サブタイトルですがセカオワとは一切関連がございません。
それでは第15話です!どうぞ!
飛び出しから一気に距離を詰めて右手の剣を横薙ぎに繰り出す。
<ミラージュ・ナイト>が左手の剣でそれを受け止める。剣がぶつかり合う瞬間、俺はもう片方の剣で<アーマーピアス>を放つが、同じタイミングで敵も<アーマーピアス>を発動させる。
ソードスキルの硬直が解けると同時に体術スキル<閃打>を打ち込む――――ふりをする。
そして<閃打>を防ごうと剣を動かした騎士に不意を突く形で死変剣の五連撃技である<デュアル・ペンタグラム>をたたき込んだ。一瞬だけ反応が遅れた騎士はその攻撃を防ぐことができず、HPバーを減らす。
茅場の言うとおり、敵と俺のステータスはまったく同じ。不意をつく攻撃はおそらくさっきので学習されただろう。おまけにこっちはボス戦の疲労もあって全開じゃない。そしてプログラムである目の前の自分はそんな精神的なダメージなどお構いなしに常にフルパワーで攻撃してくる。長引けば長引くほどこっちが不利・・・
「とか思っているのなら心外だな」
失笑混じりの呟きを聞いてか、<ミラージュ・ナイト>は短剣突進技<ラピットバイト>を使い、突っ込んでくる。その攻撃には冷静さが無くなっておりカウンターをする要領で俺は短剣三連撃技<シャドウ・ステッチ>を放った。
ソードスキルは三撃ともヒット。敵のHPをさらに減らす。だが威力は高くないのでノックバックすることなく騎士は俺に剣を振り降ろしてきた。先ほどよりも力のこもっていない斬撃を左手の剣で弾く。俺の言葉から何かを感じとって短期決着をつけようとしたらしいが時間切れだ。
「・・・っ!?」
騎士の身体が大きくぐらつく。その隙を逃さず、体術スキル<旋風>を打ち込み、相手との距離をつくる。騎士は跪き、困惑の表情を浮かべながら俺のことを見ていた。その様子を確認し、動けないでいる騎士に近づく。
死変剣の状態異常には大きく分けて二つある。まず一つは麻痺や毒のように敵の行動に直接干渉するもの。二つ目は筋力や敏捷などのステータスを一時的に下げて間接的に戦闘を妨害するもの。
<ミラージュ・ナイト>にカウンターを決め、斬撃を弾けたのもすべてはステータス弱体化のおかげである。まったく同じ能力値ならそれを下げてしまえばいい。
そして<ミラージュ・ナイト>が動けないでいるのは死変剣のなかでも唯一、発動にリスクがある状態異常。
――――――平衡感覚の一時的な喪失。
しかしこの能力は一度使った相手には二度と効かないし、これを見ていたやつにも効果が薄くなる。
「お前の敗因はカエデというプレイヤーになりきろうとしたことだ。そんな付け焼刃で勝てるほど――」
死神は甘くない。
跪いた<ミラージュ・ナイト>の首を刎ねて剣を腰に収めると、戦いを見ていたキリトに声をかけた。
「たしかに繋げたぞ、キリト」
「ああ、あとは任せてくれ」
拳をこつんと合わせる。やれることはやった。あとはキリトが茅場を倒せばゲームはクリアだ。
「キリト」
「どうした?」
「・・・いや、なんでもない」
それだけ言って俺はキリトから離れた。おそらくキリトなら分かっているはずだ。
「では、こちらも始めようか」
「・・・ああ」
俺が離れた瞬間、キリトと茅場の間の緊張感が高まっていく。これが勇者と魔王の戦い・・・突き刺さるような剣気を俺は肌で感じた。
「殺す・・・っ!!」
鋭い呼気と共にキリトが床を蹴った。遠い間合いからキリトが斬撃を繰り出し、茅場がそれを左手の盾で受け止める。剣と盾がぶつかりあう音が戦闘開始の合図となり、二人の動きが一気に加速する。純粋な殺し合い。それは俺が今まで見てきた戦いの中でもっとも人間味のあるものだった。
キリトはシステム上に設定されている技は一切使わずに左右の剣を振り続けていた。
その両腕はかつてのデュエルを上回る速度で動く。俺の目にすら、残像によって剣が数本に見えた。
だが茅場はそれを機械のような正確さで叩き落としていた。そして隙が出来るとすかさず鋭い一撃をキリトに浴びせてくる。
茅場の視線はあくまで冷ややかだった。かつてヒースクリフと呼ばれ慕われていたころの人間らしさはまるでない。
