Dies iraeに空の魔王ぶっ込んでみた   作:ノボットMK-42

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正直言ってやっちゃった感とやりすぎた感が否めない内容になってしまった。戦闘描写ってホント難しい。


Act.02-B

その男は墓に住み あらゆる者も あらゆる鎖も

『Dieser Mann wohnte in den Gruften, und niemand konnte ihm keine mehr,

 

あらゆる総てを持ってしても繋ぎ止めることが出来ない

nicht sogar mit einer Kette,binden.

 

彼は縛鎖を千切り 枷を壊し 狂い泣き叫ぶ墓の主

Er ris die Katten auseinander und brach die Eisen auf seinen Fusen.

 

この世のありとあらゆるモノ総て 彼を抑える力を持たない

Niemand war stark genug, um ihn zu unterwerfen.

 

ゆえ 神は問われた 貴様は何者か

Dann fragte ihn Jesus. Was ist Ihr Name?

 

愚問なり 無知蒙昧 知らぬならば答えよう

Es ist eine dumme Frage. Ich antworte.

 

我が名はレギオン

Mein Name ist Legion―』

 

 

 

 

 獣が謳う、己の渇望を。

 

 獣は歓待する、全力を以て壊す(愛す)に値する存在を。

 

 己の爪牙を退けた男。

 

 あの騎士達すらも一蹴に臥した魔人。

 

 鍛え抜かれた肉体と刻まれた夥しい古傷、歴戦の勇士たる証を身体中に刻んだ英雄。

 

 自分を倒すと言った。

 

 塵殺せしめてやろうと吼えた。

 

 そして今こうして相対している。

 

 愉快だ、実に愉快。ラインハルト・ハイドリヒは歓喜していた。

 

 舞台照明程度では済まない灼熱のような、極寒のような殺意は地獄への(はなむけ)には上等だろう。

 

 故に今この瞬間を至福の時とする。

 

 故にここから先は自分も正真正銘全力だ。

 

 故に己の城をこの場に呼び出す。

 

 未だ計画は成就しいなくとも、ほんの少しの時間ならばそれを維持することは出来る。

 

 刹那の間に卿を壊し(愛し)尽くそう、愛しき敵よ。

 

 その激情に穿たれた(まなこ)でとくと見るが良い。

 

 その激情に突き動かされた肉体でとくと感じるが良い。

 

 我が破壊()を、我が渇望を。

 

 

 

 

遠き日の記憶 無垢なる言葉

『Die Weisheitslehre dieser Knaben

 

幾時経ようと忘れはしない

Sey ewig mir ins Herz gegraben

 

迷い惑い問い続け 見上げた先を幻視した

Wo bin ich nun - Was wird mit mir

 

それは祈り 導き求める愚者の声

Ist dies der Sitz der Götter hier

 

全能なる者は告げた 愚かで無知な私へと

Es zeigen die Pforten, es zeigen die Säulen

 

羽ばたく者は歓喜する 這いずる者は堕落する

Wo Thätigkeit thronet, und Müssiggang weicht

 

この理ある限り 我が飛翔 何人にも阻むこと叶わず

Erhält seine Herrschaft das Laster nicht leicht

 

今こそ飛び立て あの空へ 思うままに何処までも

Ich mache mich muthig zur Pforte hinein

 

朽ちる事無き遥かな夢よ 穢れる事無き蒼穹よ

Die Absicht ist edel, und lauter und rein

 

お前を目指す 翼の真名を今明かそう

Und Sterbliche den Göttern gleich―』

 

 

 

 

 竜が吼える、怒りに満ちた叫びを上げる。

 

 竜は激怒する、自分から奪った憎き獣に怒り狂う。

 

 同朋達を殺した男。

 

 この帝都を血に染めた者。

 

 金の瞳と金の髪、黄金比を体現した肉体、誰もが羨み魅了されるであろう完成された美を持つ悪魔。

 

 自分を壊す(愛す)と言った。

 

 刹那の間に破壊して(愛して)やろうと嗤った。

 

 そして今こうして相対している。

 

 不快だ、何処までも不快。ハンス・ウルリッヒ・ルーデルは憎悪していた。

 

 この怒りと憎しみと、その裏に巣食う虚しさと悲しみは何処までも心を抉り取る。

 

 だから今この瞬間に、心すらも燃やし尽くす。

 

 だから自分は止まらない、奴を塵殺するまで収まらない。

 

 だからまだまだ駆け抜けるのだ、この空を。

 

 この暗い炎を貴様の五体に刻んでやる、憎き怨敵よ。

 

 その歪んだ愛ごと叩き潰す。

 

 その狂った願いを秘めた肉体諸共塵と化せ。

 

 私の怒りで、私の翼で。

 

 

 

 

『『Briah―(創造)』』

 

 

 

 

    至高天・黄金冠す第五宇宙       

『Gladsheimr―Gullinkambi fünfte Weltall』 

 

 悪竜戦機・蹂躙飛翔

『Ragnarök―endlich Nidhöggr』

 

 

 

 

