お久しぶりです。
今回、話そのものはほとんど進んでいません。だらしねえな……
それと甘さ成分がまったくないです。ちょー健全回になっておりますのでこれなら誰が見ても大丈夫ですね!
それでは第26話です!どうぞ!
視界に映るサラマンダーが発するかすかな悲鳴をききながら左手の鎌を薙ぎ払う。撫でるように振られた鎌はなめらかな軌跡を描いて妖精の命をまた一つ刈り取っていく。
幻惑魔法が発動してから戦況は大きく変わっていた。突如として現れた絶対的な死を前にサラマンダーたちは瓦解。一人、また一人と刈られていく仲間を見ながら戦えるものなどもういなかった。そして、とうとう最後の一人となったメイジの首筋に鎌があてられる。
「さあ、誰の命令とかあれこれ吐いてもらうわよ!!」
つかつかと歩み寄りながら、放心したままのサラマンダーに叫ぶリーファ。それとは対照的にリーファの肩に乗るユイはすごかったですね~、と暢気な感想を口にし、あたりを見回す。
爆炎による焦げ跡が先ほどまでの激戦を伝えるのみで、橋の上には洞窟本来の静けさと湿っぽさが戻っていた。つい先ほどまではサラマンダーたちの残したエンドフレイムがあたりを無念とばかりに漂っていたのだが今はそれもない。
「こ、殺すなら殺しやがれ!」
「この……」
顔面蒼白になりながらも情報を話そうとしないサラマンダーにしびれをきらしそうになるリーファだが、俺たちが黒い霧を撒き散らしながら幻惑魔法を解くと、男から視線を離した。
「どうしよう。思ったより口が堅いみたい」
お手上げというように首を軽く振ってリーファは俺たちを見る。ALOに限らず、ネットゲームではこのような状況になったときに敵から情報を聞き出す手段が基本的にないのだ。拷問と呼ばれる痛みを介してのやりとりは普通の倫理観を持ったプレイヤーならまずとらない方法だし、なによりペインアブソーバによって痛覚は基本抑制されている。その他の尋問もアバターというVRゲームの盾によって意味を成さなくなっているのだ。
だからといって方法がないわけでもないが。
「キリト、こういうの得意だろ」
「まあな。MMOでのいざこざを解決するにはコツがある」
任せろと自信満々な笑みを浮かべたキリトはぽかんと口を開けるサラマンダーの隣に座り込み、口を開いた。
「よ、ナイスファイト」
『は……?』
俺を覗いた全員が唖然とする中でキリトは爽やかな口調で話し続ける。
「いやあ、いい作戦だったよ。俺一人だったら速攻やられてたなあー」
「ちょ、ちょっとキリト君……」
「まあまあ」
心配そうに声を上げるリーファにぱちりとウインクを送るキリト。
「カエデ、もしかしてキリト……」
少し離れたところで耳打ちするユウキに俺は頷いた。
「ああ。キリトがやろうとしてるのは――」
俺の言葉とキリトの提案、女性陣が放つ蔑視光線をものともせずにスプリガンとサラマンダーの異種族はグッと頷き合った。
―☆―☆―☆―
条件を提示してからのサラマンダーは想像以上に饒舌だった。
「――なんでもでかいことを狙ってるみたいでその作戦上、君たちのパーティーが邪魔だって話になって。マンダーの上のほうでなんか動いてるっぽいんだよね。俺みたいな下っぱには教えてくれないんだけど……」
「世界樹を攻略しようとしてるのかな?」
首を傾げるユウキにサラマンダーの男はぶんぶんと首を振った。
「そいつはないよ嬢ちゃん。前の攻略戦で全滅しちゃったからな、当分攻略には挑戦しないと思うぜ」
胸を張って答えるサラマンダーを見て苦笑するキリト。そこでふと思いついたように口を開いた。
「ってことはほかの部隊がどこかに向かってるってことだよな?俺たちを襲撃したのとは別の」
「ああ。すげえ人数の軍隊が北に飛んでいくのが見えたよ」
「北……」
何かの重要なクエストがあるのか……?しかしそれなら古参プレイヤーであるリーファが知っているはずだ。そもそも軍隊を引き連れて発生するクエストなんて考えにくい。かといって世界樹の攻略ではないとサラマンダーは断言してるし……。
「カエデ……?」
「……いや、なんでもないよ」
大丈夫だとユウキに伝えて、浮かんでくる疑問を胸の奥に無理やり押し込める。
優先すべきはアスナの救出だ。そのためには目先のことに集中しないと。
「ま、俺の知ってるのはこんなトコだ。――じゃあ約束通り……」
「分かってるとも」
取引では嘘はつかないさ、とうそぶくキリトに嬉々とした表情でトレードウインドウを操作するサラマンダー。その様子をみてリーファは半分呆れながら言った。
「しかしアンタ、気が咎めたりしないの?仲間の装備でしょ?」
