SSだからもっとゆるく書きたいのに・・・
お気に入りへの追加や感想ありがとうございました!
「なかなか来ないね……」
「だな……」
「遅い……」
広場を移動するプレイヤーたちの動きを眺めながらユウキ、俺、キリトの順につぶやく。なぜこんなことになっているのかといえば時間は数分前に遡る。いつもどおり迷宮区の攻略をしようとユウキと一緒に74層主街区まで転移をしたとき門の近くで座っていたキリトを見つけたのだ。
話を聞くとなんやかんやあってアスナとパーティーを組むことになったらしく、それなら今日は一緒に行動しようとユウキが提案し、現在に至るというわけだ。
しかし時間になっても来ないアスナを待ってから数十分経過した。時間に正確なアスナが遅れてくるなんて珍しいのでメッセージを飛ばしてみるかと2人に相談しようとしたその時、転移門内部に青いテレポート光が発生した。
「きゃああああ!避けて!」
「うわあああ!?」
空中に実体化された人影がそのまま門の近くにいたキリトに吹っ飛んでいく。
いきなりのことだったのでもちろん避けることはできず、キリトは思い切り転移してきたアスナと衝突し、地面に転がる。難を逃れた俺とユウキは倒れこんだ2人に手を貸すべく近づこうとするが、そのとき――――
「ん……なんだ?この感触……」
目の前で下敷きになっていた黒の剣士様はアスナの胸部に手をあてて開閉しだすという紳士的な行動(もちろんわざとやっているわけではない)を始めだした。
「や、や―――っ!!」
大音量の悲鳴が上がり、当然キリトは殴られてまた吹き飛ぶ。
耳まで真っ赤にさせてアスナはキリトを睨み付けるがこわばった笑顔のままキリトは
「や、やあ おはようアスナ」
と紳士的な態度を崩さないまま口を開く。
アスナを纏っている殺気が一瞬強まった気がしたが、再び青く発光した転移門をみてアスナはキリトの後ろに回り込んだ。
「なん・・・?」
最初は何のことか分からなかったがゲートから出てくる人影を見てすぐに理解できた。
昨日アスナに付き従っていた長髪の男。確かクラディールという名前だったはずだ。
「アスナ様!勝手なことをされては困ります!」
ゲートから出てくるや否やキリトの後ろに隠れているアスナを見つけると甲高い声を響かせてクラディールは更に言い寄った。
「さあ、ギルド本部まで戻りましょう」
「嫌よ、だいたい、アンタなんで朝から家の前に張り込んでるのよ!?」
相当キレ気味な様子でアスナが言い返す。が
「ふふ、こんなこともあろうと思いまして、一か月前から監視の任務についておりました」
などと得意げな返事をして俺を含めた4人を凍りつかせる。
いくらか間をおいてアスナが聞き返すが、自宅の監視も護衛に含まれると言ってしまう始末だ。こいつ完全にアウトだろ・・・
「ふ・・・含まれないわよバカ!!」
アスナがそう言った途端にクラディールは怒りと苛立ちを強めてつかつかと歩み寄ると、キリトを押しのけてアスナの腕を掴んだ。
その瞬間、傍らにいた俺たちにアスナがすがるような視線を向けてくる。
いい加減、介入したほうがよさそうだと思っていたのだが俺が動き出すよりも先にキリトが動いた。
「悪いな、お前さんのとこの副団長は、今日は俺たちの貸切なんだ。」
アスナを掴んだクラディールの右手首を握りキリトがクラディールの歩みを止めさせる。
「そういうこと。アスナの安全は俺たちが責任持つから本部にはあんた一人で帰ってくれ。」
「カエデの言うとおりだよ!今日はボクたちがアスナとパーティーを組むんだ!」
少し遅れて俺、ユウキの順でクラディールにアスナを解放するようにいう。
今まで敢えて俺たちの存在を無視していたクラディールはキリトの手を振りほどくと、
「貴様らァ・・・!」
耳を塞ぎたくなるよう軋む声で唸った。
「ふざけるな!!貴様らのような雑魚プレイヤーにアスナ様の護衛が務まるかぁ!私は栄光ある血盟騎士団の・・・」
「ふざけているのはお前のほうだ。俺たちのほうがまともに務まる。」
この一言が余計だと気づいた時にはもう遅かった。
「ガキィ・・そこまででかい口を叩くからにはそれを証明する覚悟があるんだろうな」
クラディールは怒りで震える右手を動かしウインドウを呼び出すと素早く操作した。
即座に、俺の視界に半透明のシステムメッセージが出現する。クラディールからのデュエル申請だ。俺にしか見えていないウインドウだがアスナたちも状況は察しているのだろう。
止めるのかと思っていたのだがアスナは硬い表情のまま小さく頷いた。
「カエデ!そんなやつ懲らしめちゃえ!」
ユウキにいたっては俺に応援なんてくれてる。・・・・いいのかそれで。
「はぁ・・めんどくさ」
正直戦いたくなかったがそれだとあの護衛さんが収まりそうもないので俺はメッセージを受諾した。〈初撃決着モード〉が選択されてその下で60秒のカウントダウンが開始される。