 ここに二つの渇望が具現化した。

 

 総軍を一身に背負った獣と、身一つで軍勢に匹敵する巨大な竜。

 

 それは英雄率いる軍勢が悪の怪物を打ち取らんとするお伽噺のような構図。

 

しかし実態は、殺めた者達を戦奴と化して迫りくる悪魔を、竜の姿をした英雄が迎え撃つというもの。

 

 人が思い浮かべるであろうありきたりな展開を立場だけ逆転させたような二人は、己の力が保てる内に敵を打ち倒すべく猛り狂った。

 

 獣の指示を受けた軍勢から夥しい量の砲火が空中へと、自分達の頭上で飛行するただ一人の敵に向けて放たれた。

 

 視界を埋め尽くすような対空砲火、その圧力は巨大な壁と言っても過言ではない。

 

 そこに鳥の群れが飛んでいたのならば間違いなく一匹遺さず血霧に変えてしまう一斉砲火、逃げ場など在りはしない。

 

 その筈が、それらは一発たりとも標的の身体を撫ぜることすら出来ず空の彼方へ消えた。

 

 抜け穴など皆無に等しかった弾幕はその後何度撃ち込もうと標的を捉えることは叶わない。

 

 まるで弾の方から敵を避けているかのようにすら感じられる、不自然な現象である。

 

 終始傷一つ付けられることなく飛び回る飛影、今や竜の肉体の一部と化したユンカース Ju87 スツーカは返礼と言わんばかりに猛烈な反撃を開始した。

 

 機首から発せられた小刻みな破裂音と共に放たれたのは無数の銃弾、7.92mmの鉛の雨が地上に降り注ぐ。

 

 それだけならば何発撃ち込もうと地を埋め尽くす軍団には焼け石に水程度の被害しか与えられないだろう。

 

 しかし、それらは紛れも無くハンス・ウルリッヒ・ルーデルの聖遺物である機体から放たれた物なのだ、その程度のことで済む訳も無い。

 

 地面に降り注いだ銃弾が軍団の一人に命中する。

 

 肉体を貫き四散させるよりも先に、着弾した箇所が爆ぜて弾けた。

 

 ただの鉛弾ではどう間違っても起きないような衝撃が周囲へ拡散し、一発だけで数十の敵が吹き飛ぶ。

 

 爆弾を大量に投下しようとこれ程の破壊を齎すことは出来はしない。

 

 そんなものが雨霰と降り注いだことにより、軍団は一度敷いた隊列をズタズタに引き裂かれてしまうまでに次々と粉砕されていった。

 

 それでも獣の軍勢はその総数を一向に減らす気配を見せない。

 

 彼らは生者ではなく亡者であるのだから何度死のうと同じ事、既に死んでいる者達にとっては再び訪れる死など大した意味を持たず、主の呼びかけに応じて何度でも蘇るのだ。

 

 減った側からまた増える、蘇る。ならばどれだけ撃ち掛けようと獣が生きている限り、彼らが全滅することは在り得ない。

 

 これこそが獣の持つ力、不滅の戦奴達は絶えず敵へと襲い掛かり、死して尚も立ち上がる。

 

 それでも、空を舞う竜を落とすにはまだ足りない。

 

 竜の飛翔を妨げることが適うのはこの場に於いてただ一人、竜以上の怪物であるラインハルト・ハイドリヒのみである。

 

 獣が携えた聖槍を振りかぶり、非常に軽い動作で一閃する。

 

 最小限の動きを以て放たれた一撃は、理不尽なまでの破壊の嵐となって空を切り裂きながらスツーカに迫った。

 

 真正面から浴びればそれだけでも粉々になりかねない力の奔流を、竜は稲妻のような鋭角的な軌跡を描いて回避する。

 

 こんな動きは既存の機体では勿論、次世代の高性能機であろうとまず不可能だ。

 

 航空力学どころか物理法則からも逸脱した変態的な機動。もしこれを空軍に属するものが見れば驚愕の余り卒倒するに違いない。

 

 鈍重極まるという評価を受けた機体は、音速など優に超える速度であらゆる妨害(攻撃)を飛び越えながら敵へと突撃し、翼の下に携えた巨大な砲を撃ち放つ。

 

 二機の37mm機関砲から、無数のタングステン徹甲弾が地上に立つただ一人の男を殺す為に放たれた。

 

 夥しい数の、戦車を始めとした陸上戦力を葬って来た大砲鳥の名の所以たる火砲は人間相手に命中しようものならば難なくスプラッターな光景を作り出すことが出来る。

 

 加えて先程の銃弾同様に、これは聖遺物となった兵器なのだ。

 

それが常識の範疇に収まらない馬鹿げた威力を有していることは想像に難くない。

 

 命中すれば獣とてただでは済まない。そう、命中したのならば。

 

 獣は上空から音を置き去りにして飛来する砲弾から逃げることはしなかった。

 

 ただ一度、その場で槍を振るうのみ。

 

 それだけで大地を裏返す程の破壊力を持った鋼色の竜の息吹きは軌道を逸らし、あらぬ地点に落着する。

 

