Angel beats! 蒼紅の決意   作:零っち

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「気を付けろ…言葉ってのは凶器にもなるんだぜ?」

「えー、今日は岩沢さんたっての頼みでガルデモの新メンバーになる事になった子を紹介するわ」

 

朝一に校長室に呼び出され、えらくやる気がなさそうな様子でゆりがそう言った。

 

「ユイでーっす!」

 

「はーい。よろしくー」

 

「ちょっとゆりっぺ先輩なんでそんなに棒読みなんですかぁ~!」

 

…なんとなくゆりが元気のない理由が分かった気がする。

 

疲れるよな、ユイの相手するのって…

 

「おいおいそんな奴で大丈夫なのかよ?」

 

大声で抗議しているユイを見て不安に思ったのか藤巻が確認してくる。

 

「全くです。ガルデモはロックバンドなのですよ」

 

「アイドルユニットにでもするつもりか?」

 

高松と五段がそれに乗っかる形で指摘する。

 

まあ言いたくなる気持ちもわかる。アイツの歌を聴いた俺だって今のアイツを見ていると大丈夫かと不安になる。

 

「大丈夫だよ」

 

…けど、コイツがこう言うと、不思議とそんな気持ちも吹っ飛んでくんだよな。

 

「ユイはガルデモに必要さ。聴いてみればわかる」

 

「まあ岩沢が言うなら…」

 

さすがのカリスマ性というかなんというか。

すっかり文句を言う雰囲気では無くなっている。

 

「じゃあユイ、ちょっと歌ってみせてやってくれ」

 

「はい!岩沢さんがそこまで言うなら渋々この分かってない野郎共に見せてやります!」

 

一言多いどころじゃ済まねえ。

 

「じゃあ行っきまーす!」

 

本格的にスタンドマイクを用意して、カセットテープにスイッチを入れる。

 

…台無しだわ。

 

 

 

 

 

「イッェーイ!皆どうもありがとーう!」

 

My soul Your beats を歌い終えてテンションが上がりまくり、スタンドマイクを振り回すユイ。

 

「うぐっ…」

 

その動作の途中、マイクを蹴りあげると天井にマイクが突き刺さり、コードがユイの首に巻き付く。

 

「うわ…」

 

せっかく見直していたメンバーの評価をもう一度下げる結果になった。

 

何度でも言おう。台無しだわ。

 

「さすがユイ。ロックだな」

 

「お前はお前でそのセンスはどうなんだよ」

 

感心したように死にかけのユイを見上げている岩沢。

 

大丈夫かなこのボーカル二人は…

 

「あ、なんだこれってただのパフォーマンスだったのかぁ」

 

「くるち…」

 

「いや苦しそうだぞ?」

 

「なら助けてやってくれよ!?」

 

大山は岩沢の台詞に惑わされて勘違いしたが勿論パフォーマンスなんかじゃなくただの事故だ。

 

本気で死にそうだったので救助する。

 

「大丈夫かー?息は…ない…!」

 

「あるわボケぇ!!」

 

「ぐぅっ」

 

助けてやったというのに典型的なボケをかましただけで鳩尾を殴られる始末。

 

「岩沢、ほんっとうにコイツで大丈夫なのか?」

 

先程の事故でさらに株を落としたユイ。日向のこの質問も当然だろう。

 

「当たり前だろ。むしろあたしの目に狂いは無かったと改めて確信した」

 

「どこでだよ…」

 

「コイツはガルデモに新しい風を吹き込むよ。革命っていう名の風をな…」

 

答えになってねえ…

 

「まあもう後はガルデモに勝手にしてもらいましょうか」

 

独りごちている岩沢はとりあえず放置するようだ。

 

「今日の本題はここからよ」

 

人差し指をピンと立てて笑顔を見せるゆり。

 

「今日の午後から球技大会が行われる。でも、ガルデモは見ての通りこのお転婆娘の加入で直ぐには大きいライブは難しい」

 

「なら今回は不参加か?」

 

答えは分かっているようにおどけた口調で問う日向。

 

「勿論参加よ」

 

やっぱりですか…

 

「そんな行事に参加して消えないのか?」

 

「そこはゲリラ参加だから問題無しよ。あなたたちは好きにメンバーを決めてチームを作りなさい」

 

そこまで言った後、笑顔の質が最悪な物に変化する。

 

一言で言うなら…Devil?