ちなみに〈初撃決着モード〉では最初に強攻撃をヒットさせるか相手のHPバーを半減させたほうの勝利となる。他にも種類があるのだがデュエルと言われれば大抵がこのモードだ。
クラディールはアスナの首肯を都合のいいように解釈したのだろう。
「ご覧くださいアスナ様!私以外に護衛が務まる者などいないことを証明しますぞ!」
と叫び、仰々しい仕草で鞘から剣を抜いて構えた。ユウキたちが数歩下がるのを視界の隅で確認して、俺も腰から短剣を抜いて逆手に持つ。カウントが一桁になると周りの雑音は聞こえなくなった。感覚が研ぎ澄まされていくのがわかる。
〈DUEL!!〉という開始の文字が表示されるのと同時に俺は地面を蹴った。
それに一瞬だけ遅れてクラディールが動き出すがその表情は驚愕に染まっていた。
おそらく俺の姿が確認できていないのだろう。発動させようとしていたソードスキルをキャンセルさせてまわりを見渡している。
「どこだ!?」
甲高い声で叫びながら俺を探しているがもう遅い。
「はぁっ!」
俺はクラディールの背中に近づき短剣ソードスキル〈アクセルレイド〉を発動させる。
攻撃は外れることなく3連撃ともクラディールにヒットし、HPバーを半分減らすことに成功した。普通ならば短剣にここまでの威力はないのだが今回は相手の油断も相まって隙だらけ。そこにクリティカルで攻撃をヒットさせるのはなんら難しくない。
ソードスキルが終了するのと同時にデュエルの終了と勝者を告げる文字列がフラッシュした。
しばらくの間、沈黙が広場を覆ったが俺が剣を腰にしまうと、わっと歓声が巻き起こった。
すげぇ、いまの何したんだ?とギャラリーたちが口々に言ってるのを聞きながらまだうなだれているクラディールに近づく。
「まだ戦いたいなら付き合うけどどうする?」
言葉を聞いてクラディールは剣を握りしめたまま俺を見据えた。犯罪防止コードに阻まれるの承知の上で斬りかかろうと考えているのだろう。そんな緊迫した空気の中、アスナがスッと歩み出る。
「クラディール、本日を以て護衛役を解任。別名があるまで本部で待機。以上」
その声は表情以上に凍りついた響きだった。
「なん・・・なんだと・・・」
かろうじてその言葉だけが聞き取れたがそれ以上は聞きとれなかった。
口のなかで何かをぶつぶつと呟きながらマントから転移結晶を取り出すと、クラディールは本部があるグランザムを指定して転移していった。最後の瞬間まで俺たちに憎悪の視線を向けながら・・・
「お疲れさま!カエデ!」
さきほどのクラディールの憎悪を感じてないわけではないだろうが後味の悪い空気のなか、明るい声でユウキが労いの言葉をかけてくれた。
「ありがとなユウキ」
その声におれはユウキの頭を撫でながら答える。
「わぁ!?カ、カエデ!?//////」
少し驚いていたが嫌がってなさそうだし大丈夫だろう。これで嫌がられたらショックで寝込んでたかも。
「お疲れさんカエデ、それよりさっきの面白い戦い方だったな」
「お、もしかして分かった?」
「隠蔽スキルだろ。お前と何回デュエルしたと思っているんだ?」
「ご名答。でもまだ俺の勝ち越しだからな」
「ぐっ・・・」
痛いところを突かれたと言わんばかりにキリトが顔をしかめる。
さっきの戦いはキリトの言った通りに隠蔽スキルを使った戦い方だ。このスキルは本来、敵を待ち伏せたり、やり過ごすのに使うスキルなのだが高速で動き回ってこれをつかえば一瞬だけだが相手から自分を見えなくすることができる。さらに今装備している防具のスキルのおかげでこれを連続で行なえる。結果クラディールが俺を見失ってしまったわけだ。
まあ戦闘中に索敵スキルを使われたりすると看破されるし、最初の移動で敵の視界から外れることが大前提なのでなかなか難しいけど。
「ごめんね、みんな。巻き込んじゃって」
アスナが申しわけなさそうに謝ってくる。
「いや、大丈夫だって。それにたまには俺たちみたいなのとパーティー組んで息抜きしたって誰も文句は言えないだろ」
キリトが気の利いた言葉をアスナにかける。たまには良いこと言うじゃん。コミュ障のくせに。
「おい、カエデ今変なこと思っただろ」
・・・みんなやっぱり読心スキルでも持ってんの?それとも表情に出てんのかな?
「な、何も思ってないって!それよりみんな!今日はキリトが前衛してくれるらしいぞ!」
「わあ!さすがキリト!」
「ありがとね。キリト君」
「いや、前衛は普通交代だろ!?」
重苦しい空気はもうそこにはなく、広場にキリトのツッコミが響いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回は話をうまく区切るために1話の文字数が少し減ります。
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