Angel beats! 蒼紅の決意   作:零っち

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「入るよ…。入隊する」

「ここか」

 

昨夜岩沢に言われた通り朝、寮で目を覚ましてから(本当に俺の部屋があった)校長室にやって来た。

 

「ふぅ、行くか。失礼しま―――」

 

ドアを開けた瞬間、横からとてつもなく巨大なハンマーが押し寄せて来るのが見えた。

だが、見えたところで何も出来るわけでもなく。

 

「ぐへぁ!」

 

あ、死んだ…。

 

 

「……さんが誘ったのね?」

 

「ああ………崎って言うらしい」

 

何か、聞こえる…。

 

「入隊してくれるかしら?」

 

「さあ、屋上で寝るようなやつだし入るんじゃない?」

 

「誰が変なやつだよ…」

 

だからあんたに言われたくないって。

 

「あら起きた?」

 

「見れば分かるだろ?」

 

「なんだ貴様ぁ!ゆりっぺに対してその態度はぁ!」

 

何か槍と斧を合わせたような武器を俺に向けてくる。

もしかしてコイツら

 

「お前ら、昨日銃撃ちまくってた奴らか!?」

 

「あら、見てたの?」

 

やっぱりか…。

 

「なら話は早いわね。

あなた、入隊してくれないかしら?」

 

「だから、入隊って何にだよ?」

 

昨日から何回も言われてるけどよ。

 

「岩沢さん、説明してないの?」

 

「ん、めんどくさいから」

 

悪びれもなくそう言う岩沢を呆れた顔で見てからはぁ、とため息をつくゆりっぺとやら。

 

「しょうがないわね。岩沢さんだし…」

 

やっぱり天然なのか…。なんだか最初に見た時の印象からドンドン離れていく。

 

「まず、ここは死後の世界よ」

 

「は…?」

 

死後…?何を言ってるんだ?

 

「まあ驚く気持ちもわかるわ。けど、これは紛れもなく真実よ」

 

「いや、そんなこと言われたって…証拠も何も無いじゃないかよ」

 

「あるわよ」

 

「はあ、どこに?」

 

「あなた、ここに入る前にハンマーでぶっ叩かれて窓から飛び出してたじゃない」

 

ハンマー…?

 

「あっ…」

 

「思い出したかしら?」

 

確かに、横からハンマーが出てきて俺はふきとばされた…

 

「なんで、生きてる?」

 

「そりゃ、死んでるんだから死なないわよ」

 

本当に、死んでるのか…?

 

「あなた、死んだ時の記憶は?」

 

「…ない。死んだ時のというより、名前以外は全部って感じだ」

 

「ふうん。記憶喪失のパターンね。音無くんと一緒ね。よかったじゃない音無くん」

 

「いや、別に良くはないだろ」

 

ゆりっぺの言葉に反応した橙色の髪の男。音無というようだ。

あいつも記憶喪失なのか。

 

「まあ記憶喪失っていうのはよくあるパターンよ。死んだ時のショックでね。その内戻るから心配いらないわ」

 

心配いらないって言われてもな…

 

「ここに来るってことはおそらく、理不尽な人生を送ったのね」

 

「理不尽?なんでだ?」

 

「…ここに来る人たちは大抵生前に理不尽な人生を送ってきたわ。ここにいる人たちも、ね」

 

辺りを見渡すと十数人の男女がこの部屋にいた。

 

「だから私達は抗うの」

 

「抗う…?」

 

「ええ。こんな理不尽な人生を私達に与えた、神に」

 

神…。また突拍子もない話だ。

だが、とても冗談で言ってるようには見えない。彼女も、岩沢のように決意の満ちた眼をしている。

 

「言いたいことは、まあわかった。けど、神に抗うって言われてもピンと来ないぞ」

 

「ま、そうよね。具体的に言うなら今は神の手先である天使と戦うって所かしらね」

 

神の次は天使かよ…

 

「どんな奴なんだよ、天使は」

 

「あなた昨日の戦闘見てたんでしょ?ならわかるはずよ」

 

昨日の戦闘…。

銃を乱射した先に居たのは…。

 

「あの女の子か…?」

 

「そう。見た目は普通の女子生徒。けどね、人間の枠なんて飛び越えているような能力を持ってるの」

 

確かに昨日銃弾を弾きまくってたな…。

 

「でもよ、女子を大人数で囲むって…」

 

「言いたいことはわかるけど、そんなことが通用するような奴じゃないのよ。じっとしてたら消されるだけだしね」

 

消される…?

 

「消されるってなんだよ」

 

「この世界では規則通りに生活したり、満足しちゃうと消滅してしまう。私達の仲間は何人も消えていったわ」

 

「消える…」

 

「そう。でも私達はそんなことは許せない。だから戦うの」

 

戦う…。理不尽な人生に抗う…。皆、そんな記憶を抱えて…。

 

「岩沢もそうなのか?」

 

先ほどからずっと爪をいじっていた岩沢に問いかける。

 

「いや、私は歌えればなんでもよかった」

 

…………………。

 

「岩沢さんは特殊な例なのよ…」

 

「………そうか」

 

コイツ、天然どころじゃないな…。

 

「でも、岩沢さんも理不尽な人生を送ってきたことは確かよ」

 

岩沢の様子を見るとそんな風には見えないが、眼に映るあの決意は、おそらくその生前に関係があるんだろう。

 

