Angel beats! 蒼紅の決意   作:零っち

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「止まれ心臓!」

「あの~、岩沢~…岩沢さーん…」

 

「…………………」

 

さん付けしてまで話しかけようとしている柴崎を無視し続けてるのにはちゃんと理由がある。

 

「ほんとにわざとじゃないんです!お願いしますからこっち向くくらいしてくださ~い!」

 

「………………」

 

向けるかばかぁ~!

なんでか分かんないけどこっちは顔紅くなっちゃってるんだよ!

 

なぜ柴崎がこんなに必死に謝っているのかというと、ライブで倒れたあたしを保健室に運んで…その…何かしようとしたからだ。

 

確かに最後の押し倒されたのはあたしが暴れたのが悪いけど…。

それでも目を覚ましたときになんであんなに顔近づけてたんだよ、と思うのはしょうがないだろ?

 

「……もう、いいから。その話はやめよ」

 

思い出すと余計に顔が紅くなるのでなんとか話を変えようとする。

 

「え、いいのか?!よかったぁ~」

 

なんでそんなに嬉しそうにするんだよ…?

 

ていうかなんでそんな事がいちいち気になるんだよあたしは!?

 

「あ、そういやあの歌、ライブで歌う許可貰えてよかったな!」

 

「ああ」

 

そう。今日の会議でゆりからまさかのOKが出たんだった。

 

ただし条件は、独りでするアコギの弾き語りじゃなくバンドとしてアレンジすること。

 

勿論、1も2もなく了承した。

 

ていうか…コイツちゃんと約束守ってくれたんだよな…結果的に。

 

『この歌はまた今度歌わせてやる』

 

う、やばい。なんかまた顔熱くなってきた…。

あたしって赤面症なんだったっけ?

 

「バンドでアレンジするんだろ?早く聴きてえな」

 

「ま、任せとけ…」

 

ニカッと笑う柴崎を直視出来ず反応が中途半端になる。

 

あ~!なんだ?なんで心臓がこんなに早く動く?!

 

「…柴崎、遊佐の所行かなくていいの?」

 

「あ、そうだった…謝るのに必死ですっかり忘れてた。じゃ、またな!」

 

忘れちゃ、ダメだろ…。

 

そんなことで仕事を忘れる柴崎に呆れてる…はずなのに顔がニヤけてしまうのはなぜだろう?

おまけにトクントクンと心臓が高鳴る。

 

「止まれ心臓!」

 

思わず、胸に強烈な打撃を与えてしまう。

 

「うぇ!げほっ、げほっ…」

 

「…あんた、何をやってんの?」

 

「…あ」

 

 

 

 

「柴崎を見ると顔が紅くなって心臓が早く動く、と?」

 

恥ずかしい場面を見られて弁解の意味も込めて先ほどから起きてる怪現象を相談する。

 

「あたしは赤面症なのかな?」

 

「あんた…だから音楽キチも大概にしときなって言ってたろ…」

 

なんで呆れられてるんだ?

 

「大体、赤面症って結局恥ずかしがるから紅くなってることには変わりないんだろ?よく知らないけど。…なら、なんで恥ずかしいのか考えな」

 

考えな、って言われても…

 

 

 

 

「もうこれ以上ないってくらい考えたのになぁ…」

 

結局、答えは教えてくれなかった。

 

くそ、ひさ子のケチ…。

 

「あれー、岩沢さん?なにしてるんすか?小っちゃくなってるなんて似合わないっすよ?」

 

「関根…」

 

うわ、うるさいのに見つかったな…。

 

…いや、待てよ?コイツならひさ子と違ってすぐに口を滑らすんじゃ…?

 

 

 

 

「…ってわけなんだよ」

 

ひさ子に話したことをもう一度関根にも話してみた。

 

「…そりゃあ」

 

「うんうん!」

 

よし、さあ言うんだ!この謎の答えを!

 

「自分で気づかなきゃダメですよ~!」

 

「なっ!」

 

口を滑らさないだって?!あの関根が!?

いつも余計なこと言うくせに!

 

「だから分からないんだって!今までこんなこと無かったし…」

 

「そんなにしょんぼりしないでくださいよ~…あたしが悪いみたいじゃないですかぁ」

 

「だってあたしこれでも一晩中考えたんだぞ?なのにひさ子もお前も考えろの一点張りだし…」

 

そりゃ落ち込むだろ…。

 

肩を落とすあたしを見て、ハァとため息をついてから

 

「しょうがないですねぇ…」

 

「何か教えてくれるのか?!」

 

「ヒントだけですよ?」

 

「それでも全然いい!」

 

なにか糸口が欲しいんだ。

この喉元まできてる熱い感情、その名前の。

 

「それは…」

 

「それは…?」

 

ゴクリと唾を飲む。

 

「みゆきちが詳しいのでそっち行ってくださーい!それでは~!」

 

「ちょ、待てこら!関根~!」

 

 

 

 

アイツ逃げ足だけは速いな…!

