ラブライブ! ~黒一点~   作:フチタカ

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第四十六話 μ's+おまけが行く夏合宿!その1

 真姫ちゃんの案内で、3日間お世話になる別荘に到着した私たちはとりあえずこれからの行動を決めようという事でリビング……というには広すぎる一部屋に集合していた。なぜか真姫ちゃんはご機嫌斜めの様子で、一方古雪くんはホクホクした満足げな顔をしている。

 大方、彼がまた余計なちょっかいをかけたのだろう。

 もう……ほんと子供なんやから。

 

「それでは、練習メニューを発表します!」

 

 全員が揃ったのを確認して、海未ちゃんが少し大きな声をあげた。

 

 今日は合宿やし、いつもとは少し変わったメニューでもするのかな?などと思いながら、続く言葉を待っていると穂乃果ちゃんが慌てた様子で口を挟む。

 

「えぇー!?練習するの!?折角海に来たんだから、初めはみんなで遊ぼうよー」

「な、なにをいってるのですか!?私たちは練習をしにここまで来たんですよ」

「凜も遊びたいにゃ~」

 

 穂乃果ちゃんに続いて凜ちゃんも不満の声をあげた。

 他のメンバーを見るとことりちゃん、にこっちは遊びたそうにしており、私やエリチ、真姫ちゃんは決まった方についていくといったスタンスでいる。あれ、じゃあ古雪くんは?

 ふと気になって横を見ると、口の端に笑みを浮かべながら、丁度野次を飛ばし始める所だった。

 

「そうだそうだ。練習しにきてるんだぞー!」

「か、海菜さんの言う通りですよ穂乃果!」

「えぇ?海菜さん!裏切りですかっ!?」

 

 意外なところから後押しを受けた海未ちゃんが言葉を続け、穂乃果ちゃんは抗議の声をあげた。

 

 違う。

 

 古雪くんの性格だと絶対に本心は遊びたいと思っているハズや。おそらく今海未ちゃんの意見に追従したのは……おもしろそうだと思ったからに違いない。このままじゃ海未ちゃんは単純に押し切られて終了。になるだろうから……適当に火薬を投げ込んで反応を見ているのだろう。

 この人はまた余計なことを……。

 

「いやいや、正論を言ったまでだぞ、穂乃果。海未、練習内容を説明してやれ!」

「はい!まずはいつもの筋トレのメニューを……二倍です」

 

 ええぇー!と抗議の声が……主ににこりんほのの3人から上がった。

 

「おぉ!出血大増量サービスじゃん!」

 

 隣では古雪くんが相も変わらずにこにこしながら無責任な合いの手を入れていた。

 

「それに加えて、折角海に来ているので砂浜ダッシュも追加で」

「わお!青春の一ページ!夕日をバックに影のシルエットですか!?」

「遠泳も追加です!」

「9人の麗しきマーメイド!ふぅっ!」

「今までのダンスも総ざらいです!」

「みんな大好き総集編だぜ、イエイっ!」

 

 どうですか!

 と言いたげな顔で私たちを見渡す海未ちゃん。な、なんだかやる気のスイッチが変な方向に入っちゃってるような気も……。さすがにこの量は辛いやんな?

 にこっちも同じことを考えたのか横の穂乃果に静かに耳打ちしていた。

 

「ちょっと、穂乃果。アンタ止めてきなさいよ」

「海未―――!もう一声!」

「古雪!アンタはちょっと黙ってなさい!他人事だと思って言いたい放題言ってんじゃないわよ!」

「大丈夫。お前らの分はしっかり俺が遊んでくるから」

「練習に付き合う気すらないのね、アンタ……」

 

 にこっちのツッコミをおそらく待っていたのだろう。

 古雪くんはなんとも嬉しそうな顔で言葉を返していた。

 

 そのことに気が付かず、ただ純粋に自分に賛同してくれたのだと思っていたのかな。海未ちゃんは普段みせないような尊敬を込めた眼差しで彼を見つめていた。

 

「海未ちゃん!穂乃果はやっぱり遊びたい!ねー、ことりちゃん」

「うんっ。ことりもみんなで遊びたいなー?」

「なっ、ことりまで!海菜さん。先輩からも何とか言ってください!」

 

 彼女にそうふられた古雪くんは、おそらくひとしきりボケたので満足したのだろう。あっけらかんとした様子で伸びをした。

 

 

 

「いや、折角だし今日は遊ぼう。お前ら!二十分後に玄関前集合な!!」

 

 

 

 見事な手の平返し。

 

 おぉー!!!

