「最近岩沢に避けられてる気がする…」
「…はぁ」
最近の俺の深刻な悩みを起こしに来てくれた遊佐にちょうどよかったから相談してみることにした。
まぁ、反応えらく薄いけど。
「…何かしたっけ俺?いやまあしたことはしたんだけど…」
寝てる所を何かしようとしてたし。
「してたのならしょうがないでしょう。では行きましょうか」
「ちょいちょい!待ってくれよ!頼むって、マジで困ってるんだよ」
「チッ…」
コイツ今舌打ちしやがったな…。
「そもそも、避けられてるってどういう風にですか?もしかしたら思い違いかもしれませんよ?」
「おお、それもそうだな。例えばだな…」
『よお岩沢』
『し、しばしゃ、き…』
『え…?』
『――――っ!』
『は、ちょ、待てよどこ行くんだー!?』
「みたいにすぐに逃げられたり」
「…………………」
「他には」
『岩沢~』
『お、おう柴崎』
『久し振りに屋上行こうぜ。お前の歌聴きたいからさ』
『きょ、今日はちょっと喉の調子が…』
『え、大丈夫かよ!?熱でもあるのか?』
心配しておでこに手をやると
『~っ!バカっ!』
『ぐえっ!』
「こんな風に平手打ちされて逃げられたり」
「…………………」
な、なんで何も言わないんだ?
「他にはだな」
『おーい、岩沢~』
『っ!あーっ!なんだか急に喉を潤したくなってきたなぁー!』
『………』
「って感じでそもそも話しかけさせてくれないとかさ」
「…………………」
ま、まただんまり…?
「あ、あのさ…何か言ってくれない?せっかく話してんだからさ…」
「チッ…!」
また舌打ちしやがった!しかもさっきよりも強い!
「失礼ですけどそういう自慢は鬱陶しいだけなのでやめてください」
「ほんとに失礼だなおい!つーか、自慢じゃねえよ!ちゃんと話聞いてたのかよ」
こっちは避けられてるんだぞ。平手打ちまで喰らってるんだぞ。
「あーヤバイ。マジウザイんですけど~。幼なじみが毎朝起こしに来るんだとか言ってる主人公並みにウザイんですけど~」
「キャラ変わってんぞコラ…!」
なんでギャル口調なんだよ。髪の毛クルクル弄るのやめろ。腹立つ…!
「いや、今回は本当に私は悪くないと思いますよ」
「は?なんで?」
どう考えてもふざけてるお前が悪い…ていうか、いつもは悪い自覚あったんだな…。
「まあそれは…柴崎さんの鈍さのせいとでもいいましょうか…」
「え?鈍さ?」
いつもズバズバと言ってくる遊佐だが今日はやけにモゴモゴして口ごもっている。
「ていうかまあ、ぶっちゃけるとそんなことは当事者同士で勝手にやっとけってところですかね」
「それをさせてもらえないからこうして相談してんだろ?」
いつもいつも声かけると逃げられるんだよ。
「今日の昼にはガルデモの練習場に行ってもいいですから。それで早々に解決してくださいよ」
「いいのか?」
「はい。その代わりそれまではたっっっぷり働いてもらいますから…」
無表情かつドス黒い満面の笑みという高等テクニックを披露してくれた。
…うん。しょうがないよね…。
「くそ…ここぞとばかりにコキ使いやがって…!」
あのあと遊佐に連れられ明らかに俺の領分を越えた量の仕事をさせられた。
昼までが永遠のように感じられた。
けど、これでとりあえず今日は解放される…。
さあ、岩沢に会ってみないとな。
「ちーっす」
『いつまでこんにゃっ!イッタッ…!』
俺がガラガラとドアを開けると同時に岩沢が盛大に舌を噛んだ。
コイツ最近よく噛むんだよな…大丈夫なのか…?
