くん」
名前を呼ばれ関根の方を見ると、あたしもだよ。という意味の頷きが返ってきた。
だよな…俺は一人じゃないよな…!
「柴崎くん。しおりん」
「「はい」」
「ちゃんと話聞いて」
「「…はい…」」
なんでだろう、あの温厚で小動物のような入江の顔が今は般若のように見えてくる。
思わず正座しちまうぜ。
「今解決しなきゃいけない問題は?」
「岩沢とひさ子の喧嘩です」
「よろしい」
完全にキャラが変わってるのはなんでなんだ?
そして大山は何時になったら頭を撫でるのを止めるんだ?
「岩沢さんはもうユイと作詞に入っちゃってるから放っておくしかないから問題はひさ子さんだね」
「じゃあ柴崎くんに追っかけてもらおっか」
「そうだね」
「何ぃ?!」
関根の野郎、あっさりと俺の事を売りやがった!
非難の視線を送ると親指をグッと立てられる。
頑張ってこいじゃねえよ!
「柴崎さん頼みますね」
「ガンバー」
「しょうがねえな…でも、最後にひとつ言わせてくれ」
「何?」
「関根がこの前大山の事狙おうかなって言ってた!じゃあな!」
言うだけ言って脱兎のごとく逃走する。
「へ?ちょ、柴崎くん?!」
「しおりん…ちょっとこっち来てくれる…?」
「え?え?いやぁー!」
ささやかな意趣返しが成功し、いい気分で校舎内を闊歩する。
「ひさ子どこかな」
もうひさ子が出ていってからそこそこ時間も立っている。
もしかしたもう寮に戻ってるんじゃないか?
「………の言いたいことは………」
もう帰ろうかという考えが頭を掠めた時に少し離れたところから声が聞こえた。
「ひさ子かな?」
確認のため足音を殺して声のする方向に近づく。
近づいていくと、屋上に行くための階段に腰かけるひさ子とそれを見下ろす藤巻の姿が。
…なんで髪下ろしてるんだ?ひさ子は。
「自分でもしょうもないと思うけど、でもあたしだって…」
「あーうぜえなぁ…泣くなっての」
いつもの勝ち気な雰囲気なんて微塵も感じさせないショボくれた口調で落ち込むひさ子の頭をグシャグシャと乱暴に撫でる藤巻。
「ったく、何かあるたんび泣きついて来やがって…」
「うん…ごめん…」
なんだろう。見てはいけない所を見てしまっている気がしてくるのは…。
俺はただ追いかけてきただけなんだけど…
「だから泣くなっつーの!…あーもう顔上げろ!」
藤巻がひさ子の目元を服の袖で乱暴に拭う。
「ちょ、もう、痛いよ…」
「じゃあ泣き止め。バーカ」
「うん…ありがと」
「何もしてねーよ。じゃあな」
ひさ子が泣き止んだことを確認してから藤巻は後ろ手に手を振りながら去っていった。
「何が何もしてないだよ…バカ…」
誰もいないと油断しているようで独り言を呟き始めるひさ子。
あ、マズイ…
それ以上は喋らない方が…
「これだけ好きにさせといてかよ…」
ですよねー!
もう完っ全にしおらしくなってましたもんねー!
いや、いやいや、そんなことを考える前にこの状況を何とかしないと、見つかったら気まずい所じゃ…
「柴、崎…?」
「え…?」
寮に帰ろうとしたのか、はたまた教室に戻って練習するつもりだったのか、それともそのどちらでも無かったのか。
それは定かではないが、ひさ子は既に俺の目の前に移動していた。
俺の選択はどこで間違っていたのか…考える前に逃げるべきだったのか、話が聞こえてきた時点で引き返すべきだったのか。
いや、そもそもここに来るべきじゃ無かったのかもしれないな。
そんな中、確かなことが1つ。
「な、なにやってやがんだこんな所でぇ~!!」
「ぐぶぇ!」
とりあえず今日も俺は死ぬということだ。
「で、お前は一体全体ここで何をしていたのかな?」
目が覚めるとひさ子は下ろしていた髪をポニテにまとめていた。
きっと藤巻と話す時専用なんだな…
え?なんで俺がこんな質問をガン無視して関係の無いことを考えてるかって?
そりゃ、目の前でこんな怖い笑顔を見せつけられたら現実逃避したくなるだろ?