 と、すぐに彼同様片手をあげて笑顔を浮かべるメンバーたち。

 

 

「やっぱり、あの人キライですー!!」

 

 

 彼や穂乃果ちゃん達が走り去った部屋に海未ちゃんの叫びが響いた。

 まぁまぁ、こういった遊びでメンバーの距離を縮めることも大事やからね?私とエリチは顔を見合わせてそのことを伝えるために海未ちゃんに話しかける。

 

 古雪くんもちゃんとその考えを説明していけばいいのにっ!

 

 

***

 

 

 結局私たちはあの後、それぞれ水着に着替えて玄関先に集合していた。

 女の子たちは楽しげに互いの水着姿を褒め合っている。

 

「海菜さん、すごい腹筋ですね!さすが男の子です!」

「ほんとだ、凄い……」

 

 穂乃果ちゃんに続いて花陽ちゃんも囁くように驚きの声をあげていた。

 古雪くんバスケやめてから運動らしい運動はしてないと思うんだけど、どうしてだろう?

 

「まあな。毎晩風呂に入る前腹筋しながら単語帳一冊音読してるから!題して『瀕死状態になりながら脳みその奥深くに記憶を刻み付ける暗記法』、君らも試してみたらいいと思うよ」

「なにそれ、キモチワルイ」

「その情報付け加えずに筋トレしてるっていえばいいのに……」

 

 真姫ちゃんは軽蔑のまなざしで彼をみつめて、エリチは頭を抱える。

 にこっちはというと、ぐぬぬ、と悔しそうに少し朱のさした顔で古雪くんを睨みつけていた。そういえば、にこっち、顔だけは好みだとか言ってたもんね。理想と現実の間で葛藤しているのかもしれない。

 

「えいっ!わ!ほんとにカチカチにゃ」

「きゃっ!え、えろす!」

「女子みたいな悲鳴をあげないでください」

「なにそれ、気持ち悪い」

「ちょ、真姫!今君本気で言ってただろ。やめろ、傷つくから!」

 

 それぞれが楽しそうな声をあげる。

 

 

 

 一方私は……皆とは数歩離れた位置でそれを見守っていた。

 

 

 

 だ、だって。ウチは……。なんというか、その……恥ずかしい。

 

 古雪くんが来るっていうから新しいの、エリチと一緒に買ってきたけど……へ、変じゃないかな?私は彼の目から自分の姿がどう映っているのか気になって、チラリと様子を伺う。

 するとなぜかバッチリ目が合ってしまった。

 

 思わず恥ずかしさからお互いに目を逸らす。

 すると。

 

「あ~、かいな先輩。いま希ちゃんの水着姿に見とれてたにゃー!」

「り、凛!?おま、なに言って……」

「ほんと。私たちの水着姿見たって大して感動がなかった癖にね?」

「や、そりゃ絵里の水着姿は割と見慣れてるし……さすがに後輩の水着姿に興奮するタイプじゃないからさ」

「ちょっと、なら私はどうなるのよ!」

「にこは……フッ」

「鼻で笑ってるんじゃないわよー!!!」

 

 すぐに古雪くんと凛ちゃんやエリチ、それににこっちが掛け合いを始めてしまった。み、見とれてくれてたのかな?それともただからかわれてただけ?

 そんなことを考えながらモジモジしていると、トンっと背中を押された。

 

「希ちゃんっ!」

「こ、ことりちゃん?どうしたん?」

「そんなに恥ずかしがらなくても、似合ってますよっ」

 

 そう言いながら古雪くんの前まで引っ張っていかれてしまった。

 

「ですよね、海菜さん?」

「あ、あぁ……。似合ってると、思う」

「あ、ありがとう」

 

 よ、良かった。

 こんなとき堂々と笑顔でお礼を言えたらいいんだけど……。

 

「良かったじゃない、希っ」

「エリチ……」

「男の子に水着姿を見られるのは初めてだってすごく恥ずかしがってたのよ、この子。はじめは水着を持っていかないなんて言ってたんだから」

「ちょ、ちょっと!」

 

 エリチに私の恥ずかしい合宿前の話を暴露されてしまった。

 希ちゃん可愛いーとみんなが口々に言ってくれるけど……もう、やめてよぉ!

