Angel beats! 蒼紅の決意   作:零っち

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「どこだよ、ここ…」

眼を開けるとそこには満点の星空が広がっていた。

 

「どこだよ、ここ…」

 

一言呟いてから横になっていた身体を起こし、辺りを見回す。

 

「学校…だよな」

 

今いる所は普通の学校よりかなり広いが、グラウンドだ。近くに校舎もある(またかなりデカイ)。

しかも何故かわからないが見知らぬ制服を着ている。

 

「あれ」

 

そこまで考えると、ようやく気づく。

――――俺、そもそもどんな制服着てたんだ?いや、学校に通っていたのか?何歳だった?

 

「いや、落ち着け」

 

自分自身に言い聞かせ、頭を冷やして、もう一度思考を巡らす。

 

名前はなんだった?

 

「柴崎…」

 

あと少しで…

 

「蒼…」

 

そうだ…。柴崎蒼。これが俺の名前だ。

 

なら、家族は?

 

「………………」

 

…だめだ。思い出せそうにない。

 

 

その後も年や学校、様々な事を思い出そうとしたが記憶は奥底に眠って浮かんでは来なかった。

 

「記憶喪失ってやつか?」

 

厄介なもんになってるなぁ俺。

 

「とりあえず人探してみるか」

 

 

―――バンっ

 

「なんの音だ?」

 

なにやら爆発音のようなものがした方向を見てみると、明かりが見えた。

 

「あそこなら人が居そうだな」

 

 

明かりに近づいていくと、またもや大きな建物となにやら大勢の人だかりが見えた。よく眼を凝らしてみると

 

「銃…?」

 

よくある映画なんかで使われてそうなマシンガンや拳銃、ライフルなどを建物を守るかのように一点に向け発砲している。

 

その集中放火の矛先に目を向けると、一人の少女が立っていた。

 

「いや、立っていたって…」

 

自分の眼を疑いゴシゴシと目を擦る。

あんな弾幕を張られている状態で立っているなんてあり得ない。

しかも、弾が弾かれている。

 

「なんだあいつら!?」

 

近づいていたところだったが急いで方向転換し、その集団がいる逆側の入り口に向かった。

 

 

「はぁ、はぁ…なんなんだよ、あいつら…」

 

息絶え絶えに、言葉を発しながら、建物に入る。

 

―――まで、こんな所にいる?そういうやつも居た気がする

 

声が、聴こえた。

 

顔を上げるとバックに派手なロゴを据え、4人の少女が演奏していた。

 

そして俺の視線は真ん中でギターをかき鳴らしながら歌う少女に、釘付けになった。

 

燃えるように紅い髪―――

なにか決意が宿ったような勝ち気な紅い瞳―――

 

しかしなにより、彼女の声が印象的だった。

 

瞳に宿る決意をそのままぶつけたように力強い、声。

 

「なぁ、そこの君」

 

「はい?」

 

下手なナンパのようになってしまったがそんなことを気にしてられない。

 

「この人達は…?」

 

そう問いかけると、不思議そうにこちらを伺い

 

「ガルデモですよ。知らないんですか?Girls Dead Monster

…うちの生徒ですよね?」

 

「Girls Dead Monster………」

 

その名前を忘れてしまわないように、焼き付けるように、繰り返す。

 

「あの、ボーカルの人は?」

 

「岩沢まさみさんですけど…」

 

岩沢まさみ…

 

「あの…大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ、ゴメン。大丈夫。ありがとう」

 

俺の様子がかなりおかしかったようで怪訝そうにこちらを見ながらどこかに去っていった。

 

そんなやりとりをしている内にラストのサビに入ったようで、盛り上がりが最高潮に達していた。

 

すると、とてつもない風が吹いた。

 

「な、なんだ?」

 

かなりの強風に慄きつつも、顔を上げると雪のように、紙が宙を舞っていた。

 

その紙吹雪の中歌う彼女―岩沢まさみは、とてつもなく、綺麗だった。

 

 

