Fate/Zure   作:黒山羊

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038:To the beginning.

【038:To the beginning.】

 

 結論を先に言えば、間桐臓硯が直接出向いたことで、アハト翁は意外にもすんなりと冬木までやって来た。既に第三魔法の成就にしか興味がないというのがアハト翁のスタンスなのだが、流石に間桐臓硯から詳細な現状を説明されては脚を運ばざるを得なかったらしい。

 

 そもそも、第三次でアヴェンジャーこと『アンリマユ』のマスターだったのはアハト翁自身である。その影響で聖杯が変質し、根元への到達どころか聖杯の完成自体が難しくなっていると言われたのは流石に堪えたのだろう。――――まぁそもそも、アハト翁から見ても間桐臓硯は化け物である。故に逆らう気力が起きなかったというのも大きいだろうが。

 

 事実、冬の城への道案内こそ『イリヤに一目会わせる』ことを条件にその役目を引き受けた切嗣が行ったが、行く手を阻む結界や武装ホムンクルスの殆どを始末したのは臓硯である。雁夜の肉体という魔力源を得た臓硯にとって魔力はケチるものではなくなっており、大量の蟲を使役して冬の森をゆうゆうと進む様にはさすがの切嗣と時臣も冷や汗をかいたのだ。攻め込まれている側のアインツベルンからすれば気が気ではなかった筈である。

  

 そんな訳で、半ば恐喝に近い形で文字通り「引きずり出された」形で配下のホムンクルス共々冬木のアインツベルンの森へと居城を移したアハト翁。彼を加えた御三家当主は、ようやく聖杯のメンテナンスに着手した。――――が。これまた結論から言うと、現状で大聖杯内部のアンリマユを摘出する事は、流石の御三家当主でも不可能であった。次期聖杯であるイリヤスフィールとそのプロトタイプのリーゼリットを用いても、流石に大聖杯を根本から改造するのは不可能だったのである。

 

 と、いうもののそれは現状の話である。臓硯がバーサーカーの使い魔化で得たノウハウを元にどうにかこうにか汚染除去を試みた御三家は、新造した巨大な『匣』にアンリマユを封じる事に成功したのだ。

 

 それは即ち、次回の聖杯戦争に八騎目のサーヴァントとしてアンリマユが現界する事を意味している。だが、そのままごく普通のサーヴァントとしてアンリマユを現界させたのでは結局『敗退したアンリマユが聖杯の中に取り込まれ、聖杯を汚染する』という第三次の焼き直しになるだけである。それでは全く意味がない。

 

 だが、御三家としてもその程度は対策済み。アンリマユという存在は、聖杯の中に入った瞬間魔力を絞り出され、カラカラのガス欠状態で再び今回設置した『匣』に囚われるのである。とはいえ、聖杯内部の『呪い(ねがい)』であるアンリマユを殺す事は出来ない。彼は再び力を蓄え、聖杯戦争の度に何度でも召喚されるだろう。だが、彼が倒され続ける限りその本体は聖杯の中心部には至らず、魔力を奪われまた干からびる。そんな一種の無限ループを引き起こすことで、アンリマユが聖杯を汚染する事を阻止したのだ。

 

――――とはいえ、アンリマユを大人しく匣に封じられた状態に保つには、アンリマユにも活路を作っておかねばならない。一か所だけ抜け道を作っておいてやることで、アンリマユが『やけくそになって無理矢理聖杯を乗っ取ろうとする』事を防ぐためである。窮鼠猫を噛むと古くから言うように、敵を追い詰め過ぎるのは愚策なのだ。

 

 アンリマユに与えられた活路は一つ。他のサーヴァントを下し、自身が聖杯戦争に勝利することである。マスターの居ない独立したサーヴァントとして召喚されるアンリマユが優勝すれば、当然願いを叶える権利はアンリマユにあるのだ。そうなれば彼が『この世の全ての悪』として完成する事も容易いだろう。

 

 故に、此れより先、第五次からの聖杯戦争は、今までとは多少趣の異なる展開となる。アンリマユの影響で英雄・反英雄の区別なく英霊の座から呼び寄せられた七騎の英霊。それらを率いる七人のマスター。そして、ジョーカーであるアンリマユ。少なくとも八つの陣営が、その願いを巡って戦う新たな形の聖杯戦争が始まるのだ。

 

 当然、アンリマユの勝利は人類の死を意味する。だが、アハト翁と臓硯はこれは逆に利点でもあると踏んでいた。――――明確な形で現れる人類滅亡の原因。それを討伐する為となれば、召喚される通常の英霊には抑止力(アラヤ)の加護が働く筈なのである。つまり、より位の高い英雄を呼び寄せられるかもしれないのだ。それはより上質な魂が聖杯に蓄えられるという事であり、第三魔法の成功率が上がる事を意味しているのだ。

 

 

 そんな様々な思惑が重なる中で、人々はつかの間の平穏を享受する。

 

 

――――衛宮切嗣は、協会に正体が発覚すれば封印指定間違いなしの士郎に自衛手段として魔術を教え始めている。

 

――――遠坂時臣は、自身の前で凛が猫を被っている事に気づかぬまま、彼女の修行を本格化させている。

 

――――ウェイバー・ベルベットは、漸く初歩の雑用をこなせるようになったバゼットをどうにか次の段階に進めさせようとしている。

 

――――間桐家では、慎二が昼はバーサーカーに武を鍛えられ、夜は桜と共に臓硯から魔術を教わる日々を過ごしている。

 

――――アインツベルンの森では、また切嗣の所に遊びに行っていた事がバレたイリヤが、お目付役として鋳造された『セラ』にお小言を喰らっている。

 

 

――――そして、聖杯の片隅に追いやられた『彼』は思案する。あと七年が待ち遠しい、と。




後日談は、聖杯の改造がなされた今回で打ち止めです。
ステイナイト辺のプロットは未だ出来ておりません。
製作は難航しており、正直に言えば製作は厳しい状態です。

ですので、次に皆様にお見せするのが、この作品の続編でない可能性も十分にございます。

無論、ある日ひょっこり、【039:~~~~】なんて感じで続きを投稿するかもしれません。続きを書く際にはこの小説の次話としてそのまま投稿するつもりですので、その時はまたこの小説モドキを、暇つぶし代わりにでも読んでやって頂ければ幸いです。

長くのご愛読ありがとうございました。
またいずれ何かの作品でお会いできましたら幸いです。

2015/3/15
黒山羊

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