キリトはさらに両手の速度を速めて茅場に肉薄するがそれでも茅場の表情は変わらない。
その表情を見てキリトの顔にも焦りが生まれていた。そして使ってしまう。
二刀流最上位剣技<ジ・イクリプス>。システムに設定されている技だ。
「あのバカ・・・!」
キリトがスキルを放った直後、俺は駆け出していた。
<二刀流>を含め、ユニークスキルをデザインしたのは茅場だ。よってソードスキルよる攻撃はすべて読まれる。読まれるということはそこから防がれることにつながる。
全方位から噴出した剣尖が超高速で茅場に襲い掛かるが、最後の一撃に至るまで茅場はそれを盾で弾いた。そして微笑を浮かべると一言だけ口にした。
「さらばだ―――キリト君」
システムによる硬直を課せられたキリトにクリムゾンの刀身が振り降ろされる。
その瞬間、真紅に輝く長剣とキリトの間に凄まじいスピードで割り込む。しかし割り込んだのは俺だけではなかった。
――――アスナ・・・?・・・まったく世話の焼ける勇者だ。
攻撃を食らう寸前に茅場の着こんでいる鎧の継ぎ目に剣を突き刺す。それでもスキルを止めることは叶わず、長剣は茅場とキリトの間に入った俺、アスナを切り裂いた。
「カエデ、アスナ・・・!?」
キリトの呟きを聞きながら茅場を見る。すると茅場の表情にも驚きの色が見えていた。
そしてそれはさらに濃いものとなる。
「っ!?麻痺か!」
突き刺した剣の副次結果に一瞬だけ笑みを浮かべる。
「あとは・・・任せたぜ・・勇者さん」
麻痺によって体の自由を奪われた茅場にキリトが止めをさす。その姿を見届けて、俺は意識を手放した。
意識が覚醒していき、目を開くと俺は不思議な場所いた。視界に広がる景色はすべて夕焼けに染まっている。足元は分厚い水晶の板だ。透明な床の下には雲が流れており、ここが遥か上空ということを証明している。
・・・ここはどこだ?俺は死んだはず・・・
右手を伸ばし、指を振ってみる。すると、耳慣れた鈴の音と共にウインドウが表示された。
まだここはSAOの中なのだ。しかしウインドウには装備フィギュアなどの項目はなく、小さな文字で<最終フェイズ実行中 現在54%完了>と表示されているだけだ。
理解できないままにウインドウを消した直後、背後から声がした。
「・・・カエデ?」
思わず振り返る。するとそこには少女が立っていた。長い髪をそっと揺らして佇む姿を確認した瞬間、俺は走り出してその身体を固く抱きしめる。囁くような声で俺はユウキに言った。
「ごめん。・・・約束守れなかった・・・」
「・・・・・・反省してるなら行動で示し――!?」
顔をほんのり赤くさせて要求を声に出そうとしていたユウキの唇に自分の唇をあてる。
長い、長いキスの後、顔を離してユウキに笑いかける。
「これで許してくれる?」
「・・・ずるいよ、カエデ」
そう言って俺の胸に顔をうずめるユウキをなでながら、俺は視線を周りに移した。
「アインクラッド・・・」
視線の先には鋼鉄の城があった。一万人のプレイヤーを閉じ込めていた牢獄は徐々に下から崩れ始め、そのパーツを眼下の赤い雲海に落下させていく。
「なかなかに絶景だな」
傍らから声がした。視線を右に向けるといつの間にかそこには白衣を着た茅場が立っていた。つい数分前にこいつに斬り殺されたはずなのに不思議と憎しみや殺意は湧いてこない。
ユウキも俺と同じだったようでじっと茅場を見ている。
「勇者さまのところに行かなくてもいいのか?」
「それについては問題ない。彼らとは先ほど話してきた」
茅場は視線を移すことなく答える。
「あれは、どうなってるんだ?」
「比喩的表現・・・と言うべきかな。現在、アーガス本社地下五階に設置されたSAOメインフレームの全記憶装置でデータの完全消去作業を行っている。あと十分ほどでこの世界の何もかもが消滅するだろう」
「あそこにいた人たちは・・・?」
「心配には及ばない。先ほど――」
「生き残った全プレイヤー、6147人のログアウトが完了した」
ユウキの問いにも右手を動かしながら静かな声で返す。視線はアインクラッドに向けられたままだ。
「・・・茅場さん」
「何かね?」
茅場は視線を俺に向けると聞いてきた。