演奏が終わり、てきぱきと撤収していった彼女らガルデモ。

しばらく放心していたが、我にかえると目に映ってきたのはここの前で銃撃戦を繰り広げていた、集団だった。

 

「な、なんであいつらがここに?!」

 

そんなどこかのドラマででも聞いたような台詞を吐きながらその場を一目散に逃げ出した。

 

 

「はぁ、はぁ…」

 

なんて日だよ今日は。起きたら記憶喪失だわ逃げ回ってばっかりだわって。

 

結局走り回ってついた先は校舎と思わしき建物の屋上だった。

 

「腹へったな」

 

既にかなり夜更けにさしかかっているようで、腹の虫もくーくーと鳴いている。

だが、手持ちに食べ物はないし、探しにいくにしても当てもない上に妙な連中もいる。

 

「くそっ、寝るか」

 

少しでも風から身を守れるように入り口の後ろに隠れながら横になった。

 

 

「―――――♪」

 

なにか、音が聴こえる。それにハミング。心地いい。

 

「って…」

 

誰だ?こんな夜中に…

 

少し身を出して窺う

 

「あっ…」

 

そこには先ほどのライブとは違い、エレキギターではなくアコースティックギターを奏でる岩沢まさみの姿があった。

 

違う所はギターだけではなく、瞳も声も力強さより儚さが際立っていた。

 

「なに、あんた」

 

声を上げた俺に気づいたようでさっきまでの雰囲気は何処に行ったのかというほどその表情はポカンとしていた。

 

「え、いや、なんていうか…」

 

「もしかして、新入り?」

 

新入り?何のだ?

 

「目付き悪いね」

 

謎な問いかけをしたかと思うと次は罵倒がとんできた。

つーか…

 

「あんたには言われたくない」

 

「ん?そうか?」

 

少し首を傾げ訊いてくる姿は可愛らしいが、女子にしては目付きが悪い方なのは確実だろう。

 

「まあいいや。あんた名前は?」

 

「柴崎…蒼」

 

「ふーん、よろしくね」

 

この人、ペースが独特というか、もしかして、天然…?

 

「なぁ、そもそも新入りってなんのことだよ」

 

「………………?」

 

いや、首傾げられても…

 

「あー、そっか。あんたまだ入隊してないのか」

 

一人合点がいったとばかりにしきりに頷いている。

 

「入隊って、なんのことだ」

 

「んー、あ、いいフレーズが来た!」

 

「は?」

 

急に大きな声を出したと思うと素早くギターを脇に置き、ノートに何かを書き込んでいく。

 

「なぁ、入隊ってなんだよ」

 

再度問いかけるもガン無視される。

なんなんだこの人は…

 

「うん。いい。これを待ってたんだよ」

 

でも、生き生きとした顔でノートに何かを書く姿も可愛いな…

 

「よし。あ、柴崎」

 

「あ?!ああ」

 

「なんだ?変な声出して」

 

しまった、見惚れてしまってた…

 

「なんでもない」

 

なんとか表情を消して受け流す

 

「あんた、明日校長室に来てくれない?」

 

「校長室?」

 

「そ、そこで此処のこと教えてもらって。あたしはめんどくさいから」

 

「めんどくさいって…」

 

校長室か。確かに校長に会ってみた方がいいかもな。

 

「まぁ、わかった。でも1ついいか?」

 

「いいよ、なに?」

 

「どこかに寝床はないか?」

 

「あるよ。寮が」

 

寮…?

 

「でも俺は此処の生徒じゃないと思うんだが」

 

「んー、その説明も明日ゆりに訊いてくれ」

 

誰だよゆりって、校長の名前か?

 

「場所はあそこ」

 

岩沢は少し離れた場所にある建物を指差しそう言った。

 

「部屋は用意されてるから。自分の名前の札がある部屋探しなよ」

 

「待てよ。なんで部屋なんて用意されてんだ?」

 

「それも明日ゆりに訊くといいよ」

 

またかよ…。とりあえず明日にならなきゃわからないってことかよ

 

「わかったよ。じゃあな、岩沢」

 

「ん、ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんであたしの名前知ってたんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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