Angel beats! 蒼紅の決意   作:零っち

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「だから、歌わせない…!」

『触れるものを輝かしていく――』

 

いつも通り一本芯の通った力強い歌声。

それと同調するギター、ベース、そしてドラム。

現在ライブに向けて直前練習中。

 

そういえば、ライブ見るのって此処に来てたまたま見たあの1回だけなんだよな、実は。

練習とか屋上とかでよく歌を聴いてるからわかりにくいけど。

 

それも今回はいつもより大規模らしい。

自然とライブへの期待も高まっていく。

 

 

 

 

「ね、なんかいい雰囲気じゃない?」

 

「うん、なんの話してるのかな~?」

 

ただいま練習が中断中。原因はひさ子のギターのちょっとしたアクシデント。

 

そして今

 

「おいやめとけって、どうせ岩沢は何とも思ってねぇよ…つか柴崎お前貧乏ゆすりうるせえ!」

 

こっそり見学に来てた音無と岩沢が2人っきりで…2人っきりで!話してる。

 

…なんでこんなに苛ついてるんだ俺は…?

 

貧乏ゆすりが止まらない。両足が激しく上下してる。

 

「ちょっと柴崎くん~、そんなイライラしちゃって~。ヤキモチ?」

 

「なんで俺が…」

 

物凄くムカつく表情でからかってくる関根。

 

これは違うヤキモチなんかじゃない。これは…そう。

言うなればクラス替えをした時、仲の良かった友達とクラスが離れて、その友達が早速新しいクラスで他の奴と仲良さげにしてる時に感じるあれだ。

 

「ていうか柴崎くん眉間にシワ寄りすぎだよ?すごく…怖くなってる」

 

「まだ怖がられてるのかよ…!」

 

「ち、違うよ?!いつもはもう平気だけど今は凄く人相が悪くなってるから!」

 

「みゆきちそれフォローになってないんじゃないかな…?」

 

余りの苛立ちで眉間のシワが深く深く刻まれてるようだ。

より一層目付きが悪くなってることだろう。

 

慣れても怖いって今俺はどんな顔してんだ…。

 

イライラとショックという多重のストレスで頭がおかしくやりそうだ。ていうか禿げそう。

 

「そろそろ連れ戻すか…もうコイツ限界だろうし」

 

そんな俺を見かねてひさ子が岩沢を呼びに行ってくれた。

 

ひ、ひさ子…!普段からかってきたりで誤解してたけど良い奴…!

 

「岩沢ー。

とっくに待ちくたびれてるよ」

 

ふぅ、ようやくこれでストレスから解放される…

 

「記憶なし男!やるよ」

 

ん?記憶なし男?あー、音無の事か。何をやったんだろう?

 

そう思って岩沢達の方を見ると、ひさ子がチラッとこちらを向き

 

「岩沢、飲みかけのペットボトルやるって大胆だねぇあんたも」

 

飲みかけの…ペットボトル…!?

 

「え?なにが?」

 

自分がしでかしたことに気づいていないのか?!

 

飲みかけを渡したって事は、もし、もしも音無がそれを飲んだら…

 

「柴崎?どこ行くんだ?」

 

急に立ち上がった俺を見て訊いてきた。

 

「…ちょっと、用事に」

 

さぁ、ミッションスタートだ…!

 

 

 

 

「よお!音無!」

 

「柴崎?」

 

教室を出て音無を見つけると、ペットボトルの水を飲む寸前の所だった。

 

ふぅ、危ねえ危ねえ…。

 

「どうしたんだ?」

 

「いや、そんな大した用事じゃないんだ。それよりもちょっとそのペットボトル貸してくれないか?」

 

「あ、ああ。別にいいけど」

 

極限まで爽やかに笑う俺を不審に思いつつも蓋をしてからペットボトルを渡してくれる。

 

廊下から外に向けての助走を数歩とり

 

「ぶっ飛べごらぁぁぁぁぁ!」

 

「なぁー?!」

 

力の限り遠くへ投げ飛ばす。

余りの奇行に音無も絶叫している。

 

ミッションコンプリート。

自己ベストだぜ。

 

「な、何をやってるんだ?!」

 

「んー?ああいや、あそこの木にボールが引っ掛かってたから取ってやろうと思ってな」

 

