はい、毎度のこと更新が遅くて申し訳ないです。今回で会談の話はお終いです。
コード・レジスタの画像を見て思ったんですがユウキって結構いいもの持ってるんですね(セクハラではない)。着痩せするタイプなのかなと思ったり思わなかったり……。
今回はイラストを用意しているので下手くそでよければそちらもご覧ください
それでは第30話です!どうぞ!
ハープとの決闘が終わり剣を鞘に戻す。するとすでに戦闘を終了させたキリトとユウキが足早に近づいてきた。
「お疲れさん、カエデ」
「すっごくカッコよかったよ!」
労うような表情を見せるキリトとキラキラした目を向けてくるユウキ。随分と温度差のある反応をする二人に俺は苦笑すると、手を挙げてそれに応えた。
「キリトとユウキもお疲れ様。思いのほかあの子……ハープが強くて時間がかかった」
「まさかもう一人手練れがいるとはな」
「それに女の子だったから、驚いちゃった」
ハープの存在には二人とも気付かなかったらしい。それほどに高い隠密性を彼女は持っていたのだ。一瞬だけ向けられた剣気に反応できなければ俺もとっくにやられていたと思う。
改めてハープが脅威だったことを実感する。
「見事、見事!」
「すごーい!ナイスファイトだヨ!」
ハープについて口々に話していると、不意に張りのある声が俺たちへかけられる。声の主は手を打ち鳴らしながらこちらに歩み寄ってくると俺たちの前で立ち止まった。そしてこの二人に俺は見覚えがある。
「シルフとケットシーの領主、サクヤさんとアリシャさんですね?」
「正解だヨ!」
「いかにも。これほどの強者に知られていて光栄だ」
ALOをプレイする前に各勢力とその領主を軽く調べていた俺は二人の首肯を見て安堵する。どうやら事前情報は間違っていないみたいだ。そして俺は領主二人に続けて頼みを伝えた。
「状況が状況ですので混乱しているかと思いますが、先ほどの戦闘で倒されたプレイヤーを蘇生して貰えないですか?」
事情はあとで必ず説明しますと付け足すと、領主二人はすぐに頷いてくれた。そして蘇生魔法が発動される。
構築された魔法陣はふわふわ漂う二つのエンドフレイムを包み込むと眩い閃光を放つ。直後に魔法陣が消滅し、代わりに二人のプレイヤーが姿を現した。
「―――見事な腕だな。俺が今までに見たプレイヤーの中で最強だ、貴様は」
「そりゃどうも」
静かな声を発したユージーンにキリトが短く応じる。
「貴様らも相当な使い手だ。まさかハープとレイまでやられるとは思わなかった」
次いで俺とユウキを見ながらユージーンが言った。なるほどあの優男の名前はレイって言うのか。それに反応からしてもユージーンにレイとハープの三人がサラマンダーの三強みたいである。
「ボス、申し訳ないです」
「負け、ちゃった。……ユージーン、ごめん、ね?」
「構わん。ハープとレイを倒すプレイヤーとなると俺でも勝てるかどうか分からんからな」
謝罪の言葉を口にするハープとレイにユージーンはさして気にした様子もなく返す。そしてそのまま反省会みたい雰囲気が漂い始めたので、空気をリセットすべく俺は口を開いた。
「それでユージーンさん、俺たちが勝ったわけなんですけど……信じてもらえますか?」
「無論だ。これほどの戦力を有する種族たちと事を構えるつもりは俺も領主にもない。ここは引くことにしよう」
「……そんなにあっさり信じていいんですか?」
予想以上にきっぱり断言したユージーンに面食らった俺は思わず聞き返してしまう。それを見てユージーンは不敵に笑った。
「約束はしっかり守る。サラマンダーとして……いや、剣士として当然だ」
……こういう思い切りの良さが上に立つ者には必要なのかもしれない。そういえばサラマンダーの領主と将軍は領内での支持率もかなり高かった気がする。
「だが貴様らとはいずれもう一度戦うぞ」
ユージーンが突き出した右拳に俺とユウキ、キリトがごつんと己の拳を打ち付ける。その様子に満足そうな笑みを浮かべると、ユージーンは身を翻した。翅を広げ、地面を蹴る。
「今回は負けちゃったけど次は勝ってみせるよ」
「カエデ、私も……もう一度あなたと、戦いたい」
ユージーンに続いて地面を蹴ったレイとハープがこちらに振り返って言う。
「もちろん。君のことをいつでも歓迎するよ」
「次も負けないから!」
地面との距離を離していくレイとハープに俺もユウキも手を振って再戦を誓う。きっと次に会う頃にはハープはさらに強くなっているだろう。俺もうかうかしてられない。
翅を鳴らして三人が飛び去ると、後ろに控えていた大軍勢も動き出す。一糸乱れぬ隊列を組みながら、たちまち遠ざかっていく赤い塊はすぐに雲に飲まれ、薄れて消えて行った。
「なんというか、その……」
「俺もたぶん同じことを思ってる」
「ふふっ、やっぱり二人も?」