「・・・俺はあんたを許さない・・・でも――」
おそらく俺はこのとき笑っていたのだろう。まるでゲームをプレイする子供のように。
「楽しかったよ、このゲーム。俺は二年間でいろんなものを見つけることができた。信頼できる仲間、愛する人・・・確かにこの世界は俺にとってもう一つの現実だったよ」
「・・・開発者冥利に尽きる言葉をありがとう。素直に受け取っておこう」
バツが悪そうに頭をかく茅場を、ユウキが笑って見ていた。茅場は苦笑すると口を開く
「・・・言い忘れていたな。ゲームクリアおめでとう、カエデ君、ユウキ君」
ぽつりと言葉を発し、茅場は俺たちを穏やかな表情で見下ろす。
「・・・さて、私はそろそろ行くよ」
風が吹き、それにかき消されるように茅場は消えて行った。
「ね、自己紹介しようよ!」
なんで今更?と思ったがユウキは俺の現実での名前を聞きたいのだろう。剣士カエデとしてではなく、二年前に身体と一緒に置いてきた名前を。
浮かび上がってくるその単語に不思議な感慨を抱きつつも、俺は声に出した。
「秋風・・・秋風 楓。たぶん十六歳」
「あきかぜ・・・かえで・・・」
噛み締めるように、一音一音ゆっくり口にしてユウキは複雑そうに笑った
「三つも離れてたのかー。・・・ボクはね、紺野 木綿季。十三歳だよ」
こんの・・・ゆうき・・・その六文字を俺は心の中で何度も繰り返した。ユウキが途端に抱き着いてくる。
「いきなりどうした?」
「カエデ、ずっと一緒だよ」
その甘い声はいつまでも頭に響き、かがやくような笑顔は俺の網膜に焼き付いた。
固く抱き合ったまま、俺とユウキは光の粒となって消えていく――
・・・・・・知らない天井だ。
しかし鼻を通る、つんとした消毒薬のにおいでここが病院であることを理解する。
「ゆ・・う・・き・・」
自分が生きているということよりも先に最愛の人の顔が浮かんだ。早く彼女のもとへ行かないと。そう思うが身体に力が入らない。
俺は状態を無理やり起こし、ゆっくりと頭を覆うナーヴギアを外した。点滴の針も引き抜き、体中についているコードもはずす。
床に足をつけて立ち上がろうと試みる。しかし膝が笑い、折れそうになる。
あのときの筋力パラメータはどこにいったんだよ・・・
そう自分に言い聞かせてどうにか立ち上がった。早くしろ、早くしろと身体がせかす声が聞こえてくる。
「ゆう・・・き」
もう少しだけ待ってて。すぐに会いに行くから。
点滴の支柱を杖代わりに握り、俺はドアに向かって歩み始めた。
珈琲「<ソードアート・オンライン~死変剣の双舞~>をお読み下さってありがとうございます!第15話、いかがだったでしょうか?」
珈琲「オリ主をいれてSAOを再構築してみよう!と軽い気持ちで書き始めたこのSSも気が付けば15話。振り返ってみるとなんだか感慨深いものがあります。」
カエデ「そんないい加減な理由で書いてたのかよ・・・」
珈琲「いやいや、ここに至るまでにちゃんとしたわけがありまして、聞くも涙 語るも涙の――」
カエデ「あ、別に言わなくてもいいよ。てか黙ってて」
珈琲「言い出しっぺがそのセリフ言っちゃう!?」
カエデ「でもまあ・・・ユウキと出会わせてくれたことには・・・感謝してる」
ユウキ「ありがとね!」
珈琲「ははは!もっと褒めてもよいのですよ?」
カエデ「・・・うぜ」
ユウキ「カエデ、声に出てるよ」
珈琲「あれ?なんで目から汗が・・・」
カエデ「次回からはおまけを挿んで予定どおりALOに入るらしいな」
珈琲「そうだよ。アルヴヘイム産の砂糖を期待されているから気合入れないと・・・」
ユウキ「砂糖・・・?」
カエデ「なんの話だ?」
珈琲「(ああ、そっか。こいつら自覚なしだったわ・・・)」
カエデ「これからも一緒にがんばろうな。ユウキ」ナデナデ
ユウキ「うん////」ギュー
珈琲「・・・この状況に慣れて来てる自分が嫌だ・・・」
カエデ「これからも応援よろしくお願いします!」
ユウキ「次回も見てね!」
珈琲・カエデ・ユウキ「「「バイバ~イ!」」」
数か月に亘って書き綴ってきたカエデとユウキの戦いはこれにて一旦お終いです!
ここまで読んでくださってありがとうございました!それでは次回またお会いしましょう!