 

「NPCより結果が悪かったチームには、死より恐ろしい罰ゲームよ」

 

「「「ひぃぃぃぃぃぃ!」」」

 

ゆりの一言で男性陣がもれなく悲鳴をあげた。

 

「というわけで、解散!球技大会楽しみにしてるわよー?」

 

今度はニコニコと虫も殺さないような笑顔にスイッチした。

 

コイツは何パターン笑顔を作れるんだろう。

 

「ん?終わったのか?」

 

ようやく自分の世界から戻ってきたようだ。

 

「ああ。たった今な」

 

「ふーん。じゃ、ユイ連れていつもの所に行こっか」

 

そう言ってから辺りをキョロキョロと見渡すが、その肝心のユイの姿がなかった。

 

「…居ないな」

 

「みたいだね。先に行ったのかな?」

 

いや、絶対球技大会に出たくなって飛び出していっただけだと思う。

 

「落ち着きのない奴だ…」

 

「本当だよ。慌てなくても直ぐに紹介してやるのに」

 

やっぱりゆりの話を聞いていなかったんだろう。話が噛み合わない。

 

「いや、多分ユイはそこら中走り回ってるだけだよ。球技大会に出るために」

 

「球技大会?なにそれ?」

 

小首を傾げる岩沢。

 

予想通り全く聞いてなかったようだ。

 

「今日やるらしい。で、好きなメンバーで出ろってよ」

 

「そうなんだ。ならどの道紹介は出来ないか。ひさ子は直ぐに勧誘されるだろうし」

 

「ひさ子運動神経良さそうだもんな」

 

他のメンバーは揃って運動は出来なさそうだけど。

 

「柴崎は出ないの?」

 

「んー、誘われてから考える」

 

でも誘ってくる奴なんて居なそうだな。正直、ガルデモと遊佐以外との絡みが少なすぎるし…。

 

べ、別に友達が居ないわけじゃないんだからね!

 

「どうしたの、涙目だよ?」

 

「気にするな…」

 

これはすごくデリケートな問題なんだ…

 

「でも、スポーツしてる柴崎も見てみたかったなぁ…」

 

「…………………」

 

そんな事を素で言われると反応に困ります。コマリマックスです。

 

「と、とりあえず外行こうぜ」

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

 

球技大会まで残り時間も一時間と少し。

 

…皆はメンバー決まったのかな?

 

そもそもチームを組んでいなかったら罰ゲームは無しなのかな?

もし問答無用で罰ゲームとかなら嫌だな…

 

「おーい柴崎?なに遠い目をしてるんだ?」

 

「いや、友達ってのは作っとくべきだな…って思ってな」

 

「急になんだよそれ?」

 

唐突に友情の大切さを悟った俺についていけず頭にハテナマークを出しまくっている岩沢。

 

それでも急に音楽キチになる奴には言われたくない気もする。

 

「柴崎、あれ日向じゃない?あ、ユイも居る」

 

「本当だ。あいつらチーム組んでるんだな」

 

少し距離が空いた所に日向と音無の仲良しコンビを筆頭に、ユイ、椎名、野田と珍しいメンバーが集まっている。

 

…ていうかキャラ濃っ!

 

「あー!柴崎先輩!岩沢さんも!」

 

ユイもこちらに気づいたようで手を振りながら近づいてくる。

 

「お二人はどこかのチーム入ったんですか?」

 

「いや生憎誘ってくる奴が居なくてな」

 

「友達居ないんですね!」

 

グサッ!