あくまでも爽やかに大噓をついた。

 

「そ、そう…なのか?」

 

「ああそうか。普通はあそこまで見えないよな」

 

「そりゃまあな…でもあそこまで届いてないぞ?」

 

俺が指差した木はかなり遠くにあるためいくら自己ベストでも届くはずがない。

 

「そうだな。まあいいさ、取れないものはしょうがないさ」

 

「いや直接取りに行けよ…」

 

「もういいよ飽きたし」

 

「飽きた?!」

 

支離滅裂な行動に驚いている。

 

正直俺も驚いてるけどな。

 

「じゃあな!」

 

「お、おう…」

 

 

 

 

「もう用事終わったのか?」

 

「ああ、バッチリな!」

 

何をしてたのかは全然気づいてなそうだ。

 

「えらく機嫌がいいな…」

 

「あー、そりゃライブがもうすぐみれるからな!」

 

本当は青春の1ページによくある間接的なキッスを阻止できて機嫌がいいんだけど。

 

そんなことは露ほども気づいてないみたいで、そっか!そうだよな!と岩沢も上機嫌になっている。

 

「さぁ、それじゃラストスパートかけるか!」

 

「頑張りすぎて本番前に燃え尽きんなよ?」

 

「わかってる」

 

アクセル全開の岩沢にひさ子がブレーキをかける。

 

いいコンビだなコイツら。

 

「ぐへへーみゆきち~あたしもアクセル全開だよ~!」

 

「ちょ、ちょっとしおりん!」

 

その名コンビの隣で関根が入江の胸を揉んでいた。

 

こっちは…迷コンビだな…。

 

ていうか関根、男がいるときにそういうことはやめときなさい。

 

と思いつつ目がいってしまうのが男の性というもの。また俺の目はよく見えてしまう。

 

…眼福。

 

「柴崎?どこ見てるのかな…?」

 

呼び掛けられ岩沢の方に目をやると、声のテンションとは全くあっていない笑顔全開でこちらをみている。

 

な、なんだ…後ろに阿修羅が見える…!?

 

「な、なんで怒ってらっしゃるんですか?」

 

思わず敬語で訊いてしまう。

 

「怒ってなんかない。

で?ど・こ・み・て・た?」

 

あ、俺殺されるんだ…。

 

 

 

「では、配置に着きましょう」

 

もうすぐライブが始まる。

俺達は体育館に集まって準備をし、もう準備万端だ。

 

それにしても俺いつの間にここに来てたんだろう?

記憶がないんだよなぁ…。

目を覚ましたら此処に居たし。

 

「聞いてますか?」

 

「聞いてる聞いてる。舞台袖に行けばいいってことだろ?」

 

「ちなみに此処にはある人に引きずられて来ましたよ」

 

「引きずられて!?誰だよそれ!」

 

俺気絶させられたのか?!

 

「誰かは…口止めされているので…」

 

遊佐の身体が小刻みに震えている。

 

そんなに怖いのかそいつは!?

 

「とりあえず舞台袖に行きましょう」

 

「お、おう」

 

そんなに話題を反らしたいのか。

 

 

 

「遅いぞ柴崎」

 

体育館の舞台袖に着くと既にガルデモ全員が揃って、楽器も準備万端のようだ。

 

「悪い、何故か気絶してたらしい」

 

「…そっかー、ならしょうがないよなー」

 

なぜ棒読み?

ていうか気絶に関しては触れないのか?

 

「それよりも、もうすぐライブだぜ?よーく見とけよ!」

 

それよりもって、お前が遅いぞって言ったんだけどなぁ…まあいいか。

 

「当たり前だ、瞬きすら惜しむよ」

 

「はは、ここならドライアイにもならないだろうからそれも良いんじゃないか?」

 

「いやほんとに瞬きしないのは無理だ…」

 

涙で逆に見えなくなる。

 

「岩沢、お楽しみのとこ悪いけど、そろそろだぜ?」

 

「ああ、分かってる」

 

ひさ子の言葉を聞いた瞬間、先ほどまでのにこやかな表情が一変して目付きも鋭くなる。

 

そして、何故か後ろに置いてあるアコギに寄っていった。

 

「特等席だぜ?」

 

