お久しぶりです!
いろいろありましたが何とか投稿することができました。
最後にサービス的なイラストもご用意しましたのでよければ見てやってください。健全ですから!
それでは第27話です!どうぞ!
「へぇ、ここがルグルーかぁー」
リーファの歓声を皮切りに、俺たちは初めて目にする地底都市の賑わいを感じていた。
街の規模自体はそれほどでもないと思う。だが、中央の大通りを挟むようにそびえる岩壁に、店などが積層構造を形成して密集している様は圧巻だ。街を歩く人も想像よりずっと多く、がやがやした雰囲気はSAOで何度も訪れた街<アルゲード>を彷彿とさせる。
「そう言えばさー」
手近な武具店にすぐさま飛びついたリーファにキリトがノンビリとした口調で背後から声をかけた。
「ん?」
「サラマンダーたちに襲われる前にメッセージ届いてなかった?」
「……あ」
ぽかんとした表情のままこちらへ振り返るリーファ。どうやら完全に忘れていたらしい。
すぐさまウインドウ開くと届いていたメッセージを確認した。
「……」
「その様子だといいことが書かれてたわけじゃないみたいだな」
「そういうわけじゃないんだけど……意味が取れないっていうか」
難しい表情のまま、リーファはメッセージが書かれたウインドウをこちらに向ける。それに促されるように俺たちはウインドウを覗き込んだ。
途中で途切れた文章はところどころに誤字や脱字が見受けられ、そのまま読むことも意味を汲み取ろうとすることも困難とさせる。
「たしかに意味が分からないな」
「なんだが急いで書いたって感じがするね」
ウインドウから顔を上げ、俺とユウキは率直な感想を漏らした。それに続けてキリトも顔を上げる。
「一応連絡取ってみたら?」
「連絡かぁ……」
キリトの言葉にリーファは少し考える素振りを見せたが、やっぱり謎のメッセージが気になるのか視線をユウキとユイのほうへ向けた。
「じゃあ、ちょっとだけ落ちて確認してくるから待ってて。あたしの体、よろしく。―――ユウキ、ユイちゃん」
なぜか二人を指名して。
「あれ、俺たちは?」
「君たち二人に任せると心配だからね」
そう言って近くにあったベンチへ歩き出すリーファ。
「待て待て。キリトはともかくどうして俺まで?」
思い当たる節がないんだが、と抗議する俺を見てリーファは少し顔を赤くさせて俯いた。
「……だってユウキにあんなこと」
「っ!? いや、だからあれは誤解だって!」
リーファの言葉で、数分前に体感した人差し指の感触がフラッシュバックする。艶めかしい表情や包まれるような……っていかんいかん。
鋼の自制心でなんとか平静を取り戻した俺は、思い出した光景を振り払うように反論を―――
「あれはユウキがいきなり……」
言葉を続けようとすると急に裾をぎゅっと掴まれる。
「カエデ……」
視線を移すと、うるうるした目でこちらを見つめるユウキ。
「もしかして嫌だった―――」
「そんなことないよ!?超嬉しかったです、はい!」
反論できませんでした。
ユウキよ、そんな捨てられた子犬のような目で見られると何も言えなくなるじゃん。
―☆―☆―☆―
「はぁー、なんかここ最近で一番疲れた気がする……」
ログアウトしたリーファのアバターが座るベンチに腰を下ろした俺は、ため息とともに肩の力を抜いた。
「リーファにしてやられたな」
「うるせーよ」
にししと笑うキリトの顔に、リーファがログアウト直前に見せた悪戯顔が重なる。なんかこいつらどことなく相性いいな。そんなことを考えながらキリトから手に持った謎の串焼きを受け取る。
「へっほくなんらったんらろうね」
「おう、しゃべるか食うかどっちかにしような」
もぐもぐと咀嚼するユウキの頭をなでながら注意する。まあ、言いたいことはなんとなくわかるんだけど。
「確実に言えるのは緊急を要する内容だってことだ」
「どうしてわかるんだ?」
