Angel beats! 蒼紅の決意   作:零っち

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「てへっ、口が滑っちゃった☆」

「おはようございます」

 

「…おはよう」

 

もういい加減慣れて驚くことなく遊佐に挨拶をする。

 

「起こしに来てくれるのはありがたいけど、今日はゆりに呼ばれてるから別に起こしに来てくれなくてもいいんだぞ…」

 

「知っています」

 

「ならなんで来た…」

 

本来ならもう少し寝れるはずだったと思い頭を抱える。

 

今日ライブらしいから体力を溜めておきたかったのに…

 

「聞いて、くれますか…?」

 

「お、おう」

 

いつもより思い詰めた様子で問う遊佐。

 

なんだ?えらく真剣な顔してるけど…

 

「私…」

 

いつも俺を好き勝手弄りまわす時の雰囲気とはまるで違う様子。

思わず緊張し、ゴクリと生唾を飲む。

 

「最近私の出番が少ない気がするんですよね…」

 

「……………」

 

激しく襲ってくるコイツは何を言ってるんだ感。

 

第1に、何の出番だ。

第2に、恐らく少ないなんてことはないだろ。

第3に、そんなことで思い詰めるな。

最後に、それに俺を巻き込むな。

 

「冷たいですね」

 

「また心読んだな?まあ今回は読んでくれた方がありがたいけど」

 

口にするのもめんどくさいぞ。

 

「こんなに真剣に悩んでいるのに…」

 

「真剣に悩んでても、そんなの俺にはどうにもしてやれないだろうが」

 

「いいえ。柴崎さんが一緒に喋って下されば大丈夫なんです」

 

「意味がわからん…」

 

もう二度寝していいのか?これ?

 

「ダメですよ。まだついでの用件があります」

 

「どうせろくでもないことだろ…」

 

「今日のライブは私と一緒に舞台袖で待機なので」

 

「どう考えてもそっちが本題だろ!」

 

なんだったんだよさっきまでの意味わからない会話は?!

 

「いえ、こちらは後でもいいじゃないですか」

 

「それ話す時に俺と会話するんだから要らないだろ!?」

 

「はっ!言われてみれば…」

 

手の甲を口にあて驚いている…ように見える。

 

無表情だからわかんねえよ。

 

「ドジっ子属性を入れていこうかと思いまして」

 

「なら口にするべきじゃねえだろ?!」

 

絶対コイツ適当に楽しんでるだけだ!

 

「てへっ、口が滑っちゃった☆」

 

「星つけてるんじゃねえよ!」

 

それどうやってるんだよ!?無表情のままだし!

 

「てへっ、怒られちゃった★」

 

「怖えよ!なんで黒くなったんだよ!」

 

怒ったのか?怒られて逆ギレしてるのか?いや無表情なんだけども。

 

「てへっ、間違えちゃった(星)」

 

「もうマークじゃない!」

 

めんどくさくなったんならやめろよ!

 

「そうですね、飽きました」

 

「またアッサリとやめたな…」

 

なら初めからやるな。疲れたわ。

 

「ボケてれば人気が出るかなと」

 

「だから何のだよ」

 

つーか多分そんなこと言ってる奴の人気は下がる。

 

「さぁ、出番も稼げましたし帰ります」

 

「はやくいけ…いや、いってください…」

 

もうおねがいじゃなく懇願のレベルだ。

 

こんな朝早く起こされて、挙げ句の果てツッコミっぱなしなんてライブまで体力が持たねえよ。

 

「では、失礼しましたほしー」

 

バタン

 

「………………」

 

口癖かっ!

 

 

 

 

「ふわぁぁ」

 

結局、あの後ろくに眠れず疲れは溜まったままで今校長室にむかってる。

 

くそ、遊佐の変な人気獲りに付き合わされてもう寝むい…

 

「なんだ?眠そうにして」

 

「岩沢…ふわぁ」

 

不機嫌そうな顔をしてこちらを見ている。

 

「今日ライブだぞ?なにあくびなんてしてるんだよ」

 

「これには止むに止まれぬ事情があるんだ」

 

いや、本当は大したことじゃないけど。

 

「ふーん…まあいいや。どうせすぐに眠気も吹っ飛ぶだろうし」

 

不機嫌そうにしてたかと思えば今度はえらく楽しそうにしてる。

最近表情がコロコロ変わるようになったなぁ。

初めの頃はなんというか、キョトンとした表情とかばかり見た気がする。

 

親しくなった、っていうことなのかな?

 

「どうしたんだよ、急にニヤニヤして」

 

つい口元が緩んでたみたいだ。

 

「なんでもねえ。それより、眠気が吹っ飛ぶって?」

 

「んー、まあ内緒ってことで。もう着いちゃうし」

 

岩沢の指差す方向を見ると、確かに校長室がもう目と鼻の先だった。

 

 

 

 

…眠気飛びました。

 

皆が集まると、ゆりが新曲が出来たと説明し、今岩沢が披露している。どうも新曲が出来るととりあえず披露するみたいだ。

 

やっぱり、いい曲だな…。

 

いつもは騒がしい面々も静かに聞き入っている。

 

 

 

 

一番を歌い終えた所で終了のようで、二番に入らずそのまま後奏に入り曲を締めた。

 

シーンと静寂が訪れる。

 

皆ぐうの音も出ないって感じかな。

 

なんとなく優越感に浸っていると、顎のしたに手を組んだポーズのままゆりが口を開く。

 

「なぜ新曲がバラード?」

 

そ、そこなのか気になる所は?