「ちょ、岩沢さーん、大丈夫っすか?」
「だ、大丈夫…」
「いやいや、かなり思いっきりいってたぜ?」
痛そうにうずくまる岩沢に皆が心配そうに駆け寄る。
「悪い。そんなに驚かせたか?」
「いや、ちが、そうじゃないけど…」
俺も近づいて声をかけるが、やはり目を合わせようとはせずずっと俯いてボソボソと小声で話している。
「あー、ハイハイ。ちょーっと離れてくれ~」
俺と岩沢の間に割り込んでくるひさ子。
「ほら、口見せな。あーん」
「あーん」
なんだかお医者さんごっこみたいだな…。
「んー、まあ深いっちゃ深いけど此処ならすぐ直るな」
「じゃなきゃ困るよ…」
拗ねたように涙目でそっぽを向く岩沢。
やべ、鼻血出そう…。
なんなんだろうこの涙目の岩沢の破壊力は…。
しかも顔が紅いからどこか色っぽさがあって更に破壊力を高めている。
「あの柴崎くん。何しに来たの?」
急に来た俺に入江が質問してくる。
「早く仕事が終わったから見に来ようと思ってな」
まあ嘘ではないよな。
「その割には服がボロボロだけど…」
「ははは、まあ7つの海を渡る冒険レベルにキツい仕事だったからな…」
ちっ、膝が笑ってやがるぜ…!
「遊佐さんの所ってそんな仕事あったけ…?」
「俺も初めてさせられたよこんな―「柴崎」―は、はい?」
入江と話し込んでいると、クイッと服の袖を引っ張られる感触。そして呼び掛けられる声。
「…用事はなんなの…?」
振り返るとそこには何故か不機嫌そうに頬を膨らませている岩沢が。
これはご褒美ですか?それともただの拷問ですか?
「い、いや用事というほどのことじゃあ…」
思わずどもってしまう。
可愛くはあるがとりあえず後ろの不動明王をしまって欲しい…。
「じゃ、なんで来たのさ?」
「いやだからいつもより早く終わったから見に来たんだってば」
「…それで入江とずっと話してるのか…?ふーん…」
な、なんでこんなに怒ってるんですか?誰か岩沢の取り扱い説明書をくれ!
「違う違う。たまたま質問されたから答えてただけだって…ていうかお前が舌を噛んだから話せなかっただけだろ」
ありのままの事実を告げると途端に顔を紅潮させ
「う、うるさい!蒸し返すな!」
そう言ったあとプイッと踵を返して俺から離れていった。
な、なんだったんだ…?
「むふふ…大変だねぇ~柴崎くん?」
「何が…?」
またいつも通りニヤニヤと笑いながらすり寄ってくる関根。
「ん~?そりゃまあ…ね?」
チラッと岩沢の方に一瞬視線を向けてからもう一度こちらを向きウィンクしてくる。
「確かに今のはよくわからなかった…」
「………あー、柴崎くんもそっちかぁ…」
「そっちってどっちだ?」
「いやぁ、もういいや~」
言うだけ言ってヒラヒラ手を振りながら入江の方に去っていった。
意味がわからん…。
「お前ら、ゴチャゴチャしてねえで早く練習再開するぞ?ったく」
「納得いかねえなぁ…」
結局あれから少し練習を見学してたが、なんとなく岩沢の演奏が精彩を欠いていた。
すると
『あーもー!柴崎お前出てけ!気が散る!』
と、一方的に怒鳴られ追い出されてしまった。
「俺なーんもしてねえのになぁ…」
ていうかいよいよ岩沢に嫌われてるっぽいし…。
「はぁ…ん?」
ため息をついた所で、少し遠くから音が聴こえてきた。最近よく聴く音が。
「行ってみるか」
「息継ぎさえ――――」
「へえ…」
音の正体はユイの歌声と演奏するギターだった。
なるほど、ガルデモの歌歌えるってのは嘘じゃなかったわけか。
「しかも、結構人気あるみたいだし」
ユイの周りにはさすがに本家ガルデモとまではいかないが、路上ライブにしては中々の人だかりが出来ていた。
「おつかれ」
ライブが終わって、一段落ついているユイにジュースの差し入れを渡す。
「あ、柴崎先輩!見てくれてたんすか?」
「ああ。ちょうど通りかかってな。なかなか良かったぞ」
「へへ~でしょ?これでもかなり練習してんだから!」
誉められたからかとても嬉しそうに笑っている。
「いつか、あたしもガルデモに入るんだもんね!」
「ははっ、まあ夢はデカイ方がいいよな」
あ、いや待てよ?今岩沢はなんだか調子が悪いみたいだしもしかしたら…
「…?」
…いや、無いな。
「あー!今何か失礼なこと考えてたでしょ!?」
「カンガエテナイヨ?」
「これ以上ないくらい棒読みなってるだろーがぁ!」
「ぐぁっ!」
鳩尾に強烈なパンチをお見舞いされた。
い、息が…!