「余計な事考えてねえでさっさと答えろ…!」
「い、痛い痛い痛い!」
質問を聞いていないことがバレていたようで、ギシギシとアイアンクローを決められる。
こ、こんなの女子の握力じゃねえぞ…
「なら早く答えろ」
そう言うとフッと頭を締め付ける激痛が無くなった。
「ひさ子さんのデレッぷりを眺めてましたー」
「もういっぺん死んどくかコラ?」
「痛い痛い!暴力反対!」
素直に答えただけなのに、またしてもアイアンクローをきめられる。
「で、なんでお前がここに居たんだ?」
「ひさ子さんのデレッぷりを見るためにー」
「いい加減にしろよ…?てめえ…!」
「いだだだだだ!」
二度あることは三度あるらしい。
再度ひさ子の剛力で頭を締め付けられる。
うん。今回のはちょっと狙った。
「本当はただひさ子を追いかけてきただけです…」
「…なんでってのは、聞くまでもないな。それについてはあたしに非がある」
さすがに雰囲気が悪くなったことは気にしていたらしい。追いかけていた理由も説明せずに済みそうだ。
「が、なんで盗み聞きしてるのかな?」
「いや、決して盗み聞きをしようと思ったわけでは…」
実際成り行きでこうなっただけで他意はなかった。
「どこら辺から聞いてた?」
「えーと、自分でもしょうもない、みたいな辺りから」
記憶を探りながらうろ覚えではあるが、覚えていたフレーズを口にすると、ひさ子は顎に手を当てて考え込む。
「…じゃあ問題は最後だけか」
「あー、ひさ子が藤巻にベタ惚れってこと?」
「まあ記憶を消せば問題無しか」
下されたのは残酷な結論だった。
「冗談です!それより、自分でもしょうもないことって何だ?」
何とかこれ以上の暴行は避けようと話題転換を試みる。
すると、バツの悪そうな表情に変わるひさ子。
「しょうもないことはしょうもないことだ。お前には関係ない」
「藤巻には話したのに…」
冷たくあしらわれて少しだけ嗜虐心が煽られそう呟くと、ひさ子の肩がビクッと跳ねる。
「あーあー、このままだと口が軽くなっちゃいそうだなー」
なおもニヤニヤと意地悪く笑いながらそう続ける。
徐々に肩をワナワナと震わせるひさ子。
「皆驚くかなー。まさかひさ子が藤巻のことを好きだなんてなー」
好き、の部分で明らかに心が折れたようだった。
「わかったよ…!言えばいいんだろ言えば!」
「わかってくれて俺は嬉しいよ」
ニッコリと笑顔で言うと、とびきりドスの利いた声で覚えてろよと返ってきた。
この先不安が一杯です。
「…今回のことは、ただのあたしの嫉妬が原因なんだよ」
「嫉妬?」
ユイが加わるのに嫉妬なんて関係あるのか?
「あ、いや、でも本当に今のままで良いって思ってるのも確かなんだ」
「まあ、それは分からなくもないけどな」
なんせ加わるのがあのユイなんだ。不安も多かれ少なかれあるだろう。
「んー、いや。なんていうか、あたしとしては四人でやってきたこれまでは誇れるくらい凄い事だって自信があったんだ」
「そりゃそうだろうな」
模範的な行動をするのが基本のNPC達をあそこまで魅了することは本当に誇るべきことだと思う。
「だからこそ、今更あんなヒヨっ子を入れるって言われたのがショックだった。あたしらじゃダメなのかってね」
「それが嫉妬なのか?」
気になって訊いてみると、フルフルと頭を振る。
「嫉妬は、その後。ユイが新しいものを見せてくれるって言った事に対してだ」
「それのどこに?」
ひさ子はその問いに薄く笑いながら答える。
「もうあたしじゃアイツに新しいものを見せてやれないのかって思ってさ」
そこまで言われてようやくひさ子の気持ちが理解できた。
岩沢とひさ子は、関根と入江が入るずっと前からコンビで活動していたらしい。
しかも、岩沢は音楽の知識には乏しかったらしく、曲作りも基盤を岩沢が、それをアレンジするのがひさ子と役割を決めて二人でやっていたらしい。
そういう風に、ある種面倒を見るような立場にいたひさ子からすると、子離れをするような心境と近いものがあったのかもしれない。
「…昔は、あたしにも見せてやれたのにな」
感傷に浸っているように呟くひさ子。
「な?だからしょうもない理由だって言ったろ?」
「別に?いいじゃん嫉妬」
「は?」
俺の言葉を聞いて目を丸くするひさ子。
「それだけ岩沢と向き合って来た証拠だろ?それがあるからアイツは今、また新しいものを探そうと頑張れるんだよ」
だから代わりに俺からも礼を言っとくよ。と言い、丁寧にお辞儀すると、プッとひさ子が吹き出す。
「何だよ?」
何か変なこと言ったか?