一瞬また優しい表情に戻りそう呟くと、もう一度表情が引き締まる。

 

「時間だ」

 

「おう」

 

「はい!」

 

「うーっす!」

 

ギターを掛け、定位置に移動しながら言う。

そしてひさ子達もそれに呼応する。

 

「さぁ、派手にやろうぜ!」

 

今、幕が開いた。

 

 

 

 

「「「ワアァァァァァ!!!」」」

 

岩沢がギターを一度大きく鳴らし、幕が開いた途端に観客から大歓声があがる。

それを煽るようにひさ子がギターソロをかき鳴らす。

 

「すごい歓声だな…」

 

それにすごい人の数だ。

 

『いえ、少ないですね…』

 

耳元のインカムから逆側の舞台袖にいる遊佐の声が聞こえてきた。

 

「え、これでか?!」

 

『はい。体育館、そして告知ライブということを考えると少なすぎます』

 

これでまだ少ないのかよ…。

 

改めてガルデモというバンドの凄さを思い知らされる。

 

「でもなんで?」

 

『…やはり教師の乱入の可能性があるからでしょう』

 

そうか、一般生徒は此処で普通に暮らす生徒。

教師に注意を受けるのは出来るだけ避けたいのだろう。

 

「だから岩沢も焦ってるんだな」

 

『焦って…いますか?』

 

「え?ああ、ちょっと顔が強ばってるっぽい」

 

パっと見笑顔で歌っているけど、いつもと少し違う事はわかる。

 

『よく見てますね…』

 

「そうか?」

 

等と会話している間に一曲目のcrow song が終わる。

 

そしてすぐさまキーンという独特の音が響く。

 

Alchemyだ。

 

ひさ子、ちょっと驚いてなかったか?

 

『早いですね』

 

「そうなのか?」

 

『Alchemyは盛り上がるため普段は終盤に持ってくるんです』

 

だからひさ子がちょっと慌ててたのか。

 

それをこんな序盤に持ってくるってことはやはり焦ってるんだろう。

 

「でも見てみろよ。NPCたちが集まって来たぜ」

 

少し袖から顔を出してみると、入口から大勢のNPCが入ってきている。

 

『ええ。これで天使も放っておけなくなるでしょう』

 

その言葉通り、しばらく歌に聞き入っていると

 

「来やがった」

 

天使が教師たちと入口までやって来た。

 

『柴崎さん。いつでも行けるように準備しておいてください』

 

「了解…!」

 

その為に来たんだ。ちょっとでもアイツらの足止めをしてやる。

 

「貴様らぁ!寮に戻らんか!」

 

「嫌だ!絶対聴きてえ!」

 

「そうよ!お前らこそ帰れ!」

 

後ろでは既に教師と生徒たちとで争っている。 

 

「うるさい!そこをどけ!」

 

「うわぁ!通すな!」

 

堪忍袋が切れたらしいえらくゴツい教師が強行突破を図ってきた。

それに続いて他の教師も入ってきた。

 

「やべ、行ってくる」

 

『ご武運を』

 

なんとか、あと少しだけでも時間を稼ぐ。

 

 

 

 

『陽動班、取り押さえられました』

 

結局、あのあとAlchemyと、もう一曲Million starを歌い終えた所で生徒たちのバリケードを突破され、俺達は舞台の上で取り押さえられた。

 

畜生、こんなんじゃ俺のいる意味ねえじゃねえかよ…。

 

岩沢とひさ子は腕を掴まれ、振り払おうとしているがさすがに男に腕力では勝てそうにない。

 

入江と関根は束縛こそされてないが到底暴れられそうではない。

 

遊佐は…横になってる。

 

そして俺には教師2人がかりで抑えにかかっている。

 

これじゃ振りほどけねえ…。

 

「俺達の為なんだよ!」

 

「彼女たちの音楽が支えになってるの!やめてあげて!」

 

NPCたちも必死に抗ってくれているがどうにも歯がたたない。

 

「うるさい!今までは大目に見てただけだ!図に乗るな!文化祭じゃなしに、こんなこと2度とさせんぞ!」

 

先ほど先頭切って突発してきた教師が一喝する。

 

そして何故か岩沢のアコギに向かって歩き出す。

 

「これは捨てて構わんな」

 

ひょいとアコギを持ち上げそう言った。

あろうことか岩沢のアコギにだ。

 

コイツ…!殺してやろうか…!