首を傾げるキリトの前に二本の指を立てる。
「まず一つは文章の内容。文面からは急いで書いたと思われる誤字脱字が多い。そして肝心な核心に迫る直前で途切れている。ここから回線切れという可能性が考えられるけど、これだけ時間が経っても続きが送られてこないとなると回線切れの線はない」
「回線切れ以外の理由で続きが送信できない状況にあるってことか?」
「その可能性が高い」
あくまで推測だけどね、と付け加えて中指を曲げる。
「そして文章が送られてきたタイミングだ。レコンはシグルドのパーティーの一員でもあり、リーファとも……親しい?」
「いや、そこは言い切れよ」
「……まあそれは置いとくとして。他種族の俺たちと行動を共にすると言ってシグルドとは喧嘩別れしたんだ。両者の中間に位置するレコンは当然、板挟み状態にある。そんな大変なタイミングで向こうから連絡してくるなんて、普通はしない」
「単純にリーファのことを思って連絡してきたとか?」
「それもあるだろうな」
ユウキの考えに頷きながら続ける。
「会ってまだ数分しか関わってないからいい加減な判断だけど、彼は慎重な性格だ。悪くいえば臆病で、良く言えば変化に敏感なタイプ。そんな彼がぐちゃぐちゃな文章でもリーファにメッセージを送信したってことは……」
「……大きな変化がレコンの周りで起こったってこと?」
ユウキの言葉に俺は再び頷いた。
「まあ、これ以上は分からないし、ほんとに憶測だからな」
一通り話し終えた俺は手に持った串焼きにかぶりついた。爬虫類のような謎の生物の串焼きはリアルの味で例えるなら鶏肉に近いもので、見た目さえ気にしなければ普通にうまいと思う。
「……先入観ってのはよくないしな」
「そうだな。……あとは本人に聞こう」
そう言ってキリトは目の前で眠る少女を見つめた。
―☆―☆―☆―
「ごめんなさい!」
帰ってくるなり突然謝り出すリーファを見て、キリトとユウキは訝しげな表情を見せる。どうやら推測通り、悪い知らせだったようだ。
「急いで行かなきゃいけない用事ができて……たぶんここにも帰ってこれない」
「なら走りながらでも話を聞こうか」
「え……?」
「どっちみちここを抜けないといけないんだろ?」
間髪入れずに答える俺にリーファは少し驚いたようだが、よほど時間がないのかすぐに頷いた。
「……わかった。じゃあ、走りながら話すね」
地底都市の大通りを、入った方とは反対側の門を目指してリーファは駆けだした。
地底湖を分断するように伸びる大橋を全力で疾走しながら、リーファは俺たちに事情を説明してくれた。
要約すると
シルフとケットシーの極秘会談をサラマンダーの大部隊が襲撃しようと進軍中。
こんなところだろう。
「おっさんが言ってた北へ飛んでいく軍隊はこのための部隊だったか。あのとき気付いていれば……」
「カエデ君のせいじゃないよ。それにこれはシルフの問題だし……だからね」
ちらりと俺たちのほうを見たリーファは言葉を続ける。
「世界樹の上へ行きたい、っていう君たちの目的のためにはサラマンダーに協力するのが最善だと思う。君たちなら傭兵として雇ってくれるかもしれないし。もっと言えば―――」
「待った。それは違う」
リーファの言葉を遮るキリトの顔は戦闘で見せる引き締まったものだった。そして表情を変えないままぽつりと言う。
「リアルじゃないから何でもあり。たしかにそれはゲームが持つ一面で真実だ。だけどそうじゃない。仮想世界でも守るべきことはあって、逆に仮想世界だからこそ守らなきゃいけないものだってある。俺はそれを―――大切な人たちに教わった」
瞬間、キリトの表情、声が優しく暖かいものになる。
「リーファはどうしたいの?」
ユウキの問いかけに俺も続ける
「俺たちはどうすればいい?」
俺とユウキの問いに、リーファは立ち止まって目をつぶると深く息を吸った。
「私は……助けたい。だから―――」
力を貸して!