 周囲へと広がった衝撃波はラインハルトの金の髪を大きく揺らすのみで、その身体をたじろがせることは無い。

 

 金の獣の持つ力は軍勢を率いるだけのものではない。

 

 この場に立つ戦奴の一人一人が獣の軍勢にして魂の一部、ラインハルトに取り込まれ同化した魂は単純な数としてだけでなく、それぞれが持つ力や経験までもが全て主の物として積み重なるのだ。

 

 故に今のラインハルトはこの無数の軍勢全ての経験値を合計した力を持つ。

 

 本来指揮官である筈の彼がこれほどまでの猛威を振るえるのはそのためだ。

 

 そこに最強の聖槍が加われば街一つが消えて無くなる破壊力を持った砲弾であろうが受け切るのに労は無かった。

 

 理不尽の権化のような怪物が相手だろうと空からの攻撃の手が止まることは無く、機銃もかくやという短い間隔で翼に抱えられた砲口が獣を塵殺すべく空を揺るがす。

 

 その悉くを獣は防ぎ、逸らし、或いは消し飛ばして迎撃し、合間を縫っては再び天を割く猛威を吹き付けるが、それもやはり飛び越えられるか打ち消されるのみ。

 

 竜の息吹きと獣の猛威は互いに拮抗し、どちらかが他方を突破することなく空中で幾度と無くぶつかり弾けた。

 

 常人など以ての外、並ならぬ魔人ですらもこの戦いの中に割って入ることなど出来はしないだろう。

 

 圧倒的力と力のぶつかり合い。

 

 一撃でどんな化外ですら消滅させ得る必殺の応酬だ。

 

 その均衡を破ったのは竜の方。

 

獣の真上まで到達した彼は大きく宙返りした後に機首を地上へ向けて真っ逆さまに落下する。

 

 スツーカとハンス・ウルリッヒ・ルーデルの十八番とも言うべき急降下爆撃である。

 

 大戦中ハンス・ウルリッヒ・ルーデルが用い、多くの敵を葬ってきた戦法。そして彼が持てるだけの力全てを注ぎ込む全力。その威力が果たしてどれ程のものか。

 

 威嚇用の吹鳴機からけたましい音が響く。

 

 ソ連に『悪魔のサイレン』『ジェリコのラッパ』と恐れられてきた死を告げる音色に混じって遠雷のような音が響いた。

 

 それは先程までの砲弾とは明らかに違っていた。

 

 甲高い吹鳴を背にしたそれはまるで隕石のような圧力を発していた。

 

 落着すれば地上に致命的な傷を残し、空を焼き、多くの生命を死滅させる。

 

 恐竜絶滅の一説とされる小惑星の衝突に匹敵する脅威を前にして金の獣は壮絶な笑みを浮かべていた。

 

 地獄の塊とまで称される悪魔は迎撃の動きを見せない。

 

 何故なら、この滅びの流星は守る為の、遮る為の力では止められないからだ。

 

 燦々と照る日の光の如く降り注ぐ殺意の音色がそれを教えていた。

 

 故に彼は守りには入らない。

 

 あの流星を貫き、その先にいる竜を落とす。

 

 獣は自分の心が歓喜と幸福で満たされていくのを感じていた。

 

 今自分は全力の一撃を放とうとしている。

 

 全力を以て壊す(愛す)に値する敵と戦っている。

 

 それが何よりも幸福で仕方が無かった。

 

 故に悪竜よ、卿も私を壊して(愛して)くれ。私も卿に応えよう。

 

 さぁ、至福の瞬間だ。

 

 この出会いと闘争に感謝を捧げ、ラインハルト・ハイドリヒは最後の一撃を見舞った。

 

 星すら穿つ力がぶつかり合うその時、唐突にソレは起こった。

 

 崩れていく、獣の城が。

 

 朽ちていく、竜の翼が。

 

 ラインハルトは静かに目を閉じ沈黙する。

 

 ここに来て終わりなのかと嘆かずにはいられなかった。

 

 誰が悪かったなどとは言わないが、この巡り合わせには悪意すら感じる。

 

 先程までの高ぶりは消え去った。

 

 時を使い果たした二人の渇望の具現は崩れて消えた。

 

 獣が精根尽き果てたことで意識を手放し落下して来た竜を受け止める。

 

 声をかけることはしない、ただ瞳で何かを訴えていた。

 

 それに相手が答えることは無く、返って来るのは風の音だけ。

 

 二体の化外の戦争が繰り広げられていた地に、あの吹鳴はもう響いてはいなかった。

 




という訳で二人の戦いは一旦お流れにすることにしました。

城を長時間展開できない獣殿と、慣れない創造位階で幹部組を含めた他の騎士団メンバーと戦った後に獣殿とぶっ続けで戦ったせいで閣下がスタミナ切れしたって所なんですけどちょっと無理がある感が……

実を言うと戦闘描写だけカットして次の話に行こうとも思っていたのですが前話に引っ張っておいてそれは無いと思ったのですがいくらなんでもコレは酷い

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