再び訪れた静けさの中、俺とユウキとキリトは一致する感情に思わず笑い出した。
「やっぱ戦闘っていいな!」
「ああ、ここへ来て初めてまともに剣を振るった気がする」
「ほんと楽しかった!あのレイってお兄さん、なぜか戦闘中は終始涙目だった気がするけど」
お互いに自分の戦いについて議論を始める俺たち。ユージーンの剣はチート過ぎとか筋力上げ続ける剣とかやばいだろとか……なんか武器についてしか話してない気がするが気のせいだろう。
「やっぱ君たち、ほんとむちゃくちゃだわ……」
「……すまんが、状況説明を……」
心の底から出たリーファの言葉とサクヤの頼みが聞き入れられるのは数分後となった。
―☆―☆―☆―
静寂を取り戻した会談場で、俺たちは事の成り行きをサクヤとアリシャに説明した。一部は憶測であると断っての説明になったが、領主を含めた幹部たちは音一つ立てずに聞き入れてくれる。そして一通りの説明を終えて口を閉じると、両種族とも揃って深いため息をついた。
「……なるほどな」
腕を組み、サクヤがどうするべきかと唸る。
「サクヤちゃんは人気者だからねー」
隣で長考に入りつつあるサクヤにアリシャも同情するように深々と頷く。あとで知ったことなのだが、サクヤとアリシャはALOでは珍しい単独長期政権を維持しているようである。周囲から向けられるやっかみもお互いに知り尽くしているからこそ、この反応なのだろう。
「領主ってのも大変なんだな……」
アリシャとサクヤのやり取り見ているキリトがぼそりと言葉を漏らす。
「ふふっ、少なくともキリト君には務まらないかもね」
「あっ、ひっでぇな!……いいんだよ、俺はソロプレイヤーのほうが性に合ってるし」
「そうだな。キリトはぼっちだからそっちのほうが似合ってるぞ」
「キリト、ファイトだよっ」
「いやお前らそこはフォローしろよ!」
キリトの流れるようなつっこみに俺とユウキとリーファは冗談だと笑い返す。そして笑い合う俺たちに、話を終わらせたサクヤが咳払いを一つしてから声をかけてきた。
「君たち3人、そしてリーファには迷惑をかけてしまった。そして救援に駆けつけてくれたことに心から感謝する」
そう言ってサクヤは頭をさげた。そしてすぐに顔をあげるとこちらを覗き込むように見ながら聞いてくる
「そういえば遅くなってしまった。君たちは一体……」
「ユージーン将軍に言ってた同盟の話……ってほんとなの?」
いつの間にかサクヤの隣に並んだアリシャも改めて疑問を口にする。ケットシー特有の長いしっぽが好奇心を表現しているのか、ゆらゆら動くなかキリトが胸を張って答えた。
「もちろん大嘘だ。ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション」
「な―――……」
絶句する二人に今度は俺が口を開く。
「だいたいそんな重要な話を書簡もなしに持ってくるわけないじゃないですか」
あははと笑う俺に二人は呆れたように笑い返してくる。
「ほんとうに君たちは無茶ばかりするな。あの状況でそんな大法螺を吹くとは……」
「見せかけは得意なほうですから」
「掛け金はレイズする主義なんで」
一切悪びれることなく嘯く俺とキリト。それを聞いたアリシャは突然ニィと、悪戯っぽい笑みを浮かべるとキリトに近づいた。
「それにしてもキリト君―――だっけ?キミ、随分と強いネ?ユージーン将軍と正面からの勝負で勝っちゃうなんて……スプリガンの秘密兵器だったりするのかな?」
「まさか、しがない流しの用心棒だよ」
「ぷっ、にゃはははは」
人を食ったような返答をするキリトをますます気に入ったのか、いきなりアリシャはひょいっとキリトの腕に抱き着いた。おまけに上目使いを加えて。
「フリーなら、キミ――ケットシー領で傭兵やらない?三食おやつに昼寝つきだヨ」
「おいおいルー、抜け駆けはよくないぞ」
そして今度はサクヤもキリトの争奪に加わる。美人領主二人に挟まれたキリトは先ほどまでの余裕が嘘のように消えて困惑していた。ついでに顔も赤い。
「……がんばれキリト」
被害がこちらへ広がらないことに安心した俺はキリトに向けて心の中で念仏を唱える。あの流れが俺に来ると絶対にユウキが拗ねるからな。……最近は拗ねるよりもワンランク上になってきているが。
「……なんにせよひとまず安泰だ」
さらばキリト。もう一度キリトへ向けて念じると、俺はその場から離れようと足早に――――
―――――ぎゅっ。
「えっ」
足早にその場から離れようとした俺に不可解な力が抵抗してくる。その感触は主に右腕から。そしてふにふにとした柔らかいもので……。
「ぎゅ~」
なぜかハープが俺の右腕にへばりついていた。いやほんと……なんで?さっきユージーン将軍と帰っていったよね?再戦を誓ってそれっぽい雰囲気を作り出していい感じに別れたよね?
