ソードアート・オンライン~死変剣の双舞~   作:珈琲飲料

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あまりにも真面目な内容になってしまったんでサブタイトルもそうなった・・・
では5話です!どうぞ!


5話 スキルの代償

クラインたち風林火山を置いて行く形になってしまったが仕方ない。

 

敏捷パラメーターにものを言わせて全力疾走すると、すでに左右に大きく開いた大扉が見えた。部屋内部に響く金属音と悲鳴が状況の理解を早める。

 

「おい!大丈夫か!」

 

キリトが部屋に半身を入れつつ、叫ぶ。

俺はとっさに内部にいる軍の人数を数えるが、二人足りない。

 

「キリト!二人いない!」

 

「っ!」

 

俺の言葉にキリトは顔をしかめる。転移結晶を使って脱出したのならいいがHPを全損させて消滅したとなると状況は最悪だ。

 

そう考える間にも軍の一人がグリームアイズの振り回す斬馬刀に直撃し、吹き飛びながら床に激しく転がった。HPバーは赤色に染まり、危険な状態であることを示している。

 

おまけに俺たちのいる入口と軍の部隊との間で悪魔が暴れており、このままでは離脱することは難しい。

 

「何をしている!早く転移アイテムを使え!」

 

床に倒れている男に向かってキリトが叫ぶが、男は絶望したような顔で、

 

「ダメだ・・・!クリスタルが使えない・・・!」

 

と叫び返してきた。

 

「結晶無効化空間だと!?」

 

予想外のトラップに俺は驚きを隠せなかった。<結晶無効化空間>。迷宮区で稀にあるトラップだがボス部屋がそうであることは一度もなかった。ならさっき確認できなかった二人は・・・俺が最悪の事態を想像したその時、

 

「何を言うか・・・ッ!我々解放軍に撤退の二文字はあり得ない!戦え!戦うんだ!」

 

一人のプレイヤーが剣を掲げて怒号を上げているのが見えた。間違えなくコーバッツだ。

 

「「馬鹿野郎・・・!!」

 

俺もキリトも思わず叫んでいた。部下二人が死んでいるというのにあの野郎は今更何を考えているのか。全身に怒りが込み上げてくる。

 

「おい!どうなってるんだ!」

 

その時、先ほどおいて行ってしまったクラインたちが追いついてきた。

キリトが状況を説明する。

 

「なんとかできないのかよ・・・」

 

「・・・・」

 

言葉が出ない。俺たちが切り込めば退路を開けるかもしれないが結晶無効化空間である以上それはあまりにリスクが大きすぎる。

 

「全員・・・突撃・・!」

 

俺が躊躇っているうちに態勢を立て直したコーバッツが突撃の命令を出した。

 

「やめろ・・・っ!!」

 

必死に叫ぶが届かない。あまりにも無謀な突撃にグリームアイズが一瞬だけ笑みを浮かべる。

 

そしてそのまま仁王立ちになると、雄叫びとともに青白い息を吐く。やはりブレス攻撃があったか・・・!悪魔のまき散らす息に包まれた軍の突撃が目に見えて遅くなる。

 

そこにすかさず巨剣による一撃がたたきこまれ、一人がすくいあげられるように斬り飛ばされた。コーバッツだった。

 

――――有り得ない。

ゆっくりと動いた口はおそらくそう発音していたのだろう。

 

それだけ言った直後、HPを全損させたコーバッツのアバタ―は不快な効果音と共に無数のポリゴンとなって飛散した。あまりにもあっけなくそれでいて確実に死を感じさせる光景に隣にいたアスナとユウキが短い悲鳴をあげる。

 

「だめ・・だめだよ・・・」

 

かろうじて聞こえたユウキの声。俺は咄嗟にユウキの腕を掴んでいた。

 

「カエデ・・・っ!でも・・・!」

 

早くしないと間に合わない。そう言わんばかりにユウキは俺を見つめる。

 

「わかってる。だから・・・」

 

転移結晶を使って脱出ができない以上、選択肢は一つ。誰かがボスを引き付けて戦わないといけない。それも生半可な攻撃ではダメだ。重く鋭い攻撃を与え続ける。ダメージディーラーたる俺のすべてを賭けて・・・

 

「ユウキ、アスナ、クライン!10秒だけ時間を稼いでくれ!」

 

三人に向き直ると俺は叫んだ。一瞬だけ何のことか分からないという顔をしたが三人ともすぐに

 

「うん!わかった!」

 

「まかせとけ!」

 

「わかったわ!」

 

と返事をしてくれた。そして武器を構えるとボスへ向かっていく。

 

ユウキ達が駆けていくのと同時に俺は左手を素早く振って、メニューウインドウを呼び出した。ここからは時間との勝負。鼓動が速くなっていくのを感じながら、俺は指を動かす。選択している武器スキルを変更し、装備フィギュアの右手部分に触れる。すぐさまアイテムリストが表示され、その中にある一本の短剣を選択。すべての操作を終え、OKボタンをクリックしてウインドウを消すと、腰に新たな重みが加わった。