「外に出て、天使に出くわせば規則通りに授業を受けさせられて消滅。反抗すれば攻撃を受ける。…なら、ここに入隊するのがベストだと私は思うけど?」

 

確かに…消えるのも攻撃されるのも出来れば遠慮したい所だ…。

 

「どうかしら?」

 

昨日の屋上で見た岩沢の瞳を思い出す。

ライブの時のような力強さは影を潜め、儚さと悲しさが溢れていた瞳を。

…なにか出来ることがあるのだろうか。

 

「入るよ…。入隊する」

 

「本当に?!いよっしゃぁぁぁぁ!」

 

今までの冷静な態度とは打ってかわって喜びを爆発させる。

 

「じゃあ、改めてようこそ、死んだ世界戦線へ!柴崎くん。

私はゆり」

 

ゆり…それでゆりっぺなのか…。

 

「ああ、ゆり」

 

ゆりっぺよりはゆりの方がいいな。

 

「じゃあ他のメンバーを紹介するわね。まずあそこにいるチャラチャラしてるのが日向くん。まあごくごくたまーにやる男よ」

 

「だからそれ誉めてねえじゃん!」

 

なんだかアホそうだな…。

 

「彼は大山くん。特徴がないのが特徴よ」

 

「よろしくね」

 

「お、おう」

 

いいのか?そんな紹介で

 

「彼は野田くん。アホよ」

 

「俺はまだお前の事を認めていない!」

 

「別にいらねえけど」

 

「なんだとぉ!」

 

「はいはい、進まないから後にしてくれない?」

 

突っかかってきた野田を宥めるゆり。野田はちっと舌打ちをして部屋から出ていった。

 

「気を取り直して、あそこにいる彼は音無くん。さっきも言った通りあなたと同じ記憶喪失なの。最近入ったばかりだし仲良くしてね」

 

「よろしく」

 

「ああ」

 

コイツはまともそうだな。

 

「そこのインテリっぽいのは高松くん。本当はただのアホよ」

 

「よろしく」

 

「よ、よろしく…」

 

クイッと眼鏡を上げている所を見るとアホそうには見えないが、否定しないところを見ると事実らしい。

 

「体の大きい人は松下くん。柔道が五段だから私達は敬意を持って松下五段って呼んでるの」

 

「よろしく頼む」

 

「こちらこそ」

 

頼もしい風格が漂ってるな。

 

「そこのガラの悪いのは藤巻くん」

 

「よろしくな坊主」

 

「同い年くらいじゃないのか?」

 

「ああ?こまけえこたぁいいんだよ」

 

「あ、ああ」

 

よくわからんが関わらない方がいいかもな。

 

「あそこの変なのがTK。本名も素性もなにもかもが謎の人物よ」

 

「そんなのが仲間でいいのか?!」

 

「Hey come on let's dance!」

 

「い、いや遠慮しとく」

 

得体の知れない奴だ…。

 

「隅っこで立ってるのは椎名さん」

 

「あさはかなり」

 

「えーと、よろしく」

 

「あさはかなり」

 

…美人だけど、なんかダメそうだな。

 

「で、最後は知っていると思うけど岩沢さん。陽動班のリーダーよ」

 

「改めてよろしく、柴崎」

 

「よろしく。陽動ってのは?」

 

「天使と戦う時とか、まぁ色々あるんだけど、NPC達を陽動するためにライブをやってもらってるの」

 

ライブってのは昨日みたあれか。

 

「NPCって?」

 

「ノンプレイヤーキャラクター。まぁ要するにここにいる生徒の大半のことなんだけどね。見た目や中身は人間と見分けがつかない奴らよ」

 

「人間じゃないのか?」

 

昨日声をかけた女子生徒を思い出す。特に変な所はなかったし、一般的な人そのものだった。

 

「ええ。話し掛けたら会話も成立するし友達にもなれるわよ。でも、個性が乏しいから楽しくないと思うわよ」

 

「よく出来た世界だな…」

 

「でしょ?あと、NPCには迷惑をかけないっていうのが私達の決まりだから、殴ったりしたらダメよ」

 

「だから陽動するってわけか」

 

「理解が早くて助かるわ」

 

至って普通の理解速度だと思うが…まぁアホが多いってことだろう。

 

「ゆりっぺ、制服渡さなくていいの?」

 

「あ、そうね」

 

「制服?」

 

「そう。NPCと判別がつかなくなると困るでしょ?その為に私達は独自の制服を着てるの」

 

よく見たら確かに俺の制服は学ランで他の奴らはブレザーだった。

 

「はい。明日からはこれを着て来てね」

 

皆と同じブレザーを手渡される

 

「まぁ今日の所はこんなものかしらね。所属させる部隊もおいおい決めることにして」

 

「部隊?」

 

「さっき言った陽動部隊以外にも色々あるのよ。実働部隊とかね。そこらへんは適正を見てからじゃないとね」

 

実働には入りたくないな…。

 

「とりあえず今日は解散にしましょうか。何か聞きたいことがあったら誰かに聞いてくれたらいいわ」

 

「わかった」

 

「じゃ、また夜に集まってちょうだいね。解散!」

 

ゆりの号令で皆三々五々と部屋を出ていく。

もう昼か。飯にするかな。昨日から何も食ってないし…

 

「あ、俺金ないじゃん」

 

 

 

 

 


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