「もう、乙女にはもっと優しく接しなきゃダメですよ?」
「お前のどこが乙女なんだよ…!?」
少なくとも俺は鳩尾を殴る乙女なんて知らん。
「何言ってるんですかぁ?どこをどう見たって可愛い可愛い乙女でしょ?」
横ピースを決めている。
「片腹痛いわ」
「てめえはいっぺん死んどけやぁぁ!」
「だぁぁぁ!」
こ、コブラツイストだと…!解った!コイツは乙女じゃねえ、プロレスラーだ!
「だから失礼なこと考えてんじゃねえぞごらぁぁ!」
ゴキッ!
「あ、がっ…」
な、何の音…だ…?
あれ?目の前が…真っ暗に…?
「あ、やば…。ま、いっか。にーげよ!」
それが最後に聞こえた言葉だった。
…今度会ったら覚えとけよ…!
「…さきさん。柴崎さん。起きてください」
聞きなれた目覚まし時計の声が…
「誰が目覚まし時計ですか」
「ぐはっ」
鳩尾辺りを踏まれる感触。
ま、また鳩尾かよ…
「何をやってるんですかこんなところで…」
「そうだ!ユイの野郎どこいきやがった!?」
「ユイさんはここには居ませんでしたが」
「マジで逃げやがったなアイツ…!」
この恨み、絶対忘れんぞ…!
「それより、岩沢さんとの事はどうなったんですか?見に行ったんでしょう?」
「うっ…」
俺の反応だけで何があったのか察したのか、呆れたように首を横に振る。
「何故あなたたちはそう回り道ばかり…」
言い終わり、ハァと重いため息を吐く。
回り道って何のことだ?
「そうですねぇ…柴崎さん」
「な、何でしょう?」
えらく真剣味を帯びた雰囲気の遊佐に思わず敬語で返事をする。
「好きです…」
「…はぁ?!」
な、何を言ってるんだコイツは?!
「好きです、付き合いましょう」
「ちょ、ちょっと待…」
完璧に虚をつかれ返事に窮屈してるとガタン、とすぐそばから物音が鳴った。
音のした方を見るとゴミ箱が倒れてぶち撒けられていた。
「岩沢…?」
「――――っ!」
「は、どこ行くんだ岩沢?!」
俺の叫びも虚しく走り去る岩沢。
アイツ、今泣いてた…?
「追いかけてください」
「え、でも…」
遊佐の言葉に上手く反応出来ず立ち尽くす。
俺に何か出来るのか?アイツからは嫌われてるんだぞ?
「いいから、行ってください」
「な、なんで?」
「分からなくてもいいから早く行ってください!…私もやりすぎましたし…」
やりすぎた?何をだろう?えらくばつの悪そうな顔をしてるけど。
「…分かったよ。行ってくる!」
「…見つけた」
「………柴崎」
岩沢は草むらのような場所に体育座りで縮こまっていた。
見つけるのに余り時間はかからなかった。何故かはわからない。
そう遠くには行けないということくらいしかヒントは無かったはずなのに、引き寄せられるみたいに見つけられた。
「…何してんの、こんなとこで?」
「…関係ないでしょ。柴崎には。遊佐の所戻ったら?」
言葉の端々にトゲを感じる。
なんでこんなに怒ってんだ?
「なんで遊佐が出てくる?」
「…だって、好きって…」
あ、そういやそんなこともあったか…。遊佐め…。
「あ、ありゃ遊佐のいつものおふざけっていうか…」
「でも、あんなに真剣そうに…」
言葉尻が震えて、うっすらと岩沢の目に涙が浮かぶ。
「ああもう、なんでそこで泣く?!」
岩沢の頭を掴みこちらを向かせて少し乱暴だが指で涙を拭う。
「アイツはいつもあんな感じなんだ!
ちょっと前にも今日みたいに真面目な顔してなんて言ったと思う?
出番が少ない気がするとか言ってんだぞ!」
俺が早口で捲し立てると、目を点にして驚いている。
「でも、それが今日もだなんて限らないじゃん…」
なんでこんなにコイツネガティブになってんだ?