 

「いけない?」

 

「陽動にはね。しんみり聞き入っちゃったらあたしたちが派手に振る舞えないじゃない」

 

「じゃ、ボツね」

 

あっさり引き下がる岩沢。

 

は…?

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

「何よ柴崎くん?」

 

「一曲ぐらいバラードを入れるのってそんなにダメな事なのか?」

 

気を抜くと声を荒げてしまいそうになるので、出来るだけ声を和らげて訊く。

 

「そうねぇ…確かに今のところ全ての曲がノリのいいものよね」

 

「なら…「それでも」

 

いいのか?と繋げようとしたところを遮られる。

 

「それでも、リスクが大きすぎるわ」

 

「そんな…でも、コイツはほんとに頑張って…」

 

「勘違いしないでね?あたしだって嫌がらせでこんな事を言ってるんじゃないのよ?この歌の意味だって、ある程度分かってるつもりよ」

 

「だったら、一回だけでも歌わせてやれないのか?」

 

自然と詰るような口調になってしまう。

歌の意味を理解してるというのは本当なのだろう。ゆりもなんともやりきれない表情をしている。

 

「柴崎、落ち着けって。ゆりっぺだって歌わせてやりたいんだぜ?」

 

ポンと俺の肩に手を置く日向。

 

「でもよ、もし仮に今の歌を歌った時に銃声が客に聞こえちまったらガルデモの人気も無くなる可能性だってあるんだ。それは岩沢だって嫌に決まってる。だろ?」

 

そう言われチラリと岩沢を見ると、困ったように笑って首を縦に振っていた。

きっとアッサリ引き下がった時に既にここまでは考えていたんだろう。

 

「…そこまで考えてなかった」

 

「そりゃしゃーねえよ。入ったばっかだしな」

 

人が良さそうに笑う日向。

ただのアホなのかと思ってたけど、意外とよく考えているのかもしれない。

 

「わかってくれたかしら?」

 

「…悪かった、話を止めちまって」

 

「いいのよ。さあ、じゃあここからが本題」

 

仕切り直しとばかりにもう一度顎のしたで手を組む。

 

「あ、音無くんカーテン閉めて」

 

微妙に仕切り直しきれなかった。

 

「今回のオペレーションは天使エリア作戦のリベンジ」

 

ゆりの後ろにあるモニターにもでかでかと天使エリア浸入作戦と書かれている。

 

「しかしあの作戦は…「心配しないで」

 

高松の言葉を遮り、自信ありげに笑ってみせる。

 

「今回は彼が作戦に同行するわ」

 

スルリと自らが座る椅子を動かすと、後ろからおかっぱ頭のメガネをかけた男が現れた。

 

「なにぃ?!椅子の後ろから!?」

 

「メガネ被り…」

 

各々好き勝手にリアクションをとる。

 

しかし、もしかして最初からあそこに居たのだろうか…?

話を長引かせて悪かったなぁ…。

 

「おいおい、そんな青瓢箪使い物になんのかよ?」

 

確かに、戦えそうには見えない。

 

「そう言わないであげてくれる?」

 

「ハッ!なら、試してやろう!」

 

言いつつハルバートをおかっぱ頭くんの喉元に向ける野田。

 

「お前友達いないだろ?」

 

すると音無が容赦のない言葉を発する。

 

「確かに野田が誰かといるの見たことないな…」

 

監視してても、いつも独りで鍛練している。飯も独り飯。

 

…今度一緒にご飯食べてやろうかな…。

 

「うるさいぞ貴様らぁ!」

 

図星だったのか、激昂してこちらを振り返った。

その瞬間、おかっぱくんがフッと笑いをもらした。

 

そして

 

「3.1415926535…」

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!やめてくれぇ~!」

 

唐突に円周率を唱え出し、それを聞いた野田が苦しみのたうち回っている。

 

「円周率だと?!」

 

「やめてあげて!その人はアホなんだ!」

 

だ、ダメだコイツら…色々と…!