 

「うーん、かいな先輩が見とれるようになるためには何が足りないのかにゃー?」

「教えてやろうか?凛。……純粋にバストが足りねぇ。努力しろよ」

「よく考えたら、かいな先輩に見とれて貰う必要がなかったにゃー」

「普通に傷つくにゃ」

 

 

***

 

「青い空っ!白い雲っ!輝く大海原!」

 

 テンションのギアを順調に上げつつある古雪くんの声が響く。

 

 色々あったものの、私たちはさんさんと降り注ぐ夏の日差しの下、真姫ちゃんのお父さんの保有しているプライベートビーチに降りて来た。別荘へは階段一つで戻れる好立地。……ホントにすごいなぁ。私なんてがんばって節約せな一人暮らしを許して貰えないのに。

 

 みんな我先にといった感じで海へ駆けだして行った。

 ……みんな、と言ったら語弊があるかな。

 

「真姫ちゃん、いかへんの?」

「え?……い、行くわよ」

 

 一足遅れて私と真姫ちゃんも海へと入っていった。

 良かった、浅瀬続きで……あんまり泳ぐのは得意じゃないから。

 

「きゃっ、つ、冷たいっ」

「ふふっ、でも気持ちええやんな?」

「そ、そうだけど……私はあっちで本でも読んでるわ」

 

 一度はみんなと一緒に海の中に入って遊ぼうとしたものの、自分から水の掛け合いなどをしている他のメンバーの輪の中に入っていけないのかすぐに上がっていってしまった。

 引き留めたいとは思ったものの、上手く言えずただその後ろ姿を見送る。

 

「こっちはなかなか大変そうね?」

「エリチ!……そうやね」

「まぁ、でも、少し様子をみてみましょう?自分で考えてまたこっちに来てくれるかもしれないし」

「そういうことっ!おりゃっ!」

「きゃあっ!」

 

 ちょっとだけ真面目な話をエリチとしていると、すぐ後ろから古雪くんの声がかかった。それと同時に結構な量の水が背中に命中する。

 振り向くと片腕ほどはあろうかという水鉄砲を抱えて楽しげに笑う彼がいた。え、それにしてもあの水鉄砲大きすぎと違う?まさか……。

 

「ぼやぼやしてると俺持参の銃が火を噴くぜ!や、実際には水しかでないけど」

 

 やはり自前だったらしい。

 道理で特に持ってくるものを決められていなかった古雪くんのキャリーバッグがなぜか誰よりも大きかった訳だね……。

 

「希ちゃん、気を付けて!海菜先輩、絵里ちゃんと希ちゃんと花陽ちゃんを集中攻撃するって言ってたから!」

 

 もう、『希ちゃん』という呼び方にも慣れたらしい穂乃果ちゃん。

 

「な、なんで私たちなのよ!?」

「ふっ、水圧で偶然解けても文句は言えないだろう?……その紐がな!!!!」

「ふえええぇ!誰かタスケテぇ!」

 

 心の底から楽しそうに高出力の水鉄砲を振り回す古雪くんと逃げ惑う花陽ちゃん。

 おらおらおらー!それそれそれー!と小刻みに花陽ちゃんに水をかけては反応を見て楽しんでいる。中途半端にわたわたと逃げるせいか、ドSスイッチが入ってしまってるみたいだ。

 

「アンタそれセクハ……ぶはぁっ!」

 

 なにやら文句を言おうとしたにこっちの顔面に向けて容赦のない放水。

 

「なんか言ったか?にこ」

「なんで他の子は体に当ててるくせに、にこに対しては顔なのよっ!」

「好きな子にはいじわるしたくなるって言うだろ?」

「嘘ばっ……ぶふっ!かり言ってるんじゃ……ぶはっ!ないわ……ぶっふ!って、喋らせなさいよー!!」

「あっはっはっは」

「お、鬼がいるにゃー……」

 