「今回もおふざけだよ。やりすぎた、とかなんとか言ってたし」
意味わからなかったけど。
「結…バ…かよ…」
「へ?なんて?」
声が小さすぎて所々しか聞き取れなかった。
「なんでもない」
あ、やっと笑った…。
「てか、なんでお前泣いてたわけ?」
「…まだ気づいてないのかよ…」
「は?」
気づく?何に?
「その…なんていうか…」
「なんだ?どうした?」
また顔が紅い。
「歌う!」
「え?」
「やっぱりあたしには歌うことしか出来ないから…それに、あったんだよ。とっくの昔にあたしの気持ちはあたしの歌に」
「な、何を言ってるんだよ?」
音楽キチモードなのか今?
「My song の二番。まだ聴かせてなかったろ?だから、聴いてくれ」
「そりゃいいけど…」
それがどう繋がるんだ?
「じゃ、いくぜ?」
そう言ってアカペラで歌い始めた。
二番は確かに初めて聴いた。でも、なんていうかコイツらしい言葉で夢を語っていた。
そして、サビに入った。
そこで少し歌詞の雰囲気が変わった気がした。
言葉にするのは難しいけど、自分の為だけじゃない。そんな感じだ。
まだまだ聴いていたくなるがもう終わりに近づいていることがわかる。
「こんな醜い―――――」
最後にそう言って歌い終えた。
「これが、あたしの気持ちだから…」
いつも以上に顔を蒸気させている。
「そっか。俺もだよ…」
ていうか、当たり前じゃねえか。
「そ、それって―「俺もお前に会えて良かったぜ!」―…は?」
「確かに奇跡だもんな。お前と俺は本当なら会うことなんて無かった。それなのに、こんな所で会えたってすげえよな」
「……………」
おっと、つい嬉しくてテンション上げすぎちまった。
「悪い悪い。でも本当にお前とこうやって会えたのが―「違う!」―な、何が?」
え、違うの?友達になれたことが嬉しいってことなんじゃ?
「あたしは…あたしは、あんたが……その…」
「ちょ、ちょっと落ち着けって。ほら、深呼吸しろ」
そう言い背中をさする。なんとか落ち着いたようでもう一度こちらに視線を向けてくる。
「あたしは…柴崎が、好きだ…」
「好き…って…?」
ここに来てようやくすべてを悟った。
いままでの岩沢の態度の変わりよう。
遊佐の突然の偽告白。
それらが全て噛み合った。
そりゃ鈍いって言われるわ…
「あたしも、さっき気づかされた…でも、本当はもうMysongに書いてあった。あたしの気持ちは、柴崎を好きだって気持ちは…きっとずっと前からあったことなんだ」
岩沢が俺を好き…?
「な、なんで俺…?」
「分かんない。でも、好き。一緒に居るとさ、安心するんだ。今も、スッゴいドキドキしてるのにどこか落ち着いてるんだ。そんな気持ちをくれるあんたが…大好き」
好きと言ってからは恥ずかしげもなく面と向かって想いを伝えてくる。
ヤバイ…顔熱い…。
「…柴崎は?」
「え?」
「柴崎はどうなの?あたしのこと
、好き…?」
岩沢のことが好きか…?そりゃもちろん嫌いなわけがない。好きだ。
でも、それは女として、なんだろうか?
告白されて凄く嬉しい。ドキドキもしてる。実際、岩沢は綺麗だし可愛いと思う。
だけど、それだけで…そんなまだ分かりきっていない感覚のままコイツの想いに答えていいのか?
それは誠心誠意を込めて返事をしたって言えるのか?
「時間を、くれないか?ちゃんと俺の気持ちを理解するための時間をくれないか?」
「…うん。分かった。それまではいつも通りでいる」
そんな、悲しそうな顔しないで欲しいんだけどな…。
「ありがとう…」
せめてこの憤りが伝わればと頭を撫でる。岩沢は気持ち良さそうに目を閉じている。
俺の気持ちは、いつ決まるんだろう。
今はただ、それだけが気になっていた。
感想、評価お待ちしております。
歌詞を使ってはいけないというご指摘を受けまして修正いたしました。
――――のところは頭の中で補完してくださると嬉しいです。