 

「そう!あたしたちの弱点はアホなこと!」

 

「リーダーが堂々と言うなよ」

 

ていうか一緒にするなよ…俺はそこまでアホになった覚えはないぞ。

 

「そこで、今回はこの、天才ハッカーの名を欲しいままにしたハンドルネーム竹山くんが作戦に同行する!」

 

「「……………………」」

 

数秒の静寂。

 

「今のは本名なのでは?」

 

「僕のことは、クライストとお呼びください」

 

高松の疑問は綺麗にスルーしてビシッと指差し言い切った…クライストこと竹山。

 

「さすがゆりっぺだぜ…カッコいいハンドルが台無しだ」

 

「ていうかコイツよくこの空気の中言い切ったな…」

 

大物すぎるぜ…。

 

「今回は2度目ということで天使も警戒してるはず。いっちょ、ガルデモには派手に陽動してもらおうかしら」

 

「了解」

 

爽やかに笑ってみせる岩沢。

 

…本当は今どう思ってるんだろう?あの歌がボツになったのは、絶対ショックなはずだ。

…なにか、してやれないのかな…?

 

「作戦開始は本日の1900。

それじゃ、オペレーション…スタート!」

 

 

 

 

「あ、柴崎くんと岩沢さん。ちょっとこっち来てくれる?」

 

会議も終わり出ていこうとした俺達をゆりが呼び止める。

 

「どうした?」

 

「今日の作戦について、捕捉しておこうと思ってね」

 

何かあるのか?

 

「今日のライブはいつもの食堂のゲリラライブじゃなくて、体育館で告知ライブを行うわ」

 

「なに!告知ライブ!?」

 

途端に目を輝かせる岩沢。

 

あれ?昨日もこんな風なことが…デジャヴ?

 

「ええ、だからきっと今回の敵は天使だけじゃなく、教師たちも止めにくるでしょうね」

 

「それって大丈夫なのか?」

 

「そのためにあなたをつけるんでしょ?」

 

そういえば遊佐が今日は舞台袖に待機って言ってたな。

 

「天使エリアに浸入して、出来るだけ情報を集めたいの。だからもし教師たちが来たら時間稼ぎを頼みたいのよ。もちろん教師たちに手を出しちゃダメだけど」

 

「そりゃ、まあ出来るだけのことはするよ」

 

しかし手を出さずに足止めか…。多分そんなに持たねえぞ?

 

「あたしは捕まってでも歌うよ!」

 

「それはやめときなさい」

 

ゆりの言葉になんでだよー、と文句を垂れている。

 

当たり前だろうが、危ないことこの上ないわ。

 

「もし教師がカッとなって殴ってきたらどうするんだよ?」

 

「え?すぐに治るからいいじゃん」

 

「そういう問題じゃない」

 

つか、そんなの見たら俺がカッとなって教師を殴っちまう。

 

「とにかく頼むわよおふたりさん。今回のキーマンはあなたたちなんだから」

 

「新入りにプレッシャーかけるなよ…」

 

「ビビってんの柴崎?」

 

ニヤニヤしながら茶化してくる岩沢。

 

「あー、まあその時になったらビビらずしっかり守ってやるよ」

 

「は、はぁ!?」

 

急に岩沢の顔が茹でタコのように真っ赤になった。

 

な、なんだ?

 

「ど、どうしたんだ?」

 

「は、恥ずかしいこと言ってんじゃねえよ!」

 

「わ、悪い」

 

そんな恥ずかしいことか今のは?

 

なんとなく理不尽な気分だ。

 

「イチャつかないでくれないかしら」

 

「「イチャついてない!」」

 

ゆりの発言に息ピッタリに反論してしまう。

 

「はいはい、もういいから。用事は済んだし散った散った」

 

くそ、覚えてろよ…。

 

 

 

 

「なあ柴崎、さっきはありがと」

 

「ん?なんのことだ?」

 

部屋を出て少し歩いてから急にそんな事を言ってきたが、感謝される心当たりがない。

 

「ほら、新曲のこと」

 

「ああ…いや、あれは感謝されるような事じゃないだろ?俺がただ我が儘言って皆を困らせただけだし」

 

皆なぜボツにするしかないか分かっていた。そんな中無駄に俺が絡んじまっただけだ。

正直もう忘れ去りたいくらいだ。

 

「ううん。嬉しかったよ、ちゃんと柴崎は分かってくれてるんだって思った」

 

どれだけあの歌思い入れがあるか、ということだろうか。

 

「なんていうかさ、そりゃ歌いたかったけど、分かってくれてる人がいるならいいかなって…ちょっと思えた」

 

はにかんで言うこの言葉に嘘はないんだと思う。

 

けど、だからこそ歌いたがっている事が痛いほど伝わる。

 

「歌えよ…」

 

「え…?」

 

気づけばそんな事を口にしてた。

 

「天使エリア浸入作戦って派手にドンパチやらかすわけじゃなさそうだし、歌っちまえよ」

 

無責任だと思いつつも、言ってしまう。

 

「なにかあったら俺がなんとかするからさ」

 

「新入りになにが出来るってのさ」

 

「う…」

 

やっぱりそう思うか…。

 

「でも…ありがと。考えとく」

 

少し頬を紅く染めて微笑む。

 

そう。俺はコイツのこういう顔を見たかったんだ…。

 

「じゃ、本番前最後の練習、張り切っていこうかな」

 

行こ、と言って駆け足で先を行く岩沢。

 

俺も後を追い、晴れやかな青空の中、いつもの教室へ2人、駆け足で向かった。

 




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