「いや?ただお似合いだなと思ってさ」
「何を言ってんだ急に?」
「わかんないならいいや」
どうやらひとしきり笑ったら憂さも晴れたようだ。
「3日後、楽しみにしとくよ」
舞台は整ったみたいだ。
あとは頑張れよ、ユイ。
――3日後―――
ついにユイのテストの日となった。
いつもの空き教室とは違う緊張した空気が流れている。
「じゃあ、聴かせてもらおうか」
「ああ、楽しみにしときなよ」
楽器の用意を終えて、いつでも演奏を始められる態勢に入っているひさ子を除くガルデモメンバー+ユイ。
ひさ子と俺と大山は並べられたイスに座っている。
ルールは簡単。俺達をユイの書いた詩で魅了出来たら新メンバーとして採用。
出来なければ認めない。
「えっと、ヒトを三回手に…あれ?ヒトってどんな字だっけ?」
ガチガチに緊張してるのが見てとれるユイ。
今も人を書くはずが入を書いて飲み込んでいる。
「気負わず行け。ユイの詩には力がある」
そんなユイを見て、岩沢が不敵に笑いながら背中を叩く。
「は、はい!」
ようやく、緊張が少し解れたようだ。
そして、一瞬の沈黙が訪れ、イントロが始まる。
いつもの歌よりも少しポップな雰囲気に聴こえるのはユイに合わせたからなのだろうか。
そのイントロの雰囲気のまま、ユイらしい少女目線からの歌詞だった。
こういう所はやっぱり岩沢と違いが出てくる所なんだな。
横目でチラッとひさ子の様子を伺うが、どちらともとれないような表情で見ていた。
『君も持ってる』
一番のサビを終えると、急に曲が止まる。
「どうしたんだ?」
ひさ子が淡々と問う。
「すみません!実はまだ一番しか出来ていないんです!」
そう言い、謝罪の意味を込めて全力で頭を下げる。
確かに、3日じゃあ余りにも時間が無いとも思える。
俺からすればよく3日であそこまで形に出来たと誉めてやりたいくらいだ。
「3日じゃ、時間が足りなかったか?」
「今の、あたしでは…」
ひさ子の問いに悔しそうに唇を噛みながら答えるユイ。
「岩沢は、新曲を作れって言われて一日でAlchemyを完成させたぞ。まだ曲を作るのに慣れていなかった頃の話だけどな」
だから不慣れは言い訳にならないと言外に言い、逃げ道を塞いでいく。
「あれはひさ子が居たからだ」
「ユイには岩沢がついてただろ?」
あくまで正論を並べて異議を受け入れないひさ子。
「すみません…あたしの力不足です…」
噛み締めた唇からは少し血が滲み、薄っすらと目が涙で滲んでいた。
「そうだな。お前はまだ実力が伴ってない。歌詞が未完成だとか以前に、まずギターボーカルとしても不完全だ」
「…はい。すみませんでした…」
不合格を通知されたと受け取り、ユイは教室を立ち去ろうとする。
「おい。どこ行くつもりだ?」
「どこって…」
「実力が伴ってないなら着けるために練習だろうが。ほら、もう一回だ。歌詞もきっちり最後まで書け。結果はそれからだ」
ひさ子はギターを担ぎながら、ぶっきらぼうに言葉をかける。
「ひ、ひさ子ざん…!」
「泣いてたら歌えないだろ!早く泣き止む!」
「はい!ずみまぜん!」
泣き止もうとしても止めれていないまま敬礼しているユイ。
ったく、素直じゃないやつ…
普通に合格って言えば良いのに。
「柴崎」
「ん?」
微笑ましい二人のやり取りを見ていると不意に岩沢に話しかけられる。
「柴崎が色々裏で頑張ってくれたんだろ?入江たちから聞いた」
まあ、頑張ったというか割りとふざけていただけのような気もするけど。
「ありがとうございます柴崎先輩」
ニッコリと無垢な笑顔を向けられる。
「な、ななななな?」
な、何だ今のは?
「関根が柴崎は後輩から敬語で話しかけられるのに憧れてるって聞いたからご褒美にと思って…やっぱり変?」
やはり、恥ずかしかったようで薄くだか頬がピンク色に染まっていた。
関根、報復のつもりか知らんがな…
「…ご馳走さまでした」
これじゃ本当にただのご褒美だよバカ野郎!
「お、お粗末様です…」
結局、最後は俺たちの意味の分からないやり取りで締め括られてしまったのだった。
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