「分かってねえなあ。こういうのだからこそ快感が増すってもんじゃねえか。ま、さすがにそのまま使うわけにはいかないから全部換金するんだけどな。それにばれないように慎重に帰らないと……」
満足した表情でトレードを終えたサラマンダーは俺たち四人に軽く手をあげ、じゃあと言い残して元来た方向へ歩いて行く。
「あっ、そういえば」
数歩歩いたところで急に立ち止まるサラマンダー。
「見ない顔が混じって北に飛んでいったのを思い出したよ」
「見ない顔?」
俺がそう聞き返すとサラマンダーは俺の方を見ながら答えた。
「ああ、うちらのボスのそばを飛んでたんだけど得物が二振りの短剣。ちょうどあんたみたいな感じだったよ」
「へえ、二振りの短剣か」
短剣を使うプレイヤーの数はそこまで少なくないが2本を扱うとなるとかなり限定されてくる。理由は単純で2本を同時に扱うのが難しいからだ。その状態だと短剣の最大の長所である小回りの良さと扱いやすさを殺してしまう。故にほとんどの人間が二刀を使いたがらないのだ。そんななか、めげずに二刀を使うプレイヤーに俺は思わず親近感を感じた。
「ボスは強いプレイヤーをそばに置きたがるからな。実際に見たわけじゃないがかなりやると思うぜ?」
それだけ言うとサラマンダーは立ち止まることなく洞窟の暗闇へと消えて行った。
―☆―☆―☆―
「えーっと、さっき大暴れした骸骨、キリト君たちなんだよねえ?」
静けさが支配する橋の上でリーファは俺たちの顔をまじまじと見ながら言った。
「もちろん。そういう作戦だったし」
「んー、多分ね」
「多分、って……サラマンダーを騙して混乱を誘おうって作戦だったでしょ?」
「いやー、なんというか……戦闘に集中し過ぎてよく覚えてないっていうか……」
「ついかっとなってやった。反省はしているってやつだな」
「それだけ聞くと危ない人だからそれ」
俺の言葉にすかさずツッコミを入れるリーファ。
「でもモンスター気分が味わえて楽しかったよね!」
「ばっさり真っ二つにしてましたよ~」
楽しそうに笑うユウキを見てリーファの肩に乗っているユイも注釈を加える。
そんな二人を見ながらリーファは恐る恐る口を開いた。
「その……やっぱり感触とか違うんだよね?斬ったときの……」
「うん!普段の剣と違って抵抗なく……」
「わっ、やっぱいい、言わないで!」
ユウキに向かってぶんぶんと手を振るリーファ。その手をキリトが不意にぎゅっと掴んで――。
「がおう!!」
一声唸るとリーファの指先をぱくりと咥えはじめた。
「ギャ――――――ッ!!」
「なにやってんだあいつら……」
繰り出されるビンタと響く悲鳴に苦笑する俺とユウキ。ぎゃーぎゃーと言い合う二人を見ながら
「カエデカエデ!」
「どうしたユウ――」
―――ぱくり。
不意に手を掴まれたかと思うと人差し指から温かい感触が伝わってきた。
さすがはナーブギア、ここまで感触や温度を再現できるとは。やはりあの天才が作り上げた……
……って、そうじゃなくて!
「あ、あの……ユウキさん?」
「んっ、はむっ……ちゅ……ちゅる……。ふふっ、びっくりした?」
指先を咥えたままこちらを見るユウキ。見上げるように俺のほうへ視線を移しているから当然上目使いという形になる。
ちゅる、ちゅぱっ、ちゅぅっ、ちゅぷっ
口内特有の生温かさ、次いで周りに響く艶めかしい水音。ほんのりと頬を上気させたまま指をくわえ続けるユウキを見て、思考が鈍りつつある俺は一つの結論に至った。
―――これはヤバい。おもに絵面が。
そしてこのようなシチュエーションに陥った際のお約束を俺は何度も体験してきた。
だからこそ、この状況を早くどうにかし―――
「ちょっとカエデ君!?ユウキに何やらせてるの!?」
……無理でした。
「違うからリーファ!これはユウキが……」
顔を真っ赤にさせたまま叫ぶリーファに誤解を解こうと必死に声をかけるが――
「ふぇっ!?パパっ!これが大人の……」
「ユイっ、見ちゃだめだ!」
さらなる追い討ちがかかるのは言うまでもない。
しばらくの間、俺はパーティーメンバーから冷たい視線を浴び続けることになったとここに記しておく。
「どうしてこうなった……」
力ない声が広い洞窟内に頼りなく響いた。
……セーフです(小声)
反省はしてる。後悔はしていない。
第26話、お読みくださってありがとうございます!いかがだったでしょうか?
読み返してみるとあら不思議、まったく進んでいないというトリックが!!
当初の予定ではこの話でユージーン将軍と対面するところまで書くつもりだったんですけど……まあ次を早く出すということで(目逸らし)
それでは次回、またお会いしましょう!