 

言葉の槍が俺の心を貫いた音が聴こえた気がする。

 

「柴崎?!」

 

「気を付けろ…言葉ってのは凶器にもなるんだぜ?」

 

崩れ落ちた俺を必死に支えようとしてくれる岩沢。

 

「じゃあそんなボッチ先輩をうちのチームに入れてあげてもいいっすよ~!」

 

「ぐはぁ!」

 

「柴崎ぃ!?」

 

人ってのはこんなにも残酷な事が出来る生き物だったのか。

 

俺のHPはもう赤色に染まってるよ。

 

「柴崎~お前うちのチームに入ってくれるのか…って既に死にかけてる?!」

 

日向がいつもの様に人の良さそうな笑顔で近づいてきたが、ユイの言葉の暴力で倒れている俺を見て思わずツッコミをいれる。

 

「おいおい、ユイお前何したんだよ?!」

 

「へ?ただ友達が居ない寂しいボッチ先輩をチームに入れてあげようとしただけですよ?」

 

はい死にました…。

 

「そ・れ・だ・ろ・う・がぁ~!」

 

「ぎゃぁぁぁ!ギブギブギブゥ!!」

 

天然なのか計算なのか分からないユイの台詞を聞き、俺の置かれている状況を察したんだろう。

次の瞬間にはコブラツイストをかけていた。

 

「おい柴崎。安心しろ、俺たちはメンバーが足りなくて困ってたんだ。いれてやる、なんて偉そうな立場じゃないから。入ってくださいって立場だから、な?」

 

「おう…」

 

ユイに技を決めてからこちらに駆け寄り優しい言葉をかけてくれる。

 

「お前なら目が良いし、戦力にもなる。それに実は俺、お前と話してみたいって思ってたんだ」

 

「お前コレなのか?」

 

「何で良い感じなのを邪魔すんだよぉぉぉ!」

 

日向の台詞を聞いた後、音無が手の甲を口の横にあてながら言う。

 

「…そうだったのか。でも悪い、俺はノーマルだから…」

 

「お前も信じるなよぉ!」

 

勿論ホモだなんて思ってはいないが一応乗っておくと、日向が悲しみのあまり絶叫する。

 

そして岩沢はさりげなく安堵の息を吐いていた。

 

心配しなくてもちゃんと女が好きだよ俺は。

 

「で、そもそも何の競技なんだ?」

 

大事な事をゆりから聞いていなかった事に今気づいた。

 

「野球だよ。だから最低でも9人は必要なんだ」

 

「人数足らねえじゃん」

 

俺を合わせてもまだ6人…あと3人も必要だ。

 

「岩沢はどうだ?野球やらねえ?柴崎の打つ所近くで見れるぜ」

 

「やる!」

 

「よっしゃ決まり!」

 

そこで即答しないでくれ…。

そして言ってから顔紅くしないでくれ…。なんか俺も恥ずかしいから。

 

ていうか何で日向は岩沢と俺のそういう事を知ってるんだよ。

 

「あと2人。誰か居ねえか?」

 

「関根と入江なら多分まだ大丈夫だろうけど…さすがに女子の比率が高いよな…」

 

誰か出来れば男が居ないか?

 

俺の知り合い…俺の知り合い…。

 

…あ、居た。

 

「千里はどうだ?」

 

「誰だそれ?」

 

知らないのか。まあ目立つタイプじゃないだろうしな。

 

「何回か一緒に晩飯食べた事があるんだ」

 

「へえ、どこに居るか分かるのか?」

 

「遊佐に訊けば分かるだろ」

 

言ってからインカムのスイッチを入れる。

 

「あー、遊佐?私用で悪いんだけど今大丈夫か?」

 

『私用で使っちゃメッって言ったじゃないですか』

 

「…………………」

 

『…外しましたか?』

 

「しつこいわ!」

 

いや若干ひさしぶりのように気もするけど!

それでも使う回数多すぎるわ!

 

「で、今大丈夫か?」

 

『問題ないです。どうかしましたか?』

 

なら初めからそう答えろよ…

 

「急ですまんが千里がどこにいるか教えてくれないか?」

 

『…誰ですかそれは?』

 

は…?

 

「いやいや、もうボケはいらないって」

 

『いえ、今回は真面目にお答えしています。千里さん…でしたか?そんな方は恐らく戦線には所属していないかと』

 

戦線に所属していない…?

 

いや、そんなわけないだろう?アイツは確かに戦線の制服を着ていたし、それに、ギルドにも行ったことがあるって…

 

「ド忘れしてるだけだろ…?」

 

『いいえ、通信士として戦線のメンバーは全員把握しています』

 

本当はそれは俺が一番よく知っている。

遊佐の仕事には文句のつけようがないほど完璧だということは。

 

「なら、アイツは誰なんだ…」

 

『…一応調べておきますので、あまり思い詰めないでください』

 

「悪い、ありがと」

 

会話を終えてインカムを切る。

 

「柴崎、どうだったんだ?」

 

「…ダメだったよ。他のチームに入ってたみたいだ」

 

日向の質問に、とりあえずそれっぽい答えを返しておく。

 

…千里、お前は一体なんなんだ…?