 

教師に押さえつけられてなければ間違いなく懐にしまってある拳銃で眉間を撃ち抜いてることだろう。

 

それはお前なんかが触れていい物じゃ…

 

「…わるな」

 

「あ?」

 

俺が内心で怒り狂っていると、岩沢がボソリとなにか呟く。

教師も聞こえなかったようで聞き返す。

 

「それに…触るなぁぁぁぁぁ!!」

 

陳腐な言葉になるが、まさに魂の叫びだった。

今までの理不尽を全て跳ね返そうとするような叫び声だった。

 

そして岩沢はその叫びのまま教師を振り切り、アコギを持った奴に体当たりをかます。

 

それをみて驚いている教師にひさ子は頭突きを喰らわして、舞台袖に走り出した。

 

ひさ子を追う教師の足を遊佐がさり気なく引っ掛けて足止めする。

 

俺もなんとかして抜けたいが、ひさ子の頭突きを見たからかこちらの教師は力を抜くことはなかった。

 

くそ、また何も出来ないのか俺は?!

 

「さあ、よこせ」

 

体当たりをかました教師に徐々に壁際に追い込まれる岩沢。

 

何故か岩沢はこちらをチラッと見た。

 

そして―――ギターを弾き始めた。

 

「これは…」

 

あの歌だ…。

 

初めは小さな音だったが、急にスピーカーを通したように大きくなる。

 

恐らくひさ子が上にある放送器具を弄ったんだろう。

 

「苛立ちを―――――」

 

歌い始めた。

アイツが望んでやまなかった瞬間が今訪れた。

 

だが、ここでまたあの言葉が甦ってきた。

 

『今にも消えてしまいそうな』

 

背中に氷水でもぶっかけられたように悪寒が走る。

 

ダメだ…ダメだダメだダメだダメだダメだ!このままじゃ、もしかしたらアイツ…。

 

ふと気づく、岩沢の歌のおかげで教師たちの拘束が弱まってる事に。

 

これならほどける…。

 

『待ってください』

 

ほどこうとしたその瞬間に遊佐の声がインカムから聞こえてくる。

 

「なんで?」

 

俺も気づかれないように小声で問いかける。

 

『あくまでも今は時間を稼がなければいけないんです』

 

「けどよ…」

 

『お願いします。ギリギリまで耐えてください』

 

そこまで言われると無理だと言えなくなってしまう。

 

「…やばくなったら行くぞ」

 

『ありがとうございます』

 

本当はもう既に相当まずい状態だ。

なんというか、存在感のようなものがドンドンと薄れていっている。

 

「泣いてる君こそ―――」

 

いよいよサビに入った。

 

岩沢の顔を見る。

 

…泣いてる?…いや、笑ってる…?

 

どちらとも取れない、なんとも満足気な表情をしていた。

 

存在感は更に希薄に、そこはかとなく儚い雰囲気を醸し出す。

 

「落とした涙が―――」

 

「遊佐っ…もう限界だ…!」

 

言い終わると同時に教師振り払って走り出す。

 

「岩沢ぁ!」

 

周りを囲む教師たちなどなんのお構いも無しに弾き飛ばす。

 

そして岩沢に駆け寄り、ギターのネックの部分と岩沢の手を握り演奏を止める。

 

「なに…柴崎…?邪魔、しないでよ…」

 

まともに言葉も紡げない状態になっている。

 

コイツ、こんなんで歌ってたのか…?

 

なんでそこまでして、とは思わない。解ってる。

コイツは、そしてこの歌はコイツの人生なんだ。

きっと消えたって後悔しないだろう。

 

でも、それでも…

 

「嫌だ」

 

「なん、で…?歌えって、言ったじゃん…」

 

「ああ言った」

 

「なら…」

 

「でもお前が消えるくらいなら歌ってほしくない!」

 

歌えって言ったことも今消えてほしくないと言ったのも全部俺の我が儘だ。

そんなこと分かってる。

どれだけ子供だと思われようと、全て本心だ。偽りのない思いだ。

 

「だから、歌わせない…!」

 

「ちょ、消える、って…?」

 

心当たりがあるのかハッとする。

 