 

結局捕まえることは出来なかった。伊達にいつもひさ子から逃げ回ってるわけじゃないらしい。

 

「岩沢さん?」

 

「大山」

 

なんだよ入江の想い人かよ。入江が来いよ、流れ的に。

 

「な、なに?なんで睨まれてるの?」

 

「ああ、悪い。ちょっとね」

 

つい目付きが険しくなってたみたいだ。

 

「なにか困り事?良かったら聞くよ?」

 

大山、かぁ…。うーんちょっと頼りないなぁ…。

 

「あー、いいよ。それより入江知らない?」

 

「へ?い、入江さん?!」

 

なんだコイツ?急に顔紅くして。

 

「どうしたの?風邪?顔紅いよ」

 

「こ、これは夕陽!」

 

ん?なんだかどこかで聞いた会話だな…どこでだろ?

ん~、まあいいや。それより

 

「今昼だよ」

 

「うわ、しまった!つい咄嗟に下手な嘘ついちゃったよ!」

 

コイツ全部口から出てるけど大丈夫なのかな?

 

「なんで嘘なんかついてんの?」

 

「き、気にしないでよ。それよりなんで入江さんを探してるの?」

 

ん、そうだった。入江を探してるんだ。

 

「なんかあたし最近変なんだ。柴崎と居ると顔が熱くなったりして。で、それには入江が詳しいらしいからさ」

 

「入江さんが…?」

 

理由を説明すると、何故か呆然としてる大山。

 

なにかマズイこと言ったっけ?

 

「大山?どうかした?」

 

「う、ううん。そっかぁ、あはは。頑張ってね!…それじゃ」

 

大山は話を聞くだけ聞いて去っていってしまった。

 

なんなんだ?この世の終わりみたいな顔して。

そんなに落ち込むようなこと話したか?…全然わからない。

 

最近ホント分からない事が多すぎる。

 

 

 

 

「あー、もう。やっぱり歌詞も出てこないし…」

 

気晴らしに空き教室で作詞をしてみるけどやっぱりなにも浮かんでこない。

 

なんなんだろう。なにか考えようとしても、このモヤモヤがずっと邪魔をしてくる。

 

掴みかけたフレーズもそのモヤモヤがスッと割り込んできて隠してしまう。

 

「…やっぱり、これを先に片付けなきゃダメなのかな…」

 

でも、まだ取っ掛かりすら掴めないのにどうしたらいいんだ?

今日に限って入江は見つかんないし。

 

「岩沢さん?」

 

「入江!やっと会えた!」

 

「へ?やっと?」

 

あたしの事情を知らない入江は急にテンションの上がったあたしを見て呆気にとられている。

 

「ねえ、柴崎と居ると顔が熱くなって心臓がたまらなく早くなるんだ!」

 

「な、ななななななんですか急に?!心臓?柴崎くん?」

 

おっと、ちょっといきなりすぎたな。

 

一度深呼吸をして冷静になる。

 

「だからさ、なんだか最近柴崎と居ると顔が熱くなって心臓が早くなるんだよ。

で、それは入江が詳しいって関根が言ってたから」

 

「え~…もう、しおりん、なんで全部あたしに振るの~?」

 

入江は今は居ない関根に怒りを覚えてるようだ。

 

まああたしもだけど。

 

「それで、結局これって一体なんなの?…今までこんなこと無かったんだよ。だから自分じゃ分からないんだ…」

 

「でも、こういうことは自分で気づかなきゃダメな気が…」

 

「それも皆から言われた。だから自分で気づく為にもなにかヒントをくれよ」

 

「ヒント、ですか…」

 

そう呟いてから入江は、うーんとうねりながら頭を抱えている。

 

「…今まで無かったことっていうことなので、これまでに経験のないものを考えてみるのはどうですか?」

 

「経験のないこと…」

 

「そうです。今まで縁の無かったこととか」

 

なるほど、逆転の発想っていうやつだ。

 

今までに縁の無かったこと…ってなんだろう?

こう、心臓がうるさくって仕方なくなって、顔が熱くて、考え事も覚束なくなって歌詞も書けなくなる。

この条件と今まで経験がないことを合わせると――

 

「――分かった!」

 

「本当ですか?!」

 

あたしの言葉に嬉々とする入江。

 

うん。本当皆には迷惑かけたよ、こんなことで。

 

「ああ、これは…」

 

「はい」

 

「…スランプって、やつだろ?」

 

「………………ハイ?」

 

鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしてる入江。

 

「まあね、My song っていうある意味の自分の音楽の集大成を完成させちゃったから考え事も出来なかったわけだ、要するに」

 

今まではここに至るまで突っ走ってきたからここまで浮かんでこないなんてことは無かった。

 

つまりこれはここから更にステージを上げる為のスランプってわけだ。

 

「あの…なら柴崎くんと会うと顔が熱くなったり心臓が早くなる、とかはどう説明を?」

 

「それはあれなんじゃない?なんていうか、My song を造った時に一番近くに居たからその連鎖的な」

 

「……………………」

 

?なんでやっと答えが見つかったのにこんな沈黙が?

 

「…すみません、私の手におえるものじゃありませんでした!」

 

「え、ちょっと待って入江!」

 

…出て行ってしまった…。どうしたんだろう?

 

「まあ、いいか…原因も分かったしもう大丈夫だろうし」

 

早くこのスランプ終わんないかな…。

 

 

 

 

「よお岩沢」

 

「し、しばしゃ、き…」

 

「え…?」

 

「――――っ!」

 

「は、ちょ、待てよどこ行くんだー!?」

 

なんでまだ顔紅くなるんだよ!?




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