 

キリトのほうを見やる。俺と同じ結論に至ったのだろう。すでに二本の片手剣を背に装備していた。

 

それだけ確認して、俺とキリトは3人に向かって叫ぶ。

 

「「いいぞ!」」

 

俺たちの声を聞いて、背を向けたまま頷くと、ユウキとアスナは鋭い声とともに、ソードスキルを放った。

 

「「イアヤァァァ!!」」

 

美しい残光を引いた二つのソードスキルは、グリームアイズの振り下ろした剣と衝突して強烈な火花を散らした。

耳をつんざくような音とともに三人がノックバックし、ブレイクポイントができる。

 

「「スイッチ!!」」

 

そのタイミングを逃さずに叫ぶと俺たちは敵の正面に飛び込んだ。硬直から解放された悪魔が剣を振り下ろすがキリトが剣をクロスさせて攻撃を弾く。

 

弾かれたことによってバランスを崩した悪魔の懐に素早く潜り込むと、俺は腰から剣を抜き、攻撃を始めた。

 

「はあぁぁぁ!!」

 

これが俺の隠し技、エクストラスキル<死変剣>だ。その上位剣技<レイル・ソルジェント>を発動させる。連続十二回攻撃。まばゆい光を放ちながら剣戟は左、右、上段、下段へと続いていき、悪魔の体全体に直撃していく。そして俺と同時にキリトも<二刀流>の剣技を放つ。飛び散る星屑のような攻撃は悪魔に確かなダメージを与える。たしかスキル名は<スターバースト・ストリーム>。全十六連撃。

 

ここまでの攻防で俺、キリト、悪魔ともに、HPが危険域まで落ちていた。

そしてソードスキルが終了する。俺もキリトもシステムに硬直時間を課せられてしまった。

 

悪魔はそれを見て勝利を確信したのだろう。勝利宣言ともいえるような雄叫びを上げて剣を俺たちに下ろしてくる。 しかし。

 

「グォォォォ!?」

 

斬馬刀は俺たちに当たることなく空中で停止した。悪魔は自分の身に何が起きたのか理解できないという表情のまま痙攣している。ギリギリ間に合った・・・!

 

「カエデ、何を?」

 

キリトが聞いてくるが今は時間が惜しい。麻痺の時間はあと三十秒といったところか。

 

「いいから決めるぞ」

 

「・・分かった」

 

あとで教えろよ、と付け足すと動けなくなった悪魔に向かってキリトはとどめのソードスキルを発動させた。二刀流上位剣技<ナイトメア・レイン>。先ほどと同じく十六回の連撃。

そしてキリトの最後の一撃に合わせて俺もソードスキルを放った。死変剣の水平五連撃ソードスキル<デュアル・ペンタグラム>。攻撃は麻痺によって体の自由を奪われたグリームアイズの腹にヒットし、光る五芒星を描いた。

 

「ゴァァァアアアア!!」

 

最後の一撃を受けたグリームアイズはけたたましい咆哮とともに膨大なポリゴンとなって爆散した。部屋中にきらきら輝く光の粒が降り注ぐ。

 

「終わったな・・・・」

 

悪魔の消滅を確認しながらつぶやいた。この言葉は今の俺にも当てはまるのだが・・・まあいいか。キリトたちが、何よりユウキが無事だったんだから・・・

 

「お疲れ様!カエデ!」

 

ユウキが笑顔でこちらにやってくる。この笑顔を見るのもこれで最後か。

そう思うと俺は無意識のうちにユウキを自分のほうへ抱き寄せていた。

 

「カ、カエデ?」

 

急に抱きしめられたことにユウキは状況を掴めず、困惑している。視界には間違いなくハラスメント防止コードによる警告が表示されているだろう。ユウキがボタンさえクリックしてしまえば俺は監獄エリアに飛ばされてしまう。

 

でも構ってはいられない。

 

「ユウキ・・・」

 

相棒の名前を呼ぶ。未練を残さないために、最後に伝えるために。

 

「カエデ・・・?」

 

何かを感じ取ったか、困惑の表情がより強くなる。

 

俺は背中に回した腕の力を緩めてユウキと向き合うと最後の言葉を口にした。

 

「・・・さようなら、ユウキ。短い間だったけど、君と一緒にいれて本当に良かった」

 

「いきなりどうしたの・・・?・・カエデ?」

 

「――――――――」

 

「え?・・・・・カエデ!?」

 

まだ言葉の意味を理解しきれていないユウキの目の前で俺は、カエデと呼ばれていたアバタ―は光り輝くポリゴンとなって溶けるように消えて行った・・・

 




最後まで読んでいただきありがとうございます!
<死変剣>の副作用によって死んでしまうカエデ、まさかの展開になってしまった・・・自分でもそう思っています。
次回、どうなるのか見ものですねー(笑)
ご意見、ご感想お持ちしております!
それではまた6話でお会いしましょう!



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