「えっと……ハープさん?なんでここにいるのかな?」
思考が停止する直前、なんとか言葉を絞り出すことに成功した俺はそのままハープに疑問をぶつける。
「……フェイン、ト?」
きょとんと小首を傾げるハープ。いやそこは俺が聞いてるんですけど。
「それに……全然気づかなかった」
まったく気配を感じない隠密に再び唸ってしまう。というかあの戦いもこれくらいの隠密だったらさっくりやられていた気がするのだが。
「んっ、これの……おかげ」
そう言って装備しているフードケープをひらひらさせるハープ。
「これも、ユニーク……アイテム。隠蔽、隠密を……格段に、上げる。でも、戦闘中は……効果、ない」
そういうことか。だから俺やキリトやユウキにまったく悟られずに近づけたのか。戦闘中には効果がないというのも俺がかろうじて初撃を防げたことと辻褄が合う。しかしそれを抜きにしてもハープの隠密性が高いことに変わりはないだろう。
だが結局一番聞きたいことは聞き出せていない。なぜ俺の腕にくっついているのか。その理由を聞き出そうと俺は再び口を―――
――――ぎゅっ!
「えっ」
ふたたび柔らかい感触。しかし今度は左腕からだ。右腕はハープがくっついているとして……
「カエデっ!」
口を開こうとした俺に若干強めな声がかけられる。もちろんユウキだ。ぷぅと頬を膨らませてハープよりも強い力が俺の腕に込められる。というかユウキさん、腕がミシミシいってるんですけど。
「なんでハープがここにいるの!?どういうことか説明して、カエデっ!」
「え、いやそれが俺にも分からなくて……いま聞こうと……」
これはまずい。そしてすでに解放されたのかキリトとリーファ、サクヤにアリシャまでもが俺を見てニヤニヤと笑っていた。
「それ、は……」
どうすべきか、混乱する俺を見ていたハープが口を開いた。
「カエデ、いつでも……来ていいって、言った、から。私を、迎えてくれる……って」
頬を赤く染めてさらに腕をからめる力を強くするハープ。
「むぅ~!そんなこと言ったのカエデっ!?」
「いやそれは戦いたくなったらいつでも歓迎するよって意味で!てかユウキも俺がそう言ったの隣で聞いたよね!?」
なおも弁明する俺にユウキも食い下がる。
「そ、それはそうだけどっ……まさかそんな意味が込められてるって知らなかったんだもん!!」
浮気者っ!そう言ってぽかぽかと駄々をこねるように叩いてくるユウキ。これは絶対落ち着くまで話を聞いてくれない流れだ。そしてその怒りがハープにも向けられる。
「ボクとカエデは結婚してるんだよっ!!ぽっと出のハープになんか絶対届かない領域なんだから!」
「ほう……」
結婚というワードに反応した領主二人がさらに面白そうな視線を強めてくる。サクヤとアリシャの後ろに控えている幹部たちに至っては煽ってくる始末だ。それとちょくちょく後ろから「殺す……」って呟いている幹部さん、物騒だからやめて!
「それは……ゲーム、での話。そんなこと、大した……証明に、ならない」
そう言ってハープは俺の頬へ顔を近づけて―――
「んっ」
「っ……!?」
―――そのまま頬へキスをした。あまりにも軽やかな振る舞いに唖然とする俺。それを余所にハープは自信満々にユウキのほうを見た。
「こう、いうのが……証明。最も……シン、プル」
「むぅ~~~~~~~!!」
「待った、張り合うなユウキ!たくさん人が見てるから!ここは冷静に……」
「カエデは黙ってて!!」
「ひっ!? 承知しました!」
それから何が始まったのか、言うまでもないだろう。
ただ俺は……この公開処刑じみた時間が早く過ぎ去ってくれることを切に願い、あとはすべてを成り行きに任せて目を閉じた。
30話、お読みくださってありがとうございます!いかがだったでしょうか?
最近甘々していなかったので多少は補給ポイントとして機能していればいいなと。
読者様の表情筋が僅かでも緩んだのなら幸いです。
まだまだ暑い日が続きますが読者様もお体に気をつけてください。それではまた次回お会いしましょう!
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