リーファの言葉を合図に四つの風が洞窟を吹き抜けた。
―☆―☆―☆―
世界樹麓の央都<アルン>は周りを高い山脈によって囲まれている。しかしすべてが山脈に閉ざされているわけではなく、そのうち三箇所には大きな切れ目が存在していた。
サラマンダー領へ亀裂を走らせる<竜の谷>、ウンディーネ領へ繋がる<虹の谷>、最後はケットシー領へ向かう<蝶の谷>……。シルフとケットシーが会談を行おうとしている場所はその中の一つ、<蝶の谷>だ。
「にしてもモンスターがいないな」
翅を鳴らし、全速で会談場所へ向かいながらぽそりとキリトが言葉を漏らした。
「このアルン高原にはフィールド型モンスターはいないの。<蝶の谷>が会談場所に選ばれたのもそういう理由があったんじゃないかな」
「なるほどな。じゃあ<トレイン>なんかもできないってことか」
「トレイン……?」
内心舌打ちする俺に、聞いたことない用語だったのかリーファが首を傾げる。
「<トレイン>っていうのはモンスターの大軍を引き連れて移動するMMO用語の一つだよ。大半はプレイングミスが原因でモンスターに追いかけられたりするんだけど……」
一旦言葉を区切ると、今度は隣を飛ぶユウキが悪戯っぽく笑って口を開いた。
「場合によってはMPK目的で故意に発生させることもあるんだ」
物騒なことを語るユウキを見て、一瞬青ざめたリーファがおそるおそる俺のほうを向く。
「……もしかして経験があったりとか?」
「やったことはないけどやられたことはあるぞ?」
「あーたしかに。あのときはほんと大変だったよね!」
口々に昔のことを懐かしむ俺たちを見ながらリーファは閉口しているようだった。
「まあ少し脱線したけど、要するにモンスターの力が借りれそうにないってことだよ」
「……ほんと君たちすごいこと考えるよね」
それほどでも、と肩をすくめておどけようとした、その時―――。
「あっ、プレイヤー反応です!」
キリトの周りを飛んでいたユイが不意に叫んだ。
「前方に大集団――六十九人、おそらくこれがサラマンダーの部隊です。さらにその向こうに十四人、これがシルフ及びケットシーの会談出席者と予想します」
言葉が終わると同時に、視界を遮っていた厚い雲が切れ、視界が開ける。
「―――間に合わなかったね」
編隊を組み、飛行する大部隊を眼下に置いて、リーファは呟いた。サラマンダーの強襲部隊と会談出席者の距離は徐々に縮まっていき、目算でもあと数十秒ほどで接触してしまうだろう。
「ありがとう、キリト君、カエデ君、ユウキ。ここまででいいよ、短い間だったけど楽しかった」
何かを覚悟したように笑顔を俺たちに向けるリーファ。そんなリーファに、俺たちは不敵に笑った。
「ここで逃げ出すのは性分じゃないんでね」
「頼まれた以上は全力で応える」
「諦めたらそこで試合終了だよ!リーファ!」
なんか最後は微妙に違った気がするけど……まあいいや。
困惑するリーファをよそに、俺たちは翅を思い切り震わせて急降下に入った。
「ちょ……ちょっとぉ!!なによそれ!!」
後方から聞こえるリーファの抗議を無視して、羽根の角度をさらに鋭くさせる。高速で流れていく景色と近づく大地。着地と同時に巻き上がる巨大な土煙と衝撃はサラマンダーと会談出席者の動きを止めるのには十分だった。
薄れていく土煙のなか、仁王立ちになって両者を睥睨するキリトと、その隣に立つ俺とユウキ。張りつめたような空気を破るように影妖精が大きく息を吸い込んで―――
「双方、剣を引け!!」
――放出した。
第27話、お読みくださってありがとうございます!いかがだったでしょうか?
カエデ君とユウキのセリフにあった
<急いで書いたって感じがする>という場面、なぜか自分の心に深く突き刺さりました(笑)
まさか私に精神攻撃をしてくるようになるとは……
ご意見ご感想いつでもお待ちしております!それでは次回、またお会いしましょう!
そういえば、イラストの許可が下りるか心配でしたがあのくらいならセーフなんですかね……?じゃあ次はもっと―――(ここから先は血で汚れてよめない)