 

俺の中に残ったのはこの世界に対する不信感だった。

 

居るはずの人物が居ない。それだけで此処にある生い茂った木々すらも胡散臭く感じる。

 

「柴崎、お前なんで嘘ついたんだ?」

 

「え…?」

 

そう訊いてきたのは岩沢だった。

 

何でバレたんだ?遊佐と話してる時は小声で話していたはずなのに…

 

「何かあったのか?」

 

「何で、嘘って?」

 

心配そうに窺ってくる岩沢につい質問で返してしまう。

 

「何でって、嘘ついてるように見えたからだよ」

 

そんなにバレバレだったか?いやでも、日向は信じていた。

 

「あたしはよく柴崎を見てるから分かるよ。嘘か本当かくらい」

 

岩沢は、真っ直ぐとこちらを見据えていた。いつもなら照れるような台詞だが、一点の迷いもなく凛とした表情を崩さない。

 

そんな言葉をかけられると、さっきまで感じたいた不信感が嘘みたいに晴れていった。

 

「言葉ってのは、凶器にもなるけど…薬にもなるって事か…」

 

ま、特にコイツが言ったからってのもあるんだろうけど。

 

「え?なんて?」

 

「何でもない。さっきの嘘も、気にしなくていいよ。大した事じゃないから」

 

「そう、なのか…?」

 

「ああ、もう大丈夫だよ」

 

お前のお蔭で、っていうのは止めておこう。詳しく説明したらまた真っ赤になるかもしれないからな。

 

「おーい、他に居ないし早く関根と入江誘いに行こうぜ~」

 

長く話し込んでいた俺と岩沢に痺れを切らしたのか、日向が離れた場所から手を振って呼んでいた。

 

「さあ行こうぜ」

 

「あ、ああ…」

 

 

 

 

 

「野球?いいよ!やるやるー!」

 

一通り説明を終えると関根はふたつ返事で答えた。

 

「サンキュー、助かる」

 

「へっへっへ~、パワプ〇をやりこんだあたしの実力見せつけてやるぜぃ~」

 

いや、それ本物に関係ないから…。

 

「私は…どうしよう…野球なんて出来ないし…」

 

入江の方は予想通り迷っていた。

 

まあ運動とかと縁がなさそうだしな。

でも、今回は引き受けてくれないと困る。

 

奥の手を使うか…

 

「入江、ちょっと耳貸して」

 

「え?う、うん」

 

他の奴らに聞こえないように入江の耳元に近付いて話す。

 

あ、なんか良い匂いがする…

 

と、いけないいけない。

 

「野球頑張ったらきっと大山も見てくれるぞ」

 

「お、大山さんが…」

 

大山の名前を出しただけで顔をほんのり紅くさせる入江。

 

もう一押し…

 

「活躍したらもしかして惚れるかも」

 

「やります!頑張ります!」

 

9人目ゲット…!

 

「いよっしゃぁ!メンバー揃ったな!」

 

入江と関根の参加が決まり、喜んで手を叩く日向。

 

「じゃあさっさとグラウンド行ってゲリラ参加だ!行くぞー!」

 

「よーし!頑張るよー!」

 

「ユイにゃんが一番乗りだぁ!」

 

日向が駆け出すと他のメンバーも追いかけるように走り出す。

 

俺も行くか…

 

「柴崎」

 

「ん?」

 

すごく機嫌が良さそうに笑っている岩沢。

 

何かあったのかな?

 

「さっき、入江の耳元で話してた時、何か変なこと考えてたよね?」

 

「ご、誤解…」

 

…じゃない、けど…

 

「球技大会が終わったら罰ゲームだから」

 

試合に負けずとも罰ゲームが決まった瞬間だった。

 

 

 




ABOWのイベントの岩沢さんが素敵すぎて辛いです…
いつかあのイベントを題材にしてお話を書けたらいいなと思います。

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