「そんなわけ、ない…だから、歌わせて…?」

 

「駄目だ!」

 

「なんで…!?」

 

「俺はまだお前と此処に居たい!」

 

掴んでいた手を離して、岩沢の身体を力いっぱい抱き締める。

 

前に抱き締めた時と同じ、このまま折れてしまうんじゃないかと思うほど華奢な身体。

それでも力を緩めない。

 

「まだお前と話したい。お前と歩きたい。お前に会いたい。お前の歌が聴きたい!」

 

この感情がなんなのか解らない。ただ、失いたくないと叫んでいることは解る。

 

「この歌はまた今度、絶対歌わせてやる。だから…今はもう、寝とけ。な?」

 

「…わかった、よ…」

 

言い終わると、岩沢の身体からフッと力が抜けて俺に体重を預ける。

 

とりあえず、これで大丈夫…かな?

 

「おい!入江、関根あとひさ子!逃げるぞ!」

 

「へっ、あ、了解っ!」

 

岩沢をいわゆるお姫様抱っこの形で抱えて呆然としてた入江たちに指示をだす。

 

遊佐は既にずらかった後みたいだ。

 

「お、お前ら待て!」

 

「急げ!」

 

 

 

 

「はぁ…疲れた…」

 

今俺は保健室にいる。

 

何故かというと、なんとか教師を振り払って逃げ切った後、ひさ子が

 

「あんた岩沢が起きるまで着いててやってよ。保健室にでも行ってさ」

 

と言われ、勿論断ろうとしたが関根と入江、更にはいつの間にかいた遊佐にそーだそーだと押しきられ今に至る。

 

「なんで俺が…」

 

ボヤきながらベッドでスースー寝息を立てている岩沢の顔を見る。

 

すげえ無防備…。

 

少し口が開いていて、瞼は安らかに閉じられ、長いまつ毛が一層映える。

 

なんか、ヤバくね?これ…。

 

夜に男女2人きりで閉鎖された校舎の保健室にいる。

なにか間違いが起こるには絶好の状況。

 

な、なに考えてんだ俺は…!

 

そう思いつつ岩沢の綺麗な紅い髪を撫でる。

 

「んぅ…」

 

なんとも悩ましい声をあげる。

 

マズイ、なんだ、これ…?

 

自分の身体が言うことをきかない。バクバクと心臓が激しく高鳴る。

 

「岩…沢…」

 

まるで引力でもあるかのように岩沢の顔に吸い寄せられる。

 

もう岩沢の唇まで、あと数センチ。

 

もう、ダメだ…!

 

と思った所でパチッと岩沢の目が開かれる。

 

「あっ…」

 

「な…な、な、何をやってるんだお前はぁ~!」

 

「うがっ!」

 

顔を真っ赤に染めた岩沢はそのまま俺の顔面に平手打ちをかました。

 

あ、危ねえ~!俺一体今何をしようと…。

 

「ち、違う違う!なにも疚しいことをしようとなんてしてない!」

 

実際、自分でも何をしようとしてたのかよくわからない。

 

「本当か…?」

 

タオルケットに包まって壁際に退避した状態で、上目遣いのまま睨んでくる。しかもちょっと涙目で。

 

な、なんだこの生き物は…!犯罪だろ…!?

 

「本当本当!」

 

何度も頷いて肯定する。

 

「…分かった。一応信じる…」

 

そう言ってベッドから降りて立ち上がろう…とした所で急にバランスを崩した。

 

「あぶねっ」

 

急いで駆け寄り抱き抱える。

 

「ちょ、何を…!」

 

顔は依然真っ赤にしたまま口をパクパクさせている。

 

「何って、お前が倒れかけたから…」

 

「もういいから早く、早く離して!」

 

腕の中でバタバタと暴れだし、焦ってバランスを崩す。

 

気づいたら岩沢を押し倒すような形に。

 

え、なんで…?

 

「こ、これはわざとじゃ…」

 

「いいから早くどけ~!」

 

思い切り振り抜かれた右拳。

それがその日の最後の記憶だった。

 

 

 

 




感想、評価お待ちしております。

歌詞を使ってはいけないというご指摘を受けまして修正いたしました。

―――――のところは頭の中で補完してくださると嬉しいです。

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