 相変わらずにこっちはいじめられているらしい。

 ことりちゃんと海未ちゃんはそれをみて楽しそうに笑っていた。なんだかんだ言いつつ、海未ちゃんも楽しく遊んでいるらしい。良かった。

 

「こうなった海菜は自分が満足するまで止まらないわ……今のうちに逃げ……きゃっ!」

「誰がどこに逃げるって?」

「あははっ。ちょ、ちょっと海菜。や、やめっ。きゃはは!」

 

 破壊力抜群だった先ほどまでの放水とは打って変わって細く、ちょろちょろとした水流をエリチの首あたりを執拗に狙ってかける古雪くん。ああいう調節も出来るんやね……さすが器用な男。もっと別の場所にその器用さを生かせばいいと思うんだけど。

 

 

 そしてついに標的は私に変わる。

 

 

「ふ、古雪くん!?お、落ち着いて話し合おうやん?」

「何言ってんの?俺は冷静だって」

 

 にっこりと恍惚の笑みを浮かべる古雪くんがゆっくりと銃口をこちらに向けた。

 ウ、ウチ、この人の事、好きでいていいのかなぁ!?

 

「覚悟はいいな、希?」

「や、やぁっ!」

 

 私の拒否の声をすがすがしい位華麗に無視して、彼は引き金をひく。

 

 

 

 ちょろろろろ。

 

 

 

 ……。

 寂しく鳴り響く水音。

 

「あ、アレ?」

 

 古雪くんは戸惑った様子でガシャガシャと水鉄砲を弄り始めた。

 これはもしかして……。

 

「しまった……補給を忘れてた」

 

 やばっ……とでも言いたげな顔であたりを見回すと。彼の周りには自身が屠ってきたメンバーたちがいつの間にか円を作って待ち構えていた。

 古雪くんの頬に、明らかに海水ではない雫が浮かぶ。

 

「かーいーなー!」

「海菜先輩……」

「古雪、覚悟は良いわね?」

「海未ちゃん、穂乃果ちゃんっ。わたしたちもいこっ」

 

 

「ま、まて……。落ち着いて話し合おう……やん?」

 

 

 

 精一杯の可愛さを最後の一言にこめる。

 が、当然無意味だったらしい。

 

『せーのっ!』

 

 ……嵐が去った後に残ったのはぷかぷかと遠浅の海に浮かぶ古雪くんの姿だけだった。どうやら水鉄砲も回収されてあっちで遊ぶのに使われているらしい。

 

 

「古雪くん……もう、はしゃぎすぎるからやで?」

「ぐ……」

 

 つんつんと黒髪をつついているとピクリと反応。

 そして、苦悶の表情でざぱぁっと立ち上がって唸る。

 

「まったく、盛り上げ役は辛いぜ」

「うそっ、素でやってたやん」

「てへ、まぁ、そうだけどね」

 

 びしょびしょになった髪の毛をかき上げながらにこっと笑いかけてくれた。……どうやらドSスイッチは無事オフになったらしい。

 古雪くんは一度伸びをして、周りをキョロキョロと見渡してある場所に目をとめた。

 あぁ、やっぱりこの人も気にしてくれてるんやね。

 

 彼が見ていたのは木陰で一人本を読む真姫の姿。

 

「やっぱり助けがいるかもなぁ」

「そうやね……」

「じゃ、希、任せた!」

 

 少しだけ真面目な表情になっていた彼はすぐにいつもの笑顔に戻し、こちらに向けてサムズアップしてきた。そして、そのまま言葉を続ける。

 いまの言葉は決して私に真姫ちゃんの事を押し付ける台詞じゃない。

 

 

 

「俺はさっきみたいな感じでずっと盛り上げておくから……な?」

「うん!任せて!」

 

 

 

 いつでも真姫と一緒においで。

 彼女がすぐに入ってこられるような場は整えておくから。

 

 きっとそういう意味だと思う。

 

「古雪くん……ありがと」

「いやー、ドS役演じるのも疲れるわ!」

「だから、それは素やって!」

 

 いつものように、真面目な返事は返ってこなかったけれど。

 

 

 

 

 

 


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